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6. 幸せな花嫁
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意識を失ったリーエンに何度か声をかけたが、目覚める気配がない。アルフレドが全裸のまま部屋の扉を開けると、廊には扉の両側に見張り兵が二人、少し離れたところに額に第三の目を持つ青年が立っていた。青年を見て驚きの声をあげる。
「ジョアン、何故ここに? お前も嫁を娶る立場だろうが?」
「は、妻となる人間を館に案内して、そのままこちらに参りましたが」
「俺への忠誠心が厚いのは結構だが、こんな日まで俺を優先する必要はないぞ」
アルフレドは呆れたように眉をひそめるが、ジョアンは「いえ」と言うだけだ。
「まあ、お前が良いならいつも通りの時刻まで働いて帰れ……彼女はしばらく起きないだろうが、意識を失っているまま湯浴みをして、髪を乾かして彼女の寝室で寝かせるよう手配しろ。世話係は選出してあるはずだな?」
「勿論です」
「俺も湯浴みをして、執務に戻る」
「ご用意していますす……アルフレド様、角が、片方だけ出ていますよ」
「おっと……さすがに興奮して余裕がなくなっていたのか……怖がらせるかと思い、隠していたのだが」
そう言ってアルフレドは肩を竦める。
「尻尾と羽根は出ていませんし、大丈夫でしょう。つつがなくお済みのようでお疲れ様です」
「この程度で疲れるものか。出来るなら三日三晩続けたいところだが、脆弱な人間の体ではこれが限界だろう。まだ孕ませてはおらんが、ひとまずマーキングは終えた。これで、他の魔族が彼女を狙うことはないはずだ」
そのことですが……と苦々しい表情でアルフレドに報告をするジョアン。
「既に数名は折角の花嫁を殺してしまい、他の魔族の花嫁を狙ったと報告が来ています」
「早すぎる。令嬢達も可哀そうなことを……まったく、高位魔族のくせに、そういうやつらがいるから……こっちは10年前から『病魔どころか他の魔族にも触れさせない祝福』も与えているというのに、そういうやつらに狙われてはかなわん」
「魔王様の花嫁を奪おうとするような者はこの魔界にはいないでしょうから、大丈夫ですよ」
「わからんぞ。そんな理性があれば、自分の花嫁をそう簡単に殺さぬだろう。お前のところも大丈夫か?交わらずに来たのだろう?」
ジョアンは主である魔王の言葉にうっすらと笑みを浮かべた。
「断りなくわが館わが領地に足を踏み入れる者はみな呪われますから」
「そうだったな。ああ、万が一彼女やお前の嫁を狙うようなやつらがいたら、どんな高位魔族でも一族皆殺しにしろ。それから、既に花嫁を殺したやつらは、罰として下位のサキュバス共に精を搾り取らせろ。当分後継者を生ませることは許さない。その程度の自制も出来ず、何が高位魔族だ」
「は。そのように」
「それから、リーエンが起きたら、実家から何か持ってきて欲しいものがないか聞いておいてくれ」
アルフレドのその言葉に即座に返事が出来ず、主の顔をしばらくじっと見つめてから尋ねるジョアン。
「本気でおっしゃっています? 魔界召集後にこちらから人間界にコンタクトをとるなぞ前代未聞のことですが」
「俺がそんな冗談を言う男だと思うか?」
「……失礼いたしました」
そういって深く頭を下げると、アルフレドは何も言わずに薄暗く広い廊下を歩いていってしまう。その背を見送り、ジョアンはぽつりと呟く。
「まさか今回の魔界召集、魔王様が一番人間に甘いとは、誰も思わないでしょうね」
なんにせよ、間違いなく今回の令嬢達の中で、リーエンは一番優遇され、アルフレドのことさえ受け入れれば、いや、もしかしたら受け入れなくとも、それなりに幸せな人生を約束されている。彼女が目覚めたら、それを伝えておこう……そんなことを思いつつ、彼は己の職務に戻る。
そして、一方のアルフレドは廊下を歩きながら
「人間界で会って、あれから10年だ。まさか本当に彼女が魔界に来ることになるとは……くそ、興奮しすぎたな……まだ鎮まらない……それに……」
いささか手荒に抱きすぎた。そのことを今さら後悔をしたって遅い。それはわかっている。だが、彼の意に反して歯止めが効かなかったのは事実だ。
「こればかりは仕方がない。こちらはこちらの都合があるし、マーキングは急がなければいけなかったしな……とはいえ、彼女が起きたら……どうにか、優しくしてやらなくては……」
と苦々しい表情で、だが、いささか頬を赤らめて独り言を呟くのだった。
了
※「溺愛魔王は優しく抱けない」に続く
「ジョアン、何故ここに? お前も嫁を娶る立場だろうが?」
「は、妻となる人間を館に案内して、そのままこちらに参りましたが」
「俺への忠誠心が厚いのは結構だが、こんな日まで俺を優先する必要はないぞ」
アルフレドは呆れたように眉をひそめるが、ジョアンは「いえ」と言うだけだ。
「まあ、お前が良いならいつも通りの時刻まで働いて帰れ……彼女はしばらく起きないだろうが、意識を失っているまま湯浴みをして、髪を乾かして彼女の寝室で寝かせるよう手配しろ。世話係は選出してあるはずだな?」
「勿論です」
「俺も湯浴みをして、執務に戻る」
「ご用意していますす……アルフレド様、角が、片方だけ出ていますよ」
「おっと……さすがに興奮して余裕がなくなっていたのか……怖がらせるかと思い、隠していたのだが」
そう言ってアルフレドは肩を竦める。
「尻尾と羽根は出ていませんし、大丈夫でしょう。つつがなくお済みのようでお疲れ様です」
「この程度で疲れるものか。出来るなら三日三晩続けたいところだが、脆弱な人間の体ではこれが限界だろう。まだ孕ませてはおらんが、ひとまずマーキングは終えた。これで、他の魔族が彼女を狙うことはないはずだ」
そのことですが……と苦々しい表情でアルフレドに報告をするジョアン。
「既に数名は折角の花嫁を殺してしまい、他の魔族の花嫁を狙ったと報告が来ています」
「早すぎる。令嬢達も可哀そうなことを……まったく、高位魔族のくせに、そういうやつらがいるから……こっちは10年前から『病魔どころか他の魔族にも触れさせない祝福』も与えているというのに、そういうやつらに狙われてはかなわん」
「魔王様の花嫁を奪おうとするような者はこの魔界にはいないでしょうから、大丈夫ですよ」
「わからんぞ。そんな理性があれば、自分の花嫁をそう簡単に殺さぬだろう。お前のところも大丈夫か?交わらずに来たのだろう?」
ジョアンは主である魔王の言葉にうっすらと笑みを浮かべた。
「断りなくわが館わが領地に足を踏み入れる者はみな呪われますから」
「そうだったな。ああ、万が一彼女やお前の嫁を狙うようなやつらがいたら、どんな高位魔族でも一族皆殺しにしろ。それから、既に花嫁を殺したやつらは、罰として下位のサキュバス共に精を搾り取らせろ。当分後継者を生ませることは許さない。その程度の自制も出来ず、何が高位魔族だ」
「は。そのように」
「それから、リーエンが起きたら、実家から何か持ってきて欲しいものがないか聞いておいてくれ」
アルフレドのその言葉に即座に返事が出来ず、主の顔をしばらくじっと見つめてから尋ねるジョアン。
「本気でおっしゃっています? 魔界召集後にこちらから人間界にコンタクトをとるなぞ前代未聞のことですが」
「俺がそんな冗談を言う男だと思うか?」
「……失礼いたしました」
そういって深く頭を下げると、アルフレドは何も言わずに薄暗く広い廊下を歩いていってしまう。その背を見送り、ジョアンはぽつりと呟く。
「まさか今回の魔界召集、魔王様が一番人間に甘いとは、誰も思わないでしょうね」
なんにせよ、間違いなく今回の令嬢達の中で、リーエンは一番優遇され、アルフレドのことさえ受け入れれば、いや、もしかしたら受け入れなくとも、それなりに幸せな人生を約束されている。彼女が目覚めたら、それを伝えておこう……そんなことを思いつつ、彼は己の職務に戻る。
そして、一方のアルフレドは廊下を歩きながら
「人間界で会って、あれから10年だ。まさか本当に彼女が魔界に来ることになるとは……くそ、興奮しすぎたな……まだ鎮まらない……それに……」
いささか手荒に抱きすぎた。そのことを今さら後悔をしたって遅い。それはわかっている。だが、彼の意に反して歯止めが効かなかったのは事実だ。
「こればかりは仕方がない。こちらはこちらの都合があるし、マーキングは急がなければいけなかったしな……とはいえ、彼女が起きたら……どうにか、優しくしてやらなくては……」
と苦々しい表情で、だが、いささか頬を赤らめて独り言を呟くのだった。
了
※「溺愛魔王は優しく抱けない」に続く
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