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承章

承章 第四部 第三節

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(……眠れない)

 それにも飽きて、手持ち無沙汰ぶさたに、キルルはもそりと身を起こした。

 燈明とうみょうは落としていた。寝台に下げられた天蓋てんがいをどけてしまえば、窓から見える月の位置は低い。まだ夜半にもなるまいが、夕飯を胃に感じなくなるくらいの時間は経過していた。ここでは上等なのだろう重たい上掛うわがけに愛着もへったくれもないが―――そもそもこの広さの客間においてベッドが中央に置かれていないセンスの悪さからして気に入らないのだ、自分は―――、それでも今になって苦情があふれるほど不満なわけでもなく、ただ邪魔じゃまっ気を感じて、ぐいぐい押し込める。我知らず、気が立っているのかもしれない。

(そうよね……お姉ちゃんを見つけちゃったのかも分からないんだもの……)

 箱の中に隠されていた、紅蓮ぐれんごとつばさ頭衣とうい。それを意識すればするほど、ゼラについて、ゼラ・イェスカザだから・・・・・・・・・・・で済まされない事実が余程あるように疑われてしまう。

(あたしの頭を整髪する手つきが手早くて慣れていたのは、羽の手入れをした期間があったからなんじゃないの?)

 その人は、実際に今も長髪なのだから、その扱いが慣れていたところで自明じめいと言えたが。

(例えば、イェスカザ家の当主は、別にいて。ゼラさんもシゾーさんも、その人の養子・・・・・・なのだとしたら。シゾーさんが三年前に、ふっつりと姿を消したのは……その人の指示なんじゃ……)

 ゼラ。分身。表裏。影。双子。それは古語だ―――過去からのいわくある存在、それをそそのかす言葉。

 その人は、言葉づかいを崩すと、生まれのなまりのせいでキルルには聞き取れないだろうと言っていた。名前ひとつ、せりふひとつ、その全てに如何いかな由来があるのだろうか。あるいは無いにしても、疑わずに信じることなど出来やしないが。

(また……こんな……こと)

 有耶無耶うやむやな気がかりが堂々巡どうどうめぐりするうちにノイローゼがかってしまって、ここ数日すっかりこもりがちになってしまった。シゾーやゼラはもとより、エニイージーにも顔を合わせたくなかったのだ。誰をどこから疑ったり信じたりすればいいのか。へとへとだった。どうせザーニーイにもえないのだから、ここでよかった。

 なにくれと来訪者はいたものの、今の方が警備面として都合が良かったようで、あえて外出を促そうという働きかけは無かった。まあ当然で、守るだけならさくの中よりかごの中に入れておいた方が、堅牢けんろうだし手軽でいい。王城にいた時と同じだ。

(こんなことでさえ、どっちだって一緒なら……なら、やっぱり、お姉ちゃんが戻ればいいのよ。あんなところ……)

 ここにいたい。

 それを告げたい相手がいるように、自分はなってしまった。

(そんなこと言われたら……ザーニーイは、どうするのかしら?)

 その時だった。

(音?)

 とっと―――と、小石がふたつ連続して当たったような。

 そこに振り返って、キルルは顔をしかめた。足元、部屋のすみの壁である。どうしたところで、小石など当たるはずもない。

 そう、思えたのだが。あろうことか、またしても音がした―――壁の内側から、聞き覚えのある声と共に。

 とっと……

「三度ノックして返事がねえんだったら―――」

 とっと……

「寝ちまったんだろうから、このまま引き返すぜ」

「行かないで」

 キルルは、寝台からずり落ちた。呼びかけに追いつこうと先走った足運びに両足がもつれてしまうが、裸足はだしのまま転がるように壁に追いすがる。

 続けて答えた頃には涙声になってしまっていたが、そうでなければ叫んでいてしまったろう。そう思う。

「逢いたかったの。だからお願い」

「あいよ。オーケイ。ちょいと退いてろ。汚れっから」

 そして、数秒後。

 圧縮煉瓦れんがを偽装したタイルを外して、彼は現れた。稲妻いなずまあとおお真紅しんく襟巻えりまきに、安物煙草たばこ渋味しぶみを引き連れて。そのターバンと頭帯とうたいたもとには、痛み切って赤茶色が抜けた髪の金色と、切れ長の目の翡翠かわせみ色。金髪碧眼へきがん……雷髪燐眼らいはつりんがん。それは霹靂へきれき。吟遊詩人に、そううたわれるという―――

「―――ザーニーイ」

「おう。元気だったか?」

 彼だった。

 妙なところを通ったせいか、ところどころ汚れていたし、服もしわだらけだった。尽き果てた精根せいこんもまだまだ本調子とはいかないようで、虚勢きょせいを張るでもなく端正たんせいな面差しには疲れがある。っすら、ずたぼろといったていか。それでも……ザーニーイだった。

 物音を殺すように、そっとタイルを横に寝かせて、狭い穴からい出てくる。そしてキルルに合わせてそのまま床に尻を落ち着けると、外套がいとうをひと払いして、苦り切った笑い顔を作った。それだけ見ると、まだ顔に残っているあざの黒ずみが痛んだのかと思えたが。

「はは、こればっかりは俺が言ってちゃ世話ねえか。俺にゃあ元気そうに見える。キルルはどうだ? 実際のとこ」

「あ、あた、……あたしは―――」

 そつのない軽口に、なにを返すべきかは、分からなかった。

 だから、言いたかったなにかを、言ってしまっていた。

「ザーニーイに逢えて、今とても嬉しい」

 彼は―――

 やや切なそうに微笑びしょうを崩して、告げてくる。

「ありがとう。最高のめ言葉だ」

 そのまま、顔を合わせること、しばし。

 キルルは、動悸どうきぎ始めた胸を深呼吸でで下ろしてから、服のえりを正した。ここでは寝間着という概念が無いらしく―――まあ夜襲にパジャマではまくら投げ最強トーナメントしか開催できなかろう―――、明日着る普段着をそのまま身に着けていたので、異性に見られたところでどうということもないが。

 そして、まじまじと穴を見やって、瞠目どうもくする。真っ暗闇がどこまで貫通しているのか見当もつかない、一人用の横穴だ。

「にしても、気付かなかったわ。こんなところにまで隠し通路があったなんて」

「客室なんだから、真っ先に筒抜つつぬけになるように設計されて当然だろ。てんで穴だらけだぞ、ここ」

「えーーーーーっ!!?」

「しっ」

 指の仕草と小声で制された時には、遅かった。

 ドア向こうから、気色けしきばんだ声が掛けられる。見張りの旗司誓きしせいだ。

「おい! どうかしました!? 入りましょうか!?」

「な、なんでもないの! いきなり虫が出て―――!」

「だあほ、もっとそのゴージャスな悲鳴にり合う言いのがれしやがれ! 虫なんかそこらに巨万ごまんといるだろが!」

 しかも横殴りから押し殺した指図を食らっては、続けようとした語尾もぶっ飛んでしまう。ぶっ飛ぶ? ぶっ飛びましたか? ―――記憶が。

「白いゴキブリがいたの!!」

 無我夢中で、それを大声に変える。

 途端に自信がなくなり、ごにょごにょと蛇足だそくするのだが。

「もういないけど」

「それきっと夢っすよ……可哀想かわいそうに。副頭領のせいで」

「だったら、あの、そんなこんなで。驚かせて、ごめんなさい―――おやすみなさい。もしかしたら、また変なカンジにうなされるかもだけど、気にせずにいてね!」

「あの……マジで休んでくださいね。トラウマ作って帰られちゃたまらねえから」

 キルルに同情を寄せてくるドア越しの部下に、ザーニーイはよどんだ面白味おもしろみを込めた半眼を向けた。窓が横並びに四つもある大部屋なので、普通より小声で会話している分には、廊下側には聞かれないだろうが。

「あのクソたれ目、俺がいねーうちにナニやらかしやがった? 白いゴキブリ?」

「いえあの。過ぎた話だから……」

「なんじゃそら」

 うめくザーニーイだったが、関わりたくなかったのか、見切りをつけるのは早かった。あっさりと、話題を取り戻してくる。

「まぁともかく。穴についちゃ、心配するこたぁねえ。キルルが使うとしたら避難穴だけだし、そのほかののぞき穴やらもろもろについては、知ってる奴らは遊び半分じゃ使わねえさ」

「知ってる奴らって?」

「俺とシゾーとゼラだ。捜索したメンバーは、ここにゃもうそんだけしか残ってねえからな」

「遊び十分か、遊びじゃないお仕事なら、使うこともあるってこと?」

「そういやそうか。まあ、こうして使っちまった俺が言っても、せんの無い話さ」

(遊びで? お仕事で?)

 けるわけもなく。別の質問をする。

「これがその避難穴なんじゃないの?」

「いや、これは……そういった用途じゃなさそうだ。と、見てた。デデじいが」

 急に歯切れ悪そうにして、ザーニーイは目のやりどころをうろうろと流転させた。

 だが、ぽかんと残りの講釈こうしゃくを待っているキルルに、言責をせっつかれたらしい。いかにも億劫おっくうそうに、言いしぶってくる。

「寝しな目掛めがけて、女を交渉にやったんだろうと―――客が男の場合に。それを知っていると……そう言ってた」

「……ジンジルデッデさんって、つらい女の人だったのね」

 それしか言えず、嘆息たんそくする。

 それを見たザーニーイの反応は、意外なものだった。ぱっと声色を明るくして、ふってわいた喜色をただよわせながら、

「デデ爺―――ジンジルデッデのことを知ってるのか? 俺の先々代の頭領、先翁せんおうに当たるじっちゃんだぞ? まあ女だけど。その分じゃそこらへんも知ってんだな?」

「あなたがいないうちに聞いたの。ほかのことも、いっぱいね」

「どう知ってるんだ?」

「え?」

「聞かせてくれよ。人から聞かされるデデ爺なんて、初めてだ」

 年端としはもいかない少年のように瞳をわくわくと浮足うきあし立たせたザーニーイに、こちらこそ一層とそわそわした心地に駆られるのだが。キルルは思い出したはなから、言葉に変えた。

「奉公した先で、泥棒猫だって勘違いされたせいで、赤ちゃんが授かれない身体からだになるまで虐待されたって。そこから助け出してくれたのは、お兄ちゃんだったんだけど、そもそも奉公しなきゃならなかった原因が、そのお兄ちゃんらしくて」

「ふむ」

「でも、もうそこにいられないし、お家にも帰れなかったから、悔踏区域外輪かいとうくいきがいりんで旗司誓として生きていくしかなくって。それでここにいるしかなかったって」

「ふむふむ」

「ジンジルデッデは本名じゃなくて、デタラメサイコロって意味だって。さいを振るみたいに、あっさり事件を治めちゃうから。それくらい才能があった人」

「ふむふむふむ」

「いい人で、規則を作って守らせる価値を学ばせたって。勉強が大切だって、働かせるだけにしなかったって。そこが地盤となったからこそ、<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>はザーニーイの代で隆盛することができたんだって」

「ふー……む……」

「なによ。違うの?」

「違うっつーか……」

 幸先さいさき悪そうに暗転していく推知すいちに、いつしか遠い目になってしまっていたのを引き戻すと、ザーニーイはこれもまたいつの間にやら点になっていた目をキルルに向けた。

「デデ爺の墓の前で唱えたら、そりゃ面白ぇやっつってすっ飛んでよみがえりそーな復活の呪文だな」

「はあ?」

「つまりまあ、俺が知ってるジンジルデッデは、そーいう人なんだよ。底抜けの楽しみ屋さ」

 耳の裏を小指でき、その爪にふっと息をかけてあかを足元に落としてから、彼は口を開いた。

「傷は、あとだらけなだけで、もう痛みはしない……だったら痛かったのを思い出すだけ、今を損する。そんな信条の楽天家でね。基本、お気楽で大らか。基本だけど」

「そうなの?」

「そ。どーせ人間なんざ明日にしか行けやしないんだ。後ろ髪引かれるたびに振り向いてちゃ、取り残されちまう。かといって、忘れた振りを決め込んで鼻高々たかだかと上を向いて背伸びしたつま先じゃ、よちよちと十歩も進めねえ千鳥足ちどりあし。そんなもん、そのうち転んで鼻を折るのが関の山だろ? どんだけかかとを浮かせたところで山向こうまで見えるもんじゃないと悟ったなら、見たい風景に辿たどり着けるまで、地に足をつけて必要なだけしっかり歩くこと。そのために、歩ける体力と、歩く配分を考える頭と、どんな風景が見たいのか絵空事えそらごとる心を、ふんだんに養えってね」

「……前向きね」

「体力と頭と絵空事にかけちゃ、他の追随ついずいを許さねぇ程てんこ盛りな人だったからな。成し遂げてきたどうこうは、あくまでもそいつの金魚のふんさ」

 ついで肩をすくめて、助言を足してくる。

「それに言っとくが、デデ爺がここにいたのは、イェンラズハにベタれだったからだ。消去法で、なくなくここに居着いたんじゃねえ」

「イェンラズハ?」

「さっきキルルが言ってたとこの、兄ちゃん役だな。ふたり並んで頭領してた。副頭領……どっちが補佐なんて、ありゃしなかったさ。精悍せいかんな大男でね。斬騎剣ざんきけんを構えさせたら、そりゃあさまになったもんだ。デデ爺の相棒で、パートナーだった人だ」

「その人はおうって呼ばないの?」

「ああ。デデ爺がそう呼ばなかったからな」

「でも……亡くなったのよね」

流行病はやりやまいでな。いなくなった時は、子ども心にも穴が開いたよ。えれぇ口下手で、ろくすっぽ話しやしなかったけど、誰よりも優しく聡明で、温かい手をした―――日向ひなたみてぇに心地いい人だった。ガキだったから、伝染うつっちゃ一いち大事だいじだっつって、死に目に会わせてもらえなくてね……親父とした喧嘩けんかのなかでも、ありゃあ群を抜く大戦だ」

「ジンジルデッデさんの、お兄ちゃんじゃなかったの? 片親は違うって聞いてたけど」

「ふざけ半分で兄ちゃんっつってじゃれてたのも見かけはしたが、ホンマモンの血縁があるかは知らんし、ンなもんよりがっちり縁結びされたふたりだった」

 胡坐あぐらをかき直して猫背を伸ばし、ザーニーイは懐旧談かいきゅうだんをつつく長考づらを解いた。通路に置いてきたのか、手斧ちょうなも剣も帯びていない腰を気障きざわりそうにさすって、落ち着かなげに―――猫のひげみたいなものなのかしら?―――しながら、

「最初からの話になるが。デデ爺は娘っ子の時分に、奉公先のお偉いさんから、めかけになれって言い寄られたんだとさ。で、ブチ切れたイェンラズハが、そいつに手ぇ出しちまった。いいように吊し上げられるくらいならと、デデ爺がイェンラズハを逃がしたもんだから、逆にその弱みにつけこまれてめかけになるしかなかったらしい。ところが、なってみたらなかなかにイイ御身分で、」

「イイ御身分?」

「待遇だよ。風呂は毎日だわメシは出てくるわ、なによりも勉強するだけたたけば響くお偉いさんだったらしく、問答してるうちに一番のお気に入りにされたんだと。こうなると、女は男を立てて三歩後ろから馬鹿の振りで愛され上手だった二番手以降は気に食わない。しかも女ときたら、不平不満はまとに直接ぶつけず、周りに垂れ流すだろ。群れず連れずだったデデ爺は、自分以外の女たちがネガティブに連帯してくのに、ちっとも気付かなかったらしい。で、ある時いきなり一方的に集団制裁」

「ある時いきなり?」

「いきなりプッツン来んのが女だろ。しかも一度プッツンしたら最後、プッツンつながりで昔から今までのオールプッツンを順繰りに思い出して、火に油ときて歯止めが利かねえ。消火活動なんざ無駄足だし、踏み込むだけ火傷やけどすんのがオチだ。燃え尽きて鎮火するのを待つっきゃない」

「……ザーニーイ。あなた、なにかプッツンした女で嫌な思い出でもあるの?」

「それはさておき。んで、デデ爺は、おん出されたのをこれ幸いとばかり、イェンラズハのとこに戻ったってわけだ」

 それはさて置かれてしまっては、聞くしかないキルルなのだが。

 無責任にもザーニーイは、トーンを落としたキルルの横目をきっぱりと無視しつつ、ぼやきを継ぐ。

「赤んぼ産めねぇ身体からだ云々うんぬんってのは当たってると思うが、あのふたり、割り合わせたみてーにピッタリ過ぎてガキ挟む隙間すきまなかったぞ。ジンジルデッデって呼び名の由来だって、ただのノロケだし」

「のろけ? デタラメサイコロが?」

「だーもー、くそ。それが、まずちげぇんだって……まあ俺も、こっ恥ずかしい話だから、あえて今まで訂正はしてこんだが。さいをポイ投げしての、いっ・せーの・で、って掛け声のこっちゃないんだよ―――ジン・ジル・デッデってのは」

「じゃあなに?」

「ほうき星」

 意表を突かれ、キルルは言葉を失った。

 そういった反応は予想していたのだろう―――ついでに、それを見届けねばならない己の気恥ずかしさも。ザーニーイは沈黙を払うように、憮然ぶぜんとして先を急いだ。

「デデ爺は、満身創痍まんしんそういあとだらけだったけど、左頬ひだりほお目許めもとから口許くちもとにかけても三本傷があったんだ。それを指でなぞって、いちジンにのジルさんデッデ―――俺の流れ星だ、願いをかなえてくれたってイェンラズハが言ってくれたから、それを標榜ひょうぼうすることにした。だから、まあ、祈ってみな。わたしが流れ星だ。叶えようって気にしてやるさ―――空を見上げた時と同じくらいには。……デデ爺は、俺がガキの頃、よくそう言ってた。そのほっぺたを、にやつかせながらさ」

 流星りゅうせい

 キルルは、窓へと振り返った。曇り空であるのはもとより、透明度の低い硝子がらすでは月より光度の劣る星明りは判別できずとも。星辰せいしんはそこにある。

「素敵なお話」

「そうかい」

「素敵な人だったのね」

「だったのには違いなかろーが。それだけなら、どんだけよかったか……」

「どうしたの? びくついて」

「いや別に。何でもない。へっちゃらだったぞ俺は。うん。シゾーは泣いてた。間違いない」

「泣いてたの? シゾーさんが?」

「あん? なに不思議がってやがんだ。あいつ今だって泣き虫じゃねえか」

「…………」

 言い切られると、これもまた反論のしようがないのだが。

 とりあえず、気になったことをいてみる。

「イェンラズハさんが叶った願い事って、なんだったのかしら?」

「さあな。彗星すいせいに祈るくらいだから、相当に現実的じゃない代物だったか、あるいは―――ゆるしが後押あとおしとなる、のぞみだったか」

「許し?」

「キルルは神を信じるか?」

 ふと、眼光を鎮静させて、そううそぶいてくるザーニーイに。

 真っ先にキルルが思い出したのは、羽根のことだった。国家の象徴であり、国民を束ねるかなめとされる存在。それを生やした―――イヅェンと、名も知らぬ異母姉いぼしと。

(ゼラさん……)

 黙り込んだキルルをどう察したのか。ザーニーイは、言ってきた。

「信仰の話じゃない。そしてそれは、神が実在するか不在なのかって次元とも別物さ―――いようがいまいが、それでもなお信じるかって意味だ。それに疑いが忍び込んだ時、人は祈るのものなんだよ。許しを求めて」

 そしてキルルは、気付いた。

 反芻はんすうは苦しかったが、それでも気付いたなりに、ゆるい笑顔でも取りつくろうくらいはするしかなかった。そうやって、口ののむずがゆさをむ。

「ザーニーイ。あたしね。そんな話も、たくさんしたの」

「へえ?」

「信じても、疑っても……おろかでも、賢くても……愛しても、恋しても―――」

 ―――恋人。

「ねえ、ザーニーイ」

「あん?」

「あなたの恋人って、どんな人?」

 即座。

 さえぎろうとはしたのだろうが。分かりやすくきょを突かれた口の内で、彼が嘘を練るのに戸惑った二秒の隙に、キルルは付言ふげんした。

「首ったけなのがひとりって聞いたわ。シゾーさんから」

「だからあンのクッソたわけ、言うに事欠いて頓珍漢とんちんかんな……!」

 激昂げっこうやすく脳天まで吹き上げたようで、ザーニーイは犬歯をきながら、毒ついた。ついでふところからシガレットケースを取り出そうとして、さすがに途中で取りやめにする。なので結局は、その古馴染ふるなじみをとっちめる動作を両手に繰り返させつつ、彼は有り体に殺気ばんだ面持おももちで、怒声を食い千切ちぎってきた。

「断っとくが、あのスケこましの言い分なんぞ、逐一ちくいち真に受けたもんじゃねえぞ。シゾーはな、そんじょそこらの色魔しきまたぁわけが違う、てめえで色狂いろぐるいさせた女に刺されてい傷こさえるような、根っからの女ったらしだ。分かるか……自然にふさがるような浅手じゃ済まなかったから縫ったんだぞ? ンな色ボケ小僧のピーチクパーチク、言われるはなからほいほい許容きょようしてちゃ身がたねえ―――」

 キルルが見詰めるうちに、言葉尻ことばじりが縮んでいく。

 それでも目をらさずにいると、ザーニーイは勝手にそっぽを向いた。そそくさと、流れをぶった切ろうにも、機を逃した……そんな顔つきで。

「だから、―――その……」

「ザーニーイはそうじゃないのでしょう?」

 言い切る。と。

「……恋人なんかじゃない」

 いやいやながら受け止めて、それでも抗議は諦めなかった。低い声混じりに舌打ちしてくる。

「あっちが勝手に首ったけなだけだ。あんなイカレもん、恋なんかでたまっか。おちおち大事にもできやしねえ」

「じゃあ愛?」

「あのなぁオジョウチャマ、やんごとなきアナタサマがどこで覚えたか知らねえが、れたハレたの艶聞えんぶんなんざ―――」

「その人、あたしのお姉ちゃんなんでしょう」

 断言を重ねて。

 ザーニーイが、目の色を変えた。豹変ひょうへんしたと言うほどでもないが、内心の怒りを収めるように、意図的につらの皮から力を抜いて。げんなりと。

「ふざけるな」

「あたしと取り替えて」

「ふざけるなと言っている」

「どうせ同じなら、あたしだっていいじゃない!」

 食って掛かるうちに、つい声量が上がりかかる。

「ふざけてないと言えば信じてくれるの? それはおろかしいの? あなたが間違っていないことを疑ってはいけないの? 信じるだけが賢いと言えるの? 恋なんて―――」

 キルルは―――

 ぽつりと、八つ当たりしていた。

「しなきゃよかったのよ。あなたになんか」

「……あいつだって、きっと、そう思ってる」

 気勢を落として、ザーニーイは項垂うなだれた。

 彼の顔つきは、面妖めんようなものだった。呆気あっけにとられたようでもなく、さりとて嫌気が差したという風でもない。眉を落として目蓋まぶたを下げ、笑うでもなくゆるめた口許くちもとくぼんでいて、しわじみて見える。なんとも名状しがたいザーニーイのそれを盗み見たのは―――二度目だった。あの中庭での夜、それ以来の……二度目。

 それを見てしまったのだから、キルルにはもう否定することさえ出来なかった。

「やめられないのね」

「だろうな」

「とめることも出来ないのね」

「だろうさ」

「許されることはあるの?」

「あるの、だと? ……はは」

 から笑いして、彼は目鼻をでた。たったそれだけで明瞭めいりょうさを鼻っ柱に取り戻して、言いましてくる。

「あるから祈るのか? だったら、ないなら祈らない? ―――そうじゃない。神を信じるか? それと同じだ。俺たちの旗幟きしに、よく似ている」

「え?」

はたがあるから、つかさどるとちかったのか? 違う。内なる蒙昧もうまいから、神聖なそれをあかすためにみさおを立てた。それがしるされたかたちが、旗幟だっただけだ。俺たちは―――」

 そして、上を見上げる。

 窓へ目をやるようにしながら、その眼差しは、楽園カオロワイズと共に失われたと言う伝説の鳥を―――青い空を行くからすを追っていた。恭順きょうじゅんし、あがめるようにではなく……ただ、示された先の、凌駕りょうがを目指して。

「俺たちは、みな―――奇跡を許されるよう、心から、祈るんだ」

 そして。

 ため息をつこうとしたらしいが、ぎょっとそれを呑んだ。こわごわと、こちらへ手をかざしながら、いぶかし気にする。

「参ったな。泣いてんのか?」

「迷惑?」

「いんや。その大粒の目ン玉までポロポロポロッと落ちねぇか不安になるだけさ。俺は臆病おくびょうだからな」

「やぁね。その言い方じゃ、みっつも目があるみたい」

「俺の計算が合わねえのは、いつものこった。叩きさえすりゃビスケットだってポッケの中で増える浮世うきよ沙汰中さたなか、俺までそうじゃないなんて誰が決めた?」

「そんなこと、お姉ちゃんにも言ってるの?」

「だから。それは。オネーチャンじゃ―――」

「じゃあなんて呼べばいい?」

 目元をぬぐって、口を挟むキルルに。

 あからさまに不承不承ながら、打ち切りを断念したらしいザーニーイが、譲歩じょうほした。

「シヴ」

「シヴ?」

「そう呼ぶ奴もいる。シヴツェイア。そいつの名前だ」

綺麗きれいな名前」

「そうなのか」

「そう思わない?」

「思ってみたことも無かったな」

「キルル・ア・ルーゼよりも、玉座に映えるわ。シヴツェイア・ア・ルーゼなら」

 自虐じぎゃくの味すら、こうなっては甘い。

 味わうように黙り込むのだが、そんなキルルへ向けて、―――ザーニーイは身を正した。すっと片膝を立てて膝行しっこうし、半身はんみを下げる。真顔で、こちらにも態度をう、その姿は……数日前、旗幟を支えるように控えてみせたシゾーのそれに、よく似ていた。

「ア族ルーゼ家が後継こうけい第二階梯かいてい、―――キルル子女しじょ

 怜悧れいりな物言いで、改めてかしこまる。

「たまたま監視が絶えたタイミングがかち合ったから、こっそり抜け駆けすることにしたんだが……本当は、俺は、これを伝えにきた」

「……なに?」

「次に会うのは、さよならの時になる。それは、俺とキルルが―――って意味じゃない」

「え?」

「それだけじゃない、時が来たんだ。おおいなりて、めぐり合わせた、……時が」

「どうしたの? ザーニーイ。おっかないし―――おっかしいわよ」

 困惑してはぐらかそうとするのだが、彼は聞き入れなかった。神妙しんみょうさながら、朴訥ぼくとつささやく。

旗司誓きしせいの本分は、【血肉の義】に基づいての、悔踏かいとう区域くいき外輪がいりんにおける遊弋ゆうよくだということは知っているな? それは実は、対外勢力に対してのものだけじゃない。国内の趨勢すうせいにも向けられている―――【血肉の約定】から血を分けたはずの同族が【血肉の忠】を怠っていたとしても、それは絶対的に継続されてきた」

「……―――」

 単なる指摘とばかりに正してくる彼に、キルルは上辺うわべですら苦悶くもんできなかったが。気にすることもなく、彼は蘊蓄うんちくを積んでいく。

「話は、八年前の戦争までさかのぼる。戦火の火種は、とある動物由来禁戒きんかい薬物にまつわる嫌疑だった」

「アーギルシャイアの臍帯さいたいね」

「知ってんのか?」

 拍子抜けしたとばかりに転調した声音は、ありありとこちらを見縊みくびっていたことを物語っていたが。厭味いやみだったところでとうに腹も立たずに、キルルはうなずいた。

「イコさんと、そんな話もしたから」

「ああ。イコ―――イコ・エルンクーか。そうか……らしいことしやがったか。あいつは。キルル相手にも」

「え?」

「いやなに。俺が、ありがたいって……それだけの話さ。あいつは頭が良いくせに人も好よくて、他人のために躊躇ためらわず機転と気を利かせるのにかけちゃ、誰より手練てだれてる。俺にふみで現状を告げ口してくれたのも、あいつだ。エニイージーは―――尊敬する男親にゃあの身のたけなんざ見せやせんのが思春期ってもんっしょ? って、言ってのけるくらいのな。白眉はくびさ」

 手放しでめそやして、ザーニーイはやわらげた上唇うわくちびるを親指でさすった。イコのことを言っているのか、エニイージーのことを言っているのか、両者ともを誇らしく思っているのか。それは分からないが。

「イコさん、おりから出られたの?」

「檻? ―――ひるがえる旗を待つ、のことか? ンなもん使うわけねえだろ、ちんけな十人十色じゅうにんといろ面当つらあて程度で。ありゃあ、一発であの世行きの死刑もイヤ・連発であの世行きの私刑もイヤ・だってんなら嫌々だろうが自殺しとけっつう、極めつけの見せしめだぞ。俺の代で使ったのは、これまで二回だけだ」

「面当て程度、って……青い人たち、ひどい中傷してたのよ。ザーニーイ。あなたのことも」

 決死の思いで、吐露とろするものの。

 ひょいとまゆを上げて、取るに足りないとばかりに、ザーニーイ。

「ああ、青の―――ギィの連中か。あいつらは、シゾーが出しゃばってくれてた隆盛期に入ってきたからな。天井知らずに伸びてく快感を忘れられなかったところで、無理もねえ。俺が交代した途端に筺底きょうていとのつながりまで薄まっちまったから、緑酒りょくしゅをお手頃価格で横流ししてくれる相手にえてんだろ。シゾーは下戸げこだから、そこらへん分からず屋でいけねえ。今度手に入ったら差し入れしとくか」

「は―――?」

 げなくなってしまうキルルだったが。

(そう言えば……なんだか、周りをめるばっかりよね。この人。自慢らしい自慢も人のことばっかりで、自分のことは臆病だとしか言わないし)

 脈絡みゃくらくなく気取けどられたことも知らないで、当の本人は手をひらつかせて、仕切り直してくる。

「無駄口しちまったな……とにかく。当時、我が国と隣国は、見過ごせないまでに輸出入の収支バランスが崩れていた。原因は、有翼亜種ゆうよくあしゅの羽根だ。喉から手が出るほど欲しいって連中がわんさかいて、値段が張るものながら、売れに売れた。んで、隣国は羽根を買う一方になってきてた反面、こっちに輸出するのに目ぼしいものが無かった。だから、相手さんも、なにかをこっちに売りつけようと企んだ。それが、麻薬だ」

「麻薬?」

「そうだ。依存症にさせちまえば、あとは売り口に困らねえ。酒や煙草たばことおんなじさ」

「それは……そうだけど。交易品に、って」

「それこそ、酒や煙草とおんなじでね。厳重に取り締まってるとこもないではないが、勧めはしねえが縛りもしねえってとこもある。神がかるために、服用を余儀なくされる公職が認められた国もあるだろ。神興しんこう国ジルハラワがそうだ」

 あっさり言われた国名に、記憶がかたむきかけるが。ザーニーイは説明を続けた。

「んで、こんなもん寄越よこされても困るっつって、我が国と隣国は戦争になった。で、いざ戦争ってなったら、隣国は先に手ぇ出したヤク中だらけで、まんまと我が国のボロ勝ち。しかももう一枚あった上げ底のふたを開けてみりゃ―――なんてこたぁねえ、羽根を右から左へ流すだけで手に入れてた あぶく銭に目がくらんで、麻薬遊びをしだしたが最後、抜けられなくなっちまって、じゃあ自分らの分を作るついでに他にも売りつけてやれっていう、傍迷惑はためいわくな自転車操業だった。ちゃんちゃん、おしまい、ってな」

「……お粗末な顛末てんまつね」

「残念ながら、そいつはこれからだ」

「え?」

「今までの話は全部、嘘だ。ただし、」

 そこで―――

 ぴっと、片手のこぶしから立てた二本指の先が、鉄砲のようにキルルの鼻先へ突き付けられた。凄味すごみを利かせた、覇気はきと共に。

「―――お前たちが、俺たちへいた嘘だ」

「え?」

「八年前より先から、我が国は麻薬を隣国へ密売していた」

「は?」

「そして、酒や煙草たばこの愛用者が色んな品目を試すがめつするのと同じように、あっちがなし崩しに中毒者を増やした頃を見計らって手を引いた。それからは知らん顔決め込んで自滅を待ち構えつつ、最期に喉笛に食らいつくだけで、まんまと属国としたのさ。詰め腹を切らせるにしたって、最悪のマッチポンプだ」

 言われ―――そして手を下げられてもなお、弛緩しかんせぬ邪視じゃしに。

 展開からして、慮外千万りょがいせんばんなことこの上ない。身を凝固ぎょうこさせてくる空気にあえいで、とにかくキルルは、面食めんくらったまま疑問を投げた。

「……どうしたって、無理よ。そんなの」

「どうしてそう思う?」

「国ひとつが潰れるような大量の麻薬栽培なんて、ばれないで、どこで誰がやってのけるのよ?」

国牢こくろうで国家がやり遂げた」

 やはり揺るがず、すんなりとげ足を取ってくる。

「アーギルシャイアの臍帯さいたいについては、どれくらい知ってる?」

「……知らないわよ。名前以外、ちっとも」

「アーギルシャイアの臍帯さいたいは、禁戒きんかい薬物の中でも、動物から作られる麻薬になる。とある薬物を動物に常用させると、体内で変化を起こし、新陳代謝―――細胞分裂が進む部位から、汚染が進む。で、脳までやられて狂い死にしたその肉をジャーキーにしたり、骨を砕いて内服したり、乾燥させた粉末血液をあぶって吸い込んだりして、摂取するってわけだ。脳みそが小さすぎると、肉体に麻薬が浸透しきる前に死んじまうから、あんまちっぽけ過ぎねえサイズで成長の早い食肉向きの動物……生まれたての仔羊こひつじに与えるちちに混ぜる、なんて手管てくだが代表格なんだが」

「それを国の牢屋で実行したっていうの?」

 はぐらかされた思いにいい気はせず、キルルはザーニーイをめつけた。

「馬鹿にしないでよ。牢屋に羊を囲ってる国なんか、あるもんですか」

「そうだ。牢にいるのは罪人だ。若い女もいる」

 と―――

「幼生が成体へと変態する以上の、最高度の細胞分裂は何か……知っているか?」

 そう言及して、いったんザーニーイは間を置いた。うつむいて―――顔を上げる、ただそれだけの動作で躊躇ちゅうちょを踏み越えてくる。

子種こだねを仕込んで薬物をらせ、十月十日とつきとおか―――腹が出るのと頭がおかしくなるのを見計らいながらさじ加減しつつ、出産と廃人の間際に、国外追放というかたちで踏許証とうきょしょうを発行し、隣国へ出すんだ。そこで、まあ……おかかえの事情通の手で、解体される。母体はもとより、宿ったその日から毒素を煮詰め続けた胎児から精製されたアーギルシャイアの臍帯さいたいは、極めて高純度なため、比類ない高値で取引されると聞く。まさしく―――へそがな。皮肉にしたって出来過ぎだろ? こちとら駄洒落だじゃれにも出来やしねえ」

 ほうけるしかないキルルだったが。

 聞きっぱなしに断定される危機感に、意地でも反発は強まった。今更いまさら床の冷たさに跳ねるように、ザーニーイへと間合いを詰めて、抗弁を積む。

釈放しゃくほうされた人がおかしくなってたら、誰かが絶対に気づくでしょう?」

「元からおっかしいから犯罪者なんだ。狂いのネジの飛び度合いに目利めきき利かせる奴なんざ、そこらにうろちょろドンジャラホイなわけあるか」

「だって。その人にも、家族とか……」

「収監する前に、罪状から家族構成まで把握されてる。まあ、そいつについては合法だ。真っ当にも、警察の取り調べだからな。天涯孤独てんがいこどくで、万引きを重ねることでしか食いつなげねぇような生理初めの幼女、ひとりやふたりくらい、はぐれ街娼がいしょうに落ちぶれさせる前に拾うなんざザラにあるだろ。保護か逮捕か、名目は知んねえが」

「でも。刑期を終えておかしくなるケースが立て続けば、いくらなんでも妙だと勘付く人は出るわよ」

「立て続ける必要はない。ひとつ成熟させれば、採れる麻薬は―――どんだけ余分な水分をしぼって体毛をいでも、母体だけで二十キロはくだらないだろ。アーギルシャイアの臍帯さいたいの粉末血液の末端価格は、耳かき一杯につき、辺境価格で金貨きんか五から十枚前後。これが、水子みずこの死体では倍ドンに高跳びするわけだから、そのもの以外の胎盤たいばんその他付属物ふぞくぶつを含めて三キロ程度だとしても―――合計金額で、豪華絢爛ごうかけんらん豪邸ごうていをみっつよっつ建てれるって寸法だ。実際は国庫に入ってんだろうが」

「でも、人ひとり麻薬漬けにするなんて、とんでもない量の薬物を要するんじゃない? それを怪しまれもせずに……」

「経口摂取でなく、注射や点滴といったかたちでダイレクトに送り込めば、効果は覿面てきめんだ。分量なんざ、格段に抑えられる。おそらく十数分の一で済むだろうと―――ゼラは言っていた」

 こうまで手際よく論破されては、組手にもならない。

 どもるしかなくなったキルルに、ザーニーイは暗く炯眼けいがんを差し向けてきた。打ち留めるように。

「否定したいのは分かるが、証拠が出ちまったんだ」

「証拠?」

「アーギルシャイアの臍帯さいたいを確認した……ナマ物の現物、人間として」

「にんげ?」

「残念ながら、騒ぎに乗じて、夫やら身元引受人やらを称する野郎が殺しちまった。そいつもジャンキーで、同病相哀あいあわれんだシャブ狂い同士がとっかえひっかえスワッピングしてんだろうくらいにしか隣国じゃ思われていなかったらしいんだが。ついに共食い起こして殺人事件かってお縄にされる直前に、かろうじて確認できた。隣国だったから、立ち回りがスムーズにいかなかった……」

「その証言が、その中毒者の妄想じゃないって、どうやって証明できるの?」

「その野郎がゲロったんじゃねえ。アーギルシャイアの臍帯さいたいにされるまでの手口とやり口を、虫の息だった女から聞いたのさ」

「それこそ信じることなんて出来ないでしょう?」

「ああそうだ。信じられやしなかった。地下牢みてぇなとこでポリ公にられた上ヤク漬けにされたなんざ、信じられっかよ。だから調べた。マッポの顔にでっけえひきつれがみっつもあったっつってたから、初めは筺底きょうていの荒くれマフィアが とんちきな金稼ぎに手ぇ出し始めたのかって線で詰めたんだが……じゃあ、悪目立ちすると分かり切っていて、なんでまたよりによって我が国のサツの恰好かっこうでンなことする? そういうプレイか? あほか。その行いは、制服で済ませる公用だったんだよ。任務だ。仕事だ」

「じゃあ、」

「ああ、そうさ。もとはと言えば、ラリった妄言を、やっぱりラリったなりの妄言だったじゃねえかと空振りさせるための裏取りに過ぎなかった。隣国との騒動の際に入手できた人体組成の一部が、アーギルシャイアの臍帯さいたいだと発覚してから、方針を切り替えざるをえなくなったんだよ。あれから複数回、ヒト由来と思しきアーギルシャイアの臍帯さいたいが発見されている……俺たちだって、その瞬間まで、看破かんぱされるような裏が戦争にあるなんざ眉唾まゆつばだったよ。赤毛どもは分厚いつらの皮してやがるたぁ思ってはいたが、いでみれば、まさかの化けの皮だったとは」

「でも……それこそ、あなたたちを、そのマフィアって人たちが陥れようとしてるんじゃないの? あなたたちの【血肉の義】を逆手さかてにとって」

「意味がない。そりゃまあ、悪事の片棒を担がされそうになるこたぁあるが、そんなもん民間人だって企んでくれることだ。武装犯罪者と違って、商売敵しょうばいがたきと目されることさえ、滅多にない。筺底きょうてい旗司誓きしせいは、いわゆる畑違いってやつでね。萬荒事よろずあらごと一手専売いってせんばいにあくせくする農家同士、お互いの畑について話したり融通を利かせたりすることもないではないが、だからこそ濃厚には関係も干渉もしない。お互いのやり方で帳簿ちょうぼをやりくりすっから上手くいく関係なんだ。俺たちの畑を横取りしたところで、あいつらじゃ俺たちと同じ収穫高しゅうかくだかは取れない。なら、しない」

「それは―――」

 あなただからなんじゃないの?

(……え?)

 シゾーならばどうだ? あおい炎と言わしめた、あの―――男なら。三年前に、一度ならず二度までも暗殺に失敗したのだ。三度目の正直とばかりに、入念に三年がかりで仕組むこととて考えられるではないか……

(考えられる―――だけでしかないのに……)

 歯がゆいにしても意気を折られてしまっては、キルルも弁護をむしかなかった。それでも、……足掻あがく。

「そんなの―――嘘でしょう?」

「そうだ。俺たちへかれていた嘘だ」

 未知数で信憑性しんぴょうせいのない駄法螺だぼらに違いなかったはずのものを、言い重ねるうちに糊塗ことを失くした真実として。ザーニーイはまたひとつ、双眸そうぼうともし火を冷ややかにした。傷つけるつもりはないが、触れてくれた指が傷ついたところで構わないといったような……痛みを与えてくる、氷点下のしもの色だ。

「神話に聞く母鳥ははどりとその卵のように、身をていして守り抜いてきた、旗幟きしを支えし我らが国土―――それこそが、国賊こくぞくの麻薬畑を托卵たくらんされていたに過ぎなかった。これは決定打となる裏切りだ。旗司誓は許さない。国民もそれに続くかもしれないし、そうなれば内紛も起こりかねない」

「内紛?」

 はたとキルルは、それに気づいた。

 せり上がっていく脈拍と呼吸は、末期まつごを予感させるような不吉さに満ちている。戦慄わなないて、それを哀願へとり上げた。

「やめて……そんなこと。やっと八年経ったのよ。乱され切っていた人たちが落ち着いて、立て直して、それが実り始めたから、国録総人口も増えてきた。それをまた、争いに投げ込もうっていうの?」

「八年以上前にそうしたのはそっちの方じゃなかったのかと、俺たちは投げかけるだけだ。大っぴらに武力を用いて国をひしぐつもりはねえ」

「なら、あたしが持ち帰るわ。それで、イヅェンに調べさせる。それなら……」

「説得力のない背約者はいやくしゃだな。どうしてそいつをこの土壇場どたんばで信用できる? 【血肉の忠】を、こうまでないがしろにし続けておいて。なにより、信頼されると思う? まずもって、あんたにゃ実力がない。逃げたがりには、逃げ足さえ期待できやしねえよ」

「実力」

 そこまできて、思いつく。これ以上ない名案を。

「そうよ。そうなら、やめてよ……やめさせて! 食い止めて。ザーニーイ。霹靂へきれきなんでしょう? あなたからなら、みんなきっと―――!」

 衝動に口をかれるがまま、言いつのり終わる頃には―――

 無駄だと、悟らされた。はかなく、無価値過ぎた、あわれましい訴えに、ザーニーイはまばたきすらしなかった。

 ただ、立ち上がった。ばさ、と外套がいとうを打ち鳴らした音は―――まるで羽音はおとのように。

「せめて―――祈ればいい」

「許して……!」

「それをうなら天へ向けろ―――低劣にも、つばいたそこへ。もとある場所に降り落ちてくるのに、八年かかっただけのことだ。過ぎた返報でもあるまい」

「あたしがそうしたんじゃない!」

 やけくそで歯軋はぎしりした、その刹那せつなだった。

「言ったな」

「なんですって?」

「それは許されぬ失言だ。ご羞恥しゅうちされよ、後継こうけい第二階梯かいてい、すなわち王位継承候補者その人よ。その指先を振った先で戦死した者を見ることもない権力の突端とったんよ。いたんだこと殺したことんだことんだことの億万を、有象無象うぞうむぞうの数字でしかぞんぜぬ最果てよ」

 忽然こつぜんと、むずがる子どもをさとしていた鷹揚おうようさを脱ぎ捨てて。

 転調した口ぶりは、感情を切っている分、はらわたが煮えくり返るような激怒を感じさせた。たったの寸秒で、こうまで渦巻うずまくほどの熱情が、ザーニーイのどこにあったのかと……そう他人事のように思われるほど。

 単に怒号を向けられるよりも恐ろしいおごそかな警鐘けいしょうに、矢継やつばやににじり寄られて、ただただ息を殺すしかない。

「八年前。俺たちはみな、大義名分があるせいで、隣人と殺し合わされた。殺された者がいた。残された者がいた。殺した上で残るしかなかった者さえ……今も、いる。それなのに、その指揮棒を持つ権利と義務を課せられし者が、指揮棒で刺したところで人は死なぬと言ってのけるか。直接は手をくだしていないと―――五十歩を足踏みした者が、百歩先へ行かせた者をにえと差し出して、まぬかれようと。旗司誓でなくとも、矜持きょうじがあるならば……それは拒絶すべきだ。はじ知るならば―――さらすまいよ。滑稽こっけいですらない。痛恨つうこんだ、キルル・ア・ルーゼ。傀儡くぐつ道化どうけにしても……それは、侮辱ぶじょくが過ぎた冒涜ぼうとくというものだ」

「あなただって……戦場には出てない! そうでしょう!?」

「ジンジルデッデは死んだ。悔踏区域外輪かいとうくいきがいりんでは痛まなくなった瑕疵かしを異国の戦火に焼かれ、おうでありながらイェンラズハの眠る雹砂ひょうさへ混ざることすら許されない千々ちぢ灰燼かいじんとなった……ただひとりの、俺の、じいちゃんだ! イェンラズハのような縁もゆかりもない見ず知らずの他人とデデじいを、戦争が結びつけたんだ―――敵同士として、所以ゆえんを、結んだ……だからゆえほふられたんだ、無駄死にを手繰たぐり寄せるまで屠られた!」

 廊下を警戒しながら、ザーニーイはたぎりかけた音量をひそめた。心中穏やかでないにしても、またしても淡々と条理をいてくる。

「勘違いすんなよ。個人的なかたき討ちの辻褄つじつま合わせしたさに、<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>をき付けたわけじゃねえ……俺からして、戦争への私怨しえんくらいあるってことを言いたかっただけだ。【血肉の義】は旗司誓に織り込み済みの使命だが、所詮しょせんは俺らだってもろさのある人間だ。自棄じき使役しえきされることも―――あることではある。だから組織への無闇むやみな刺激をけようと、エニイージーに見張らせていた……あまり親しくさせるな、無邪気になつかせるなと。俺は、常套句じょうとうくって出迎えたはずだな? それなのに客分きゃくぶんわきまえず、知ったこっちゃねえなりのマブダチ気分で、いけしゃあしゃあと……何様のつもりかってぇと、お子様の王女様なんだから、しゃあねえが」

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「それは……」

 言いわけは続かなかった。あしらわれ、こともなげに追い詰められては砕かれ、呆然自失した果てに、こうして―――涙ぐむしか。

 これはなんだ・・・・・・

 父が泣いていたことは、あの時から確かに知っていたはずなのに。

(どうして……あたしまで、こうなっちゃったの? 知っていたのに。このことは、とうに知っていたのに!)

 分からない。分かりはしないが、それでも―――現実としてザーニーイは、キルルへと物語るのだから。これが……不可避というものだと。

 だとするのなら。幾多数多いくたあまた秒数年びょうすうねん幾星霜いくせいそうと受け継がれてきた永劫えいごうの時の末に、今こうしてこれが・・・現出したのだとしたら。なればこそ、こうなることは、<終末を得る物語>から運命さだめられていた取り決めだったのだ。

 それはおそらく、キフォーの義烈の申し子が旗幟きしを取るより、はるか昔から。

 すべては、アーギルシャイアが恋をする前から始まっていた。

 超越者ちょうえつしゃにより、欲するは許諾すなわち録視書ザライザン・ロワナンと命ぜられた瞬間から、森羅万象しんらばんしょう億光年おくこうねん先よりしるされ証明されていた。

 だからこそ勝者のように興奮をはらむでもなく、佇立ちょりつしたザーニーイのせりふは無慈悲むじひな予言者のように……書物を読み上げる宣教師のように、淡泊たんぱくな調子でつづられていく。

いた火種からり取った戦果だけを、ほくほく顔でむしゃむしゃ食ってやがる野郎ども―――奴らにかかせたづらの上から、赤毛ひんいてやりてぇって魂胆こんたんがあるのはいなめない。が、それでも……俺は旗司誓きしせいだ。神髄しんずいまで求道ぐどうせしめんと心技体しんぎたいを旗幟にゆだねたひとりとして、双頭三肢そうとうさんし青鴉あおからす悔踏区域外輪かいとうくいきがいりんで風をふくむかぎり、【血肉の約定】を守る」

「ジンジルデッデさんの……いたみをそこまで知っているのに、それでもあえてなお、またしても修羅場の戦禍をもたらしかねないことをするの?」

 床にへたり込んだままのキルルを、立ち尽くした高みから見下ろしながら、ザーニーイが己の胸骨きょうこつに指先を触れさせた。祈りの仕草かと思えたが。違う。

「トリガーはここにある。引き金ならば―――引かれる時だ」

「やめて……」

「裏付けにしちゃまだまだ物足りねぇと分かっちゃいるが、これ以上の好機はみすみす逃せねえ。クーデターの一種にはなるだろうが、元々こっちにゃ後ろぐれぇこたぁありはしないんだ。多少のいさみ足で進んでもいちばちかなんてほど危ない橋じゃないはずだし、返り討ちにされたとしても一族郎党根絶ねだやしにするといったタイプの鎮圧法は採用されねえはずだ。旗司誓であることを濫用らんようさえしなければ、切り抜けられる、はずなんだよ―――キルル・ア・ルーゼが、ここにいる」

 言外に、彼は……こう述懐じゅっかいしてもいるのだ。意味ある隠し事を隠し主が隠さなくなる局面というのは、胸襟きょうきんを開かせる程まで信頼を築いた時か、利用されて用無しとされた時だと。それも併せて、―――時が満ちたのだ。

(彼が、ここに来たのは……遊びでも、―――仕事ですら、なかった)

 ザーニーイが、旗司誓きしせいだった。これが彼だった。それだけだ。

 ―――そしてキルルは、戦端句せんたんくを聞いた。

 キルルは、その時……確かに、戦端句を聞いたのだ。<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>の。ザーニーイの、歌うような―――さりとて歌にない強靭きょうじんな響きを。

 だのに、その裏から忍び寄っていた真言しんげんまでも、キルルは聞いてしまっていた。

「―――双頭三肢そうとうさんし青鴉あおからす、この両翼にこそ触れけよ」

 我々を災いへと成したことを、理解したまえれ者よ。爪牙そうががれんでいる。いざ、その命脈たる血の流るる首をきに参らん。

旗幟きしなき諸手もろてまみれるだろう、そのついに無自覚であるならば裸王らおう、今この時こそ受諾じゅだくせよ」

 つぐないたまえ。あがないたまえ。

 王よ。いわんや、裸の王よ。いずくんぞ、己のみが知らずにいる。

れ果てる身こそ思い知り、自覚をくさびと、かき抱き眠れ」

 ああ右肢まてにて支え、左肢ゆんでにて導き―――果て、真央しんおうなる三肢さんしにて、くさびを取らん。

「そのとげ示すは―――<彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>、」

 旗幟きし穿うがとうぞ。くさびとなるがゆえに穿とうぞ。

 かねてより誓願はあかされていた。

 久遠くおん予言かねごとにより、唯夜ゆいや九十九つくも彼方かなたより、到達するべくつかさどられていた。

 我らは血肉ちにくって義に尽くさん。このほこりにこそ満ち足りる。

 すなわち、旗司誓きしせい

旗司誓きしせい彼に凝立する聖杯アブフ・ヒルビリ>である」

 月光が青い。

 点滅せず、明滅もせず、清閑せいかんと。え過ぎて熱を失くした色は、孤独に煮こごり冷えている。そこにこぼされる吐息もまた、ひとつふたつとこごえては、冷たさだけを冷やし固めて消えていく。

「無論のこと、折衝せっしょうの道を探ることにはなるだろう。それとて、どういったかたちで成就じょうじゅするやら見当もつかねえが。つかねえとしても、それでも―――」

 そしてザーニーイは、長い宣告を、……終えた。

 キルルにとっての、別れの警告を。終えた―――

「背に二十重はたえの祝福を受けし我らが双頭三肢そうとうさんし青鴉あおからすは、ア族ルーゼ家ヴェリザハーが第二子・キルル後継こうけい第二階梯かいていを送る時をって、国旗への叛旗はんきとなる」



     □ ■ □ ■ □ ■ □



 かねてより誓願はあかされていた。

 久遠くおん予言かねごとにより、唯夜ゆいや九十九つくも彼方かなたより、到達するべくつかさどられていた。

 

 

 

 

 

 それではようこそ客人きゃくじんよ。

 ここから先は、外輪がいりんとはいえ悔踏かいとう区域くいき

 あなたがここを立ち去る時、み入いるならばいるだろうとの揶揄やゆを、現実としていないことをせつに願う。
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とある山奥の村で暮らす少年アレンには、幼なじみの少女がいた。 結婚の約束もしていたその少女が聖女に選ばれ、王都の勇者に寝取られてしまう。 おまけに魔物のスタンピードにより、アレンは命の危険に晒される。 踏んだり蹴ったりな人生だったと少年が諦めたその時、魔族の美女が駆けつけ、あっという間に助けられる。 その美女はなんと、部下に裏切られて追放された魔王であった。 更にそこで発生したいざこざの中で、彼女は言い放つ。 「私はアレンと結婚するんだから! 彼以外の男性なんて考えられないもの!」 「…………へっ?」 そんな感じで始まる、平凡な少年と最強魔王が夫婦として過ごすことに。 移住先を求めて旅をする中、二人は謎の島を発見する。 一方、帝国にいる勇者は、自身の野望を叶えるべく裏で動き出す。 聖女となった幼なじみの少女は、思い描いていた煌びやかな生活とは違う環境に、不満を抱いていた。 更に聖女は思うように聖なる魔法を扱えなくなってしまう。 それが世界を揺るがす大騒動になることを、彼女たちは知る由もない―――― ※全50話。2021年5月14日、完結しました。 ※第1回次世代ファンタジーカップにエントリーしました。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

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