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【偲愛】-ヨーコ=マサキ-

【偲愛】第一話「この世界には無いものを見に行こう」

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 ワシの名はヨーコ=マサキ。まぁ、大した人生は歩んでおらぬ。

 こちらでの名は漢字表記で『政木まさき 葉子ようこ』という名なのじゃが……。

 これは小僧こぞうが作った偽名ぎめいの一つでのう、あやつらしい直球な名で悪くないとは思っておる。

 【ルーラシード】の小僧と出会った頃は、千年生きたここのつのを持つ妖狐ヨーコ政木狐まさきぎつね』と呼ばれておった。人にけては世に出て様々な体験をして充実した生活をしていたものじゃ。

 九尾の狐というと大層なものかと思われるかもしれぬが、幾億とある並行世界に大抵一人はおるんじゃ、大した存在ではない。

 そして、ワシの並行世界へと渡ってきた小僧と出会ったのが、この旅の始まりじゃった……。


「――この世界には無いものを見に行こう」


 それはまるで口説くどき文句じゃった。全く……小僧が天然のたらしじゃったのは今に始まったことではない。

 千年生きた狐を口説く小僧がおるとは思わんかったし、それにちるほど安い女でもなかった。ただ、こいつに付いていくのは面白そうじゃ……。そう思ったのは少なくとも千年以上は前の話になる。


 ワシは元々、神々かみがみよりさずかりし神通力じんつうりきと呼ばれる力を持っておった。

 まぁなんだ、ワシの世界では神通力と呼んでおったのじゃが、小僧はサイコリライトシステムと呼んでおった。〈精神的な力で世界を書き換える機構〉という意味で、世界のことわりとしての名称はそちらが正式なものらしいが、長ったらしいからワシは相変わらず神通力と呼んでおる。

 話を戻すが、ワシの神通力は自ら動かずとも九つの尾の力を矢印に変換して自由に操り、あらゆる物を動かし、探知する事が出来る力じゃ。その名を『九尾の印ナインズアロー』という。名付け親はワシじゃ、かっこよかろう?

 一見するとペラペラな矢印がちゅうを舞っておるだけじゃが、矢印の形はワシが自由に変えることができる。

 細長い矢印を相手に突撃させればやりごと刺突しとつが、太く短い矢印では棍棒こんぼうのような打撃となる。

 じゅうに矢印を巻き付ければ、自由自在に操れる弾丸を撃ち出し、剣を持てば九刀流、地面に向かって矢印を放てば反動で高く跳び、筋肉に添わせて貼れば筋力を高める事もできる。

 探しものがあれば矢印に念を込めて飛ばせば近くを通った時に反応する。どれを取っても便利すぎる、ワシに似て万能で優秀な能力じゃ。

 それとは別に、妖狐の力としてメスの姿であればある程度自由にける事が出来る。そもそも、ワシら獣人は人間とは違う進化を遂げた人種じゃ。じゃから、人間の姿にならねば、けものの耳と九つの尾はどうしても目立ってしまうからのう。

 じゃから、この世界では黒髪で短髪の幼女ようじょの如き姿で活動しておる。大学とかいう幼子おさなごが通うまなへ調査におもむく必要があったからのう、本来のワシの白銀はくぎんに輝く長髪をなびかせたナイスバデーでは目立ってしまうからやむを得まい。


 【ルーラシード】と調査を始めたのは、単にあやつが面白かったからじゃ。幾年いくとせを生きたワシじゃったが、その中でも最も面白い人間じゃと言える。

 好きとか嫌いとかそういうものではなく『お気に入り』という表現が一番適当じゃろうか。

 あやつが何故レイラフォードとルーラシードを添い遂げさせるという使命を持っておるのかは、千年を越えた今でも知らんし興味もないが、あやつの調査にワシが必要だったこと、そしてワシは行く先の世界を見る面白さを見ること、そのお互いに利害が一致しておったから、共に世界を渡る旅をしておる。


 ワシの九尾の印ナインズアローには、先に説明した通り探知能力がある。

 例えば家のかぎを失くした馬鹿が「外だと誰かに見られると困るから……」と人目ひとめを気にして能力を使えずドアの前で座り込んでおっても、ワシが代わりに「家の鍵を探せ」と念じて探して見つけることができる。

 当たり前じゃが、主な使い方はレイラフォードとルーラシードの探索で、世界中に矢印を飛ばして、ひたすら絞り込んでいくという作業を行っておる。

 ただ、当然じゃが神通力を使っての調査は結構な時間を要する。

 大体これが短くて数年、通常は数十年単位でかかるゆえ、レイラフォードとルーラシードが見つかるまで、ワシはその世界をのんびりと観光をして過ごしておる。

 そして、見つけてからもその二人に接触し、二人を出会わせ、世界の分岐が確認できるまで見届ける必要がある。

 正直なところ、見つけてしまえばあとは小僧の能力でワープさせて、強制的にでも出会わせることは出来るから、見つけてしまえばワシらの任務は終わったも同然じゃ。

 じゃから、この世界でもいつも通り調査は簡単に終わると思っておった……。
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