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結章
結章 第一部 第四節
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「疲れたわ」
「お疲れ様です」
王城デューバンザンガイツの貴賓客区画、その一等室を前にした廊下にて。まったくその通りの応答に、げんなりと吐息しつつ、キルルは顔を上げた。
目の前にいる男は、従士でもなければ護衛でもなかった―――そもそもが従士か護衛であれは、赤毛の男性である時点で自分の近辺から除外されているし、彼一人だけというのも奇妙な話ではある。実年齢が何歳かは記憶にないが、五十路を語るには早すぎる風体をした貴族だ……否、帰属としては確かに貴族に違いないが、今のキルルにとっては、彼の立場と役職こそ重要だった。それを自覚するために、しっかりと呼びかける。
「アクハゲノム・ザーチェゾバ国防大臣。今後の予定に変更は?」
「ありません。わたしどもには」
「厭味は抜きにして。報告してちょうだい」
「玉喪の礼―――陛下の国葬―――は進行中です。国内ではまず、主だった貴族による服喪の集いが月末まで続く予定ですが、前後することを見越して備えております。最終的な葬儀は、およそ二ヶ月後……各国および団体からの代表者の参列を待って、執り行われるでしょう。只今、彼らを迎え入れる環境を、急ぎ取り計らっている状況です。どちらも、恙無く運ぶものと思われます―――嫌な話、おおよそ半年前の二番煎じですからな。続きは……刻限が迫っておりますゆえ、不躾なれど、歩きながら」
「ええ」
応じ、キルルは彼に並んで、廊下を進み出した。
(アクハゲノム―――智謀のアクハゲノム、ね)
過去、王から旗司誓へと差し伸べられた手をはねつけた有名どころといえば、ヴァエンジフに代表されるキフォーもろもろの綴りだが、その手を取って帰参したのが、このアクハゲノム一族である。少なくともそう噂は受け継がれているし、当人らもそれを承諾している。旗司誓の後継者が後世へ受け継ぐのは血縁ではなく、旗幟の烙印となりし矜持の気風―――血統の真贋からして疑わしいのに赤毛だからと言うだけで貴族に返り咲いた鼻つまみ者という扱いも、その帰還さえ旗司誓による国内へ向けられた密偵行為だと顰蹙を買っていることも、そのすべてを逆手に取って貴族社会に安穏とせず幼少期から国外留学することを旨とした結果どの族名より傑出した官僚閣僚を輩出するようになったという実績まで。キルルも、今では、それを知っていた。
己で先述したとおりに、アクハゲノムが言ってくる。
「服喪期間中、―――例の御方についての戒厳令は、維持されます。我々の口頭戒厳令についてはもちろんですが、……お自覚があられるのでしょうか。日がな、ああして引き篭もられたまま、立ち居することすら少なく、お過ごしになられていると」
「そう」
「正式に認定を受けるまでは、あくまでも極秘裏の貴賓客という扱いとなっております。衣食与り係も、ああして花捧げをひとり付けているだけで、表向きに大っぴらな警備も敷けず仕舞いで」
「まさか……花捧げがひとりぽっち!? 護衛にすらならないじゃないの! なんでまたそんな―――」
あまりの粗末さに度肝を抜かれ、思わずその場でたたらを踏んでしまう。
花捧げとは、視聴覚に障害のある侍女の通称だ。天然はともかく、人工的に障害を負わせた場合に残される傷痕が草の根のように見えることが花に捧げられたと称される所以である―――草木に耳目無しとの直言もあるにせよ―――が、言ってみれば身障者なりに世話を焼いてくれるだけの存在でしかない。万が一の際に、護身の矛となるどころか、盾となって動けるかすら怪しいものだ……捨て身するにも、健常者相手では出遅れてしまう。しかも、ひとりきりだと? 後継第二階梯である自分ですら、要らないと突っぱねても、常に十人以上は部屋から控室から常在してくれたというのに。
こちらに遅れること三歩、やっと立ち止まったアクハゲノムはキルルへと向き直ると、老獪な口ぶりに不服を滲ませた。幼い頃からの逗留経験のせいだろう―――貴族にしては雅言に欠けた物腰で。
「本来通り極秘裏の貴賓客であれば、身辺に自国なりの守護陣を展開させているものですから、我が国の番兵を四六時中スタンバイさせるシチュエーションなど、ありえないのですよ―――しかも女性となると、後継第二階梯の御身にすら足りていない現状では、手を回しようがない。今回のことは、こんなことまで前代未聞なのです」
「国防大臣としての権限から、特別枠で対処できないの?」
「せぬほうが無難でしょうな―――ここまで司右翼も司左翼もてんやわんやに混ぜっ返された現状で、わたしの権能を大上段から発動するのは後顧のリスクとなりかねません。ともあれ王城の中であれば、最低限の安全は確保されていると看做せましょうから、ひとまずは現状維持となります」
「現状維持って……せめて侍女の何人かくらい、あたしから横流ししてくれたっていいじゃない」
「後継第二階梯。口頭戒厳令に敢えて綻びを作る振る舞いは、なさいますな。王城に召し抱えられている者の大半は、行儀見習いを誇りに思う貴族の子弟子女です。花捧げを、ひとり―――その判断が、まさか根も葉もない軽はずみの閃きだとは思いますまい?」
「そりゃそうだけど。だったらさっさと、軍の方も態度を決めるようにしてもらわないと。いくらなんでも無防備すぎるわ。あたしからもイヅェンからも、いったん軍属が解除されたことを抜きにしても―――」
と、なんとはなしに周囲を見やる。ただでさえ冷え冷えとした神蛇の腹の中は、今では さめざめとした死の気配まで込められて、あくびするのにも気後れする陰気に満ちている。つられたようにアクハゲノムも視線を下げたが、論議までキルルに従順とはいかなかった。食い下がってくる。
「急いては事を仕損じます―――特に軍閥のそれとなると。司右翼と司左翼の駆け引きがひと段落するまでは、静観する立場を守った方が、これ以上の事態の呼び水とはならぬでしょう」
「……まあ、後継階梯の最上位者と ひと目で分かる者が現れたとなったら、司右翼と司左翼のどっちが附くだの何だので利権だの沽券だのの再三の鞘当てがあることくらい、あたしにだって察しが付くわよ。二か月の間に収まればいいわね」
「今のところは両者一歩も退かず睨み合いですな。司右翼は寡人政治の抜本を成す血統あればこそたる信念がありますし、司左翼は八年前の戦功に今回の功績が追い風となっている状況です―――将来的に、例の御方が王座の後継者におなりになるとすれば、まずはイヅェン後継第三階梯と御婚姻なさいましょうから、その点でも現時点では後者には心強いでしょうな。ウィビン・ラマシヲ唯任右総騎士も、ヴァシャージャー唯任左総騎士も、王城執務室にて継次官を控えさせながら泊まり込みで構えております」
「それはそれは。指揮棒の振り方によっては、総力戦を仕掛けられる構図だこと。寝返りと寝言に注意してもらわなくちゃね―――副官なら、真正直に末端まで伝令を届けるわよ。もう隣国も無いんだから、攻め滅ぼす先がお互いじゃないことを祈るしかないわね」
白々しい皮肉を、アクハゲノムは窘てこなかった。顔つきや態度も素知らぬ風で、癖のある毛先を揺らしすらしない。案外、冗談の分かる男なのかもしれない―――それか、冗談でも皮肉でもなく、真相だから受諾しているだけか。軍について。
内政治安を担う司右翼が階梯上位者に附き、外政圧力を担う司左翼が後継下位者に附くのは、階梯上位者―――王位継承者と目されやすい者から国家の象徴として国内に安座することを義務付けられる代わりに、後継下位者が外交に赴くことが多いという慣わしがあるからである。なので、キルルには司右翼が、イヅェンには司左翼が附いていたのだが、それもこれもすっとばして後継第一階梯が現れたとなると、事態は大いに混迷を増す。後継第一階梯となれば王位を後継するまで司右翼が附くのが妥当とされるだろうが、そうなればキルルには司左翼が持ち上がることになってしまい、こうなると将来的に後継第一階梯の夫とされるイヅェンに軍属が附かないことになる―――ただでさえ無い肩書を、更に失うのである。ザシャ・ア・ルーゼに見捨てられていた手前、キルルら双子は他の親族のように幼い頃から外交経験など積んでいない。それなのに市井からひょっこり王冠城まで迎えられてしまった身の上で、これは死活的な問題となりかねない……氏より育ちの世の中なのは王家とて同じで、分相応の成育歴を着飾ってこれなかった者は、排除される側となりやすい。この半年余り、まがりなりとて自分が次期王としてやってこれたのは、玉座の後継者たるべく母から狂信的に叩き上げられたイヅェンが、完璧なサポートやらアシストやらヘルプやらを、これ以上ないほど身を粉にして献身的に こなしてきてくれたからこそ成し得た重畳なのだ。一歩でも踏み違えていたなら、実績の無さにつけ込まれて、実績と野心だけには事欠かない従兄弟やらなんやらの食い物にされるだけで終わっていたかも分からない―――帰還してから、イヅェンの働きの辣腕っぷりを踏襲するにつれ、それは明らかとなっていった事実だった。
(まったく。これこそ皮肉でしかないわ。お母様はイヅェンを王にと のぞんでいたのに、その のぞみに忠実過ぎたせいで、イヅェンは後継第三階梯に振り分けられた途端から玉座への興味も関心も失くした。執着したのは、紅蓮の如き翼の頭衣が、王として即位することだけ……)
その王が、キルルから別の者へと、すげ替わろうとしている―――
(あたしが王城に迎えられた時より、実感が湧かないわ。本当に)
どれもこれも現実だとしても、どこもかしこも現実味がない。
半年より前、キルルは後継第七階梯だか後継第八階梯だか、そのあたりだったらしい。そもそもの話になるが、ザシャ・ア・ルーゼ陛下が賜った三兄弟……長兄メフルシドは羽かぶりでなく、次兄ニドゾルグ後継第一階梯、末弟ヴェリザハー後継第二階梯―――階位から放逐される前は―――と続いていた。ここに、紅蓮の如き翼の頭衣と認定されたニドゾルグの後胤――― 十歳前後年上のキルルの従兄弟たち―――である三名を挟み、正体不明の異母姉を空欄として飛ばした上、キルルとイヅェンが第七ならびに第八の位を占めていたのである。実は、後継第九階梯まで存在していた……長兄メフルシド念願の末子として、命どころか羽毛までも授っていた。その生誕の宴に参加したメフルシド・ファミリーならびにニドゾルグ・ファミリー、すなわちキルルより上位の階梯保持者が、祖父もろとも全滅した。毒殺ではない―――それより あり得ないはずだが、食中毒だった。だからこそ摂食量の多い成人からやられたと聞いているし、致死量かつ遅効してきたタイミングも各人ばらばらで、当時の毒見役は麻痺と白痴が未だに抜け切らない半死半生ながらも、辛くも生き延びたのだという―――後継第九階梯だった赤ん坊と同じく。祝いの席だからと含まされた ひと口が致命的だった……命までは至らなかったとしても、後継階梯保持者としては大いなる禍根を残された。紅蓮の如き翼の頭衣を冠する限り、生かされはするだろう。ただし種馬として。
兎にも角にも、お誕生日パーティーに呼ばれないくらいザシャから ほったらかしにされていたヴェリザハー・ファミリーは、このようにして王家未曽有の大惨事からも除け者にされたわけだ。にわかに階梯順位は すっこ抜かれ、ヴェリザハーが王位に据えられ、黙殺されていたジヴィンの私生児を抜きにすれば、キルルが次期王となる構図が出来上がる。これがおよそ半年前のことであり、キルルがイヅェンより後継階梯上位になることが正式に決定したのも、この時であるらしい―――血統が弱体化していると断じられた過去に鑑み、未来にそれを雪ぐため、きょうだいで交わり血を濃くすべしと判断された結果だった。半年前よりのち、残された親族が直系・傍系まで挙り挙って我先に羽かぶりを授かるべく躍起になっており、ゆくゆくの支配者を我が手に齎したまえと虎視眈々と祈りを捧げていることを小耳に挟んだ時は、それまでの間に合わせに自分の一生が巻き込まれたのかとキルルは肩を怒らせた。確かに近年、王位はア族の中でもルーゼ家が独占する状態が続いている……だからこそ、よくある艶聞で済まされたかもしれないヴェリザハーとジヴィンの密通は、極悪天魔たる醜聞としてザシャの烈火に焼き尽くされたのである。治世に乱を忘れずとばかり、ルーゼ家を興した祖父は、火種から火のない所に立った煙まで一切ゆるさなかった。子に恨まれんとも孫の世の為に死力を尽くした―――その結果として、ルーゼ家の不幸な凋落を寿き、すげ替わろうとする者どもへと親族を化かしてしまった。
―――惑わされなさいますな、小姉君。後継階梯順位は覆りません。のちに血族がどれほど連なろうとも、それは後続でしかありえない……風聞の絶えぬ、魔物を食い破ったとされる姉君を除いて。勲功は、これより お気に召すまま立てれば宜しい。小姉君のお行きになる王道に、翳りなど一抹たりとありえません。若輩の身なれど、生涯お供させていただきとうございます―――
(ああまで信じていた―――そのことに裏切られた。だからこそのパニックなの? あれは)
記憶の中の声にすら後押しを受けた心地で、キルルは口火を切った。
「イヅェンについては? どう? その後」
「それが、益々の動揺の渦中にあられるようで―――」
「あいつも本当に、どうしたって言うんだか!」
激憤冷めやらず、口の中で怒声を食い殺す。白づくめのぴったりとした正装―――最高級の意匠かつ衣装だ―――を着せられていては、満足に地団駄も踏めないどころか、膨ませた喉に詰襟が食い込んでくる始末だが、それでも勢いは収まらない。
「政務できないってだけならいいわよ風邪ひいて寝込んでるのと同じだし! それこそ風邪なら、いずれ治るに違いないんだから! でも、着替えも食事も うっちゃらかして上の空にふらふらと幽鬼ごっこされるだけじゃ、どうしようもないじゃないの! あたしの言葉だって聞いてんだか聞いてないんだか―――あれじゃあまるで、」
すっ―――と。
うそざむい感覚に、言葉尻どころか熱情までも失速させてしまう。
見咎めたアクハゲノムが、怪訝そうに疑問符を転がしてきた。
「どうなさいました?」
「いえ。気にしないで。嫌なことを思い出しただけ」
狂い死んだ実母の末期を思い出した。それだけだ。
ともかく、服することになる喪が明ける二か月後までには、おおよそが決するのだろう。国王の死の公表、それと すげ替わり玉座に就く紅蓮の如き翼の頭衣―――後継階梯保持者に纏わる様々な乱高下、更には軍閥における不穏な胎動……イーニア・ルブ・ゲインニャの死に関連したキルル自身の暗殺疑惑も未解決な上、アーギルシャイアの臍帯の国家的な陰謀論まで抱え込んでしまった現在、ひとつでも目途が立つ事柄があるのはありがたいことではある。二か月。それが期日。
そして、立つ立たない以前に、目途があるとも思えない―――そのことについて、言及する。
「【血肉の約定】の証人となった、ゼ―――旗司誓を自称していたその者の足取りについては?」
「現在有効とされている公的書類において、ゼラ・イェスカザという人物は存在しておりません。<彼に凝立する聖杯>に係る継承財の登記は、確かにイェスカザ家に依りますが、過去のどこまで遡ってもゼラと言う名前は見当たりませんでした。人を食った綴りが示す通り、偽名でしょう」
「じゃあ、実際の足取りの方は? ―――ああ、いえ、もう言わなくていいわ。行方知れずなのね。顔を見れば分かる」
「申し訳ありません」
「違うのよ。顔を見れば分かるのは……あなたのそれより先に、そんな顔をした大勢を知っているから。大食堂で、総員ひっくりかえされて」
「は?」
目をぱちくりさせるアクハゲノムに、力なく苦笑して、キルルは肩を竦めた。それだけの仕草ですら受け流せず突っ張ってくれた上着が、内ポケットの中の違和感を一層に感じさせてくる。トランプを一纏めにしたような形をした、赤い研磨石。これからシゾーの声が聞こえたと―――そのやり取り以外で、これを使っている局面になど出くわしもしなかったが、そのせいで逆に気にかかって、こうして持ち歩く癖までついてしまった。
(シゾーさん……)
そう。気がかりではあった。シゾーだけではなく―――<彼に凝立する聖杯>について。シゾーがいて、エニイージーがいて、イコがいて……旗司誓でいてくれた彼らについて、それを知っているキルルだからこそ―――気がかりではあった。
だがひとまずは、自分の足元だ。アクハゲノムと目線を交わして、暗黙ながら歩調を再び取り戻す。そうして目的地へ向かいながら、確認した。
「じゃあ、あたしの目下の予定も、狂いは無いってことで間違いないのね」
「はい。これより、臣民に向けて、国家太平の宣布を行って戴きます。まずは天守閣から、広場へと。次は、城壁の各地点から五回―――こちらは、市民層へ向けて」
「洗いざらい白状してやるまでは、黙って首を洗って待ってやがれ、皆の衆―――ってね」
「後継第二階梯」
「分かってるわよ。こんなオ下品な要約じゃなくて、丸暗記した方をちゃんと言うわ」
あとは、歩く。
王城デューバンザンガイツは、<彼に凝立する聖杯>の要塞より広く、より開けた作りをしている。それもそのはずで、前政権時代に成金が造らせた別荘らしく戦闘向けに堅牢な構造を押し出した堡塁と、王としての生活から私生活まで呑み込んでくれる宮は、成り立ちからして異なるのだ。キルルら王家に関する部屋だけでも居住区画・貴賓客区画・会食区画・有閑区画・謁見の間・広間・大広間等々と延々と続くし、翼司―――左右拘らず自国兵へ向けられる呼称―――待機室やら、侍女らの居住区画および控室まで数え上げるなら、総数など軽く四ケタを上回る。階層は六割弱が四階構造で、突き出した天守閣と、あらかたの王政を取り仕切っている省庁部分が棟を分けての三階層や一階層として横手へまばらに広がっていた。形状のイメージとしては、歪んだ箱を四つ大中小順に積み上げて中央に棒(天守閣)を刺し、最下段の端に別の箱(各省庁)を幾つかくっ付けたような絵面である。しかもデザインの基本が曲線と来れば、無駄な動線で動かねばならない通路も多いのだが、迎賓館としての機能まで網羅しているのだから、この程度の美意識は受け入れねばなるまい。
(ったく。ほっかむりしつつ王襟街から王裾街まで入り浸って、男物の武芸までやっちゃってたお転婆っ娘だったからこそ、こうやって息切れも起こさないで済むんですからね)
思えばそれは、イヅェンから政務を引き継いでのち、王城の間取りをいち早く把握するのにも役立ってくれた。近年、葉脈より複雑に入り組むような増改築をさせている上等住宅街を出入りがてら、城下街まで下りていた経験値があったからだろう。方向感覚を失わないどころか、いつしか目的地さえ設定できたなら迷わず最短ルートまでシミュレート出来るようになっている。
(これだって、皮肉な話よね。どれもこれも、王になろうとして習得したわけじゃない。産まれてしまったから、あたしらしく生きていただけ―――きっと誰だって、そうなだけでしかないのにね)
ひとつ。またひとつ。困難に触れ、苦難を打開し、艱難を握り潰す都度、まがりなりにも直面したことを体得し、人は可能性を開いていく……ひとつ目がふたつ目と群れ、層を成し、国史を築くほど連綿と続いたのならば、国そのものすら動かして他者をも呑み込まんと欲する。それは、八年前に戦争をもたらした巨大な力に違いない……それでも、その一歩目とくれば、自分にとってはこんな地理感覚くらいでしかない。ちっぽけな力だ―――約束に小指同士を重ねる程度の。信じるのも愚かしい、賢くも疑えてしまう程度の。それでも―――それだけでいい、力だ。
(だって、全知全能の超人がひとりきりなら、そこは楽園でしかないもの)
この世なのだから、ひとりで出来ないことは、みんなで出来るようにしていけばいい。アーギルシャイアは恋をした。だからキルルも、出来ることをする。
ようやく、アクハゲノムと共に、天守閣の根元まで到着した。螺旋を行く階段を上り……突兀前に設けられた最後の踊り場にて、そこに控えていた御手者―――紅蓮の如き翼の頭衣の世話を一手に引き受ける、一種の聖職者―――に、宮廷儀礼を送る。その者が横手のロッカーを開けると、中には尾長鳥の止まり木のような台があり、そこに かつらが被せられていた。やはり、尾長鳥の尾のように―――床まで流れ落ちんとした紅蓮の如き翼の頭衣で作られた、それが。
(イヅェンなら、こんなのも不要なんでしょうけれど。あたしじゃね)
これもまあ、今の自分にとっての身の丈だ。補われるだけ、ありがたいと思うしかない。が―――
その者が恭しくキルルの頭上にそれを戴かせる間に、げんなりと口を衝いてしまう。自然と、目の前で手持ち無沙汰となっているアクハゲノムに向けて。
「にしても……どうにも気づまりなニュースが続くわね。これからの景気づけに、なにか明るい話題のひとつも無いものかしら?」
「ありますよ」
「え?」
「私事でよろしければ。息子が見つかりましてな」
「むすこ?」
「はい」
内容の割に、特に浮き立つような口ぶりでもなく、続ける。
「よくある話ですが。その昔、営利誘拐の憂き目に遭ってしまっていた倅です。正直、発見は諦めていたのですが……今回の騒動で貴族社会でも、行方不明者を捜索との機運が高まりまして。幸運にも、我らが王裾街にて発見されました」
「そんな近所で?」
「灯台下暗しとは申しますが、体験するとなると舌を巻くしかありませんな」
しかも言い様の割には、喜怒哀楽に欠けるのっぺりとした面の皮を崩しもせずに、言い添えてきた。
「もう十歳も過ぎようという頃合いに改名させるのもアイディンティティの瑕疵となるやも知れぬと名をそのまま下界から引き継がせたせいか、まだまだ下町の色が抜けませんが、生成そのものはアクハゲノムの智謀の後継者として不足はないと見ております。いずれ後継第二階梯の瞥見に触れる機会がありましたら、どうぞ お見定めを」
「分かったわ」
気楽に請け負った頃には、衣装も整っている。
いつしか閉じていた目を、キルルは―――開いた。そして、膝まで流れ落ちる羽を揺らして、最後の階段を上り出す。ここからは、ひとりで行かねばならない。ここにいる後継階梯保持者は、キルルだけだ。
行先は明るい。そこへ向かい、一段……また一段と影を脱ぎ捨てる都度、翼は降りしきる陽光に紅蓮を咲かせゆく―――凍蜜岩の白い壁に乱反射しては増していく美景を眺めながら、我が身の羽ばたきを聴許する。しゃきり。しゃきり。しゃきり。
そして、―――
キルルだから、それを見た。
しゃきり。しゃきり。しゃきり―――至高の福音を帯びた羽が、果てしない曇天へ天翔ける。その隙間から、見下ろした……未知の世界。
顔。顔。顔。不安顔。泣き顔。無表情。顰めっ面。野外広場にすし詰めの目白押しとなり、語り合っていた彼らの声―――それが散るごと、こちら目掛けて集い来る眼差し。ゆうに千人は上回っているだろう。ほぼ赤毛で、青年から老年までいる。王城に勤めている者たちである……情報が混迷しがちな下働きの者が多いようだが、制服を着た翼司の姿や、連れに囲ませた官民もいる。その全員が―――キルルを待っていた。<彼に凝立する聖杯>の要塞で直面した、武装犯罪者たちとの戦闘風景とは、全く違う。旗司誓らは、全員でキルルに背を向けていた。ここにいる民は、全員でキルルを見ている。全員が―――統べられるべくして統べられてきた、国民だ……
(民なのか。これが―――国なのか)
愕然と、思い知るしかない。絶景だ。これこそが絶景だった。自分だけに、ゆるされた……唯一無二の。唯一無二だと? そんな極がゆるされるならば、さながらそこは楽園ではないか―――
(紅蓮の如き翼の頭衣。後継階梯。これが―――)
知らなかった。
知らずにいた。
知ってしまった。
(これがあた―――わたしだと!)
そうして呑み込めてしまえたなら、もう吐き出すことも無い。
キルルは粛々と、国家太平の宣布を行った。行い終えて、終えたなりに、端粛然と下がる。
踊り場まで戻った時、御手者と並んでアクハゲノムが控えていた。先程と同じように、労ってくる。
「お疲れ様でした」
「そんなわけないでしょう」
きっぱり言い切られ、アクハゲノムは年相応に弛みだした頬肉を不審げに揺らした。
「―――つい今ほど、疲れたと仰せになったような」
「そうよ。もう違う。ありえない」
キルルは、声を上げた。産声を上げた……生まれて初めて、身を立てた。旗のように。
「ここは王冠城デューバンザンガイツ。わたしは……わたしがキルル・ア・ルーゼだから、ここにいる。さあ、やれることから、やってやりましょう。わたしこそ、ア族ルーゼ家ヴェリザハーが第二子、名をキルル―――後継第二階梯、すなわち王位の後継者なのだから!」
遅ればせながら、城外からの歓声が、鳴動を始めた。
人々の混沌めく声が、言葉が、神の王冠と云しめた神蛇たるデューバンザンガイツをも震わせ始めている……
□ ■ □ ■ □ ■ □
はじまってしまった。それは一目から。世界を すげ替えた。
すげ替わってしまった世界で、音がする。これとて、ただの音ではなくなってしまった……意味のある音が、意味を成す言葉が、意味深な声が―――化けた物から、やって来る……
ひっきりなしに、諸人を浮足立たせる鳴動―――もれなくそれは、誰しもを落ち着かなくさせる声色で。踵を上げさせ、つま先を蹴離すように―――誘う、調べ。拐かす手が奏る、裏を隠した言の葉の群。さわさわと寄せて、ざわざわと引き、曳いていこうとする調べ。
「ああ……ああ……ああ……」
聞いてはならない。自室にてイヅェンはその一心で、両耳を塞ぎながら床に突っ伏していた。押さえても押さえても途絶えることのない音がする。それが己の鼓動だけだと―――どうして信じることが出来る? 疑わずにいられる? 魔物さえ ゆるした現世において、この耳底までとうに巣食われていたとて……分からないではないか。楽園は失われた。
聞こえてくる……どこからともなく、どこまでも果てなく、沸き立つ声が―――
「このような―――カーニヴァルは……パレードは……いけない」
誘われる。誘い出されて……帰ってこない。旅団ツェラビゾは物語る。迎えられてしまう……楽園に―――招かれる。美しいものから。父の愛のように。母の命のように。美しいものから―――
それは、目に焼き付いてしまった。
旗司誓の手元にて、紅蓮の如き翼の頭衣が解き放たれた瞬間。
しゃきり。しゃきり。しゃきり。緋と橙を燃え上がらせた羽の業火に焼かれる彼女、その両目のただひたすらの無垢を見た。絶望―――のぞみを失い、奇跡から見捨てられた、なにもかも【な】く、だからこその楽土。それは楽土―――逆世の楽園。凍れる煉獄。黒い白馬。美し過ぎるそれを見た。
はじまってしまったのだ。それを―――知ってしまった。
「なればこそ、魔物が来る―――ジヴィンのように……来るべくして―――来る」
父の愛のように、母の命のように、奪われてはならない。
それを知っているのは自分だけだ。だからこそ、声が聞こえる。こうまで……聞こえている―――
「此度こそは―――防がねばならぬ。わたしが、後継第一階梯を―――姉君を、お守りせねば……ならない―――」
おいで。
「黙るがよい―――魔物ォ……」
おいで。
「つつしめぇ―――」
こちらに、おいで。
果実は太り、熟れている。だから、食べていればいい。お菓子もあるよ。木馬もあるよ。積み木は積んで。毛糸は編んで。ふかふか毛布は清潔で、かわいい刺繍も入ってる。遊んで。眠って。いたらいい。
だぁれも きみを むかえに こない。
ここは楽園の中。
「お疲れ様です」
王城デューバンザンガイツの貴賓客区画、その一等室を前にした廊下にて。まったくその通りの応答に、げんなりと吐息しつつ、キルルは顔を上げた。
目の前にいる男は、従士でもなければ護衛でもなかった―――そもそもが従士か護衛であれは、赤毛の男性である時点で自分の近辺から除外されているし、彼一人だけというのも奇妙な話ではある。実年齢が何歳かは記憶にないが、五十路を語るには早すぎる風体をした貴族だ……否、帰属としては確かに貴族に違いないが、今のキルルにとっては、彼の立場と役職こそ重要だった。それを自覚するために、しっかりと呼びかける。
「アクハゲノム・ザーチェゾバ国防大臣。今後の予定に変更は?」
「ありません。わたしどもには」
「厭味は抜きにして。報告してちょうだい」
「玉喪の礼―――陛下の国葬―――は進行中です。国内ではまず、主だった貴族による服喪の集いが月末まで続く予定ですが、前後することを見越して備えております。最終的な葬儀は、およそ二ヶ月後……各国および団体からの代表者の参列を待って、執り行われるでしょう。只今、彼らを迎え入れる環境を、急ぎ取り計らっている状況です。どちらも、恙無く運ぶものと思われます―――嫌な話、おおよそ半年前の二番煎じですからな。続きは……刻限が迫っておりますゆえ、不躾なれど、歩きながら」
「ええ」
応じ、キルルは彼に並んで、廊下を進み出した。
(アクハゲノム―――智謀のアクハゲノム、ね)
過去、王から旗司誓へと差し伸べられた手をはねつけた有名どころといえば、ヴァエンジフに代表されるキフォーもろもろの綴りだが、その手を取って帰参したのが、このアクハゲノム一族である。少なくともそう噂は受け継がれているし、当人らもそれを承諾している。旗司誓の後継者が後世へ受け継ぐのは血縁ではなく、旗幟の烙印となりし矜持の気風―――血統の真贋からして疑わしいのに赤毛だからと言うだけで貴族に返り咲いた鼻つまみ者という扱いも、その帰還さえ旗司誓による国内へ向けられた密偵行為だと顰蹙を買っていることも、そのすべてを逆手に取って貴族社会に安穏とせず幼少期から国外留学することを旨とした結果どの族名より傑出した官僚閣僚を輩出するようになったという実績まで。キルルも、今では、それを知っていた。
己で先述したとおりに、アクハゲノムが言ってくる。
「服喪期間中、―――例の御方についての戒厳令は、維持されます。我々の口頭戒厳令についてはもちろんですが、……お自覚があられるのでしょうか。日がな、ああして引き篭もられたまま、立ち居することすら少なく、お過ごしになられていると」
「そう」
「正式に認定を受けるまでは、あくまでも極秘裏の貴賓客という扱いとなっております。衣食与り係も、ああして花捧げをひとり付けているだけで、表向きに大っぴらな警備も敷けず仕舞いで」
「まさか……花捧げがひとりぽっち!? 護衛にすらならないじゃないの! なんでまたそんな―――」
あまりの粗末さに度肝を抜かれ、思わずその場でたたらを踏んでしまう。
花捧げとは、視聴覚に障害のある侍女の通称だ。天然はともかく、人工的に障害を負わせた場合に残される傷痕が草の根のように見えることが花に捧げられたと称される所以である―――草木に耳目無しとの直言もあるにせよ―――が、言ってみれば身障者なりに世話を焼いてくれるだけの存在でしかない。万が一の際に、護身の矛となるどころか、盾となって動けるかすら怪しいものだ……捨て身するにも、健常者相手では出遅れてしまう。しかも、ひとりきりだと? 後継第二階梯である自分ですら、要らないと突っぱねても、常に十人以上は部屋から控室から常在してくれたというのに。
こちらに遅れること三歩、やっと立ち止まったアクハゲノムはキルルへと向き直ると、老獪な口ぶりに不服を滲ませた。幼い頃からの逗留経験のせいだろう―――貴族にしては雅言に欠けた物腰で。
「本来通り極秘裏の貴賓客であれば、身辺に自国なりの守護陣を展開させているものですから、我が国の番兵を四六時中スタンバイさせるシチュエーションなど、ありえないのですよ―――しかも女性となると、後継第二階梯の御身にすら足りていない現状では、手を回しようがない。今回のことは、こんなことまで前代未聞なのです」
「国防大臣としての権限から、特別枠で対処できないの?」
「せぬほうが無難でしょうな―――ここまで司右翼も司左翼もてんやわんやに混ぜっ返された現状で、わたしの権能を大上段から発動するのは後顧のリスクとなりかねません。ともあれ王城の中であれば、最低限の安全は確保されていると看做せましょうから、ひとまずは現状維持となります」
「現状維持って……せめて侍女の何人かくらい、あたしから横流ししてくれたっていいじゃない」
「後継第二階梯。口頭戒厳令に敢えて綻びを作る振る舞いは、なさいますな。王城に召し抱えられている者の大半は、行儀見習いを誇りに思う貴族の子弟子女です。花捧げを、ひとり―――その判断が、まさか根も葉もない軽はずみの閃きだとは思いますまい?」
「そりゃそうだけど。だったらさっさと、軍の方も態度を決めるようにしてもらわないと。いくらなんでも無防備すぎるわ。あたしからもイヅェンからも、いったん軍属が解除されたことを抜きにしても―――」
と、なんとはなしに周囲を見やる。ただでさえ冷え冷えとした神蛇の腹の中は、今では さめざめとした死の気配まで込められて、あくびするのにも気後れする陰気に満ちている。つられたようにアクハゲノムも視線を下げたが、論議までキルルに従順とはいかなかった。食い下がってくる。
「急いては事を仕損じます―――特に軍閥のそれとなると。司右翼と司左翼の駆け引きがひと段落するまでは、静観する立場を守った方が、これ以上の事態の呼び水とはならぬでしょう」
「……まあ、後継階梯の最上位者と ひと目で分かる者が現れたとなったら、司右翼と司左翼のどっちが附くだの何だので利権だの沽券だのの再三の鞘当てがあることくらい、あたしにだって察しが付くわよ。二か月の間に収まればいいわね」
「今のところは両者一歩も退かず睨み合いですな。司右翼は寡人政治の抜本を成す血統あればこそたる信念がありますし、司左翼は八年前の戦功に今回の功績が追い風となっている状況です―――将来的に、例の御方が王座の後継者におなりになるとすれば、まずはイヅェン後継第三階梯と御婚姻なさいましょうから、その点でも現時点では後者には心強いでしょうな。ウィビン・ラマシヲ唯任右総騎士も、ヴァシャージャー唯任左総騎士も、王城執務室にて継次官を控えさせながら泊まり込みで構えております」
「それはそれは。指揮棒の振り方によっては、総力戦を仕掛けられる構図だこと。寝返りと寝言に注意してもらわなくちゃね―――副官なら、真正直に末端まで伝令を届けるわよ。もう隣国も無いんだから、攻め滅ぼす先がお互いじゃないことを祈るしかないわね」
白々しい皮肉を、アクハゲノムは窘てこなかった。顔つきや態度も素知らぬ風で、癖のある毛先を揺らしすらしない。案外、冗談の分かる男なのかもしれない―――それか、冗談でも皮肉でもなく、真相だから受諾しているだけか。軍について。
内政治安を担う司右翼が階梯上位者に附き、外政圧力を担う司左翼が後継下位者に附くのは、階梯上位者―――王位継承者と目されやすい者から国家の象徴として国内に安座することを義務付けられる代わりに、後継下位者が外交に赴くことが多いという慣わしがあるからである。なので、キルルには司右翼が、イヅェンには司左翼が附いていたのだが、それもこれもすっとばして後継第一階梯が現れたとなると、事態は大いに混迷を増す。後継第一階梯となれば王位を後継するまで司右翼が附くのが妥当とされるだろうが、そうなればキルルには司左翼が持ち上がることになってしまい、こうなると将来的に後継第一階梯の夫とされるイヅェンに軍属が附かないことになる―――ただでさえ無い肩書を、更に失うのである。ザシャ・ア・ルーゼに見捨てられていた手前、キルルら双子は他の親族のように幼い頃から外交経験など積んでいない。それなのに市井からひょっこり王冠城まで迎えられてしまった身の上で、これは死活的な問題となりかねない……氏より育ちの世の中なのは王家とて同じで、分相応の成育歴を着飾ってこれなかった者は、排除される側となりやすい。この半年余り、まがりなりとて自分が次期王としてやってこれたのは、玉座の後継者たるべく母から狂信的に叩き上げられたイヅェンが、完璧なサポートやらアシストやらヘルプやらを、これ以上ないほど身を粉にして献身的に こなしてきてくれたからこそ成し得た重畳なのだ。一歩でも踏み違えていたなら、実績の無さにつけ込まれて、実績と野心だけには事欠かない従兄弟やらなんやらの食い物にされるだけで終わっていたかも分からない―――帰還してから、イヅェンの働きの辣腕っぷりを踏襲するにつれ、それは明らかとなっていった事実だった。
(まったく。これこそ皮肉でしかないわ。お母様はイヅェンを王にと のぞんでいたのに、その のぞみに忠実過ぎたせいで、イヅェンは後継第三階梯に振り分けられた途端から玉座への興味も関心も失くした。執着したのは、紅蓮の如き翼の頭衣が、王として即位することだけ……)
その王が、キルルから別の者へと、すげ替わろうとしている―――
(あたしが王城に迎えられた時より、実感が湧かないわ。本当に)
どれもこれも現実だとしても、どこもかしこも現実味がない。
半年より前、キルルは後継第七階梯だか後継第八階梯だか、そのあたりだったらしい。そもそもの話になるが、ザシャ・ア・ルーゼ陛下が賜った三兄弟……長兄メフルシドは羽かぶりでなく、次兄ニドゾルグ後継第一階梯、末弟ヴェリザハー後継第二階梯―――階位から放逐される前は―――と続いていた。ここに、紅蓮の如き翼の頭衣と認定されたニドゾルグの後胤――― 十歳前後年上のキルルの従兄弟たち―――である三名を挟み、正体不明の異母姉を空欄として飛ばした上、キルルとイヅェンが第七ならびに第八の位を占めていたのである。実は、後継第九階梯まで存在していた……長兄メフルシド念願の末子として、命どころか羽毛までも授っていた。その生誕の宴に参加したメフルシド・ファミリーならびにニドゾルグ・ファミリー、すなわちキルルより上位の階梯保持者が、祖父もろとも全滅した。毒殺ではない―――それより あり得ないはずだが、食中毒だった。だからこそ摂食量の多い成人からやられたと聞いているし、致死量かつ遅効してきたタイミングも各人ばらばらで、当時の毒見役は麻痺と白痴が未だに抜け切らない半死半生ながらも、辛くも生き延びたのだという―――後継第九階梯だった赤ん坊と同じく。祝いの席だからと含まされた ひと口が致命的だった……命までは至らなかったとしても、後継階梯保持者としては大いなる禍根を残された。紅蓮の如き翼の頭衣を冠する限り、生かされはするだろう。ただし種馬として。
兎にも角にも、お誕生日パーティーに呼ばれないくらいザシャから ほったらかしにされていたヴェリザハー・ファミリーは、このようにして王家未曽有の大惨事からも除け者にされたわけだ。にわかに階梯順位は すっこ抜かれ、ヴェリザハーが王位に据えられ、黙殺されていたジヴィンの私生児を抜きにすれば、キルルが次期王となる構図が出来上がる。これがおよそ半年前のことであり、キルルがイヅェンより後継階梯上位になることが正式に決定したのも、この時であるらしい―――血統が弱体化していると断じられた過去に鑑み、未来にそれを雪ぐため、きょうだいで交わり血を濃くすべしと判断された結果だった。半年前よりのち、残された親族が直系・傍系まで挙り挙って我先に羽かぶりを授かるべく躍起になっており、ゆくゆくの支配者を我が手に齎したまえと虎視眈々と祈りを捧げていることを小耳に挟んだ時は、それまでの間に合わせに自分の一生が巻き込まれたのかとキルルは肩を怒らせた。確かに近年、王位はア族の中でもルーゼ家が独占する状態が続いている……だからこそ、よくある艶聞で済まされたかもしれないヴェリザハーとジヴィンの密通は、極悪天魔たる醜聞としてザシャの烈火に焼き尽くされたのである。治世に乱を忘れずとばかり、ルーゼ家を興した祖父は、火種から火のない所に立った煙まで一切ゆるさなかった。子に恨まれんとも孫の世の為に死力を尽くした―――その結果として、ルーゼ家の不幸な凋落を寿き、すげ替わろうとする者どもへと親族を化かしてしまった。
―――惑わされなさいますな、小姉君。後継階梯順位は覆りません。のちに血族がどれほど連なろうとも、それは後続でしかありえない……風聞の絶えぬ、魔物を食い破ったとされる姉君を除いて。勲功は、これより お気に召すまま立てれば宜しい。小姉君のお行きになる王道に、翳りなど一抹たりとありえません。若輩の身なれど、生涯お供させていただきとうございます―――
(ああまで信じていた―――そのことに裏切られた。だからこそのパニックなの? あれは)
記憶の中の声にすら後押しを受けた心地で、キルルは口火を切った。
「イヅェンについては? どう? その後」
「それが、益々の動揺の渦中にあられるようで―――」
「あいつも本当に、どうしたって言うんだか!」
激憤冷めやらず、口の中で怒声を食い殺す。白づくめのぴったりとした正装―――最高級の意匠かつ衣装だ―――を着せられていては、満足に地団駄も踏めないどころか、膨ませた喉に詰襟が食い込んでくる始末だが、それでも勢いは収まらない。
「政務できないってだけならいいわよ風邪ひいて寝込んでるのと同じだし! それこそ風邪なら、いずれ治るに違いないんだから! でも、着替えも食事も うっちゃらかして上の空にふらふらと幽鬼ごっこされるだけじゃ、どうしようもないじゃないの! あたしの言葉だって聞いてんだか聞いてないんだか―――あれじゃあまるで、」
すっ―――と。
うそざむい感覚に、言葉尻どころか熱情までも失速させてしまう。
見咎めたアクハゲノムが、怪訝そうに疑問符を転がしてきた。
「どうなさいました?」
「いえ。気にしないで。嫌なことを思い出しただけ」
狂い死んだ実母の末期を思い出した。それだけだ。
ともかく、服することになる喪が明ける二か月後までには、おおよそが決するのだろう。国王の死の公表、それと すげ替わり玉座に就く紅蓮の如き翼の頭衣―――後継階梯保持者に纏わる様々な乱高下、更には軍閥における不穏な胎動……イーニア・ルブ・ゲインニャの死に関連したキルル自身の暗殺疑惑も未解決な上、アーギルシャイアの臍帯の国家的な陰謀論まで抱え込んでしまった現在、ひとつでも目途が立つ事柄があるのはありがたいことではある。二か月。それが期日。
そして、立つ立たない以前に、目途があるとも思えない―――そのことについて、言及する。
「【血肉の約定】の証人となった、ゼ―――旗司誓を自称していたその者の足取りについては?」
「現在有効とされている公的書類において、ゼラ・イェスカザという人物は存在しておりません。<彼に凝立する聖杯>に係る継承財の登記は、確かにイェスカザ家に依りますが、過去のどこまで遡ってもゼラと言う名前は見当たりませんでした。人を食った綴りが示す通り、偽名でしょう」
「じゃあ、実際の足取りの方は? ―――ああ、いえ、もう言わなくていいわ。行方知れずなのね。顔を見れば分かる」
「申し訳ありません」
「違うのよ。顔を見れば分かるのは……あなたのそれより先に、そんな顔をした大勢を知っているから。大食堂で、総員ひっくりかえされて」
「は?」
目をぱちくりさせるアクハゲノムに、力なく苦笑して、キルルは肩を竦めた。それだけの仕草ですら受け流せず突っ張ってくれた上着が、内ポケットの中の違和感を一層に感じさせてくる。トランプを一纏めにしたような形をした、赤い研磨石。これからシゾーの声が聞こえたと―――そのやり取り以外で、これを使っている局面になど出くわしもしなかったが、そのせいで逆に気にかかって、こうして持ち歩く癖までついてしまった。
(シゾーさん……)
そう。気がかりではあった。シゾーだけではなく―――<彼に凝立する聖杯>について。シゾーがいて、エニイージーがいて、イコがいて……旗司誓でいてくれた彼らについて、それを知っているキルルだからこそ―――気がかりではあった。
だがひとまずは、自分の足元だ。アクハゲノムと目線を交わして、暗黙ながら歩調を再び取り戻す。そうして目的地へ向かいながら、確認した。
「じゃあ、あたしの目下の予定も、狂いは無いってことで間違いないのね」
「はい。これより、臣民に向けて、国家太平の宣布を行って戴きます。まずは天守閣から、広場へと。次は、城壁の各地点から五回―――こちらは、市民層へ向けて」
「洗いざらい白状してやるまでは、黙って首を洗って待ってやがれ、皆の衆―――ってね」
「後継第二階梯」
「分かってるわよ。こんなオ下品な要約じゃなくて、丸暗記した方をちゃんと言うわ」
あとは、歩く。
王城デューバンザンガイツは、<彼に凝立する聖杯>の要塞より広く、より開けた作りをしている。それもそのはずで、前政権時代に成金が造らせた別荘らしく戦闘向けに堅牢な構造を押し出した堡塁と、王としての生活から私生活まで呑み込んでくれる宮は、成り立ちからして異なるのだ。キルルら王家に関する部屋だけでも居住区画・貴賓客区画・会食区画・有閑区画・謁見の間・広間・大広間等々と延々と続くし、翼司―――左右拘らず自国兵へ向けられる呼称―――待機室やら、侍女らの居住区画および控室まで数え上げるなら、総数など軽く四ケタを上回る。階層は六割弱が四階構造で、突き出した天守閣と、あらかたの王政を取り仕切っている省庁部分が棟を分けての三階層や一階層として横手へまばらに広がっていた。形状のイメージとしては、歪んだ箱を四つ大中小順に積み上げて中央に棒(天守閣)を刺し、最下段の端に別の箱(各省庁)を幾つかくっ付けたような絵面である。しかもデザインの基本が曲線と来れば、無駄な動線で動かねばならない通路も多いのだが、迎賓館としての機能まで網羅しているのだから、この程度の美意識は受け入れねばなるまい。
(ったく。ほっかむりしつつ王襟街から王裾街まで入り浸って、男物の武芸までやっちゃってたお転婆っ娘だったからこそ、こうやって息切れも起こさないで済むんですからね)
思えばそれは、イヅェンから政務を引き継いでのち、王城の間取りをいち早く把握するのにも役立ってくれた。近年、葉脈より複雑に入り組むような増改築をさせている上等住宅街を出入りがてら、城下街まで下りていた経験値があったからだろう。方向感覚を失わないどころか、いつしか目的地さえ設定できたなら迷わず最短ルートまでシミュレート出来るようになっている。
(これだって、皮肉な話よね。どれもこれも、王になろうとして習得したわけじゃない。産まれてしまったから、あたしらしく生きていただけ―――きっと誰だって、そうなだけでしかないのにね)
ひとつ。またひとつ。困難に触れ、苦難を打開し、艱難を握り潰す都度、まがりなりにも直面したことを体得し、人は可能性を開いていく……ひとつ目がふたつ目と群れ、層を成し、国史を築くほど連綿と続いたのならば、国そのものすら動かして他者をも呑み込まんと欲する。それは、八年前に戦争をもたらした巨大な力に違いない……それでも、その一歩目とくれば、自分にとってはこんな地理感覚くらいでしかない。ちっぽけな力だ―――約束に小指同士を重ねる程度の。信じるのも愚かしい、賢くも疑えてしまう程度の。それでも―――それだけでいい、力だ。
(だって、全知全能の超人がひとりきりなら、そこは楽園でしかないもの)
この世なのだから、ひとりで出来ないことは、みんなで出来るようにしていけばいい。アーギルシャイアは恋をした。だからキルルも、出来ることをする。
ようやく、アクハゲノムと共に、天守閣の根元まで到着した。螺旋を行く階段を上り……突兀前に設けられた最後の踊り場にて、そこに控えていた御手者―――紅蓮の如き翼の頭衣の世話を一手に引き受ける、一種の聖職者―――に、宮廷儀礼を送る。その者が横手のロッカーを開けると、中には尾長鳥の止まり木のような台があり、そこに かつらが被せられていた。やはり、尾長鳥の尾のように―――床まで流れ落ちんとした紅蓮の如き翼の頭衣で作られた、それが。
(イヅェンなら、こんなのも不要なんでしょうけれど。あたしじゃね)
これもまあ、今の自分にとっての身の丈だ。補われるだけ、ありがたいと思うしかない。が―――
その者が恭しくキルルの頭上にそれを戴かせる間に、げんなりと口を衝いてしまう。自然と、目の前で手持ち無沙汰となっているアクハゲノムに向けて。
「にしても……どうにも気づまりなニュースが続くわね。これからの景気づけに、なにか明るい話題のひとつも無いものかしら?」
「ありますよ」
「え?」
「私事でよろしければ。息子が見つかりましてな」
「むすこ?」
「はい」
内容の割に、特に浮き立つような口ぶりでもなく、続ける。
「よくある話ですが。その昔、営利誘拐の憂き目に遭ってしまっていた倅です。正直、発見は諦めていたのですが……今回の騒動で貴族社会でも、行方不明者を捜索との機運が高まりまして。幸運にも、我らが王裾街にて発見されました」
「そんな近所で?」
「灯台下暗しとは申しますが、体験するとなると舌を巻くしかありませんな」
しかも言い様の割には、喜怒哀楽に欠けるのっぺりとした面の皮を崩しもせずに、言い添えてきた。
「もう十歳も過ぎようという頃合いに改名させるのもアイディンティティの瑕疵となるやも知れぬと名をそのまま下界から引き継がせたせいか、まだまだ下町の色が抜けませんが、生成そのものはアクハゲノムの智謀の後継者として不足はないと見ております。いずれ後継第二階梯の瞥見に触れる機会がありましたら、どうぞ お見定めを」
「分かったわ」
気楽に請け負った頃には、衣装も整っている。
いつしか閉じていた目を、キルルは―――開いた。そして、膝まで流れ落ちる羽を揺らして、最後の階段を上り出す。ここからは、ひとりで行かねばならない。ここにいる後継階梯保持者は、キルルだけだ。
行先は明るい。そこへ向かい、一段……また一段と影を脱ぎ捨てる都度、翼は降りしきる陽光に紅蓮を咲かせゆく―――凍蜜岩の白い壁に乱反射しては増していく美景を眺めながら、我が身の羽ばたきを聴許する。しゃきり。しゃきり。しゃきり。
そして、―――
キルルだから、それを見た。
しゃきり。しゃきり。しゃきり―――至高の福音を帯びた羽が、果てしない曇天へ天翔ける。その隙間から、見下ろした……未知の世界。
顔。顔。顔。不安顔。泣き顔。無表情。顰めっ面。野外広場にすし詰めの目白押しとなり、語り合っていた彼らの声―――それが散るごと、こちら目掛けて集い来る眼差し。ゆうに千人は上回っているだろう。ほぼ赤毛で、青年から老年までいる。王城に勤めている者たちである……情報が混迷しがちな下働きの者が多いようだが、制服を着た翼司の姿や、連れに囲ませた官民もいる。その全員が―――キルルを待っていた。<彼に凝立する聖杯>の要塞で直面した、武装犯罪者たちとの戦闘風景とは、全く違う。旗司誓らは、全員でキルルに背を向けていた。ここにいる民は、全員でキルルを見ている。全員が―――統べられるべくして統べられてきた、国民だ……
(民なのか。これが―――国なのか)
愕然と、思い知るしかない。絶景だ。これこそが絶景だった。自分だけに、ゆるされた……唯一無二の。唯一無二だと? そんな極がゆるされるならば、さながらそこは楽園ではないか―――
(紅蓮の如き翼の頭衣。後継階梯。これが―――)
知らなかった。
知らずにいた。
知ってしまった。
(これがあた―――わたしだと!)
そうして呑み込めてしまえたなら、もう吐き出すことも無い。
キルルは粛々と、国家太平の宣布を行った。行い終えて、終えたなりに、端粛然と下がる。
踊り場まで戻った時、御手者と並んでアクハゲノムが控えていた。先程と同じように、労ってくる。
「お疲れ様でした」
「そんなわけないでしょう」
きっぱり言い切られ、アクハゲノムは年相応に弛みだした頬肉を不審げに揺らした。
「―――つい今ほど、疲れたと仰せになったような」
「そうよ。もう違う。ありえない」
キルルは、声を上げた。産声を上げた……生まれて初めて、身を立てた。旗のように。
「ここは王冠城デューバンザンガイツ。わたしは……わたしがキルル・ア・ルーゼだから、ここにいる。さあ、やれることから、やってやりましょう。わたしこそ、ア族ルーゼ家ヴェリザハーが第二子、名をキルル―――後継第二階梯、すなわち王位の後継者なのだから!」
遅ればせながら、城外からの歓声が、鳴動を始めた。
人々の混沌めく声が、言葉が、神の王冠と云しめた神蛇たるデューバンザンガイツをも震わせ始めている……
□ ■ □ ■ □ ■ □
はじまってしまった。それは一目から。世界を すげ替えた。
すげ替わってしまった世界で、音がする。これとて、ただの音ではなくなってしまった……意味のある音が、意味を成す言葉が、意味深な声が―――化けた物から、やって来る……
ひっきりなしに、諸人を浮足立たせる鳴動―――もれなくそれは、誰しもを落ち着かなくさせる声色で。踵を上げさせ、つま先を蹴離すように―――誘う、調べ。拐かす手が奏る、裏を隠した言の葉の群。さわさわと寄せて、ざわざわと引き、曳いていこうとする調べ。
「ああ……ああ……ああ……」
聞いてはならない。自室にてイヅェンはその一心で、両耳を塞ぎながら床に突っ伏していた。押さえても押さえても途絶えることのない音がする。それが己の鼓動だけだと―――どうして信じることが出来る? 疑わずにいられる? 魔物さえ ゆるした現世において、この耳底までとうに巣食われていたとて……分からないではないか。楽園は失われた。
聞こえてくる……どこからともなく、どこまでも果てなく、沸き立つ声が―――
「このような―――カーニヴァルは……パレードは……いけない」
誘われる。誘い出されて……帰ってこない。旅団ツェラビゾは物語る。迎えられてしまう……楽園に―――招かれる。美しいものから。父の愛のように。母の命のように。美しいものから―――
それは、目に焼き付いてしまった。
旗司誓の手元にて、紅蓮の如き翼の頭衣が解き放たれた瞬間。
しゃきり。しゃきり。しゃきり。緋と橙を燃え上がらせた羽の業火に焼かれる彼女、その両目のただひたすらの無垢を見た。絶望―――のぞみを失い、奇跡から見捨てられた、なにもかも【な】く、だからこその楽土。それは楽土―――逆世の楽園。凍れる煉獄。黒い白馬。美し過ぎるそれを見た。
はじまってしまったのだ。それを―――知ってしまった。
「なればこそ、魔物が来る―――ジヴィンのように……来るべくして―――来る」
父の愛のように、母の命のように、奪われてはならない。
それを知っているのは自分だけだ。だからこそ、声が聞こえる。こうまで……聞こえている―――
「此度こそは―――防がねばならぬ。わたしが、後継第一階梯を―――姉君を、お守りせねば……ならない―――」
おいで。
「黙るがよい―――魔物ォ……」
おいで。
「つつしめぇ―――」
こちらに、おいで。
果実は太り、熟れている。だから、食べていればいい。お菓子もあるよ。木馬もあるよ。積み木は積んで。毛糸は編んで。ふかふか毛布は清潔で、かわいい刺繍も入ってる。遊んで。眠って。いたらいい。
だぁれも きみを むかえに こない。
ここは楽園の中。
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領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
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BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
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