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出迎え②
しおりを挟む「あの……レティエ殿下。どうして僕──いえ、私の名前を……?」
「そなた、以前騎士団の訓練を見学しにきていただろう」
騎士たちの宿舎と訓練場は、皇宮と隣接した場所に建てられている。
しかし、ルカスがそんな所に出入りしているなんて話は初耳だ。
もう一つ言えば、公式の場に出たことのない弟が、慌てて自分のことを“私”と言い直したことも驚いた。
「騎士を称え、憧れを口にする者は多い。けれどその大半は社交辞令だ。私たちもそのことはよく理解している。騎士とは、戦場で武功をあげれば派手に祝われるが、日々の訓練は同じことの繰り返しで、実に地味な毎日。そこへ実際に足を運び、あれほど熱い眼差しを向ける者は稀だ。しかもまだ成人もしていない少年とくれば、皆気にならないわけがない」
おそらく、アベル様か他の者に、謎の熱視線を送るルカスの素性を調べさせたのだろう。
表情を緩ませた殿下に、ルカスの顔はさらに赤く染まった。
「あっ、あの日は、たまたま父上が皇宮へ行くところに遭遇して……連れて行ってくれと必死で頼んだんです」
「騎士になりたいのか?しかしそんなこと、エルベ侯爵が許さないだろうに」
「父も母も、私たち姉弟に生き方を強いるようなことは決して言いません」
殿下の表情が、僅かに変わった。
「それに、私に殿下のような天賦の才が備わっていないこともよくわかっています……」
ルカスは視線を殿下から少し下げ、私を見た。
「ですが、どうしてもひと目見たくて……例えお会いできなくても、その雰囲気だけでもと」
「そなたも、世間が言うところの“カスティーリャの銀獅子”の話に憧れを抱いたのか?」
「世間がどのような話をしているのかは知りません。私は……姉から聞いた“カスティーリャの銀獅子”を尊敬しているのです!」
「ほう……それはどんな話を聞いたのか、気になるな」
殿下は妖しい笑みを浮かべ、腕の中の私に視線を向ける。
気まずい。
とてつもなく気まずい。
「……私は一般的な話をしただけです。殿下もよくご存知の通り、我がエルベ侯爵家は皇家に忠誠を誓っておりますので」
平静を装い、取り繕ってはみたが……色々バレている気がする。
けれど本当のことを言うわけにはいかない。
というより、巻き戻る前の自分がしたことは、綺麗さっぱり、すべて消し去ってしまいたい。
しかし、そう上手くはいかないのが人生というやつで──
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