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小さな訪問者
しおりを挟む患者たちのいる棟に向かう途中、遺体を乗せ、墓地へと向かう荷車と遭遇した。
乗せられているのは皆、昨日まで治療を受けていた者たちだ。
(もしかして、昨日運ばれてきた方はもう……)
しかし、嫌な予感は外れた。
レティエ殿下が連れてきた男は、昨日と変わらず同じ場所で治療を受けていた。
詳しい状態は聞いてみないとわからないが、彼の生命を繋いだのは、その強靭な肉体と、彼自身の運の強さだろう。
ほっとしたのも束の間。
今日もやる事が山積みだ。
洗ったシーツを抱え、物干し場に向かうと、なにやら小さい子たちの揉める声が聞こえてきた。
(またチコたちかしら)
元気なのはいいことだが、程々のところで止めてやらないと、あの年頃の子は加減ができない。
弟たちの顔が頭をかすめる。
(ルカスとエリックもやんちゃだからなぁ……ん?)
弟たちのことを考えていたせいだろうか、今、エリックの声が聞こえたような気がした。
まさかこんなところにいるはずがない。
そう思った瞬間
「だから、姉さまはどこだって聞いてんの!」
やたらと威勢のいい声が響き渡る。
慌てて声のする方へ行ってみると、なんとそこには対峙する二人のちびっ子がいた。
「だから、知らないって言ってるだろ!ここは身寄りのない人間が集まる場所なんだ。お前みたいな奴がくるところじゃないんだ!」
『お前みたいな奴』と言われたのは間違いなく我が弟で末っ子のエリック。
しかも姉の変装を台無しにするお坊ちゃま丸出しの装いときたら……もう目も当てられない。
「なにしてるの、エリック!」
「姉さま!」
エリックは私を見るなり破顔し、両手を広げ駆け寄ってきた。
勢いよく抱きついてきたエリック。
それを少し離れた場所から見ていたチコの顔が曇る。
私はエリックを引き離し、向かい合った。
「エリック、どうしてここにいるの」
厳しい口調で問い詰めると、エリックは怯えたような表情を見せた。
「だって……修道院に行くと姉さまは、いつもボロボロになって帰ってくるから。だから僕が、姉さまをこき使う奴に、ひとこと文句を言ってやろうと思って……」
「昨日あれほど説明したのに、まだわからないの?それと、あなたがここに来ていることを、お父様やお母様は知ってるの?」
なにも答えないということは、無断で出てきたに違いない。
(丸め込まれた御者たちにも、あとで言っておかないと……)
「エリック、あなたの無責任な行動で、周りの人間に迷惑をかけることは考えなかったの?あなたをここまで連れてきた御者たちは、帰ったら罰を受けなければならないのよ」
「ぼ、僕はそんなつもりじゃ……!」
「あなたにそのつもりがなくても、実際大きな責任を取らされるのは彼らよ。だからこそ私たちは己を律し、節度ある行動を心がけなければならないの」
貴族の傲慢さに迷惑を被るのは、いつだって弱い立場の人間だ。
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