4 / 5
4.お城の舞踏会
しおりを挟む
「君、名前は?」
「ベルティナです」
「ベルティナ。いい名前だ」
「そ、そうですか……」
舞踏会の会場に足を踏み入れた瞬間、わあっと人々の視線が集まる。そもそも王族が誰かをエスコートして現れるなんてことは、人々の注意を引く行為だとそこでやっとベルティナは気付いた。
「あっ、あわっ……わ……」
だが、第二王子は特に気にした風もなく、軽く手をあげて人々の間をすり抜け、話しかけようと近づいた者にも手のひらを見せて牽制をする。ベルティナはそれを見て「わたしがシンデレラを探すのに協力してくれているんだわ」とほっとした。
(それにしても、本当に格好がいいわね……第二王子がこんなに素敵なら、きっと第一王子もそりゃあ素敵なんでしょうね)
改めてじっと彼を見れば、それに気づいたのか第二王子はベルティナの方へ涼やかな視線を向けた。どきっと驚いて目を逸らせば、彼は彼女に話しかける。
「君の友人はどこかな。どんなドレスを着ているのか教えてくれるかい」
「あ、あの……」
ベルティナはなんとか説明をして、ぐるりと周囲を見渡した。煌びやかなシャンデリア。壁には高い位置にぐるりと彫刻がほどこされたレリーフが繋がっている。そして、人々も美しい衣服を身に纏い、弦楽器のようなものの生演奏でダンスを中央で踊っている。そして、その周りにはこれまた足に豪奢なモチーフをつけたテーブルが並び、立って軽食を食べたり、談笑をしたりと、真夜中とは思えない活気がそこにはあった。
「あの……この時間なら……もしかしたら、その、第一王子と……」
「兄と?」
踊っているのではないか。そんなことを口に出せば「何故」と聞かれてしまうに違いない。が、第二王子は冷ややかな目線で「兄が何? 兄と会いたいの?」と彼女に尋ねる。
「いっ、いえ、その、わたしは友人を探しているだけでっ……あっ! あそこ、あそこです……」
ベルティナが見つけたのは、まさに第一王子と踊っているシンデレラだった。何故第一王子だとわかったのかといえば、髪の色、瞳の色が隣にいる第二王子と同じだったし、顔立ちも似ているからだ。
「兄と踊っているな。ああ、だが、この曲はもう少しで終わるから、終わったら近づこう」
「ありがとうございます。あの、でも、この先は1人でどうにかなりますし、話をしたら本当にすぐに帰るので……」
ベルティナがそう言って第二王子を見上げると、彼は軽く首を傾げて
「君、自分が今どういう状況かわかっていないね?」
「えっ?」
「第二王子とやってきた女の子が、たった一人でここから帰るなんて。そんなこと、あっていいわけがないだろう」
「!」
そうか。確かにそうかもしれない。よくわからないが、そういうものなのだろう。ベルティナはしょげて「ごめんなさい。そうですね……」と呟いた。彼は彼女の耳元に唇を寄せる。
「気にしなくていいよ。それに、君のおかげで他の女性がわたしに寄って来ないからね。わたしにとっては、ありがたいぐらいなんだ」
「本当ですか?」
「ああ。本当は、この舞踏会は兄とわたしのために開催されたものだったんだけど、わたしはあまり興味がなくて。でも、兄はもう23歳だし、いい加減にパートナーを見つけないといけないからね」
「あっ、だから、女性がこんなに沢山集まっているんですよね? みんな、第一王子のお嫁さんになりたくて、目に留まりたくて来てるんだって……」
「……そうだろうね」
第二王子は、シンデレラと楽しそうに踊っている第一王子を見つめる。
「兄とわたしは、幼い頃から呪いにかかっていてね」
「呪い、ですか?」
「そう。予言を受けたんだけど、わたしはそれを呪いと言っている。兄は、運命だとかなんだとか言っているけれど。それはね。今日、この舞踏会で」
と、第二王子が話している間に曲が終わり、シンデレラと第一王子は互いに会釈をした。それを見て、慌ててベルティナはシンデレラに駆け寄る。
「シンデレラ!」
「えっ?」
「ちょっと、ちょっと、こっちに!」
第一王子がシンデレラと何かを話したそうな表情で手を少し伸ばしていたが、そんなことは無視をしてベルティナはシンデレラの腕を引っ張った。
「ベルティナです」
「ベルティナ。いい名前だ」
「そ、そうですか……」
舞踏会の会場に足を踏み入れた瞬間、わあっと人々の視線が集まる。そもそも王族が誰かをエスコートして現れるなんてことは、人々の注意を引く行為だとそこでやっとベルティナは気付いた。
「あっ、あわっ……わ……」
だが、第二王子は特に気にした風もなく、軽く手をあげて人々の間をすり抜け、話しかけようと近づいた者にも手のひらを見せて牽制をする。ベルティナはそれを見て「わたしがシンデレラを探すのに協力してくれているんだわ」とほっとした。
(それにしても、本当に格好がいいわね……第二王子がこんなに素敵なら、きっと第一王子もそりゃあ素敵なんでしょうね)
改めてじっと彼を見れば、それに気づいたのか第二王子はベルティナの方へ涼やかな視線を向けた。どきっと驚いて目を逸らせば、彼は彼女に話しかける。
「君の友人はどこかな。どんなドレスを着ているのか教えてくれるかい」
「あ、あの……」
ベルティナはなんとか説明をして、ぐるりと周囲を見渡した。煌びやかなシャンデリア。壁には高い位置にぐるりと彫刻がほどこされたレリーフが繋がっている。そして、人々も美しい衣服を身に纏い、弦楽器のようなものの生演奏でダンスを中央で踊っている。そして、その周りにはこれまた足に豪奢なモチーフをつけたテーブルが並び、立って軽食を食べたり、談笑をしたりと、真夜中とは思えない活気がそこにはあった。
「あの……この時間なら……もしかしたら、その、第一王子と……」
「兄と?」
踊っているのではないか。そんなことを口に出せば「何故」と聞かれてしまうに違いない。が、第二王子は冷ややかな目線で「兄が何? 兄と会いたいの?」と彼女に尋ねる。
「いっ、いえ、その、わたしは友人を探しているだけでっ……あっ! あそこ、あそこです……」
ベルティナが見つけたのは、まさに第一王子と踊っているシンデレラだった。何故第一王子だとわかったのかといえば、髪の色、瞳の色が隣にいる第二王子と同じだったし、顔立ちも似ているからだ。
「兄と踊っているな。ああ、だが、この曲はもう少しで終わるから、終わったら近づこう」
「ありがとうございます。あの、でも、この先は1人でどうにかなりますし、話をしたら本当にすぐに帰るので……」
ベルティナがそう言って第二王子を見上げると、彼は軽く首を傾げて
「君、自分が今どういう状況かわかっていないね?」
「えっ?」
「第二王子とやってきた女の子が、たった一人でここから帰るなんて。そんなこと、あっていいわけがないだろう」
「!」
そうか。確かにそうかもしれない。よくわからないが、そういうものなのだろう。ベルティナはしょげて「ごめんなさい。そうですね……」と呟いた。彼は彼女の耳元に唇を寄せる。
「気にしなくていいよ。それに、君のおかげで他の女性がわたしに寄って来ないからね。わたしにとっては、ありがたいぐらいなんだ」
「本当ですか?」
「ああ。本当は、この舞踏会は兄とわたしのために開催されたものだったんだけど、わたしはあまり興味がなくて。でも、兄はもう23歳だし、いい加減にパートナーを見つけないといけないからね」
「あっ、だから、女性がこんなに沢山集まっているんですよね? みんな、第一王子のお嫁さんになりたくて、目に留まりたくて来てるんだって……」
「……そうだろうね」
第二王子は、シンデレラと楽しそうに踊っている第一王子を見つめる。
「兄とわたしは、幼い頃から呪いにかかっていてね」
「呪い、ですか?」
「そう。予言を受けたんだけど、わたしはそれを呪いと言っている。兄は、運命だとかなんだとか言っているけれど。それはね。今日、この舞踏会で」
と、第二王子が話している間に曲が終わり、シンデレラと第一王子は互いに会釈をした。それを見て、慌ててベルティナはシンデレラに駆け寄る。
「シンデレラ!」
「えっ?」
「ちょっと、ちょっと、こっちに!」
第一王子がシンデレラと何かを話したそうな表情で手を少し伸ばしていたが、そんなことは無視をしてベルティナはシンデレラの腕を引っ張った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者に殺されかけましたが、公爵令嬢は生きぬきます
おてんば松尾
恋愛
錬金術を身につけた優秀な薬師サラフィナは、婚約者のエリック王太子に崖から突き落とされて殺されかける。
エリックには好きになったエリザベスという聖女の浮気相手がいて、彼女と結婚したいが為に不要になったサラを殺そうとした。
死んだと思われていたサラは、正体不明の黒いマントの男に助けられる。
生き抜こうと決心した彼女は錬金術を駆使して新しい生活へと踏み出す。
※お読み頂く前に
この作品は、私の初ファンタジー作品です。
多分かなり読みづらいです。
誤字脱字等も多いです。
ぼちぼち修正していきたいと思っています。
時間がある時に、やります。
賛否両論ありまして、結末に対して厳しい感想も頂いてます。それでも良ければお読み下さい。
騎士と王冠(The Knight and the Crown)
けもこ
恋愛
皇太子アビエルは、レオノーラと初めて出会った日の情景を鮮やかに思い出す。馬を操る小柄な姿に、彼の心は一瞬で奪われた。その“少年”が実は少女だと知ったとき、驚きと共に彼女への特別な感情が芽生えた。彼女の内に秘めた強さと純粋な努力に、アビエルは深く心を惹かれ、次第に彼女をかけがえのない存在と感じるようになった。
アビエルは皇太子という鎖に縛られながらも、ただ彼女と対等でありたいと切に願い続けた。その想いは日に日に強まり、彼を苦しめることもあった。しかし、レオノーラと過ごす何気ない日々こそが彼にとって唯一の安らぎであり、彼女と共有する時間を何よりも大切にした。
レオノーラは、自分の置かれた立場とアビエルへの気持ちの間で揺れ動く。だが、彼女は気づく。アビエルがもたらしてくれた幸運こそが、彼女の人生を輝かせるものであり、それを受け入れ、守り抜こうと心に誓う。
#この作品は「小説家になろう」サイトでも掲載しています。そちらではすでに完結済みです。アルファポリスでは内容を整理しながら連載中です。
【完結】政略結婚だからこそ、婚約者を大切にするのは当然でしょう?
つくも茄子
恋愛
これは政略結婚だ。
貴族なら当然だろう。
これが領地持ちの貴族なら特に。
政略だからこそ、相手を知りたいと思う。
政略だからこそ、相手に気を遣うものだ。
それが普通。
ただ中には、そうでない者もいる。
アルスラーン・セルジューク辺境伯家の嫡男も家のために婚約をした。
相手は、ソフィア・ハルト伯爵令嬢。
身分も年齢も釣り合う二人。
なのにソフィアはアルスラーンに素っ気ない。
ソフィア本人は、極めて貴族令嬢らしく振る舞っているつもりのようだが。
これはどうもアルスラーンの思い違いとは思えなくて・・・。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
どうやら俺は悪役令嬢の背後霊らしい
遠雷
ファンタジー
気が付いたら少女の後ろに立っていた。どうして自分がそこに居るのか、自分は何者なのか、何も思い出せない。声を発する事も何かに触れる事も出来ないし、己の姿を確かめようにも鏡にもうつらない。たぶん恐らくどう考えても、幽霊というやつだ。
目の前に居る少女はどこぞの高位貴族のご令嬢らしく、なかなかの美少女だと思うが、歳の割に表情に乏しく滅多に笑わない。
幽霊だから何も出来ないし、どういうわけだか離れる事も出来ない。そのうち彼女のまわりには少しずつおかしなものが増えていく。おかしなものと一緒に彼女の日々をひっそりと見守っていた。
彼女の周りをうろうろ漂うだけの日々の中、ある日のお茶会で、誰かが彼女を名指しで「悪役令嬢」と呼ぶ声が聞こえた。この子が?悪役ってどういうことだ?
※2020年11月に別名義で公開していた作品を改稿して投稿しています
※未完のため、こちらもゆっくり更新で完結目指して続けて行く予定です
婚約破棄は想定済みでしたので利用させていただきました
荷居人(にいと)
恋愛
唐突だが私はお金が好きだ。お金よりも愛が大事と言う人もいるがそれはお金があってこそ言えることだと私は思う。
さてそんなことを急に言い出した理由は私が脇役の成金の悪役令嬢という存在に転生したからだ。
私はこの悪役令嬢は実に愚かだと転生前から思っていた。脇役といえど裕福でお金に困らない生まれだというのに不確実な愛を優先したがために悪役となり破滅の人生を辿ったのだから。
愛しの婚約者が別の人と結婚するようなヒロインに心を奪われて、お金に余裕もできたからと婚約破棄された挙句に、破棄に伴い婚約者の家に支援していたお金は戻ったものの、戻っただけで利息はなし。悪役令嬢の愛故に利息なしの支援が仇となった。
さらにお金に余裕ができたことで元婚約者も領地での運営以外のお金を増やすため、事業を始めたのだが、それは悪役令嬢の家の事業を真似たもので地位としても生粋の貴族としても上な元婚約者相手に成金一家は抵抗するようにアイデアを出すものの、悪役令嬢によって事業について知り尽くしていた元婚約者に敵うはずもなく一気に貧乏へと転落。そして最後には一家心中とあまりな結末。
愛故に婚約者に何もかも有利な条件、さらには対価もなしに命綱でもある事業の情報を開示するなんてバカにもほどがある。けど、その未来もわかっていて愛よりも金な私はそれを利用することにした。
「君とは婚約を破棄する」
その言葉待ってました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる