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4.お城の舞踏会

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「君、名前は?」

「ベルティナです」

「ベルティナ。いい名前だ」

「そ、そうですか……」

 舞踏会の会場に足を踏み入れた瞬間、わあっと人々の視線が集まる。そもそも王族が誰かをエスコートして現れるなんてことは、人々の注意を引く行為だとそこでやっとベルティナは気付いた。

「あっ、あわっ……わ……」

 だが、第二王子は特に気にした風もなく、軽く手をあげて人々の間をすり抜け、話しかけようと近づいた者にも手のひらを見せて牽制をする。ベルティナはそれを見て「わたしがシンデレラを探すのに協力してくれているんだわ」とほっとした。

(それにしても、本当に格好がいいわね……第二王子がこんなに素敵なら、きっと第一王子もそりゃあ素敵なんでしょうね)

 改めてじっと彼を見れば、それに気づいたのか第二王子はベルティナの方へ涼やかな視線を向けた。どきっと驚いて目を逸らせば、彼は彼女に話しかける。

「君の友人はどこかな。どんなドレスを着ているのか教えてくれるかい」

「あ、あの……」

 ベルティナはなんとか説明をして、ぐるりと周囲を見渡した。煌びやかなシャンデリア。壁には高い位置にぐるりと彫刻がほどこされたレリーフが繋がっている。そして、人々も美しい衣服を身に纏い、弦楽器のようなものの生演奏でダンスを中央で踊っている。そして、その周りにはこれまた足に豪奢なモチーフをつけたテーブルが並び、立って軽食を食べたり、談笑をしたりと、真夜中とは思えない活気がそこにはあった。

「あの……この時間なら……もしかしたら、その、第一王子と……」

「兄と?」

 踊っているのではないか。そんなことを口に出せば「何故」と聞かれてしまうに違いない。が、第二王子は冷ややかな目線で「兄が何? 兄と会いたいの?」と彼女に尋ねる。

「いっ、いえ、その、わたしは友人を探しているだけでっ……あっ! あそこ、あそこです……」

 ベルティナが見つけたのは、まさに第一王子と踊っているシンデレラだった。何故第一王子だとわかったのかといえば、髪の色、瞳の色が隣にいる第二王子と同じだったし、顔立ちも似ているからだ。

「兄と踊っているな。ああ、だが、この曲はもう少しで終わるから、終わったら近づこう」

「ありがとうございます。あの、でも、この先は1人でどうにかなりますし、話をしたら本当にすぐに帰るので……」

 ベルティナがそう言って第二王子を見上げると、彼は軽く首を傾げて

「君、自分が今どういう状況かわかっていないね?」

「えっ?」

「第二王子とやってきた女の子が、たった一人でここから帰るなんて。そんなこと、あっていいわけがないだろう」

「!」

 そうか。確かにそうかもしれない。よくわからないが、そういうものなのだろう。ベルティナはしょげて「ごめんなさい。そうですね……」と呟いた。彼は彼女の耳元に唇を寄せる。

「気にしなくていいよ。それに、君のおかげで他の女性がわたしに寄って来ないからね。わたしにとっては、ありがたいぐらいなんだ」

「本当ですか?」

「ああ。本当は、この舞踏会は兄とわたしのために開催されたものだったんだけど、わたしはあまり興味がなくて。でも、兄はもう23歳だし、いい加減にパートナーを見つけないといけないからね」

「あっ、だから、女性がこんなに沢山集まっているんですよね? みんな、第一王子のお嫁さんになりたくて、目に留まりたくて来てるんだって……」

「……そうだろうね」

 第二王子は、シンデレラと楽しそうに踊っている第一王子を見つめる。

「兄とわたしは、幼い頃から呪いにかかっていてね」

「呪い、ですか?」

「そう。予言を受けたんだけど、わたしはそれを呪いと言っている。兄は、運命だとかなんだとか言っているけれど。それはね。今日、この舞踏会で」

 と、第二王子が話している間に曲が終わり、シンデレラと第一王子は互いに会釈をした。それを見て、慌ててベルティナはシンデレラに駆け寄る。

「シンデレラ!」

「えっ?」

「ちょっと、ちょっと、こっちに!」

 第一王子がシンデレラと何かを話したそうな表情で手を少し伸ばしていたが、そんなことは無視をしてベルティナはシンデレラの腕を引っ張った。

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