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婚約、やめます②
しおりを挟むポワレ公爵家は、先代皇帝の弟が臣籍降下してできた一代限りの爵位だ。
この国では臣籍降下した皇族の爵位は一代限りで、世襲を認めていない。
今はまだポワレ公爵がご健在のため、アデール様も公爵令孫と位置付けられているが、万が一公爵が逝去された場合、そもそもポワレ公爵という名前自体が消える。
その後、貴族の権威を保てるだけの財産が子孫にあるかどうか、それを皇宮が公正に判断したのち、また新たな爵位が授けられるのだ。
アデール様はそんなご自分の立場をよくわかっていらして、公爵令孫でありながらも控えめで優しくて、けれど芯の強いとても素敵な女性だ。
(そう、アデール様が有力だったの……)
けれど、前世でのやり取りを考えるに、アデール様本人にその気はなかったように思う。
年下の私を妹のように可愛がってくださって、レティエ殿下と婚約が決まった時も、誰よりも喜んでくださった。
(お会いしたいな)
あの優しい笑顔に癒やされたい。
「リリティス?」
「あ……ごめんなさい、ついぼうっとしてしまって。ではお父様、婚約者候補辞退の件、よろしくお願いしますね」
***
「アンヌ、便箋とペンを持ってきてくれる?」
婚約者候補を辞退することを直接アデール様に伝えたいと思った私は、早速ポワレ公爵邸へ手紙を送ることにした。
(きっとお父様以上に驚かれるわね、ふふ)
私がどれだけ殿下に夢中だったか、アデール様はよく知っている。
アデール様の新緑の瞳がまん丸に見開くのを想像すると、自然と口元が緩んでしまう。
「なにか良いことがあったんですか?」
「ん?うん、ちょっとね。ではこれをポワレ公爵邸までお願い。それとアンヌ」
「はい」
「あなたのお母さまと弟さんのことだけど……もしもなにか困ったことが起きた時は相談してね。私、必ず力になるわ」
「お嬢様……?」
「ほら、私も弟が二人いるでしょう?なんていうかその、他人事とは思えなくて。お母さまも仕事に家事育児で大変だと思うから、万が一体調を崩してしまった時なんかはゆっくり休めるようにと思って」
唐突すぎただろうか。
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けれどアンヌの母の体調まで変わるかはわからないから。
「アンヌは私たちに本当によく尽くしてくれてる。だから、これからもあなたが気持ちよく働けるように、なんでも相談してね」
「ありがとうございます。母は私がエルベ侯爵家で働いてることが自慢なんです。でも、今のお嬢様のお話を聞いたらきっと、感動して疲れも吹っ飛んじゃいます!」
「うふふ、嬉しいわ」
アンヌは笑顔のまま手紙を持って部屋を出た。
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