もう二度と、愛さない

蜜迦

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帰路③

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 貴族派がどんな風に煽るのかはなんとなく想像がつく。
 そして結果次第でどんな反応をするのかも。
 大きな争いに殿下を駆り立てておき、勝利を収めればそれで良いが、万が一大敗を喫そうものなら総出で糾弾し、責任を取らせるつもりだろう。
 しかし、その程度で殿下を失脚まで追い込めるかと言われれば……否だ。
 殿下の口ぶりから察するに、皇帝派は無益な争いを望んではいない。
 そしておそらく単なる侵略行為も。
 それなら殿下だけに責を負わせるのは無理がある。
 それどころか、むしろ貴族派が責められて然るべきだ。
 それに、カスティーリャの銀獅子が負けたとすれば、それは帝国の存亡にもかかわる大事。
 画策した者自身も危機に陥ることになるだろう。
 もし単純に、殿下をその座から引きずり下ろしたいのなら、もっと簡単な方法がある。
 暗殺だ。
 それこそアベル様が深手を負った時のような状況下で、どさくさに紛れて首を取る方が……
 (まさか、あれは表向き残党の仕業とされているけれど実は……)
 嫌な考えが脳裏を過る。
 しかし殿下は、貴族派が戦争を煽るもう一つの可能性を示唆した。
 それは戦争に利益を見出す者たちの存在。
 貴族派が死の商人たちと結託しているとなれば、これは本当に厄介なことだ。
 死の商人には敵も味方も関係ない。
 彼らは軍需品が売りさばければ良いだけで、その後になにが起ころうと知ったことではない。
 (そう……例え皇太子が死のうが国が転覆しようが……)
 そうして得た莫大な利益のいくらかが、根回しのための甘い蜜へと変わる。
 関係を断ち切らせるのは困難だと思われるかもしれないが、決して不可能なことではない。
 民意を反戦へと持ち込めばいいのだ。
 (だから……私への叙勲が必要なのね……)
 皇家の忠臣エルベ侯爵家の令嬢が、戦争で深手を負った騎士たちを献身的に看護。
 戦争の悲惨さを憂い、もう二度とこのようなことが起こらないよう民に訴えかける……とか。
 シナリオとしてはそんなところだろうか。
 しかし、そうなればエルベ侯爵家は、貴族派と真っ向から対立することになる。
 私が知る限り、これまで皇帝派と貴族派は、水面下での軋轢はあるものの、それが表面化することはなかった。
 数十年も前のことだが……叛意を抱き、皇帝の失脚を狙った貴族派が、大規模な粛清にあったという。
 そんな過去から、彼らは同じ轍を踏むことを恐れている。
 本当は腹の中で、ぐつぐつと煮えたぎるほどの不満を溜め込んでいるのに。
 帝国内での序列上位を皇帝派が占める中、エルベ侯爵家の娘が叙勲を受けるとなれば、貴族派といえど黙ってはいないだろう。 
 戦争へと舵を切りたがる者たちを牽制するためとはいえ、一歩間違えば内乱が起こる危険性も孕んでいる。
 (けれどそんなこと、殿下も陛下も、百も承知のはず)
 ということは、今やらなけらばならない理由がなにかあるのか──
 
 







 
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