42 / 100
帰路②
しおりを挟む「え……?」
クロエ嬢が、誰に雰囲気が似ているというのか。
「髪の色も背格好も、歳も近いのではないか?よく知らなければ間違えそうだ」
「あの、殿下。いったい誰のことをおっしゃっておられるのです?」
「お前だ」
「私?」
言われてみると、確かにクロエ嬢は私と同じ金の髪に青い瞳。
そして年齢は私よりもひとつかふたつ上だったはず。
離れた場所からだったので、殿下は彼女の瞳の色までは確認できなかったと思うが、それでも似ているというのなら、他人から見ればそうなのかもしれない。
けれど、例え雰囲気だけだったとしても、彼女に似ているなんて心外だ。
私は彼女のように、他人を陥れるような卑怯な真似は、なにがあろうとしない。
けれどそう思うのと同時に、果たしてそんな甘い考えのまま、今生を生き抜くことができるのだろうか……とも考えてしまう。
巻き戻り、新たな人生を歩むはずだった。
それなのに私は今、どんなに避けてもレティエ殿下とのかかわりを絶つことはできず、さらには予測不可能な動きを見せるクロエ嬢の存在に怯えている。
──本当にこのままでいいのだろうか
実はずっと引っかかっていることがある。
あの頃、殿下の心を手に入れたクロエ嬢には、そのまま待っていれば自ずと皇太子妃への道が開かれたはず。
それなのにもかかわらず、駄目押しのように私を……エルベ侯爵家を陥れるような真似をしてみせたのはなぜ?
もしかしたら……私が気づいていないもっと大きな出来事が、裏で動いていたのだとしたら。
私の敵は、本当にクロエ嬢だけ?
──私はあの時、いったい誰に、そしてなにに負けたのだろう
(どうしよう……)
穏やかな日々を送りたい。
ただそれだけを考えて動いてきた。
けれど、戦わなければ再び同じ道を辿るのではないか。
あえて醜い世界に我が身を置き、今度こそ勝たなければならないのでは──
「先に話しておくが、今回の修道院でのそなたの働きに対し、帝国に貢献した者として叙勲することにした」
「じょ、叙勲!?」
「ああ。エルベ侯爵家に寄るのもその話をするためだ」
冗談じゃない。
そんなことになれば、目立たないよう苦心してきたのが台無しだ。
「殿下、私にはそのような栄誉をいただく資格はございません。それでしたらどうぞ現場の医師たちに……!」
「もちろん彼らには相応の褒美を用意する。しかしこの叙勲はどうしてもお前に受けてもらいたい」
「……理由を伺っても?」
「貴族派の牽制だ。最近奴らは、戦争を煽るようなことばかり言うのでな」
「貴族派が戦争を煽る理由はなんでしょう」
「私の失脚……もしくは単純に金銭目的だろうな。戦争はその裏で大きな金が動くから」
2,259
お気に入りに追加
5,221
あなたにおすすめの小説
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~
岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。
「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」
開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。
私の愛する人は、私ではない人を愛しています
ハナミズキ
恋愛
代々王宮医師を輩出しているオルディアン伯爵家の双子の妹として生まれたヴィオラ。
物心ついた頃から病弱の双子の兄を溺愛する母に冷遇されていた。王族の専属侍医である父は王宮に常駐し、領地の邸には不在がちなため、誰も夫人によるヴィオラへの仕打ちを諫められる者はいなかった。
母に拒絶され続け、冷たい日々の中でヴィオラを支えたのは幼き頃の初恋の相手であり、婚約者であるフォルスター侯爵家嫡男ルカディオとの約束だった。
『俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから』
だが、その約束は守られる事はなかった。
15歳の時、愛するルカディオと再会したヴィオラは残酷な現実を知り、心が壊れていく。
そんなヴィオラに、1人の青年が近づき、やがて国を巻き込む運命が廻り出す。
『約束する。お前の心も身体も、俺が守るから。だからもう頑張らなくていい』
それは誰の声だったか。
でもヴィオラの壊れた心にその声は届かない。
もうヴィオラは約束なんてしない。
信じたって最後には裏切られるのだ。
だってこれは既に決まっているシナリオだから。
そう。『悪役令嬢』の私は、破滅する為だけに生まれてきた、ただの当て馬なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる