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舞踏会
しおりを挟む正門をくぐり、視界が開けた先は広大な正面広場。
そこには、既に入場したのであろう、高位貴族の方々の家紋が刻まれた馬車が並んでいた。
その中にポワレ公爵家の家紋を見つけ、私の心は一気に浮き立った。
(アデール様だわ!)
アデール様が会場にいる。
それだけでなんと心強いことか。
招待状と身分の確認を終え、舞踏会が行われる大広間までの道を歩く。
巨大な宮殿は、通い慣れていなければ迷子になる複雑さだ。
しかも所々に大鏡も設置してあり、通る人々を惑わす。
これは万が一の時に備え、敵を玉座まで辿り着かせないためなのだという。
大広間につくと、衛兵がエルベ侯爵令嬢の入場を告げる。
すると同時に、ひとりのご令嬢がこちらに向かってやってきた。
「アデール様!」
薄紫色のドレスに身を包んだアデール様は妖精のように可憐で美しい。
「リリティス様がいらっしゃるんじゃないかと思って待っていたのよ。さあ、こちらにいらして」
アデール様に案内されたのは、皇族関係者に用意された休憩室。
いくら高位貴族とはいえ、姻戚関係でもない私が立ち入ることはできない場所だ。
しかし、アデール様は気にした風もない。
「私の一番のお友だちですもの。いいのよ」
そう言って軽やかに笑った。
私たちはテーブルを挟み、用意された紅茶とお菓子に手を付けながら、お互いの近況を語り合った。
特に修道院での出来事は、アデール様もとても驚いていた。
「アベル様といえば、レティエ殿下の腹心中の腹心ね」
「どこかでお見かけしたことがあるような気がしたのですが……思い出せなくて」
「滅多に表には顔を出さないからじゃないかしら。腹心の顔が割れれば、殿下の居場所も自ずと把握されやすくなってしまうから……」
なるほど。
それならば思い出せないのも納得だ。
「アベル様はレティエ殿下の剣の師匠でもあるわ。そんな方が重傷を負うなんて、よほどのことだったのね」
さすが、アデール様はハトコだけあって、レティエ殿下の身辺のことにも詳しい。
そういえば、アベルはもう修道院を出て、自身の居場所に帰ったのだろうか。
「それにしても……かかわらないようにした途端に本人と出会ってしまうなんて、お二人は縁があるのかしら」
「アデール様ったら、やめてください」
拗ねた顔で抗議すると、アデール様は小さく噴き出した。
「うふふ、ごめんなさい。ちょっと意地悪だったわ」
楽団か演奏を始めたのか、大広間から優雅な音色が響いてきた。
「始まったみたいね。私たちも行きましょうか」
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