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「うーん、僕にも見えないなぁ……」
わかっていたけれど、と言いながらマリウスは肩を竦めて見せる。やはり、王城図書館の地下から借りた書物は彼の目から見ても本文は真っ白――白というよりは生成色だが――という状態に見えるようだった。
仕方がないな、と残念そうにつぶやいて、マリウスはソファに体を投げ出す。その向かいに座ったティアナも「仕方ないわね」というが、少しばかりがっかりはしていた。
「しかし、すごいね。本当に。昔の魔法というものは……」
「ね。最近でもこんな魔法を使える魔法使いもいるのかしら?」
「ううん、僕が知る範囲ではいないけれど、魔法院には結構外に出さずに抱えている魔法使いがいるらしいから、一部の魔法使いなら……でも、これはどの属性の魔法なんだろう」
ティアナは「ん?」と声をあげた。それは、幻聴のように何か声が聞こえたような気がしたからだ。
「……コンスタンツェ?」
と、声をかければ、ティアナの中からするりとコンスタンツェが出てくる。
「それはねぇ~、幻属性よ……」
「幻? そんな属性聞いたことがないな」
「ほんとに希少な属性よ。もう今はいないかもねぇ……ふわーあ……昨日ティアナに付き合って遅くまで起きてたから、まだ眠いわぁ。おやすみなさい……」
けだるそうにそう言って、コンスタンツェは再びティアナの体内に入っていく。その様子を見て「そんなに遅くまで起きていたのかい?」と尋ねるマリウス。
「そうでもないわ。でも、昨日王城から帰る途中っていうか、城下町でお昼ご飯を食べたんだけど、その時、コンスタンツェが嬉しそうにずっと外に出ていたの。あれこれ見られて楽しいって。その上、戻ってきてからこれを読むのに、ちょっとわからない言葉を色々聞いていたから、疲れているんだと思うわ」
「そうなんだね」
「多分なんだけど、コンスタンツェ、昔の王族の……もしかしたら、王女とかだったのかもしれないわ」
「なるほど」
「驚かない?」
「彼女に関しては、昔何だった、と言われても大体驚かないかな。たとえ、王族でも、平民でも」
マリウスはそう言って笑ってから「で、何が書いてあったのか、教えてもらえるかな?」と話を進めた。
「聖女の役割についてのお話よ。コンスタンツェにも教えてもらったんだけど……」
ティアナは、コンスタンツェから聞いた、魔法使いが大勢いた過去の話をマリウスに説明をした。昔、魔法使いが大量にいたこと。その魔法使いたちが魔石に力を入れて、大量に売って王族に金が入っていたらしいとのこと。そして、魔法使いたちが「魔力は一体どこにあるのか」という謎を解明したという話を。
ヴァイス・ホロゥたちは、魔法使いたちが作った祈りの間に集められた、死した魂がもっている「魔力の源」であるらしいこと。そして、そこから魔力を抜いて、自分たちの魔力に上乗せをしていたらしいということや、しかし、上乗せした者たちは、魔力を次代に引き継ぐことが出来なかったらしいと話す。
「そして、聖女が生まれたんですって。魂を正しい形で天に還せる者として。でも、それの意味がよくわからないわ。宝剣で切れば、正しく天に還すってことなのかしら? でも、コンスタンツェは、像に祈って神託を得るってことはよく知らなかったって言ってたわ」
「ふうん……なるほどね。多分、誰かがあの祈りの間に増えてしまうホロゥを切って、どんどん解放してあげていたんだろうね。それが聖女の役目なんだろう。その話だと、昔は魔法使いたちはあのホロゥを見ることが出来ていたってことだもんね?」
「そう。それについては、書物に書いてあったの。ホロゥのことは直接は書いてなかったけれど、王族と高名な魔法使いだけが、祈りの間で『力を得る』だろうって。多分、それってホロゥたちのことを言うのよね」
興味深い、とマリウスは言った。
「今は、王族の血筋での隔世遺伝的な形でしか……君や僕のような者しか見えないんだものね。あれかな。あの像を壊してしまえば、ホロゥたちは集まらなくなるっていうことなのかな……ちょっとだけ気になるね」
「でも、それをしたら神託を得られなくなるでしょ」
「そうだなぁ。ちょっと気にはなるけど、わざわざそれをしようとまでは思わないな」
それから、ティアナは書物に書かれていたことをマリウスに説明をする。
「聖女は、祈りの間で、魔法使いたちが起こしたことへの懺悔をする役割があったみたい。なんていうの。その辺のことって、コンスタンツェも言っていたけど、王族側は隠ぺいをしたかったらしいのよね。だから、その魔力を抜き出すとかどうとかについては記述がないけど、ただ、懺悔をして、死した魂を天へと還すみたいな……そういう役目が、一体いつから神託を得ることになったのかしらね」
「ふうん、なるほど」
マリウスはわかるようなわからないような、と、神妙でいささか難しい表情になる。
「そして、王族から昔は選ばれていたみたいね。どうやら、これはちょっとわたしの推測も含むんだけど……王族は、ホロゥの力を自分の力に上乗せはしなかったんじゃないかしら。どういう理由なのかはわからないけれど。だから……」
だから、自分たちのように、隔世遺伝がいるのではないか。そうティアナは話した。
「そうかもしれないね。うぅん、何も手伝えなくて申し訳ないな」
それからマリウスは、ティアナの魔力についても「可能なら、魔石に魔力を入れる仕事は受けて欲しい」と話した。それは、先ほど彼が言っていた、現在国庫が目減りしているという話に通じることで、ティアナがそれをすることで王城の国庫が復活する可能性もある、ということだった。
「ただ、魔石自体の採掘量が国内外で減っていてね。一応、輸入もしているんだけど、そちらがここ3年ぐらいずっと高騰しているんだ……そのあたりの問題もあるんだけどね」
それへ、ティアナは
「実を言うと、魔石に魔力をいれるっていうのが、全然よくわかってないのよね。でも、まあそういう話なら……」
と、苦々しく頷くしかなかった。
わかっていたけれど、と言いながらマリウスは肩を竦めて見せる。やはり、王城図書館の地下から借りた書物は彼の目から見ても本文は真っ白――白というよりは生成色だが――という状態に見えるようだった。
仕方がないな、と残念そうにつぶやいて、マリウスはソファに体を投げ出す。その向かいに座ったティアナも「仕方ないわね」というが、少しばかりがっかりはしていた。
「しかし、すごいね。本当に。昔の魔法というものは……」
「ね。最近でもこんな魔法を使える魔法使いもいるのかしら?」
「ううん、僕が知る範囲ではいないけれど、魔法院には結構外に出さずに抱えている魔法使いがいるらしいから、一部の魔法使いなら……でも、これはどの属性の魔法なんだろう」
ティアナは「ん?」と声をあげた。それは、幻聴のように何か声が聞こえたような気がしたからだ。
「……コンスタンツェ?」
と、声をかければ、ティアナの中からするりとコンスタンツェが出てくる。
「それはねぇ~、幻属性よ……」
「幻? そんな属性聞いたことがないな」
「ほんとに希少な属性よ。もう今はいないかもねぇ……ふわーあ……昨日ティアナに付き合って遅くまで起きてたから、まだ眠いわぁ。おやすみなさい……」
けだるそうにそう言って、コンスタンツェは再びティアナの体内に入っていく。その様子を見て「そんなに遅くまで起きていたのかい?」と尋ねるマリウス。
「そうでもないわ。でも、昨日王城から帰る途中っていうか、城下町でお昼ご飯を食べたんだけど、その時、コンスタンツェが嬉しそうにずっと外に出ていたの。あれこれ見られて楽しいって。その上、戻ってきてからこれを読むのに、ちょっとわからない言葉を色々聞いていたから、疲れているんだと思うわ」
「そうなんだね」
「多分なんだけど、コンスタンツェ、昔の王族の……もしかしたら、王女とかだったのかもしれないわ」
「なるほど」
「驚かない?」
「彼女に関しては、昔何だった、と言われても大体驚かないかな。たとえ、王族でも、平民でも」
マリウスはそう言って笑ってから「で、何が書いてあったのか、教えてもらえるかな?」と話を進めた。
「聖女の役割についてのお話よ。コンスタンツェにも教えてもらったんだけど……」
ティアナは、コンスタンツェから聞いた、魔法使いが大勢いた過去の話をマリウスに説明をした。昔、魔法使いが大量にいたこと。その魔法使いたちが魔石に力を入れて、大量に売って王族に金が入っていたらしいとのこと。そして、魔法使いたちが「魔力は一体どこにあるのか」という謎を解明したという話を。
ヴァイス・ホロゥたちは、魔法使いたちが作った祈りの間に集められた、死した魂がもっている「魔力の源」であるらしいこと。そして、そこから魔力を抜いて、自分たちの魔力に上乗せをしていたらしいということや、しかし、上乗せした者たちは、魔力を次代に引き継ぐことが出来なかったらしいと話す。
「そして、聖女が生まれたんですって。魂を正しい形で天に還せる者として。でも、それの意味がよくわからないわ。宝剣で切れば、正しく天に還すってことなのかしら? でも、コンスタンツェは、像に祈って神託を得るってことはよく知らなかったって言ってたわ」
「ふうん……なるほどね。多分、誰かがあの祈りの間に増えてしまうホロゥを切って、どんどん解放してあげていたんだろうね。それが聖女の役目なんだろう。その話だと、昔は魔法使いたちはあのホロゥを見ることが出来ていたってことだもんね?」
「そう。それについては、書物に書いてあったの。ホロゥのことは直接は書いてなかったけれど、王族と高名な魔法使いだけが、祈りの間で『力を得る』だろうって。多分、それってホロゥたちのことを言うのよね」
興味深い、とマリウスは言った。
「今は、王族の血筋での隔世遺伝的な形でしか……君や僕のような者しか見えないんだものね。あれかな。あの像を壊してしまえば、ホロゥたちは集まらなくなるっていうことなのかな……ちょっとだけ気になるね」
「でも、それをしたら神託を得られなくなるでしょ」
「そうだなぁ。ちょっと気にはなるけど、わざわざそれをしようとまでは思わないな」
それから、ティアナは書物に書かれていたことをマリウスに説明をする。
「聖女は、祈りの間で、魔法使いたちが起こしたことへの懺悔をする役割があったみたい。なんていうの。その辺のことって、コンスタンツェも言っていたけど、王族側は隠ぺいをしたかったらしいのよね。だから、その魔力を抜き出すとかどうとかについては記述がないけど、ただ、懺悔をして、死した魂を天へと還すみたいな……そういう役目が、一体いつから神託を得ることになったのかしらね」
「ふうん、なるほど」
マリウスはわかるようなわからないような、と、神妙でいささか難しい表情になる。
「そして、王族から昔は選ばれていたみたいね。どうやら、これはちょっとわたしの推測も含むんだけど……王族は、ホロゥの力を自分の力に上乗せはしなかったんじゃないかしら。どういう理由なのかはわからないけれど。だから……」
だから、自分たちのように、隔世遺伝がいるのではないか。そうティアナは話した。
「そうかもしれないね。うぅん、何も手伝えなくて申し訳ないな」
それからマリウスは、ティアナの魔力についても「可能なら、魔石に魔力を入れる仕事は受けて欲しい」と話した。それは、先ほど彼が言っていた、現在国庫が目減りしているという話に通じることで、ティアナがそれをすることで王城の国庫が復活する可能性もある、ということだった。
「ただ、魔石自体の採掘量が国内外で減っていてね。一応、輸入もしているんだけど、そちらがここ3年ぐらいずっと高騰しているんだ……そのあたりの問題もあるんだけどね」
それへ、ティアナは
「実を言うと、魔石に魔力をいれるっていうのが、全然よくわかってないのよね。でも、まあそういう話なら……」
と、苦々しく頷くしかなかった。
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