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でた!
しおりを挟む「そこのあなた、お待ちなさい?」
ひだまり宮から出て国皇の執務室がある建物の太陽宮へ向かう私は、たぶん、今話しかけられた気がする。
ただ、私でなく他の人かもしれないので反応はしない。
私はそこまで自意識過剰ではないのだ。
「お待ちなさいって言ってるでしょ!」
あぁ、私だったみたい···。
こういう呼び止められ方はいい記憶が無いから無視しようと思ったのに。
振り向けば、金髪の髪をこれでもかと巻いたきっつめの、そりゃもうほんとにきっつめの茜色の瞳でこちらを睨んだ少女が立っている。
ドレスは瞳に合わせているのかごてごての真っ赤な色。
わー、はでーーー···。
「···なんでしょうか?」
「ふんっ、なんであなたが太陽宮にいるのかしら。
ここは、平民の、しかも貞操が守れないようなアバズレが来るところではないのよ?」
でた。でた、でた、でた。
「そもそも、この城自体にあなたがいるのがおかしいのですけどね。
汚ならしい娼婦がなぜここにいて誰も不思議に思わないのかしら。」
「···姫さまじきじきに私を指名されたことを知っているからでは?」
「黙りなさい、平民の分際で貴族の私に口答えするなんて礼儀がなってないわね。」
たまにいるのだ、こういう貴族が。
平民だったからと、娼婦だったからと絡んでくる貴族が。
引き留めて、自分が優位だから文句を言われないのを良いことに貶めてくる連中。
···ほんっと暇だよね。
「だいたい、娼婦なんてやってた人間が皇族や貴族の前に立つのが恥ずかしくないのかしら?
さんざん男に弄られた体を見せて恥はないの?」
「恥ずかしくないに決まっているじゃないですか。
国皇様や側近の方々にはだかを見せたわけでもないですし。」
だいたい、貴女が恥ずかしい、汚ならしいと言った娼婦を利用している貴族だっているのに。
「っな!」
私が言い返すと思っていなかったのか彼女は驚いた顔をした。
そして、気にくわなかったようで顔を真っ赤にして怒りだした。
「っなんなの、その態度は!?
私はあなたにこの場所は相応しくないとわざわざ教えてあげているのに!!
私はスヴェルム公爵家のアンナマリー・スヴェルムよ!?
貴族の中でも格上の公爵家の人間なのよ!!
それなのにあなたときたら「いい加減にしなさい。」」
彼女の肩ごしに見れば、国皇の側近がつかつかと歩いてきていた。
まあ、あれだけ騒げば誰かしらが駆けつけてくるよね。
「リーナさんが第一皇女様の専属護衛になることを決定したのは他でもない城の主である国皇様です。
あなたの今の発言は決定した国皇様を侮辱することになります。」
「わっ私はそんなつもりじゃ、ただ、この場に平民がいるから···」
「騎士団に所属した騎士の中にも平民の者はいます。
スヴェルム公爵令嬢は騎士たちにも城から出ていけとおっしゃるのですか?」
「っ!もういいわっ、私は礼儀のなっていない平民に注意をしただけですからっ!」
これ以上言ってもダメだと思ったのかスヴェルム公爵令嬢はそそくさと逃げていってしまった。
そして、その姿を見た国皇の側近ことガーナードさんはため息をついた。
「すみません、リーナさん。
こちらの依頼で城勤めされているのにこのような状態で。」
「いえ、今のことは気にしていませんから。
それに、よくあることですし。
いちいち気にしてたら埒があきません。」
そう、専属護衛なりたて当初からこれはよくあった。
そりゃそうだ。
孤児で平民で娼婦だった私が城でしかも姫さまの希望で第一皇女付きになるなんて、他の人からはうらやましいことこの上ないだろう。
「まあ、それなりに認めてもらえるように頑張りますよ。」
結局、それしかないから。
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