使用人と侯爵令息

satomi

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「何をしているんだ――!シェリル!この役立たず!!」

「申し訳ありません。旦那様いますぐこの散らかった食器類を片付けます」
使用人のシェリルは足元に散乱したお皿などを片付け、床の拭き掃除もした。“役立たず”と言われるほどではないと思うのだが…。

「あー、俺が親父に怒鳴られてるのかと思ったぜ。全くこんな女みたいな名前つけるから、使用人なんかと名前がかぶるんだよ」
(俺は結構この名前気に入ってるんだけど。お前と同じだし?)
キレイな銀髪を後ろでひとつに束ね、吸い込まれるような緑色の眼(ファインハイト家の特徴)をした美丈夫が言った。

「シェリルよ、今日は跡目教育だ。これでもお前はこのファインハイト侯爵家の長男だからな」
(そうだ俺は長男なんだ。この先もきっと政略結婚を強いられるに違いない。はぁ。)
「でも…今更お前にマナーとか教養って言ってもなぁ。世間ではお前を才色兼備・文武両道の皇子様のようだと言っているぞ」
「父上、それは皇子に悪いですよ。俺の剣術などまだまだ。やはり騎士団長の様に強くなければ」
「ははは、その向上心はいいな!流石俺の子だ!」
(俺と親父は似てないんだよなぁ。とはいえ父上の眼の色も緑だし。母上の不貞を疑うのはいけないことだ)

「使用人のシェリルは片付けたら、他の者の邪魔にならないように働け。いいな」
(俺と話すときとは違う顔つきで命令するんだもんなぁ)

「はーい」
シェリルはもうあかぎれが出来そうな手でも挙手をして応えた。

「シェリルよ…「あ、俺この後騎士団長と剣術の約束してるからじゃあ」
シェリルは侯爵家から、騎士団御用達の鍛錬場へと行った。



不思議と鍛錬場には緑の眼をした人がわりといた。
ファインハイト侯爵家特有じゃないじゃん。あっちのシェリルだって緑の眼だし?

「私はシェリル=ファインハイトと申します。是非とも手合わせを願いたく…」
ん?隊員全員肩で息してる。無事なのは騎士団長と騎士副団長だけだ。
「だーかーらー、お前が言うウォーミングアップでみんな倒れるって言っただろ?」
「このくらい普通だろ?ん?騎士団に用か?俺は騎士団長だ。こっちが騎士副団長」
知ってます。お二人とも有名だから、自覚…ないんですね。

「騎士団でお手合わせをと思ったのですが、皆さんお疲れのようですね?」
俺は騎士団長や騎士副団長のような化け物相手にするほど無謀じゃない。
「俺で良ければ相手になるぜ?」
「お前が騎士団以外の人間相手にしたら、大変なことになります!」
俺もそう思います。流石にまだ死にたくないです。
「お二人は仲が良いですね」
「ああ、昔から家が近所でなぁ。幼馴染ってやつだ!」
昔から副団長さんは苦労してたんだなぁ。と俺はしみじみ思った。



その頃の使用人シェリル
「ちょっと旦那様に名前覚えてもらったからって調子に乗るんじゃないわよ!」
とわけのわからない言いがかりをつけられていた。

「いえ、坊ちゃまと私の名前が偶然一緒だったので覚えてもらっているだけで、特に何もしてないんですけど…?」
「うわっ、なんて卑しい子なの?絶対偶然を装ってるのよ!」
名前なんだから無理だよー。生まれてからずっとこの名前だもん。
もーっ!!
「そんなに言うなら、あなた達もシェリルを名乗ればいいでしょう?」
「逆ギレ?」
私に何を求めてるんだかわからない。何がしたいんだ。この人達。



シェリルが帰宅した。
「おかえりなさいませ。坊ちゃま」
「坊ちゃまはもう恥ずかしいんだけど…?」

「おお、帰ったかシェリル。応接間に急ぎ来るように!」
何事だ??

「お前に縁談が持ち上がってなぁ」
キターーーーーー!!政略結婚。
「で、相手は?」
「なんと、王家の第3皇女でなぁ。顔とかは内緒らしい。なんとも奥ゆかしいじゃないか!」
奥ゆかしい?胡散臭いの間違いでは?
政略結婚ならアリなのかなぁ?相手が王家ならうち(侯爵家)に選択権はないし。


政略結婚当日。ん?見合いか?
俺は初めて登城した。だってまだ14才なんだもの(笑)。
侯爵家長男でこの年まで婚約者の一人もいなかったのが、逆におかしいくらいなのだが。
初めて陛下に謁見した。なんだか知っている顔に似ていた。特に横顔とか?
俺の見合い相手、第3皇女。なんだか遅刻らしい。
王宮に住んでいるのに遅刻?準備を頑張ってるの?

「遅れましたぁ!」
超元気にこの場に現れたのは、うち(侯爵家)で働いているシェリルではないか?!
「シェリル?何でここに??」
俺も親父も大混乱。
「うむ。面識は当然あるだろうな、お主の屋敷で使用人として働いていてからなぁ」
まだまだ大混乱中。
「いやぁ、バレないようにもう色々と通じてからお主のところで面接をしたから、王家のかけらも残っていなかっただろう?」
何でしてやったり的なんだろう?残った王家のかけらがドジっ子だったのだろうか?
「皇女、我が屋敷での私の言動の数々をお許しください。申し訳ありません」
親父、それは東方の国に伝わるドゲザというやつか?額が床についてるけどいいのか?
まぁ、屋敷で親父はシェリルに威圧的だったからなぁ。

「仕方ないよ。だって、私は使用人だったわけだし。私がミスったのがいけないんだし。完璧使用人なら旦那様は何一つ言わなかったでしょう?」
「私を旦那様などと!侯爵でいいのです!」
爵位かい!

「さぁ、まぁ、若い二人は王宮の庭園でも散歩して来ればいいさ、その間に侯爵!私と話をしようか?」
「陛下と二人で話とは恐れ多い。…仰せのままに」
侯爵は背中を冷や汗を伝うのを感じた。

Wシェリルはというと…
「なんだよ?お前、ドレスとか着るんだな。うちじゃメイド服着た姿しか見た事ないし」
「これでも皇女だからねぇ。生まれた時から着てると思う。逆にメイド服の方がレアだよ」
護衛はそこら中にいるのだが、ふたりの色気のない会話に辟易していた。
「えー、なんかお前と俺婚約するみたいだけど?」
「そうだねぇ」
シェリル(女)は空を見上げながら言う。
「達観してるな」
「王家はそんなもんだよ。自分は政治の駒だろうと思って育ったから」
「なるほど」
「そんなだからさぁ、侯爵に怒鳴られようとメイド服でいた時の方『自由』って感じしたんだよねぇ」
「もう、親父怒鳴る事なくなるだろうよ」
急にシェリル(女)が振り返った。
「そうなのよ!私の自由はおしまい!」
「いいのか?」
「あなたが私に自由をくれるの?」
それはちょっと難しいな。とシェリル(男)は思う。
「王家よりは自由だな。婚約記念でうちの別荘にお前だけ行ってもいいぞ。もちろん使用人付きだが」
ぷくっとシェリル(女)は膨れた。
「そこは、シェリルも一緒でしょう?」
「一緒でいいのか?自由が減るんじゃないのか?」
「シェリル強いし、護衛兼だよ。それに。シェリルを婚約相手に望んだのは私だ!特定の相手いないの知ってたし、眉目秀麗・文武両道でしょう?いいじゃん!」
俺は呆れてしまった。
なんだ、この自由奔放な皇女は…?!
王家でも十分自由にやっていたと俺は思う。


その頃の陛下と侯爵は…
「うちのシェリルが侯爵家のシェリルと婚約したいと言い出したのだ。悲しい出来事だろう?第3皇女とはいえ、愛情を注ぎまくって育てた我が子が言い出したんだ。反対も出来まい」
「はぁ、なぜにうちの愚息なのでしょう?」
どうやら二人で酒を酌み交わしているようだ。
「なんか…まず見た目から入ったらしい」
「しかし、愚息よりもこの国の皇子の方がイケメンでしょうに」
「それはそうかもしれんが、結婚はできまい!」
これは酔いが回ってると侯爵は思った。カラミ上戸というやつだな。
「そこで侯爵の息子に白羽の矢が刺さったのだ」
抜いてしまいたい…と侯爵はちょっと思った。
「噂によると貴殿の息子は眉目秀麗・文武両道というではないか!」
「恐れ入ります。剣術はまだまだ鍛錬中ですが」
机を陛下は叩いた。
「それにしたって、羨ましいぞ!侯爵!!」
陛下はそのまま机に突っ伏して寝てしまった。
(はぁ、これは大変だなぁ。色々。)
「誰か、陛下を寝所へ!」
と、侯爵は使用人を動かした。


「あら?陛下は?」
「お酒を召して、そのまま床についてしまわれたよ」
「あらあら、お酒弱いのに強いフリして呑むから~」
(娘に言われてるけど、いいのか?)
「で、そっちはどうなった?」
「あぁ、シェリル同士で婚約するよ。で、婚約祝いに湖畔の別荘に行ってくる。な?」
俺はシェリル(女)に目配せした。なんだよ今更赤面しやがって。
「ええ」
ええ?なんだ?淑女ぶって。ぶっとんだ姫だろうに。猫かぶってんのか?

こうして俺はシェリル(女)と婚約、涙目の陛下を横目に結婚をした。

翌年には男の子を生まれた。名前はシェリル以外にしよう。



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