上 下
36 / 78
転章

転章 第三部 第二節

しおりを挟む
「――――、ねえ。ねえ!」

 吹きすさぶ風波ふうはき消されると分かっていながらも、その名を呼ぶ。

 ひたむきにティエゲは、呼びかけ続けていた。

「やめなよ。こわがりなって。それでいいんだから。だから……そんなことをしていたら、あんただって危ないったら」

「懐かしいなあ。思い出すよ。その名前」

 飄呼ひょうこそのものといったていで、振り向いてくる。

 相手は、さも風来坊ふうらいぼうじみた旅装に似合う小憎こにくらしい童顔どうがんませて、しかもえらく気楽そうに建物のふちに腰掛けてくれている……が、ここは真面まともに落下すれば死に損なうことは無かろう高所だ。箱庭と称される街にある、とある断トツの尖塔せんとう。更にその上に張られた突兀とっこつたる屋根である。時折、渺々びょうびょうたる悔踏区域かいとうくいきからも突風が及び―――種がそれに乗ってきたものかペンペン草がかわらあいから一本生はえてひょろひょろと足元になびいている―――、その豊かな漆黒しっこくの長髪をなぶっては、こちらの足元まで危うくよろめかせてくれる。

(まあ、あんたにとっての真面まともじゃ、ぐーすかぴーすか鼻ちょうちんプーにしてたところで、地べたまで落っこちやしないでしょーけどね)

 まだらに白くなっている頭髪を押さえながら、ティエゲはしゃがみ込んだ。ポニーテールが好き勝手に跳ねている、相手のななめ後ろから―――なんとはなしにここに陣取ってしまうのは前攻後衛ぜんこうこうえいを組んでいた時の癖だ―――、歓言愉色かんげんゆしょくとばかりに鼻歌を混じらせた雄弁を聞く。

これだって・・・・・声に出してしゃべるなんて久しぶりだ。なんていうか……落ち着くなあ」

嫡流ちゃくりゅう祖語句そごんぐね。忘れてなかったようで、なによりだわ」

「こうやって嫡流ちゃくりゅうらしく君と通弁するのも、久しぶりだね。タぅヰゑで」

「そうね。まあ、なまらせといて、ティエゲで結構。どっちだって、元のつづりは同じだし」

「ふーん。じゃあティエゲ。ティエゲはさ、気にならないの?」

「なにが?」

「例えばさ。あいつら僕のこと、フラゾアインとしか言えないんだよ? アクセントも、アにつけるし。最初のヴと、ニ゛につくのが正しいのに」

「ベロばっかりは、生まれ育ちによっちゃうから、しょうがないよ。ヴラゾヴァニ゛ンなんて、そうそう使う言葉でもないんだし」

「ヴラゾヴァニ゛ン? そんな風に。ああもう」

「きらい?」

「だって、違うでしょう。なにもかも。なにもかも、だよ。根も葉もない嘘っぱちの方が、聞き流せる分まだ上出来さ」

「まあねえ」

「名前を中途半端に間違われるって、一番むかつく」

「存在を根底から棄損きそんするという外法げほうが、故意なく突発的に行われるんだ。そりゃ腹も立つってものさ」

「じゃあ怒りなよ」

「むかっ腹のたびに? いやだよ。みっともない。いい大人がするものじゃないでしょ。折り合いってのはね、他人の存在を認めた子どもから真っ先に取り掛かる通過儀礼イニシエーションだ―――大人になろうと目指すうちはね。だからこそ、大人になったと慢心した者から忘れてしまう」

「なんだよ。急に年長者ぶって」

 ふん、と鼻を鳴らしてハミングもろとも会話を中座ちゅうざし、空中にて頬杖ほおづえをついてみせる。そのせいで手先の角度が変わり、右手の中指にはめられていた指輪が不意に光った。それに目を射られたと見て、相手はつとそれに沈思ちんしを留め、あらためてしげしげと目の前にかざしてみせる。

 それ自体は、ティエゲも隠して装備している。夜欠銀よるかけぎん円環えんかんだ。

「この指輪も、ふたつも重ねた手袋の下じゃ、無いように感じていたけれど。空気に出すとひんやりとして―――気持ちいいかも」

葬送そうそう銀貨ぎんかだと勘違いされたらどーすんの?」

「はいはい」

 言外の指図を聞き入れて手袋を戻しにかかる、その中途にてティエゲは尋ねた。

「ガロの三男坊。連れてかれちゃったね。あんたのことしゃべるかな?」

しゃべらないでしょ。大陸連盟からの指名手配者を隠匿いんとくしていた罪で葬送銀貨そうそうぎんかに殺されるくらいなら、シヴツェイアどうこうの冤罪えんざいんで、懲役やら罰金やら済ませた方が、まだしも平穏だ」

「取り調べていけば、どっかかんかで齟齬そごが発覚するんでない?」

「するだろうけれど、後継こうけい第一階梯かいていげんにいるし、真相を知っている僕は、いい塩梅あんばいに虚実を語って、こうやって雲隠れ。だから、都合よくその空白に合うなら、あとづけだってこじつけされてくれるさ。けむに巻いたんだから、けむりの中の正体が、へんちくりんでも大丈夫。むしろ多少は妙ちきりんなくらいで、流言飛語りゅうげんひごは倍加してくれる。そうなれば、ますます正体不明さ。願ったり叶ったりだよ」

「……ならやっぱり、ガロの三男坊は赤裸々せきららに喋っちゃうんでない?」

「そうしたところで、どうしたって後継第一階梯はいるしなあ。だったら火あぶりにかけられる悪党がいてくれた方が逸話に貫禄かんろくがつくから、それなりの罪科はくつがえらないと思うよ。民衆だって、焼け石を投げ付けられる悪党が大好きだし、それは貧乏な小悪党よりも金持ちな大悪党の方が舌に美味い」

「人は見たものではなく、見たいものを信じる……か」

「なによりガロの三男坊当人からして、血と肉さえあれば貴族だってアタマだから、その骨肉を断たれる死刑だけは、絶対に避ける。だから黙秘を貫く。裁判を無視したちょう法規ほうき的な死刑執行しっこうを任された練成魔士れんせいましを―――葬送銀貨そうそうぎんかを遣わされる可能性なんて、どうしたところで選ばない。貴族だもの。そういう意味で、往生際おうじょうぎわの良さは鉄板だ。仮令たとい、焼け火箸ひばしを穴という穴に突っ込まれたところで耐え忍ぶ」

「……あっちっちなファイヤー系の拷問ごうもん好きね?」

「別に。なんとなく赤毛とレッド仲間で同類項にまとめてみただけ。ティエゲは、くそ食らえとかの方が好み?」

「ここでイエスって首を振れるほど、人道じんどうとプライド捨てちゃいないわよ」

「じゃあ八つ裂き?」

「それ極致きょくち死刑じゃん」

「あ。確かに。いや待って。裂くパーツと深度の選択によっては存命できる。しかも拷問も連立方程を成すかいがある。そうだな。そうだよ。指先つま先から丁寧に皮膚ひふを裂いて、筋肉層から真皮層しんぴそう表皮ひょうひを引ききつつ、生皮なまがわ製の全身タイツの完成を目標に四肢から体幹へゴーすれば……」

「そのシナプスの延び加減からして間違ってんの」

「なにさ。ひらめかせておいて。無責任な言い出しっぺ」

 ぶつくさ言っていたが脇道はそれで終えて、ティエゲはむうと鼻を鳴らした。

「あんたのこたぁ、あたしがもうとっくに隠匿いんとくしてたのにねぇ。お前がいることを大陸連盟に密告するぞーなんて、あたしがみ消しちゃうから、はなから脅迫ですらなかったのに。まんまとあんたのてのひらの上で、くるくる踊らされて」

「うん。うざったかったくらい景気よくクルクルぱーだった」

「あんたねえ。羽根の密売にまで荷担かたんさせといて」

精巧せいこう偽物にせものですって献上けんじょうされたものが、まさか本物とは思わないよね。貴族とは言え、首都から追いやられた出来損ないの部屋住みじゃ、紅蓮ぐれんごとつばさ頭衣とういなんて遠目で一度か二度くらいしか見たことなかったろうから、観察眼なんて望むべくもないけど」

「最初は本当にまがい物ものとして売りつけたんだろ?」

「そうだよ。雑な染色をほどこして、ぼろぼろの粗悪品にしていた。それから徐々に色染めを薄くして、偽物に仕上げる腕前が上がりましたってことにしたのさ。あの箱の中身を後継第二階梯に見られたのは計算外だったけど……それもこれも、君のせいじゃないか」

「ごめんごめん。だって、見たかったんだよ。見たこと無かったんだもの。経験消費ってやつ。罪作りにも、見とれてみたかったの。それだけ。ね?」

 すっと細まった目付きが語る説教に逆らわず、降参の手つきを固めて片目をつむる。そんなお茶目をどう見放したものか、相手の目線は再び方向を元に戻した―――実際に風景が眸底ぼうていに落ちたはずもないが、はるかかなたにあるクア・ガロ・ジェジャルの邸宅へと。

 どうやら有耶無耶うやむやに出来たと見計らって、会話をつなぐ。

「【血肉の約定】の前から、盤上に飽きたのなら地上でお相手つかまつりますって、<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>を襲うように私兵をき付けたし」

遊戯ゆうぎ騎獣きじゅうの自慢をするから、それらしく拝借させてもらったんだ。僕の動向から、<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>の目をらす必要があったから。武装犯罪者ぶそうはんざいしゃを模した手前味噌てまえみそな腕前の一団に急襲されるなんて、うってつけの胡散臭うさんくささだった。後継第二階梯の到着とかち合っちゃった時は、どんぴしゃ過ぎてはらはらさせられたけど、イーニア・ルブ・ゲインニャの毒殺疑惑がからんでくれたおかげで、そっちの方へ総員が誘導されてくれた」

「取り調べの途中で貴族くさいなと勘付けば、交衢こうく外逸がいいつ警察ときたら、甘々だからねぇ。しかも、あんなド田舎とくれば」

「だから、中央から司左翼しさよくが派遣されるまで、ガロの三男坊への断罪はおあずけだった。首尾しゅびよくばっちり」

「貴族相手だから、司右翼しうよくが出しゃばってくるかもと思ったけど」

唯任ゆいにんそう騎士きしは、詰め寄りはしただろう。けれども、こんな絶後の一大事を、あーんな身内猫可愛ねこかわいがりばっか横行させてる連中に任せられっこないさ。こうなると終戦直後以上に司左翼が幅を利かせ出すだろうから、軍閥ぐんばつにも風穴がぽっかり開いて、そこから波風もじゃんじゃん吹き込み、ざばざば内輪揉うちわもめがドンブラコするだろうねえ。おっもしろいなあ。にたにたしてしまおうか」

「一流に腹黒いねー。あんたって子は」

「それは最初から認めてるもの。あの子は言ってくれたけど、僕だって正直者で底意地も悪くない。だから、いいの」

「クア・ガロ・ジェジャル殿におかれましては、目を付けられた時点でお気の毒さまでした。南無三なむさんナムサン」

「でもさぁ。僕は、当たるかもしれませんよってくじを差し出しただけで、言われるがまま引いたのはガロの三男坊だよ。当たりくじを引くのが貴族だなんて思ってるから、貧乏くじしかないようにイカサマされてるのに気づかなかった。それは、うま鹿しかに違いがないとするのと同列の馬鹿ばかだ。はさみと同じくらい、使い様で役に立ってくれた。ありがとう」

でおれい言うこと? それ」

「ありがたいことには、ありがとうくらい言うよ。正直者で、意地悪くない上、僕は常識人だ」

 快活かいかつさながら、ましてみせる。

 そして相手はティエゲの前で片手を広げ、薬指と小指をたたんでから、

「僕はね。馬鹿には三パターンあると思ってる」

「ふうん?」

「ひとつ、馬たる動物・鹿たる動物を知らない馬鹿。ふたつ、馬や鹿なんか見分けなくたっていいと甘く見ている馬鹿。みっつ、馬鹿はお前らだとあたりかまわず周りを指差すことで自分はノーマルだと優勢を思い込もうとしている馬鹿」

「ふーん」

「ガロの三男坊は、いい具合にみっつともそろい踏みした傑作けっさく頓馬とんまだったからね。必要な時に、使いやすい鋏が手元にあったんだ。使うのは僕。ほうら、ありがたい。でしょう?」

 手を下げながら、賛辞さんじ愚弄ぐろうをないまぜにし終えて、にっこりさせた横顔。

 そこではなく、相手が見る先へと視線を並べて、ティエゲは小首をかしげた。

「これからどうなると思う?」

「なにが?」

「色々?」

「なんでくの。出題者としてやる気あるなら、出題範囲くらい絞ってくれない?」

「じゃあ。とりあえず、旗司誓」

国家こっか騒乱そうらん罪でなんらかのペナルティは課せられるだろうけれど。それにしたって、武器を貯め込むでもなく、衣紋えもん栄えある羽織はおりはかま一張羅いっちょうらを人数分ひと揃いさせただけだし。シェーラマータ・ア・ヴァラージャの箱庭で、かつらやターバンを取っ払って花魁道中おいらんどうちゅうしたのだって、暴徒化してのデモ行進やヘイト・スピーチじゃあるまいに、法外とも思えない。王城に乗り込んだ時でさえ、騎獣きじゅうに戦車ならまだしも、駄馬だばに馬車。その上、無手。しかも全部、予定変更もろとも事前に、王宮側には種明かししてあったしなあ」

「あんたが返書をそれにすり替えたからね」

「うん。だから……デモンストレーションした効果が切れて、もてはやされるようなちやほやが収まって以降、<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>は【血肉の約定】を履行した英雄として特別視されるようにはなるでしょうね。それからの動向で、命運が分かれると思う。さて、どうしてくれるのかなあ? このままふくれ上がらせておくと、内部崩壊する日も近そうだけど、竜頭りゅうとうがちょん切られたから蛇尾だびサイズまで戻るかな。増長するにせよ委縮するにせよ、その際に分裂させず、失墜しっついさせない程度の劣化れっか腐敗ふはいで済ませておける神通力じんつうりきが、誰かさんにあるかどうか」

旗幟きしにだけなび聖像エイコンも、自分らの先っちょより手が届かない高みまで献納けんのうされちゃったしねえ。堅物かたぶつがひょんと巻き上げられた反動で、ぱーんとかなめからはじけて飛んでいきやしないかな?」

「うーん。そこまでうずたかく反感をっていた奴がいたかな? いないな」

「飛んでかないの?」

「と、思う」

「なんで?」

「あの子は後継第二階梯へ自己紹介する際に、自分のことを正直者だと言っていたけれど、僕に言わせれば、臆病者だから馬鹿を見ない程度に正直なだけだったからね」

「……だから?」

「あの子は、圧政をいたり、槍玉やりだま捏造ねつぞうしたり、派閥はばつ同士の対立をあおることで連帯を強固にしてたわけじゃない。讒訴ざんそをくれる部下の評価や褒美ほうびでさえ胸先三寸むなさきさんずんで差っ引くような みみっちい独裁すらしていなかった。そんな今までの恩顧おんこを思えばこそ、出ていけない奴も多いんじゃないの。上に立つより、上の文句を言いながら下へ愚痴ぐちる方が無駄骨を折らなくていいよなあって煩悩ぼんのうくらい、誰しもあるでしょうに」

「成る程。引き絞られたげんでないなら、弓矢は放たれても足元どまりか」

「おそらくは」

「そしたら暫時ざんじ漸次ぜんじも、何事も無かったかのように、いつも通りの旗司誓稼業?」

「そうだね。それもまた、強弩きょうどの末魯縞ろこうに入るあたわず……にならうかも分からないけど。臥薪嘗胆がしんしょうたんと決め込んで、アーギルシャイアの臍帯さいたいについての調査を煮詰め、決まり手になったら、今回とは違う趣向でリ・トライって線が妥当かな―――契約者が、落第を認めないのなら」

「契約? あんたが前に言ってた、先約ってやつ?」

「違うよ。違う。交わした……時期も、相手も」

 不意に音程を落とした声色に、地雷を踏みかけたことを知る。

 露骨ろこつだったかもしれないが、ティエゲは話を逸らした。

「契約って、なによ?」

「そうだね。今となっては―――革命前に、シヴツェイア・ザーニーイを強姦ごうかんした上、最低でも体関節の八か所で分断し、頭部は最大四センチ角に粉砕ふんさいするまで。もちろん個人を特定できる特徴的な瘢痕はんこん等はがすなり潰すなりした上、頭髪は焼き捨て、眼球は踏み砕く。密室にて迅速にこれらの作業を終えたなら、首より下部分は人目につく路肩ろかた近辺に、適度にランダムな距離を開けながら遺棄いき。首より上は、もっと入念に遺棄。これくらいでせいぜいじゃあないかなぁ、がきんちょの猿知恵さるぢえでやっとかっと取れる及第点は」

 太平楽たいへいらくとばかり続けて、やはり躊躇ちゅうちょもなく、知悉ちしつした先を踏破とうはしていく。

 ぷらりと垂らした実際のつま先と言えば、けんけんぱでもするように気楽そのまま ぴょこつかされているが。

「まあ旗司誓<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>頭領たる霹靂へきれきの死体だと判別できないくらい損壊そんかいしてくれるんなら、丸ごと焼くのでも構わないけれど。それだと燃料や時間を多く要するし、体液を含んだ蛋白質たんぱくしつが燃焼する際の独特の異音と異臭が広がりやすいから、耳目じもくを引く危険率が上がる。臭骸しゅうがいと果てるまで隠し部屋に放置し自己溶解ようかいを待つのは、より一段と現実的じゃない。腐敗ガスによる悪臭はもとより、事態発覚される危機評価そのものが毎秒毎分比例ひれいするんだから、気長に構えるだけ足元をすくわれかねないし、大体にして悔踏区域外輪かいとうくいきがいりんの気候ではミイラ化してしまうかも分からない。だったら、猟奇犯りょうきはん毒牙どくがにかかった厄運やくうん女の亡骸なきがらってことで公衆の面前で死体の九割をとむらって、首から上の一割を秘密裏に処分した方が、気取られるリスクは低い。かさが少なければ、壊す手間暇てまひまも節約できる」

「あんたがしなよ。そんなの」

「したよ。ただし、僕の出来るように、した―――あの子は、これで守られる」

「守られる?」

「シヴツェイアだろうがザーニーイだろうが、王冠城デューバンザンガイツなら、王家は守り抜いてくれるでしょ。首をっ切って自殺しようとしたところで、絶対に延命してくれる。まかり間違っても、苦しめるだけで殺せないままちんたらと尺稼しゃくかせぎを繰り返すだけの半可通はんかつう鈍瞎漢どんかつかん郭清かくせいされている」

「まあ畢竟ひっきょう小判鮫こばんざめさめがいなくちゃくっつくアテに困るわな」

「精神的にも、王家の後継第一階梯でしかなくなれば、ザーニーイとシヴツェイアに引き裂かれることもない―――それだけでも、現状の方が格段に死の遠因えんいんを引き離してくれるよ。輓近ばんきんじゃあの子の発作は、苛酷かこくにしたって死線すれすれ過ぎた」

「発作って?」

「月経がくる都度つどたがが外れて、気狂きちがい任せに全力で暴発するんだ。三年前にさらわれた際に負ったのだろう精神的外傷トラウマに、拍車はくしゃをかけてくれる白痴はくち骨頂こっちょうがいてね」

白痴はくち骨頂こっちょうとはまた辛辣しんらつねえ」

偏見へんけんじゃない。真正しんせいだよ。つけあがって開き直った末に首ったけ・・・・なんてせせら笑いながら自白し出すド骨頂がド骨頂。だったから、そのおたんちんがそばにいるだけで、あの子の発作はエスカレートの一途いっとだった。まったく、反抗期の後始末もつかない親指しゃぶりんこ爪カミカミの分際で、心臓と股間に毛が生えた程度で一丁前を気取ってくれる。ちゃん付け呼ばわりされるのすら気に食わないとかくっちゃべられたばんには、それはそれはもう ちゃんちゃらおかしくて涙が出るのをこらえてたから、ちゃんと・・・・大人になったら・・・・・・・やめてあげるから・・・・・・・・安心なさい・・・・・なんて言葉しか出なかったよ。いや出るか。あと一個。シッズァの馬鹿」

シーちゃんシッズァ?」

「いや、こっちの話。なんのせあの子の発作は、自傷を止めるためには他傷も辞さない……なんて陋劣ろうれつ極まる矛盾さえ起こし始めていた。このまま片輪かたわになられでもしたら僕ひとりの手に負えないってば、アーギルシャイアでもないのにさあ。まさかの‘大公たいこう’ディエースゥアーが魔神ならオールマイティいざ知らず、こちとら たかが子爵ししゃくだし」

「そりゃ、ゾウさん一頭に頼りっきりなんて粗略そりゃくな綱渡りより、ちょくちょくパーツの入れ替えやメンテナンスが行き届くウジャウジャありの大群を骨子こっしにした方が、長い道のりは安泰あんたいだろうだけど」

「それに……うまくいけば、なかなか上等な王様になってくれるかもしれないよ。考え方によっては、双頭三肢そうとうさんし青鴉あおからす旗幟きしから、国旗に持ち替えるだけのことなんだし。瑠璃るり玻璃はりも照らせば光るって言うでしょう? 戦争のことも、アーギルシャイアの臍帯のことも踏まえた王が寡人かじん政治の突端に誕生するなら、それこそ革命だ。しかも、一滴の血も流さず、ひとすじの剣戟けんげきまじえず、正真正銘しょうしんしょうめい無血開城むけつかいじょう。八十も枝族しぞくを失った無二革命なんて、目じゃないよ。これ空前くうぜんの―――天祐てんゆうだ」

「……にしたって、危なっかしい演繹えんえきから帰納きのうまでやらかしてくれちゃって。この子は昔っから恣意しい的な専断せんだんが過ぎるってのよーもー。昔っから」

「古いとこまで混ぜっ返さないで欲しいなあ。結局は奇をてらった感じになっちゃったけど、僕だって最初から、こんな大それたことを企んだわけじゃないんだよ? 契約者をマネジメントしてもみたし―――どうにも挽回ばんかいが追い付きそうにないと勘付いた時点から、旗司誓を組織化してみもした。でも、ねえー」

 そこでいきなり、やり返していた弁難べんなんを消沈させて、きまり悪そうに狭い肩を落とす。

「あの思春期・青春期・青年期の群れに、カリスマ的な天稟てんぴんがあり過ぎる親玉を与えるのは危険だった。トップから以下一同までが同調して、当の親玉ではなく、親玉が帰依きえしている清廉せいれん像―――旗幟きしに投影された美学に のめり込み、欣求ごんぐのまま邁進まいしんするようになってしまった」

「千古万古の旗幟だましいに火が付いたってことか」

「そうだよ……まったく墓場の火の玉ならそれらしくフワフワしていれば小利口こりこうなものを、頭領みずから安請け合いにも前線まで転がり出るのさえ鼓舞こぶしてくれる猪突猛進ちょとつもうしん愚直ぐちょく一直線。そうなってはあの子も・・・・ザーニーイを・・・・・・やめられなくなって・・・・・・・・・、気付いた時には霹靂へきれきなんてうたわれてる始末だし。まあ吟遊詩人ぎんゆうしじんなんて、会派創立された当初から、ろくなことしてくれたためしもないけどさあ。ガ・ガ・ウェーンゲアーファタイフの痛手いたでは、尾を引くにしたって未だに愚かしい痛恨つうこんだったと、僕は思うね」

「あー。司書ししょ考究会こうきゅうかいねえ。クリンツクリンチェの図書館……全知ぜんち赦免しゃめんを、でしょ? 伝承歌人でんしょうかじんとどっちがマシなのか、やれやれ、だ」

 ふと連想して、ティエゲは口をいた。

「やれやれと言えば。やれクリンツ派だ・やれクリンチェ派だって、今もごたごたしてるっぽいけど。長いよねえ。あそこも。千字文せんじもん合戦」

「そんなのどうでもいいよ。どうでもよくないのは、霹靂へきれきまで昇華しょうかしてしまったあの子と……なのに、契約者すら・・・・・シゾー・イェスカザを・・・・・・・・・・とめられない・・・・・・とくる。それだ」

 言い切って、ため息ひとつでそれを片づけた。そして、慚愧ざんきたえないのか遺憾いかんきわまったのか、かくんと前のめりに首を折る。そうやって一緒に落ちかけた黒髪の束を、またしても風が乱暴ながらすくい上げていく。

「だからこそ旗司誓<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>は、強大化の果てに純化じゅんかそのものまで歯止めが利かなくなり、先祖返りを起こして、時代遅れの骨董品こっとうひんにまで退化してしまった」

「時代遅れ?」

「不幸な人がいたとして、それは、幸せな人から奪う理由になりはしないよ。打開は克己心こっきしんのみに根差すべきだ。八年前のあだつことで、八年かけて取り戻した豊穣ほうじょう新芽しんめむかもなんて、すたれた武士道ぶしどうにしたって冥頑不霊めいがんふれい那由多なゆた不可思議ふかしぎ無量大数むりょうたいすう。あたりき車力しゃりき山椒さんしょの木、ブリキたぬき蓄音機ちくおんき顰蹙ひんしゅくたらたらだね。そもそも、アーギルシャイアの臍帯どころか、麻薬さえ知らずに暮らす太平たいへい逸民いつみんがほとんどなんだ。江湖こうこ処士しょし俗耳ぞくじには、亡国ぼうこくいんよりも、正統な羽かぶりの後継第一階梯様が奇跡の生還をなされたっていう慶賀けいがのゴシップがジャスト・フィット・サイズだよ。現王が死ぬだろうって時なんか、特にね」

「身の程知らずが、寝た子を起こすものじゃないってこと?」

「そう。麻薬の嫌疑にまつわる国家陰謀いんぼう論なんて、都市伝説の尺寸せきすんとして、ほかに虚栄心を満たせることがないマニアがネチネチとつついてればいいのさ―――聞こえが良いだけに、願望までないまぜになった、黒幕の実在を信じるままに」

「それが、もしかしたら実際にあった、国ひとつ揺るがす黒い秘密でも? しかも現在進行形でも?」

「だったらなおさら、そんな手前勝手ひとつぽっちで転覆てんぷくされるなんてたまらないよ。八年かけて、船には船員と積み荷が満載なんだ。藻屑もくずにするには、とっくに惜しい。大体にして、つんつん麻薬つっころがしてる手なんか、そのうち勝手に持ち崩すか、お縄にしょっ引かれるかするさ。つまり警察が取り締まる領分。ほっとけば良し」

猥褻わいせつなことされて、麻薬漬けにされて、殺された上に食べられちゃう女の子は? 産まされた赤ちゃんは?」

「不幸なだけ」

「えー?」

「不幸な人だっただけ。だから幸せな人から奪う理由になりはしない。言ったでしょうに」

「えー?」

頑是がんぜ無いねえ。まだ不満? どこが? 未合意の性行為? 不本意な麻薬の使用? 意図された殺害事件? 意図せず食人食肉カニバリズムを犯した上での、意図せぬ胃袋いぶくろへの死体遺棄いき? 生まれついた性別? 親を選べなかったこと? そもそも世界に生まれたこと? どの不幸だって、この世にはありふれてるじゃないの。取るに足りない、どれを取ったところで変わり映えしない、バラエティすら昨日と同じものが、昨日とは違った誰かさんに降りかかるだけ。それが不幸。この世の地獄じごく。もしくは日常。火事と喧嘩けんかは江戸のはな。でしょ」

「でしょーけどーも」

 食い下がるのだが、相手はにべもない。

「しかもその他の犯罪と違って、計画的に何年かに一人、出るか出ないか。そんなのより、とお的な掏摸すり暴漢ぼうかんの方が、よっぽど恒常性ある不幸だ。つまり警察が取り締まる領分。ほっとけば良し」

世知辛せちがらいねえ」

世知せちだからこそさ。小粒こつぶであるほど、ぴりりとつらい。これも不満だって言ってくれるのなら、僕だって鸚鵡おうむになるだけさ。あたりき車力しゃりき山椒さんしょの木、ブリキたぬきの―――」

「あいあい分かった分かった。It is what it isなら、It is WORLD it isなり、It is ROLD it isならん。つまるところ、ここは楽園じゃない」

「嫡流にしたって、あんまりにも飛躍した言い回しだね。It is what it isからして、That’s the way it isにしておかないと、また先生から石鹸と金束子カネタワシで口の中洗われちゃうよ。いいの?」

「いくないわよー。そのうえ塩すりこんでくるに違いないものー。荒塩あらしおよ絶対。つぶつぶ硬い岩塩よー。決まってるものー」

「分かっているならしなければ?」

「はらはらドキドキしない遊びなんて遊びじゃないわ。それを遊びなんて言い聞かせる大人になっちゃ駄目。それは単なる、飼い慣らすための餌だから、与えられるがまま食べるだけカラダに毒。情報は身体の資本よ。頭が糖尿病になっちゃったら終わりだわ」

「はいはい」

「にしても……まあ、そうね。今いる大勢の乗船者は、八年前に開けられていたかもしれない船倉の穴や、密航者や失踪者なんて、引っ込んでるうちは無用むよう長物ちょうぶつだ。うっちゃられにして、渡航とこうを穏便に済ませるふうに考えた方が、前途洋々」

「そう。彼らには、望外ぼうがいを膨らませてくれるシンボルが与えられた方がいいのさ―――羽が、ね」

「羽ねえ。紅蓮ぐれんごとつばさ頭衣とういかあ。綺麗きれいなもんだったね、あれ」

「でしょう?」

 ぱっと得意げに顔色を上向かせて、隠そうともせず自画自賛を続行する。

悔踏区域かいとうくいきからの風に吹きっさらしにした ぼっさぼさの、単なる赤茶けた金ぴか枝毛だったのを、資金源にしないと成長期のからす餓死がしする、安全に横流しするからって泣きついて、丸坊主から僕が手入れし出してさあ。もともと器用だったけど、すっかり得意になっちゃったよ。おかげで、後継第二階梯にターバンを巻くのも楽勝だった。人生なにが役立つか分かったものじゃない」

「羽の手入れ、なんであんたが?」

「本人に任せてみた一回こっきりでりたから。横着おうちゃくすぎ」

物臭ものぐさなの? そんなことにさえ骨惜ほねおしみするような無精ぶしょう者が、よくもまああんなでっかい組織の局長なんかこなせてたね」

「て言うか。あの子、整容ならまだしも、美容となると、からっきしなんだよね。自分の顔からして毛嫌いしてるから。発作のスターター・ピストルが頭突きだったくらいに、いっつも顔面からあざだらけ。よく鼻を折らなかったと思うよ。劈頭一番へきとういちばんにしたって悪辣あくらつな漫談だ」

「えー? 異国人のあたしからしても目を引く別嬪べっぴんさんなのに。もったいないねえ。諸悪しょあくの根源である実親の面影でも思い起こすのかしら?」

「さあ。なんのせ毎日毎日、頭衣とうい矯正きょうせいすること……もう二年くらい? 丹精たんせい込めた甲斐かいあって、我ながらいい出来だった」

「でもさあ。あたしがあの子の立場だったら、王宮に乗り込む前に、頭は全部丸刈まるがりにしちゃうけど。性別はまだしも、羽かぶりなんてばれちゃったら、取り返しがつかないから。どうしてそうしなかったんだろ?」

「あの子には僕が革命前の発作後から、外出せず人目を避けること・髪には一切触らないこと・声を出すのは最小限にすることの三ヶ条を、もっともらしい理由ずくで言いきかせておいたからね」

「…………うん?」

「まあ、だからこそ、あの子は僕に返書を預けるしかなかったんだけど―――元々悔踏区域外輪かいとうくいきがいりん以外との直接的なやりとりは、あの子はほとんどしていなかったから、三ヶ条がなくたって僕のところに来たかな。習性で」

「そんだけ?」

 目からうろこのティエゲと見合うと、相手はたっぷりうなずきながら保証してくれた。

そんだけ・・・・だよ。裏表なく。だから、こわい」

「こわい?」

「習性だよ。探る裏がないから疑えないし、だから表立ってやってきた行いを信じるしかない、そんな杜撰ずさん論断ろんだんさ。今まで僕につちかわれてきた信頼という名の習性があったから、成せたわざだ。これまでは、僕の言うとおりにしていさえすれば、円転滑脱えんてんかつだつに運ぶ展開ばっかりだった。だから今回もそうだろうって流されてしまった。本来、習性ってのは取扱注意とりあつかいちゅういの危険物なんだから、楽観視できたものじゃないのにね。こわいこわい。でしょう?」

「習性か。ありふれた鵜呑うのみって、こわいのは確かだ。なんせ、ありふれてるから。殺されても逃げない被虐児ひぎゃくじだって、それが日常だからって言う、ありふれた鵜呑みに支配されていた結果だろうし。汚い字でもまあいっかって渡されたメモを読み違えて、投薬とうやく間違いの末に中毒死させたり……なんて医療過誤いりょうかごも、それだしね。『死因? 下手糞へたくそな字だけど』って閻魔えんま様から言われた日にゃあ、さすがのほとけサンも成仏できないわなあ。死んだらみんな仏なのに」

「でも。露裏虫つゆうらむし甲油こうゆの使い道をカモフラージュするために、僕まで整髪する破目はめになったのだけは誤算だったかな。こんなに伸びちゃったし」

「まあ―――似合っちゃいる」

「もう切るよ。用済みだ。ジュサプブロスは身に着ければいい」

 知らん顔の半兵衛はんべえを決め込んで、のらりくらりと、おべんちゃらとおためごかしばかり沈吟ちんぎんするティエゲの本意に、相手は気付かない。

 だからそのまま、満ち足りた相好そうごうを空へ向ける。なにせ頂点なのだから、雲以外には、のぞむことを邪魔するものは、なにひとつたりとない。大空。今は陽光の中に溶けてしまっているとしても、……るならば、星へ。この世にはない最果て、そこへ行ってしまった亡魂ぼうこんへ。

「約束は、これでいいよね? シザジアフ……」

 次いで、同じく、もう届きはしない―――ただし、つい先ほどのそれとは決定的に違う、そんな独り言を埋葬まいそうした。

「―――そして。もういいよ。シゾー・イェスカザ。名ばかりの契約者……」

 墓場の土のように、乾き切った冷たい寸評がかけられていく。

 それが例え、はなむけられた温情であろうとも。埋葬は、済むまで、げられる。くさり果てることすら許されない者が、枯死こしするまでの残喘ざんぜんを見越しているからこそ……遂げられる。それははなむけ。かけがえないはなむけ

「かりそめなりに終われ……我が息子」

 そして、立ち上がる。

 ティエゲもまた、腰を上げた。そして、……見詰め合う。自分と同じくらいに、小柄な体躯たいく黒髪黒瞳くろかみこくどう。混血児。ひときわ柔和にゅうわ目許めもとと相違ない温和おんわ口許くちもとは、変化にとぼしいということだけを除いて危険なものではないと知らしめて来る―――その不変こそが、異彩いさい活眼かつがんであり、純粋な天賦てんぷであり、時に凡人には毒悪ともなりかねない無味無臭なのだと知らない者は、それを盤石ばんじゃく安寧あんねいだと信じる。ティエゲは、少しだけ疑える。練成魔士れんせいまし。死に神。指輪と指輪を重ね合わせて過ごした時代。どの確証も知り尽くしているとしても……それでも、いつだってこともなげに来訪するその瞬間を猜疑さいぎし、引き金が引かれることに打ち震えながら。引き金。

 そのせりふがそうだったのか、今のティエゲには分からない。過去にも分からなかったからこそ、今ここにいる。あれこれと包含ほうがんしてしまって、後顧こうこうれいている。それが自分だから。

 だから、のちに分かるとしても、……それを今は、こうして聞くしかない。加味を済ませ、議論せず、ただ敷衍ふえんもろともの結了けつりょうを告げる、つるのひと声。鳥はいない。鶴など知らない。けれども その声。

「終わったのさ。だからね、僕は君からの ちゃらっぽこな約束でさえ、もう守れるんだよ。さあ、ティエゲ。一緒に帰ろう。かげみは遂げた。僕はデュアセラズロだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

処理中です...