もう二度と、愛さない

蜜迦

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看病

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 「俺の服がぴったりだな。似合ってるぞ、エリック!」

 その洋服は、修道院を卒業していった子たちが着古した年代物で、ところどころつぎがあてられていた。
 エリックは、若干ふてくされながらも大人しく袖を通し、小さな声でチコに礼を言う。

 ──ねえ、あっちで遊ぼう
 ──“エリック”って呼んでもいい?

 同年代の子たちが、皆で遊ぼうとエリックを誘う。

 「エリック。私はこれから患者さんのところへ行かなくてはならないから、皆に院内を案内してもらいなさい」

 私の言葉にエリックは『僕は姉さまと一緒がいい』とぼやいていたが、すぐに諦め、皆と楽しそうに奥へと駆けて行った。

 *

 こもった空気を入れ替えるため、窓を開けると爽やかな風が入り込んでくる。
 健康な私たちにとっては気持ちいいだけの風だが、寝たきりの人間は寒がることがある。
 ひとりひとりに寒くないか声をかけながら、毛布で調節してやったり、医師から指示された処置を施して行く。
 レティエ殿下が連れてきた男性は、どうやら熱が出だしたようだ。
 顔は赤く、呼吸が浅い。
 (戦場を離れてまで、戦わなくてはならないのね)
 連日の救護活動で、医師も看護師も疲弊していた。
 (苦しみを和らげてあげるくらい、私にもできる)
 すぐさま外にある井戸水を汲みに行き、男の側に桶を置いた。
 冷たい水に浸した布をしっかりと絞り、男の額に乗せる。
 すると驚いたのか、男は一瞬身体を縮こませたが、すぐに表情を緩ませた。
 (あら……この方どこかで……)
 取り立てて特徴のない顔ではあるが、見覚えがある。
 いったいどこで見たのか……しばらく考えたが答えはでなかった。

 「……レティエ殿下が、あなたをここへ連れてきてくださったのですよ。あなたは殿下の大切な人なのでしょう?それなら、頑張らなくては」

 眠る男に向かって、物語を聞かせるように囁きかける。

 「どうか、負けないで」

 言いながら、まるで自分に言い聞かせているような気がした。
 何度変えても額の布はすぐに温もってしまう。
 それでも目の前の彼が楽になるのならと、井戸までの道を往復し、何度も布を替えてやった。
 そうしているうちに日が傾き始め、そろそろエリックを迎えに行こうと腰を上げると、外がにわかに騒がしくなる。
 
 「……レティエ……殿下……?」

 入り口に目をやった瞬間、驚いてつい名前を呼んでしまった。
 なぜなら、もう二度とここには来ないと思っていたレティエ殿下本人が、今まさにこちらへ向かって歩いて来たからだ。
 
 
 
 
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