もう二度と、愛さない

蜜迦

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帰路②

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 「え……?」

 クロエ嬢が、誰に雰囲気が似ているというのか。

 「髪の色も背格好も、歳も近いのではないか?よく知らなければ間違えそうだ」

 「あの、殿下。いったい誰のことをおっしゃっておられるのです?」

 「お前だ」

 「私?」

 言われてみると、確かにクロエ嬢は私と同じ金の髪に青い瞳。
 そして年齢は私よりもひとつかふたつ上だったはず。
 離れた場所からだったので、殿下は彼女の瞳の色までは確認できなかったと思うが、それでも似ているというのなら、他人から見ればそうなのかもしれない。
 けれど、例え雰囲気だけだったとしても、彼女に似ているなんて心外だ。
 私は彼女のように、他人を陥れるような卑怯な真似は、なにがあろうとしない。
 けれどそう思うのと同時に、果たしてそんな甘い考えのまま、今生を生き抜くことができるのだろうか……とも考えてしまう。
 巻き戻り、新たな人生を歩むはずだった。
 それなのに私は今、どんなに避けてもレティエ殿下とのかかわりを絶つことはできず、さらには予測不可能な動きを見せるクロエ嬢の存在に怯えている。

 ──本当にこのままでいいのだろうか

 実はずっと引っかかっていることがある。
 あの頃、殿下の心を手に入れたクロエ嬢には、そのまま待っていれば自ずと皇太子妃への道が開かれたはず。
 それなのにもかかわらず、駄目押しのように私を……エルベ侯爵家を陥れるような真似をしてみせたのはなぜ?
 もしかしたら……私が気づいていないもっと大きな出来事が、裏で動いていたのだとしたら。
 私の敵は、本当にクロエ嬢だけ?

 ──私はあの時、いったい誰に、そしてなにに負けたのだろう

 (どうしよう……)
 穏やかな日々を送りたい。
 ただそれだけを考えて動いてきた。
 けれど、戦わなければ再び同じ道を辿るのではないか。
 あえて醜い世界に我が身を置き、今度こそ勝たなければならないのでは──

 「先に話しておくが、今回の修道院でのそなたの働きに対し、帝国に貢献した者として叙勲することにした」

 「じょ、叙勲!?」

 「ああ。エルベ侯爵家に寄るのもその話をするためだ」

 冗談じゃない。
 そんなことになれば、目立たないよう苦心してきたのが台無しだ。

 「殿下、私にはそのような栄誉をいただく資格はございません。それでしたらどうぞ現場の医師たちに……!」

 「もちろん彼らには相応の褒美を用意する。しかしこの叙勲はどうしてもお前に受けてもらいたい」

 「……理由を伺っても?」

 「貴族派の牽制だ。最近奴らは、戦争を煽るようなことばかり言うのでな」

 「貴族派が戦争を煽る理由はなんでしょう」

 「私の失脚……もしくは単純に金銭目的だろうな。戦争はその裏で大きな金が動くから」

 





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