24 / 39
【偲愛】-ヨーコ=マサキ-
【偲愛】第一話「この世界には無いものを見に行こう」
しおりを挟む
ワシの名はヨーコ=マサキ。まぁ、大した人生は歩んでおらぬ。
こちらでの名は漢字表記で『政木 葉子』という名なのじゃが……。
これは小僧が作った偽名の一つでのう、あやつらしい直球な名で悪くないとは思っておる。
【ルーラシード】の小僧と出会った頃は、千年生きた九つの尾を持つ妖狐『政木狐』と呼ばれておった。人に化けては世に出て様々な体験をして充実した生活をしていたものじゃ。
九尾の狐というと大層なものかと思われるかもしれぬが、幾億とある並行世界に大抵一人はおるんじゃ、大した存在ではない。
そして、ワシの並行世界へと渡ってきた小僧と出会ったのが、この旅の始まりじゃった……。
「――この世界には無いものを見に行こう」
それはまるで口説き文句じゃった。全く……小僧が天然のたらしじゃったのは今に始まったことではない。
千年生きた狐を口説く小僧がおるとは思わんかったし、それに堕ちるほど安い女でもなかった。ただ、こいつに付いていくのは面白そうじゃ……。そう思ったのは少なくとも千年以上は前の話になる。
ワシは元々、神々より授かりし神通力と呼ばれる力を持っておった。
まぁなんだ、ワシの世界では神通力と呼んでおったのじゃが、小僧はサイコリライトシステムと呼んでおった。〈精神的な力で世界を書き換える機構〉という意味で、世界の理としての名称はそちらが正式なものらしいが、長ったらしいからワシは相変わらず神通力と呼んでおる。
話を戻すが、ワシの神通力は自ら動かずとも九つの尾の力を矢印に変換して自由に操り、あらゆる物を動かし、探知する事が出来る力じゃ。その名を『九尾の印』という。名付け親はワシじゃ、かっこよかろう?
一見するとペラペラな矢印が宙を舞っておるだけじゃが、矢印の形はワシが自由に変えることができる。
細長い矢印を相手に突撃させれば槍の如き刺突が、太く短い矢印では棍棒のような打撃となる。
銃に矢印を巻き付ければ、自由自在に操れる弾丸を撃ち出し、剣を持てば九刀流、地面に向かって矢印を放てば反動で高く跳び、筋肉に添わせて貼れば筋力を高める事もできる。
探しものがあれば矢印に念を込めて飛ばせば近くを通った時に反応する。どれを取っても便利すぎる、ワシに似て万能で優秀な能力じゃ。
それとは別に、妖狐の力としてメスの姿であればある程度自由に化ける事が出来る。そもそも、ワシら獣人は人間とは違う進化を遂げた人種じゃ。じゃから、人間の姿にならねば、獣の耳と九つの尾はどうしても目立ってしまうからのう。
じゃから、この世界では黒髪で短髪の幼女の如き姿で活動しておる。大学とかいう幼子が通う学び舎へ調査に赴く必要があったからのう、本来のワシの白銀に輝く長髪をなびかせたナイスバデーでは目立ってしまうからやむを得まい。
【ルーラシード】と調査を始めたのは、単にあやつが面白かったからじゃ。幾年を生きたワシじゃったが、その中でも最も面白い人間じゃと言える。
好きとか嫌いとかそういうものではなく『お気に入り』という表現が一番適当じゃろうか。
あやつが何故レイラフォードとルーラシードを添い遂げさせるという使命を持っておるのかは、千年を越えた今でも知らんし興味もないが、あやつの調査にワシが必要だったこと、そしてワシは行く先の世界を見る面白さを見ること、そのお互いに利害が一致しておったから、共に世界を渡る旅をしておる。
ワシの九尾の印には、先に説明した通り探知能力がある。
例えば家の鍵を失くした馬鹿が「外だと誰かに見られると困るから……」と人目を気にして能力を使えずドアの前で座り込んでおっても、ワシが代わりに「家の鍵を探せ」と念じて探して見つけることができる。
当たり前じゃが、主な使い方はレイラフォードとルーラシードの探索で、世界中に矢印を飛ばして、ひたすら絞り込んでいくという作業を行っておる。
ただ、当然じゃが神通力を使っての調査は結構な時間を要する。
大体これが短くて数年、通常は数十年単位でかかる故、レイラフォードとルーラシードが見つかるまで、ワシはその世界をのんびりと観光をして過ごしておる。
そして、見つけてからもその二人に接触し、二人を出会わせ、世界の分岐が確認できるまで見届ける必要がある。
正直なところ、見つけてしまえばあとは小僧の能力でワープさせて、強制的にでも出会わせることは出来るから、見つけてしまえばワシらの任務は終わったも同然じゃ。
じゃから、この世界でもいつも通り調査は簡単に終わると思っておった……。
こちらでの名は漢字表記で『政木 葉子』という名なのじゃが……。
これは小僧が作った偽名の一つでのう、あやつらしい直球な名で悪くないとは思っておる。
【ルーラシード】の小僧と出会った頃は、千年生きた九つの尾を持つ妖狐『政木狐』と呼ばれておった。人に化けては世に出て様々な体験をして充実した生活をしていたものじゃ。
九尾の狐というと大層なものかと思われるかもしれぬが、幾億とある並行世界に大抵一人はおるんじゃ、大した存在ではない。
そして、ワシの並行世界へと渡ってきた小僧と出会ったのが、この旅の始まりじゃった……。
「――この世界には無いものを見に行こう」
それはまるで口説き文句じゃった。全く……小僧が天然のたらしじゃったのは今に始まったことではない。
千年生きた狐を口説く小僧がおるとは思わんかったし、それに堕ちるほど安い女でもなかった。ただ、こいつに付いていくのは面白そうじゃ……。そう思ったのは少なくとも千年以上は前の話になる。
ワシは元々、神々より授かりし神通力と呼ばれる力を持っておった。
まぁなんだ、ワシの世界では神通力と呼んでおったのじゃが、小僧はサイコリライトシステムと呼んでおった。〈精神的な力で世界を書き換える機構〉という意味で、世界の理としての名称はそちらが正式なものらしいが、長ったらしいからワシは相変わらず神通力と呼んでおる。
話を戻すが、ワシの神通力は自ら動かずとも九つの尾の力を矢印に変換して自由に操り、あらゆる物を動かし、探知する事が出来る力じゃ。その名を『九尾の印』という。名付け親はワシじゃ、かっこよかろう?
一見するとペラペラな矢印が宙を舞っておるだけじゃが、矢印の形はワシが自由に変えることができる。
細長い矢印を相手に突撃させれば槍の如き刺突が、太く短い矢印では棍棒のような打撃となる。
銃に矢印を巻き付ければ、自由自在に操れる弾丸を撃ち出し、剣を持てば九刀流、地面に向かって矢印を放てば反動で高く跳び、筋肉に添わせて貼れば筋力を高める事もできる。
探しものがあれば矢印に念を込めて飛ばせば近くを通った時に反応する。どれを取っても便利すぎる、ワシに似て万能で優秀な能力じゃ。
それとは別に、妖狐の力としてメスの姿であればある程度自由に化ける事が出来る。そもそも、ワシら獣人は人間とは違う進化を遂げた人種じゃ。じゃから、人間の姿にならねば、獣の耳と九つの尾はどうしても目立ってしまうからのう。
じゃから、この世界では黒髪で短髪の幼女の如き姿で活動しておる。大学とかいう幼子が通う学び舎へ調査に赴く必要があったからのう、本来のワシの白銀に輝く長髪をなびかせたナイスバデーでは目立ってしまうからやむを得まい。
【ルーラシード】と調査を始めたのは、単にあやつが面白かったからじゃ。幾年を生きたワシじゃったが、その中でも最も面白い人間じゃと言える。
好きとか嫌いとかそういうものではなく『お気に入り』という表現が一番適当じゃろうか。
あやつが何故レイラフォードとルーラシードを添い遂げさせるという使命を持っておるのかは、千年を越えた今でも知らんし興味もないが、あやつの調査にワシが必要だったこと、そしてワシは行く先の世界を見る面白さを見ること、そのお互いに利害が一致しておったから、共に世界を渡る旅をしておる。
ワシの九尾の印には、先に説明した通り探知能力がある。
例えば家の鍵を失くした馬鹿が「外だと誰かに見られると困るから……」と人目を気にして能力を使えずドアの前で座り込んでおっても、ワシが代わりに「家の鍵を探せ」と念じて探して見つけることができる。
当たり前じゃが、主な使い方はレイラフォードとルーラシードの探索で、世界中に矢印を飛ばして、ひたすら絞り込んでいくという作業を行っておる。
ただ、当然じゃが神通力を使っての調査は結構な時間を要する。
大体これが短くて数年、通常は数十年単位でかかる故、レイラフォードとルーラシードが見つかるまで、ワシはその世界をのんびりと観光をして過ごしておる。
そして、見つけてからもその二人に接触し、二人を出会わせ、世界の分岐が確認できるまで見届ける必要がある。
正直なところ、見つけてしまえばあとは小僧の能力でワープさせて、強制的にでも出会わせることは出来るから、見つけてしまえばワシらの任務は終わったも同然じゃ。
じゃから、この世界でもいつも通り調査は簡単に終わると思っておった……。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる