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結章

結章 第二部 第四節

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「―――シゾーさんが、ここまで来るわ」

 夜とはいえ、眠っていたのではなかったが。

 それでも閉じていた目蓋まぶたを上げたことに、眼前の少女―――キルルは、ほっとしたらしい。手前の床で四つんばいするような姿勢でこちらをのぞき込みながら―――昼間の格好とは違っていたものの、これもまたどっかりと地べたに胡坐あぐらをかけるようなものではないらしい―――、やや輪郭りんかく弛緩しかんさせる。部屋のすみひざを抱えるだけのうつむいた姿に変化が無かったから、少しであれ反応が見られたことが喜ばしかったのだろう。そんなことを他人事のように理解したのは……言われたことの方が、咄嗟とっさには理解できなかったからだ。

「シゾーさんが来るのよ。決まってるでしょう。あなたがいるからよ」

 小声で、口早くちばやに念押しされる。先を急ぐように、キルルは続けた。

「わたしはそれに協力し、あなたもろとも、そのまま行かせるつもりでいる。わたしの―――意志で。それを伝えに来たの」

 そして、ようやく自分が顔までも上げる頃には、キルルは立ち去ってしまっていた。俊敏しゅんびんな足取りで、どこかへ遠のいていく……靴底がきざむその音が聞こえる。

 それまでも聞き終える頃に、やっとのことで、思考が追い付いた。言われたことを、繰り返す。

(ここまで―――来る? 超えてくる? シゾーが?)

 繰り返して、思い浮かんだのは。

 現実感のない現実にお似合いの、ただひたすらな納得だった。疑う方が賢いに違いないのに、ただただ呑まれるしかない……納得の現実だった。

(はは。おじさん。あんたの息子は、身も心もでっかくなり過ぎだよ。雷雲かみなりぐもつきやぶって、霹靂へきれきふんじばりに来るんだと。馬鹿だなあ。どーせ感電させられて泣かされんのに、これっぽっちもりやしねえなあ)

 しどろもどろになることすら叶わない自分に、わらうしかない。

 それとて、のどの肉がひくつく程度だったが。そんなことすら久しぶりだったせいで軽く咳き込んで、ゆさゆさと揺れるむき出しの羽の感触を輪をかけて味わう破目はめになり、うつ々とした暗澹あんたんが一層に深まる。深まる、としても……それでも。

 今となっては、その絶望以外に、気付くことはある―――

(―――違うなあ。懲りてないのは、俺の方だ。シゾーが泣き虫なんて当たり前過ぎて気付きもしなかったけど……そうじゃなくて、俺が、泣かせないようにしなくちゃいけなかったんだ。俺が、変わらないとならなかったんだ。変わろうと―――決める番だったんだ。それを待ってくれていたシゾーに、俺だから……こたえないと、いけなかったんだ)

 自然と、言葉があふれていた。

「もう、疲れた―――のに、」

 ちっぽけなささやきは、残響すらせずにほどけて消える―――としても。

 それでも、そうし続ける。そう出来る限りは。ちっぽけなちから

「疲れ切ってしまった、はず、なのに……」
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