もう二度と、愛さない

蜜迦

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訪問者たち

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 ポワレ公爵邸に着くと、家紋の入っていない一台の馬車が停まっていた。
 正面に停めてあることから、客人が来ているのは間違いない。
 (やっぱり、来るべきじゃなかったかしら……)
 しかし、後悔してももう遅い。
 予定外の客──しかも皇太子の訪問に、ポワレ公爵邸の使用人たちは騒然とした。
 可哀想なことに、ただでさえ動揺している彼らの前に、見るも無惨な姿の私が現れてしまったものだから、事態は混乱を極めたようだった。
 顔見知りの執事が慌てた様子でやってきて、私と殿下の顔を交互に見た。
 なんと声をかけるべきか悩む執事に向かって、殿下が口を開いた。

 「すまぬが空き部屋を貸して欲しい。それと、すぐにアデールを呼んでくれ」

 「かしこまりました」
  
 再び殿下に抱きかかえられながら、ポワレ公爵邸の廊下を進む。
 さすがに人目が多いため、自分で歩くと断ったのだが、怪我に加え長時間の乗馬のダメージは、思ったより身体にこたえたらしい。
 生まれたての子鹿のように、ぷるぷると身体を震わせる私の姿を見た殿下に、“遅い”とあえなく却下されてしまった。
 (前に停めてあった馬車は、アデール様を訪ねてこられた方かしら)
 もしかしたらご友人とお茶を楽しまれている最中だったのかもしれない。
 そう思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 案内された部屋は、いつも通される応接間とは違い、どうやら客室のようだった。
 大きな窓が特徴的な室内は日当たりが良く、邸内の景色が見渡せる。
 部屋に入るなり、殿下は執事に洗面の用意を言いつけると、慎重に私をソファの上に下ろした。

 「あの……色々とありがとうございます。殿下が気づいてくださらなかったら私は……」

 興奮した男の荒い息遣いや、下卑た笑いが頭に浮かぶ。
 殿下が来てくれなかったら今頃私は……考えるだけでも恐ろしい。

 「修道院に入ってすぐ、転がった籠から派手に飛び散る衣服が目に入った。あとは勘だ。戦場に長いこと身を置くと、嫌でも勘が鋭くなるからな……」

 





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