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刺激的な3ヶ月

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私たちはひだまり宮から太陽宮へ向かう回廊まで移動した。



「さて、姫さまここからはご自分で歩いてください。
もちろん、逃げようなんておもわないでくださいね。」


「いいから早く降ろして。」


姫さまは私が降ろしやすいように大人しくなった。
降ろした瞬間逃げないように警戒していたが仏頂面の彼女はしぶしぶ太陽宮へ向かった。
薄紅の口を尖らせて白い頬を膨らませてる姫さまはそれはそれで絵になるくらい可愛い。


本当に美少女ってどんな顔をしても可愛いから得だよなぁ。




なんて思っていると、姫さまは目的地とは反対の方へ進もうとしていた。


「姫さま、そちらは中会議室とは真逆の方向ですよ。」


「わ、わかっているわよ。」


···まだ逃げるの諦めてなかったんかい。


ふんっとそっぽ向く彼女はいやいや歩を進める。



「なんで来た道を戻ろうとしてるんですか。」


「···。」


この状態で中会議室までたどり着けるのだろうか。


「姫さま、失礼します。」


「なっ、ちょ!!」


一抹の不安を感じた私は姫さまを抱え、早歩きで歩き始めた。
姫さまは私の腕の中でわーわー言っているがすべて無視。
私の主人は姫さまでも雇用主は国皇なので、待たせるわけにはいかない。




それに美少女をお姫様だっこできるのは役得だしね!




「なんで満足そうな顔をしてるのよ!!
早く私を降ろして!!
私をお姫様だっこしていいのは将来のお婿さんだけなんだから!!」


「姫さま、ボケる余裕あったんですね。」


「私がいつボケたのよ!!」


「えっ、ちがうんですか?」


「どうしてこうも無礼な口を利くようになったの!!」


それは、姫さまの日頃の行いの結果です。




多少騒がしくなったが時間どおりに私たちは中会議室へ到着した。






仕事のためやや遅れて登場した国皇は玉座に居るときよりも険しい顔で自身の娘である姫さまへお説教をしていた。


「お前は自ら自分の身を危険に晒したことを自覚しているのか。
何かあった場合、いたずらのせいで助けるのが遅れる可能性だってあるんだ。
確かにフィオの護衛が3ヶ月もった人間はいままでいなかった。
祝いたい気持ちがあるのは悪いことではない。
しかし、やり方に問題がある。
今回の仕掛けはリーナだけでなく専属侍女、たまたま通りがかった城に遣える者まで怪我を負わせる危険があった。
もう13歳なんだ、皇族の自覚を持って考えて行動するように。」


「···申し訳ありませんでした。」




姫さまはしゅんとして小さくなっていた。
国皇は威圧感のある目付きを緩めて疲れたようにため息をついた。


「それにしても3ヶ月か。
リーナ、よくフィオの護衛を続けてくれた。
この通りフィオはなかなかに難しい気質がある。
みんなすぐに辞めたがってしまうんだ。
いままではもって1ヶ月だった。」


「いえ、刺激的な毎日ですので時間はあっという間に過ぎました。」


確かに、配属して次の日に早速麻痺毒をカップに混入させられたり(毒に気付いて飲まなかった)、能力検査なんていって不定期に騎士様たちに奇襲をくらったり(姫さまがけしかけた)、呼ばれて駆け付ければ底に泥が貯められた落とし穴にはまりかけたり(ギリギリで飛び越えた)、馬小屋が何故か馬車のように改造されていて馬が引いて逃げかけていたり(これが馬小屋事件)、目立ったものをあげたがこれだけでも私の主人が普通のお姫様の思考ではないとわかる。
そして、これ以外にも日常的にどたばたしていたため本当に3ヶ月はあっという間だった。
それにしても───




───なんか、本当によく辞めなかったな私。下手したら死んでたかも···。
あれ、何だろう視界が霞む。




「リーナ、うちの娘が本当にすまない。」



私がこの3ヶ月を振り返って涙ぐんでいると国皇はこれ以上ないくらいに申し訳なさそうに頭を下げていた。



苦労してるなー、私も国皇も。


姫さま?姫さまは今はしゅんとしているけれど明日にはきっと元通りだよ。













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