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転章
転章 第一部 第三節
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悔踏区域外輪の夜は、浅瀬と深瀬がある。
特にこんな雲の厚い空模様とくれば、それは顕著になる特徴と言えた。最たる深瀬は、夜半より一歩手前。星明りが充分に燈る直前の暗さは、一寸先すら見失う闇と言うよりも、底抜けの虚穴に指先を突き込むのを恐怖するような深奥だった。周囲ではなく、知らないうちに踏み込んだ先から自分が失われるのを予感させるような―――そらおそろしさ うそざむさ。
(便所にしたって、もうちょっと早いか遅いかして目ぇ覚ませばよかったのになあ。俺)
ふてくされて、エニイージーは生あくびした。寝床にとんぼがえりするにも極まりの悪い目の冴え方をしてしまい、なんとなく前庭のグラウンドに出ている。惰性で星を探して、そのまま空へと目を寄越した。
(え?)
それが見えた。
ただし、奇妙な迷い星だ。えらい低空で、ちか・ちかと遅い明滅を繰り返しながら、水平に右から左へと移動し……ふと、止まる。
(あ。なんだ。要塞にいる……誰かの提灯か)
廊下を歩く者が眼前に提げた明かりが、各所に設けられた窓に差し掛かるたびに、こちらへと漏れてくるのだろう。倹約というよりか、火をつけたり消したりするうちに尿意に負けるのも馬鹿らしいので、手ぶらで行って帰ってきたエニイージーには、その微細な光源さえ目に留まったのだ。得心するまま、ほっと息を吐く。
のだが。その燈心がある高さは、三階の位置だった。しかも、そこで停止して以降、じっと動かない。
「……―――」
嫌な山勘に痺れを切らして、エニイージーは要塞へ向かった。
夕飯時を過ぎてしまえば、一階廊下ですら定点灯火は落とされる。物置や書庫に使われている二階は言うまでもないし、三階に住んでいるのは頭領以下三人だけというのが実質のところなので、上層階に燈明があること自体が稀なことだと言えた。しかも、動かないとくれば、余計にわけがわからない。移動に差し支える暗闇を押しのけるための懐中行燈だろうに。
視力よりも、手足の感覚と記憶を辿りながら、三階まで行きついた。
廊下に出ると、やはり明かりが点いている。その人の……手元に。
「―――頭領!」
遭逢した幸運に上滑りして、大きく喜色を発してしまった。
その はしゃぎ声に驚くよりも、茫漠とした納得に思索を破られたように。ザーニーイが、立ち尽くしていた窓際から、首から上だけ振り返らせてくる。粒ぞろいした目鼻の中で、痛み切った金髪ばかりが提灯からこぼれた光を吸い込み、その肌色より白々として陶磁器じみて見えた。
駆け寄ってくるエニイージーへと、遅れて呼びかけがやってきた。
「エニイージーか」
「どうしたんですか?」
それとて思わずだったが、訊いてしまう。顔を見るのが二、三週間余りぶりだったこともあるが、なによりザーニーイは―――無表情だった。しかも、表情筋さえ動かせないほど疲弊している風体である。まさか、ともし火に照らされずとも白髪になってしまったのかと疑うほど、消耗して老け込んでいた。閉居して枯座しきりにデスクワークに勤めるという負担の大きさは、多少役が付いた程度の平社員には忖度することしかできないにせよ、心配は心配だった。それゆえだったのだが。
当の本人は気付いていないのか、そっけなく問いを投げ返してくるだけだ。
「お前こそ。どうした? こんなとこまで。こんな夜更けに。夜間警邏じゃねえだろ」
「俺は、その」
触れられなくとも、声は届く……燐光と宵闇の、紫紺の境界線まで来て、立ち止まる。
エニイージーは、恐縮して頭を下げた。
「安心したくて。だから。ありがとうございました。頭領」
「うん?」
「下から見てたら、ここの明かりが動かなくなったもんだから、なにかあったのかと……ここにいてくれたのが、頭領で良かった」
「そうか」
「なに見てたんですか?」
冷やかすでもないが。話題を転じながら姿勢を戻すと、ザーニーイもまた窓へ碧眼を向けていた。熟視というには焦点を絞らない眼差しをそこに触れさせながら、不明瞭に呟いてくる。
「ああ。ちょっと……ぼーっとな。見てみてた、だけさ」
「外を、ですか? 明かり入ってちゃ、硝子板のせいで反射して、あんま見えないでしょ?」
「そうだな。消さなくちゃな」
と言いつつ、提灯もそのままだが。ザーニーイもまた、立っているだけだ。
「?」
エニイージーの不審が、せりふへと紡ぎ上がる前に。
ふと、彼は謎めいた自嘲で、口許を綻ばす。
「もしかしたら、お前なら見えるかな?」
「なに言ってんですか。頭領の燐眼で無理なのに、俺の ふたつっきゃない目ン玉じゃ歯が立たないっすよ。しかも夜目だし。こう曇ってちゃ、目を凝らしたところで、見えて星屑くらいですって」
「星も屑か。こうなっては。そうだな。人の屑とは―――違うものかな。そいつは。どこから屑になるんだろう? 星だったはずだ。人だった……はずだ」
「頭領?」
「なあ」
「はい」
「お前は、俺をどう思う?」
「頭領を? どうって―――」
さすがに戸惑うのだが、それは問いかけそのものについてではなかった。
エニイージーは、固唾を呑んだ。躊躇いはあったが、覚悟を決めて、それを舌に乗せる。
「まさか……霹靂でも、緊張してるんですか? 革命に」
「かくめい?」
反問してくる頭領に、自信をもって念押しする。画然たる思いを込めて、ひと言ひと言、噛んで含めるように。
「革命ですよ。俺たちがやるから、国が変わる……その日を、招くんですから。頭領。これは、頭領だから出来た革命です。俺は、そう思っています―――頭領を」
「……そうか。エニイージー。お前には、いつも気付かされる」
「え?」
ひとり合点に片を付けるように、ザーニーイが居住まいを変える。踵を巡らしてこちらに向き直ると、直前までの流れを手折って、一見無関係に思える四方山を尋ねてきた。
「ついでに聞いていいか?」
「はい。もちろん」
「しなきゃよかったことって、なにかあるか? 生きてきた―――今までに」
「そりゃまあ、……山ほどありますよ。自分でも嫌になるくれえに、たらふく」
情けない話ではあるが。エニイージーは白状がてら、頭髪に編み込んであるバンダナを掻いた。
このバンダナのみどりの色味とて、燐眼と謳われる当人を目の前にしては、選別の根拠からしてたらふくの一部になってしまうだろうから、それについては知らんぷりして別の供儀を供える。
「雑巾入れっぱのままバケツの水を替えんの忘れてて、次の日めちゃくちゃクッサくしちまったり。計算間違いに気づいてなくて、返してもらった釣銭を損してたり。今朝なんか見もしねえで塩瓶傾けたら、満杯にしたばっかだったらしく、目玉焼きの上にどわーっと。それを瓶に戻そうとしたら、炒ったばっかなのに湿気らせることすんじゃねぇって厨房係から大目玉食らっちまうし。踏んだり蹴ったりにダブルのパンチで」
「そうか。まあ、……そんなもんだよな」
「目玉焼きよりも大目玉だったっすよ。食べたけど。しょっぱかったー。あ。大目玉の方じゃなくて目玉焼きの方が。まあハートはしなしなだったっすけど。塩かけられたみたく」
「そいつもまあ、だろうな」
「頭領も、あるんですか? そういうこと」
「あるよ―――ただ、」
やはり、宵時の四隣の寂寞に沿うような静けさで、ザーニーイは付け足してきた。
「俺は、昨日一昨日より前からここにいたから今日明日だってこうしてる―――言わば、砂場のドサまわり上がりの、ならず者だからな。今しなきゃよかったってことを、その時に本当にひとつでも選択していなかったら、きっとここでお前と話してることもなかったろう」
「ええ? なら……ええと、ありがとうございます!」
「は?」
急に口気を滾らせたエニイージーに、きょとんとして目をしばたいてくる頭領。
その無自覚へと焼き付けるように、形骸ではない思いを―――心を込めて、ただただ述べるしかない。
「今になって嫌なことでも、その時は選んでくれてありがとうございました。だって、―――じゃないと俺、ここで旗司誓になれませんでしたから! 頭領に拾われて、今日まで来れて、俺……俺は……本当に、天職だったって……」
意気込んだ独白が迸るにつれて、大元にある情念もまた腹の底から再燃する。目頭が疼いて、エニイージーはどうにか声を途切れさせた。興奮にかまけて、涙が浮かびそうになってしまっている。
(だせえ。ガキじゃあるまいに)
粗相を堪える部下を、どのように捉えたものか。ザーニーイは提灯を持ち替えるついでに、目淵の動きもそこへ逸らした。エニイージーから遠ざける方にした灯火に、過ぎた日を眺める緩い眼光をひたしながら。
「……くたびれた貧民窟の瀬戸際で、怯え慣れた目をすることに諦め切っていた、痩せっぽちの―――あの、お前がな。あの時は、たまたま懐に余裕があった気まぐれで、伸び白がありそうな奴に一宿一飯をくれてやるのも悪かねえかってだけだったが。そのお前が、寄寓するだけにとどまらず、旗司誓として隊の副座を勤め上げるようになって、騎獣を扱える操舵手となり……目線の高さまで、こうして俺と大差なくなった。来年あたりにゃ、きっかり頭半分は追い越されちまうだろう」
「そんな―――」
「そうなるさ。シゾーがそうだった」
ぎくりと動けなくなる。視線のひと振りさえ出来ないほど―――硬直する。
ザーニーイは回顧していた。不言の間のそれは、確かなことだった。ただしそこに、エニイージーはいない。それを確信するしかなかった。だから、息継ぎさえ途絶してしまうほど……身動きが取れない。
「来年、そのまた次の年……その暁に、お前は、どんな大人になるんだろうな?」
だからこそ、今度こそは懐古ではなく未来を含んで、こちらを向いてくれた―――凝固を解いてくれた、その人に。
「俺は、」
エニイージーは、宣誓した。
「頭領に肩を並べるくらいの旗司誓になります。なってみせますから、だから―――その時まで、見ていてください。頭領。俺が、すぐに、そこまで行く様を」
じっと……そのまま、物音すら失くして、しばし。
ザーニーイは、深く首肯した。笑むでもないが、穏当な真面目さを帯びた目線で、無言の感投詞を匂わせた。
「ありがとう……お前の旗幟ならば、俺も信じられると―――そう思えた」
「ありがとうございます。俺も、双頭三肢の青鴉を信じています」
と。
鼻息荒く赤面して拳骨を固めるエニイージーとは裏腹に、沈着とした物腰を更に沈み込ませて、ザーニーイが答弁は終いとばかりに首を横振りしてみせた。
「にしたって……もうそろそろ休め。俺も、明日にして―――もう、行くからよ」
「明日にして?」
ふと引っかかって、訊き返す。
「もしかして、ここで誰か待ってたんですか?」
「あ。ああ、いや―――待ってたって程じゃないさ」
「まさか、ゼラさん? どっか怪我したんですか?」
「違う」
否定そのものでなく、断定の強さと敏捷さに、ぴんとくる。
素知らぬ顔で、エニイージーは鎌をかけた。
「あ。医者なら、副頭領を―――」
「野郎は関係ねえ!」
声を荒らげてまで、中絶を強いてから。
まるでそれ自体が失策だったとばかり、遺憾を込めた舌打ちをして。凄めた剣幕に引きずられるように、ザーニーイが叱咤を飛ばしてくる。
「あのな。こればっかりは くどいほど言ってるが、お前は解せねえくれえにシゾーにだきゃあ風当たりが強すぎだ。いやしくも副頭領相手に―――蛇蝎じゃねえんだぞ。そこまで根っからにされちゃ、俺だってたまったもんじゃねえ。逐一どやしつけるにしたって追っつくかってんだ」
「すみません」
「いいか、食えねえ奴にゃあ関わんな。こんな時まで、……いい加減にしやがれ」
「すみません」
「たりめぇだ畜生、くさくささせやがって……まっぴらだ。食傷にしたって、煮しめた小言なんざ食えたもんじゃねえっつの。いいか。あいつ見かけても、このことは黙っとけよ。じゃあな。背に二十重ある祝福を」
「はい。背に二十重ある祝福を」
そのまま、提灯と共に廊下の奥へと去っていく背中を見送って。
その足取りの滑らかさこそ、ぎくしゃくと蹌踉めく肢体に気を抜けない状態なのだと、語るに落ちていた。そう……見えた。
見えたからこそ、またしても暗闇にひとりだけ。その空間に釣り合う陰気な激昂を、エニイージーは―――隠密ながら、食い殺し損ねてしまった。
「神経質になってたのは……今ばっかりは、頭領の方じゃないですか」
そして再び、拳を固める。ただし今回は、まごつくことのない、別の激情に駆られて。
(あの野郎―――なにしやがった。医者見習いのあんたさえ要らないくらいのかすり傷なら、ゼラさんの魔術が必要なわけねえ。だのに……だと言うのに、それでもな。頭領は今、あんたを回護していたぞ。ゼラさんの部屋を訪ねるみたいな、直接的な動きさえ遠慮するくらいに。幼馴染みだからってだけで。今回すら!)
シゾー・イェスカザ。悪しき確証として、これはもう死活的だ。邪推だと高を括っていられる余地などない―――不倶戴天の怨敵に、とうに立つ瀬など残されていない。それほどまでに、ありとあらゆる渉猟は、これについては し尽してきた。
(あいつのことだ……ぜってえ、なにかを、革命の折に仕出かすぞ。それは、三年前よりも非道に違いない、外道ななにかだ)
それを滅却できるのは、眼識を練ってきた自分だけだ。ザーニーイその人までもが、こうまでシゾーの肩を持つ姿勢を固めているのだから、これは当然の成り行きと言える。頭領は悪くない。ただ、昔からの眷顧に背かず、人情家の兄貴風に吹かれるまま子分を手塩にかけているだけだ―――それが、昔馴染みの弟分から、筺底の蒼炎に化けてしまっていようとも、肩を貸しているが故に死角となってしまっている。がら空きのわき腹に、本物の懐刀を差し込まれても、いつも通りに信じたままだから無防備でいる。三年より前から、そうだったように。
エニイージーは、窓から外を見上げた。頭領が見ていた悔踏区域外輪の空は、闇と雲に呑まれて、在天しているはずの月の朧すら失っている。
(今はもう、そんな昔とは違う。俺がいる。頭領には、俺がいるんだ。俺が、なにがあっても、なにがなんでも―――!)
確固としたそれに、なお確かなものを足したくて、エニイージーは残りを声に変えた。情を立てた。誓いを立てた。操を立てた。人を立てた。旗のように。
「俺だけは、……いますから。絶対に。だから、頭領。俺だけは。そばで、ずっと」
いつだって大切にしてきた大切なものを、ずっと大切にしていく。これまでと変わらず、これからも。それはたった、それだけのこと。
特にこんな雲の厚い空模様とくれば、それは顕著になる特徴と言えた。最たる深瀬は、夜半より一歩手前。星明りが充分に燈る直前の暗さは、一寸先すら見失う闇と言うよりも、底抜けの虚穴に指先を突き込むのを恐怖するような深奥だった。周囲ではなく、知らないうちに踏み込んだ先から自分が失われるのを予感させるような―――そらおそろしさ うそざむさ。
(便所にしたって、もうちょっと早いか遅いかして目ぇ覚ませばよかったのになあ。俺)
ふてくされて、エニイージーは生あくびした。寝床にとんぼがえりするにも極まりの悪い目の冴え方をしてしまい、なんとなく前庭のグラウンドに出ている。惰性で星を探して、そのまま空へと目を寄越した。
(え?)
それが見えた。
ただし、奇妙な迷い星だ。えらい低空で、ちか・ちかと遅い明滅を繰り返しながら、水平に右から左へと移動し……ふと、止まる。
(あ。なんだ。要塞にいる……誰かの提灯か)
廊下を歩く者が眼前に提げた明かりが、各所に設けられた窓に差し掛かるたびに、こちらへと漏れてくるのだろう。倹約というよりか、火をつけたり消したりするうちに尿意に負けるのも馬鹿らしいので、手ぶらで行って帰ってきたエニイージーには、その微細な光源さえ目に留まったのだ。得心するまま、ほっと息を吐く。
のだが。その燈心がある高さは、三階の位置だった。しかも、そこで停止して以降、じっと動かない。
「……―――」
嫌な山勘に痺れを切らして、エニイージーは要塞へ向かった。
夕飯時を過ぎてしまえば、一階廊下ですら定点灯火は落とされる。物置や書庫に使われている二階は言うまでもないし、三階に住んでいるのは頭領以下三人だけというのが実質のところなので、上層階に燈明があること自体が稀なことだと言えた。しかも、動かないとくれば、余計にわけがわからない。移動に差し支える暗闇を押しのけるための懐中行燈だろうに。
視力よりも、手足の感覚と記憶を辿りながら、三階まで行きついた。
廊下に出ると、やはり明かりが点いている。その人の……手元に。
「―――頭領!」
遭逢した幸運に上滑りして、大きく喜色を発してしまった。
その はしゃぎ声に驚くよりも、茫漠とした納得に思索を破られたように。ザーニーイが、立ち尽くしていた窓際から、首から上だけ振り返らせてくる。粒ぞろいした目鼻の中で、痛み切った金髪ばかりが提灯からこぼれた光を吸い込み、その肌色より白々として陶磁器じみて見えた。
駆け寄ってくるエニイージーへと、遅れて呼びかけがやってきた。
「エニイージーか」
「どうしたんですか?」
それとて思わずだったが、訊いてしまう。顔を見るのが二、三週間余りぶりだったこともあるが、なによりザーニーイは―――無表情だった。しかも、表情筋さえ動かせないほど疲弊している風体である。まさか、ともし火に照らされずとも白髪になってしまったのかと疑うほど、消耗して老け込んでいた。閉居して枯座しきりにデスクワークに勤めるという負担の大きさは、多少役が付いた程度の平社員には忖度することしかできないにせよ、心配は心配だった。それゆえだったのだが。
当の本人は気付いていないのか、そっけなく問いを投げ返してくるだけだ。
「お前こそ。どうした? こんなとこまで。こんな夜更けに。夜間警邏じゃねえだろ」
「俺は、その」
触れられなくとも、声は届く……燐光と宵闇の、紫紺の境界線まで来て、立ち止まる。
エニイージーは、恐縮して頭を下げた。
「安心したくて。だから。ありがとうございました。頭領」
「うん?」
「下から見てたら、ここの明かりが動かなくなったもんだから、なにかあったのかと……ここにいてくれたのが、頭領で良かった」
「そうか」
「なに見てたんですか?」
冷やかすでもないが。話題を転じながら姿勢を戻すと、ザーニーイもまた窓へ碧眼を向けていた。熟視というには焦点を絞らない眼差しをそこに触れさせながら、不明瞭に呟いてくる。
「ああ。ちょっと……ぼーっとな。見てみてた、だけさ」
「外を、ですか? 明かり入ってちゃ、硝子板のせいで反射して、あんま見えないでしょ?」
「そうだな。消さなくちゃな」
と言いつつ、提灯もそのままだが。ザーニーイもまた、立っているだけだ。
「?」
エニイージーの不審が、せりふへと紡ぎ上がる前に。
ふと、彼は謎めいた自嘲で、口許を綻ばす。
「もしかしたら、お前なら見えるかな?」
「なに言ってんですか。頭領の燐眼で無理なのに、俺の ふたつっきゃない目ン玉じゃ歯が立たないっすよ。しかも夜目だし。こう曇ってちゃ、目を凝らしたところで、見えて星屑くらいですって」
「星も屑か。こうなっては。そうだな。人の屑とは―――違うものかな。そいつは。どこから屑になるんだろう? 星だったはずだ。人だった……はずだ」
「頭領?」
「なあ」
「はい」
「お前は、俺をどう思う?」
「頭領を? どうって―――」
さすがに戸惑うのだが、それは問いかけそのものについてではなかった。
エニイージーは、固唾を呑んだ。躊躇いはあったが、覚悟を決めて、それを舌に乗せる。
「まさか……霹靂でも、緊張してるんですか? 革命に」
「かくめい?」
反問してくる頭領に、自信をもって念押しする。画然たる思いを込めて、ひと言ひと言、噛んで含めるように。
「革命ですよ。俺たちがやるから、国が変わる……その日を、招くんですから。頭領。これは、頭領だから出来た革命です。俺は、そう思っています―――頭領を」
「……そうか。エニイージー。お前には、いつも気付かされる」
「え?」
ひとり合点に片を付けるように、ザーニーイが居住まいを変える。踵を巡らしてこちらに向き直ると、直前までの流れを手折って、一見無関係に思える四方山を尋ねてきた。
「ついでに聞いていいか?」
「はい。もちろん」
「しなきゃよかったことって、なにかあるか? 生きてきた―――今までに」
「そりゃまあ、……山ほどありますよ。自分でも嫌になるくれえに、たらふく」
情けない話ではあるが。エニイージーは白状がてら、頭髪に編み込んであるバンダナを掻いた。
このバンダナのみどりの色味とて、燐眼と謳われる当人を目の前にしては、選別の根拠からしてたらふくの一部になってしまうだろうから、それについては知らんぷりして別の供儀を供える。
「雑巾入れっぱのままバケツの水を替えんの忘れてて、次の日めちゃくちゃクッサくしちまったり。計算間違いに気づいてなくて、返してもらった釣銭を損してたり。今朝なんか見もしねえで塩瓶傾けたら、満杯にしたばっかだったらしく、目玉焼きの上にどわーっと。それを瓶に戻そうとしたら、炒ったばっかなのに湿気らせることすんじゃねぇって厨房係から大目玉食らっちまうし。踏んだり蹴ったりにダブルのパンチで」
「そうか。まあ、……そんなもんだよな」
「目玉焼きよりも大目玉だったっすよ。食べたけど。しょっぱかったー。あ。大目玉の方じゃなくて目玉焼きの方が。まあハートはしなしなだったっすけど。塩かけられたみたく」
「そいつもまあ、だろうな」
「頭領も、あるんですか? そういうこと」
「あるよ―――ただ、」
やはり、宵時の四隣の寂寞に沿うような静けさで、ザーニーイは付け足してきた。
「俺は、昨日一昨日より前からここにいたから今日明日だってこうしてる―――言わば、砂場のドサまわり上がりの、ならず者だからな。今しなきゃよかったってことを、その時に本当にひとつでも選択していなかったら、きっとここでお前と話してることもなかったろう」
「ええ? なら……ええと、ありがとうございます!」
「は?」
急に口気を滾らせたエニイージーに、きょとんとして目をしばたいてくる頭領。
その無自覚へと焼き付けるように、形骸ではない思いを―――心を込めて、ただただ述べるしかない。
「今になって嫌なことでも、その時は選んでくれてありがとうございました。だって、―――じゃないと俺、ここで旗司誓になれませんでしたから! 頭領に拾われて、今日まで来れて、俺……俺は……本当に、天職だったって……」
意気込んだ独白が迸るにつれて、大元にある情念もまた腹の底から再燃する。目頭が疼いて、エニイージーはどうにか声を途切れさせた。興奮にかまけて、涙が浮かびそうになってしまっている。
(だせえ。ガキじゃあるまいに)
粗相を堪える部下を、どのように捉えたものか。ザーニーイは提灯を持ち替えるついでに、目淵の動きもそこへ逸らした。エニイージーから遠ざける方にした灯火に、過ぎた日を眺める緩い眼光をひたしながら。
「……くたびれた貧民窟の瀬戸際で、怯え慣れた目をすることに諦め切っていた、痩せっぽちの―――あの、お前がな。あの時は、たまたま懐に余裕があった気まぐれで、伸び白がありそうな奴に一宿一飯をくれてやるのも悪かねえかってだけだったが。そのお前が、寄寓するだけにとどまらず、旗司誓として隊の副座を勤め上げるようになって、騎獣を扱える操舵手となり……目線の高さまで、こうして俺と大差なくなった。来年あたりにゃ、きっかり頭半分は追い越されちまうだろう」
「そんな―――」
「そうなるさ。シゾーがそうだった」
ぎくりと動けなくなる。視線のひと振りさえ出来ないほど―――硬直する。
ザーニーイは回顧していた。不言の間のそれは、確かなことだった。ただしそこに、エニイージーはいない。それを確信するしかなかった。だから、息継ぎさえ途絶してしまうほど……身動きが取れない。
「来年、そのまた次の年……その暁に、お前は、どんな大人になるんだろうな?」
だからこそ、今度こそは懐古ではなく未来を含んで、こちらを向いてくれた―――凝固を解いてくれた、その人に。
「俺は、」
エニイージーは、宣誓した。
「頭領に肩を並べるくらいの旗司誓になります。なってみせますから、だから―――その時まで、見ていてください。頭領。俺が、すぐに、そこまで行く様を」
じっと……そのまま、物音すら失くして、しばし。
ザーニーイは、深く首肯した。笑むでもないが、穏当な真面目さを帯びた目線で、無言の感投詞を匂わせた。
「ありがとう……お前の旗幟ならば、俺も信じられると―――そう思えた」
「ありがとうございます。俺も、双頭三肢の青鴉を信じています」
と。
鼻息荒く赤面して拳骨を固めるエニイージーとは裏腹に、沈着とした物腰を更に沈み込ませて、ザーニーイが答弁は終いとばかりに首を横振りしてみせた。
「にしたって……もうそろそろ休め。俺も、明日にして―――もう、行くからよ」
「明日にして?」
ふと引っかかって、訊き返す。
「もしかして、ここで誰か待ってたんですか?」
「あ。ああ、いや―――待ってたって程じゃないさ」
「まさか、ゼラさん? どっか怪我したんですか?」
「違う」
否定そのものでなく、断定の強さと敏捷さに、ぴんとくる。
素知らぬ顔で、エニイージーは鎌をかけた。
「あ。医者なら、副頭領を―――」
「野郎は関係ねえ!」
声を荒らげてまで、中絶を強いてから。
まるでそれ自体が失策だったとばかり、遺憾を込めた舌打ちをして。凄めた剣幕に引きずられるように、ザーニーイが叱咤を飛ばしてくる。
「あのな。こればっかりは くどいほど言ってるが、お前は解せねえくれえにシゾーにだきゃあ風当たりが強すぎだ。いやしくも副頭領相手に―――蛇蝎じゃねえんだぞ。そこまで根っからにされちゃ、俺だってたまったもんじゃねえ。逐一どやしつけるにしたって追っつくかってんだ」
「すみません」
「いいか、食えねえ奴にゃあ関わんな。こんな時まで、……いい加減にしやがれ」
「すみません」
「たりめぇだ畜生、くさくささせやがって……まっぴらだ。食傷にしたって、煮しめた小言なんざ食えたもんじゃねえっつの。いいか。あいつ見かけても、このことは黙っとけよ。じゃあな。背に二十重ある祝福を」
「はい。背に二十重ある祝福を」
そのまま、提灯と共に廊下の奥へと去っていく背中を見送って。
その足取りの滑らかさこそ、ぎくしゃくと蹌踉めく肢体に気を抜けない状態なのだと、語るに落ちていた。そう……見えた。
見えたからこそ、またしても暗闇にひとりだけ。その空間に釣り合う陰気な激昂を、エニイージーは―――隠密ながら、食い殺し損ねてしまった。
「神経質になってたのは……今ばっかりは、頭領の方じゃないですか」
そして再び、拳を固める。ただし今回は、まごつくことのない、別の激情に駆られて。
(あの野郎―――なにしやがった。医者見習いのあんたさえ要らないくらいのかすり傷なら、ゼラさんの魔術が必要なわけねえ。だのに……だと言うのに、それでもな。頭領は今、あんたを回護していたぞ。ゼラさんの部屋を訪ねるみたいな、直接的な動きさえ遠慮するくらいに。幼馴染みだからってだけで。今回すら!)
シゾー・イェスカザ。悪しき確証として、これはもう死活的だ。邪推だと高を括っていられる余地などない―――不倶戴天の怨敵に、とうに立つ瀬など残されていない。それほどまでに、ありとあらゆる渉猟は、これについては し尽してきた。
(あいつのことだ……ぜってえ、なにかを、革命の折に仕出かすぞ。それは、三年前よりも非道に違いない、外道ななにかだ)
それを滅却できるのは、眼識を練ってきた自分だけだ。ザーニーイその人までもが、こうまでシゾーの肩を持つ姿勢を固めているのだから、これは当然の成り行きと言える。頭領は悪くない。ただ、昔からの眷顧に背かず、人情家の兄貴風に吹かれるまま子分を手塩にかけているだけだ―――それが、昔馴染みの弟分から、筺底の蒼炎に化けてしまっていようとも、肩を貸しているが故に死角となってしまっている。がら空きのわき腹に、本物の懐刀を差し込まれても、いつも通りに信じたままだから無防備でいる。三年より前から、そうだったように。
エニイージーは、窓から外を見上げた。頭領が見ていた悔踏区域外輪の空は、闇と雲に呑まれて、在天しているはずの月の朧すら失っている。
(今はもう、そんな昔とは違う。俺がいる。頭領には、俺がいるんだ。俺が、なにがあっても、なにがなんでも―――!)
確固としたそれに、なお確かなものを足したくて、エニイージーは残りを声に変えた。情を立てた。誓いを立てた。操を立てた。人を立てた。旗のように。
「俺だけは、……いますから。絶対に。だから、頭領。俺だけは。そばで、ずっと」
いつだって大切にしてきた大切なものを、ずっと大切にしていく。これまでと変わらず、これからも。それはたった、それだけのこと。
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別の土地では滅亡に瀕する少数民族に安住の地を与えた
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だが人々は知らなかった。
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