もう二度と、愛さない

蜜迦

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出迎え④

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 【自縄自縛じじょうじばく
 今の私の状況を表現するのに、これほど適当な言葉は果たして他に存在するだろうか。
 非業の死を遂げた私を哀れに思い、生前の愚行をチャラにしてくれるような優しい神様は、どうやらこの国には存在していなかったようだ。

 「姉さまがヴィタエ修道院へ通うようになったのは、最初こそ慈善活動の一環でした。けれど紛争が頻発し、修道院が負傷者の受け入れを始めると聞いた姉さまは、貴族の令嬢には厳し過ぎる環境に迷いもせず、手伝う決心を固めました。父母はもちろん、僕や弟のエリック、そして家人に至るまで猛反対したのにもかかわらずです」

 「僕も兄のルカスも、姉さまの考えていることがまったくわかりませんでした。侯爵家に生まれた姉さまが……誰よりも綺麗で優しい姉さまが、どうしてそんなことをしなくてはならないのか……でも、その理由を姉さまはちゃんと話してくれたんです」

 ふたりにとってはつい最近の出来事なのだろうが、私には随分昔のことのように思える。
 そう……確かあれは、負傷者の受け入れが始まる前日のこと。
 私の身を案じ、火が付いたように泣くふたりをなんとか宥めすかしてソファに座らせ、目の前に膝をついて向き合った。

 「姉さまは僕とエリックの目を真っ直ぐに見て言いました。レティエ殿下が、自分たち帝国民を守るために前線へと出向かれていること。戦うことができないのなら、せめて自分にできることはなにかないかと悩んでいたこと。そして殿下と共に戦った勇敢な者たちに感謝し、無事に家に帰してやりたいのだと」

 私の言葉を聞いたふたりは、決して納得した顔はしていなかった。
 けれど、ルカスとエリックの心の中には、幼いながらも貴族としての矜持は既に根付いていた。
 父から受け継がれ、我が身にも宿るそれが、彼ら自身を黙らせたのだ。

 「……素晴らしい姉を持ったな」

 そう呟いた殿下の笑みからは、いつの間にかさっきまでの意地悪さは消えていて、弟たちは嬉しそうに『はい!』と揃って返事をした。
 
 「しかし、なぜだろうな……」

 殿下は急に表情を曇らせ、弟たちは少し狼狽えた。
 
 「殿下、どうされたのですか?」

 「そなたたちの姉は、そんなに私のことを理解し、支えようとしてくれたのに……どうして急に婚約者候補を自ら降りるような真似をしたのだと思う?」

 「え!?」
 「えぇっ!?」

 まずい。
 お父さまには私の気持ちはちゃんと伝えたが、その後、結局婚約者候補辞退の件が有耶無耶になってしまって、弟たちにはなにも話していなかった。
 しかし、その質問はなんなのだ。
 胡乱な目を向けるが、殿下は私を見ない。
 (わざとね……!)




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