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第13話 近代ヨーロッパその2
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「えぇっと……。お姉さん?」
私はつい確認をしてしまった。他意はない。
「はい……。姉です……。我々は孤児院で育ってこの店に養子に貰われたため、兄弟と言っても年齢ではなく養子になった順でして……」
金髪の店員さんは頭痛に悩まされるような顔でちびっ子のお姉さんを見ていた。
確かに、小学生のような年齢の女の子が姉というのは、複雑な心境だろう……。
「別にお姉さんでも妹さんでもなんでも構わないよ、素敵な結婚指輪を作ってもらえるなら。黒江ちゃん、ダイヤの入った鉱石見せてあげて」
「え、うん」
私はカバンから未来世界で手に入れたダイヤの原石を取り出して、近くにあったテーブルに置いた。
すると、金髪の店員さんは驚いた顔をして、お姉さんの方は興味深そうにジロジロと見ている。
「えぇっと、ダイヤの原石です。小粒だけど何個かダイヤが入っていると思うので、これで結婚指輪を作って欲しいんですけど……」
「僕たちは現金を持っていないので、お代は指輪で使う以外のダイヤをお譲りする形でいかがですか?」
金髪の店員さんは更に驚いた顔をした。
「それだと手間賃を考えても指輪が五個や六個分のお釣りがありますよ!?」
「いいじゃん、お客さんがそれでいいって言ってるんだからさぁ」
そう言いながらお姉さんはダイヤの原石をジロジロと見て、時々こんこんと鉱石を叩いて何かを確認している。
「見えているだけで三つ、多分中にも使えるのが四つくらいはあると思うよ」
「CTを撮らなくてもわかるんですか!?」
思わず大きい声を出してしまった。
「しーてぃー?」
「あ、いや、えーっと。私の国には鉱石のなかにどれだけ宝石があるか調べる技術があるんです」
「へぇーすごいね」
興味があるのかないのかわからない声を出しながら、相変わらずちびっ子お姉さんはダイヤの原石をジロジロと見ている。
「何個もあるみたいだし、とりあえず一つカットしてみようか?」
「お、お願いします!」
神業が眼の前で見れるというだけで、私の心は童心に帰ったかのように踊ってしまった。
◇ ◇ ◇
足踏みの動力装置で砥石を回し、砕いたダイヤモンド粉を使って加工していく。
確かに手段は時代相応の方法だけど、その速度は明らかに桁外れだった。
的確に形を取り、最低限の動きで加工し、何より迷いが無い。
恐らく、現代の機械を用いた手動の加工よりも早いだろう。
「天才職人って本当にいるんだなぁ……」
思わず声に出てしまった。
「お褒めいただき、ありがとうございます。私も宝石加工の技術は持っておりますが、姉のそれは別格ですので」
「オロさんよりも凄いのかい?」
「兄のオロも私より技術は優れておりますが、兄弟の中では姉が最も優れた技術を持っております」
「むぅ……」
昴くんは少し残念がった顔をしている。
多分、自分の行きつけの店で私を驚かせたかったのだろうけど、自分が知っている人よりも凄い技術者がいたうえに、私がその子に夢中になっているからだろう。
そういう子供っぽいところも嫌いじゃない。
「できたよー」
多分、まだ眠いのだろう、お姉さんがぶっきらぼうな顔で加工されたダイヤモンドを見せてきた。
サイズとしては一カラットにも満たない小さなものだったが……。
「――この形って!?」
「へへぇ、良いでしょそれ。最近考えたんだぁ」
その形に驚いた。今は十九世紀後半なのにも関わらずエクセレントカット――二十世紀後半に生み出されたカット方法が用いられていたのだ。
「ど、どうやってこれを!?」
「なんか、こう、いい感じに?」
理論じゃなくて感覚で作っちゃうとか、天才のそれだ……。
なるほど、この店がどの世界でも存在するというのがよくわかった……。
このお店には天才がいたんだ……。
「そ、それじゃあ! 本番ではこういう形にしてもらえますか!」
私は近くにあった紙と万年筆を使って図面を引き始めた。
――ハートアンドキューピッド。
上から見るとキューピットの矢が、下から見るとハートに見えるというエクセレントカットを元に作られたカットの形だ。
昴くんには言っていなかったけど、私が一番好きなダイヤモンドのカット方法だ。
この時代では絶対に作れないと思っていたのに……!
私の引く図面をお姉さんは興味深そうに、うんうんと唸って見ている。
「情熱的な奥様ですね」
「僕もこんなに熱い黒江ちゃんは初めて見たよ、まだまだ僕の知らない部分があるんだなぁ」
そっか、私は宝石を売る仕事に疲れていたけれど、宝石自体は好きだったんだ。
気がつくと小さいダイヤが付いた私と昴くんの結婚指輪が出来上がっていた。
ひねりの入った輪っか、メビウスの輪というやつだ。
よく『無限』の比喩として使われる形のことだ。
私達の新婚旅行が、そしてその愛が永遠に終わらないようにということで昴くんが提案した形状だ。
そこに未来から持ってきた一カラットにも満たない宝石をつける。
価値はそこまで高くないし、技術的にも現代の技術と比べたら高くはあるが実現可能な範囲だ。
でも、この世界で――全ての並行世界で二つしか存在しないペアリングだ。
そして、熱中していたから気が付かなかったけど、昴くんは私とお姉さんが指輪を作る姿を絵に残していた。
油断も隙もあったものじゃないなぁ。
私はつい確認をしてしまった。他意はない。
「はい……。姉です……。我々は孤児院で育ってこの店に養子に貰われたため、兄弟と言っても年齢ではなく養子になった順でして……」
金髪の店員さんは頭痛に悩まされるような顔でちびっ子のお姉さんを見ていた。
確かに、小学生のような年齢の女の子が姉というのは、複雑な心境だろう……。
「別にお姉さんでも妹さんでもなんでも構わないよ、素敵な結婚指輪を作ってもらえるなら。黒江ちゃん、ダイヤの入った鉱石見せてあげて」
「え、うん」
私はカバンから未来世界で手に入れたダイヤの原石を取り出して、近くにあったテーブルに置いた。
すると、金髪の店員さんは驚いた顔をして、お姉さんの方は興味深そうにジロジロと見ている。
「えぇっと、ダイヤの原石です。小粒だけど何個かダイヤが入っていると思うので、これで結婚指輪を作って欲しいんですけど……」
「僕たちは現金を持っていないので、お代は指輪で使う以外のダイヤをお譲りする形でいかがですか?」
金髪の店員さんは更に驚いた顔をした。
「それだと手間賃を考えても指輪が五個や六個分のお釣りがありますよ!?」
「いいじゃん、お客さんがそれでいいって言ってるんだからさぁ」
そう言いながらお姉さんはダイヤの原石をジロジロと見て、時々こんこんと鉱石を叩いて何かを確認している。
「見えているだけで三つ、多分中にも使えるのが四つくらいはあると思うよ」
「CTを撮らなくてもわかるんですか!?」
思わず大きい声を出してしまった。
「しーてぃー?」
「あ、いや、えーっと。私の国には鉱石のなかにどれだけ宝石があるか調べる技術があるんです」
「へぇーすごいね」
興味があるのかないのかわからない声を出しながら、相変わらずちびっ子お姉さんはダイヤの原石をジロジロと見ている。
「何個もあるみたいだし、とりあえず一つカットしてみようか?」
「お、お願いします!」
神業が眼の前で見れるというだけで、私の心は童心に帰ったかのように踊ってしまった。
◇ ◇ ◇
足踏みの動力装置で砥石を回し、砕いたダイヤモンド粉を使って加工していく。
確かに手段は時代相応の方法だけど、その速度は明らかに桁外れだった。
的確に形を取り、最低限の動きで加工し、何より迷いが無い。
恐らく、現代の機械を用いた手動の加工よりも早いだろう。
「天才職人って本当にいるんだなぁ……」
思わず声に出てしまった。
「お褒めいただき、ありがとうございます。私も宝石加工の技術は持っておりますが、姉のそれは別格ですので」
「オロさんよりも凄いのかい?」
「兄のオロも私より技術は優れておりますが、兄弟の中では姉が最も優れた技術を持っております」
「むぅ……」
昴くんは少し残念がった顔をしている。
多分、自分の行きつけの店で私を驚かせたかったのだろうけど、自分が知っている人よりも凄い技術者がいたうえに、私がその子に夢中になっているからだろう。
そういう子供っぽいところも嫌いじゃない。
「できたよー」
多分、まだ眠いのだろう、お姉さんがぶっきらぼうな顔で加工されたダイヤモンドを見せてきた。
サイズとしては一カラットにも満たない小さなものだったが……。
「――この形って!?」
「へへぇ、良いでしょそれ。最近考えたんだぁ」
その形に驚いた。今は十九世紀後半なのにも関わらずエクセレントカット――二十世紀後半に生み出されたカット方法が用いられていたのだ。
「ど、どうやってこれを!?」
「なんか、こう、いい感じに?」
理論じゃなくて感覚で作っちゃうとか、天才のそれだ……。
なるほど、この店がどの世界でも存在するというのがよくわかった……。
このお店には天才がいたんだ……。
「そ、それじゃあ! 本番ではこういう形にしてもらえますか!」
私は近くにあった紙と万年筆を使って図面を引き始めた。
――ハートアンドキューピッド。
上から見るとキューピットの矢が、下から見るとハートに見えるというエクセレントカットを元に作られたカットの形だ。
昴くんには言っていなかったけど、私が一番好きなダイヤモンドのカット方法だ。
この時代では絶対に作れないと思っていたのに……!
私の引く図面をお姉さんは興味深そうに、うんうんと唸って見ている。
「情熱的な奥様ですね」
「僕もこんなに熱い黒江ちゃんは初めて見たよ、まだまだ僕の知らない部分があるんだなぁ」
そっか、私は宝石を売る仕事に疲れていたけれど、宝石自体は好きだったんだ。
気がつくと小さいダイヤが付いた私と昴くんの結婚指輪が出来上がっていた。
ひねりの入った輪っか、メビウスの輪というやつだ。
よく『無限』の比喩として使われる形のことだ。
私達の新婚旅行が、そしてその愛が永遠に終わらないようにということで昴くんが提案した形状だ。
そこに未来から持ってきた一カラットにも満たない宝石をつける。
価値はそこまで高くないし、技術的にも現代の技術と比べたら高くはあるが実現可能な範囲だ。
でも、この世界で――全ての並行世界で二つしか存在しないペアリングだ。
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油断も隙もあったものじゃないなぁ。
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