上 下
26 / 35

それは突然に

しおりを挟む






賊を縛り終え、王子と王女は逃げ続けて疲れたきった様子だったので少し休ませ、その間に私は二人の手当ても済ませた。




「さて、そろそろ動いてもよろしいですか?
王女様は差し支えなければ私がおぶって行きますので。」


「はい、シュカナお願いしよう。」


「ええ、お兄様。
ではよろしくお願いします···、えーと···」


「あ、申し遅れました。私、リーナ・カチェスと申します。
普段は、アズライト皇国第一皇女フィオリアーネ・アズライト様の専属護衛を任されています。」


私が名乗ると、二人はぽかんとした顔をした。


「えっ、第一皇女の専属···」


「でもさっき元娼婦って···」


まあ、そうなりますよね!!
普通繋がりませんもんね、その二つの単語。


私は苦笑するしかなかった。


「移動しながら説明致しますから先に進みましょう。」









「───と、言うわけで私は姫さまの専属護衛になりました。」


「すごい、リーナさんは自国の皇女も救っていたのですね。」


私におぶられた王女の声は明るく弾んでいた。
よかった、先ほどより少しは元気を取り戻したみたい。


「でも、どうして第一皇女の専属護衛なのに僕らのところへ?」


「それに関しては国のいろいろがあれこれしているのでご容赦ください。
でも、簡単に言うとたまたま私が適任だったから、ですね。」


ざっくり説明すれば、王子が「リーナは国家機密程の要件も任されるんだね、本当にすごい。」なんて少し外れたことを言った。


本当に私がたまたま適任だっただけなんだけど。


そもそも私がこの二人の元へ向かうことになったのは、ガーナードさんがマリアさんと私が話していたところに、突然飛び込んできたところから始まる。───





「───リーナさん、今すぐ西南の草原へ向かってください!!」




突然扉を開けたガーナードさんは切羽詰まった様子で飛び込んできた。


「えっ、でも私はこれから姫さまの護衛···」


「代わりの騎士をつけますから大丈夫です!!
心配はありますが!!」


いや、心配がある時点で大丈夫じゃないと思うんだよね。
ガーナードさんは自分の発言に疑問を感じないほど余裕が無いみたい。


「今、ひだまり宮の馬小屋に馬を用意しています。
小屋に着く頃には出発できると思うのでとにかく行ってください。」


彼の焦りが尋常ではないのでとにかく私は言われた通り馬小屋へ向かった。



小屋へ着けば、きれいな毛並みの黒い馬が用意されていた。


さすがお城の馬、街で見たのと全然違う。
何かこう、オーラが違うっていうか···、キラキラしてるっていうか···。




「リーナ・カチェス殿で合っているだろうか?」




馬に見とれすぎて気がつかなかったが、馬の横にグレーの髪を刈り上げた鋭い濃紺の目が特徴的ないかついおじさまが立っていた。


「そうですが、あなたは?」


「私はレオルド・ゼクロス。
各騎士隊を纏める騎士団長を担っている。」


「えっ、騎士団長!?どういうこと!?」


な、なんでそんな偉い人が私の前にいるの!?


え?いつも顔をあわせている皇族たちは国の中で一番偉い人たちだから今更すぎる?
あの人たちは常に会うからノーカンだよ!!


「今の状況を説明したいが、急ぎであるためゆっくり話す時間がない。
移動しながら説明するからまずは出発しよう。」


「しゅ、出発しようって騎士団長もいらっしゃるんですか?」


「私が行かなければ誰が君に説明するんだ?」


「それも···そうですね。」


あまりにも行くのが当然とばかりの態度なので、つい聞いてしまった。
でも偉い人が直々に動くくらいだから相当な問題が起きているんだろう。


なぜその問題に私が呼ばれたのかはまだわからないが、とにかく問題があるらしい西南の草原に騎士団長と共に向かうことになった。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...