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Episode1 異変
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それから数日経ち、金曜日の五限終了後。立ち去る学生の群れが散って行く。
「たなやん。少し時間ある?」
「一時間くらいなら」
珍しいクルからの指名に、スマホの電源ボタンを押して時間表示を見た。
「余裕」
短い返事が聞こえ、立つ。
「俺らバイトだから先行くわ」
「ん。たなやん、ラウンジ行こ」
「うい」
手を振るカマたち四人とは、反対方向へと歩き出す。
(わざわざ放課後に、腰を下ろして話すほどの何かがあるんだろうか?)
いつ何時でも眠そうで。かと言って、さぼる訳でもないクルの学内での様子からして。あまり誰かを呼び出している印象が湧かない。
「自販で飲み物買うから、先、座ってて」
「そんなに長くなんの?」
「喉乾いただけ」
「そっすか」
知り合ったばかりの頃は怒っているのかと思っていた簡潔な言い方も、すっかり慣れて、六人掛けの席に着く。
金曜だから、終わり次第下校したいのだろう。
人がまばらなラウンジに、缶コーラを開ける音が響いた。
目の前で飲む茶髪頭に修が尋ねる。
「なんか込み入った話?」
「そうなんじゃないの?」
「えっ?クルさん話があるんじゃ」
「俺は誰かさんから、たなやんが悩んでるっぽいから話聴いてやってくれって言われたんだけど」
「誰の助?」
「古臭っ」
厳しいツッコミに、一口飲んで置かれた缶へと修は視線を逸らす。
「悩んでないなら、俺は解散で良いけど。たなやんは?」
「んーー」
心当たりがないわけではない問いかけに、じっとコーラ缶を見つめ続ける。
「揺れてるけど?」
「揺すってんの」
テーブル越しに伝わる修の貧乏揺すりと曖昧な態度で、何かがあるのは丸分かりだ。
「なんかさ、口にして的を得てたらさ。ショックなことってあんじゃん?あれなんだよ、多分」
「誰にも言いたくないの?俺だから言いたくないの?」
こういう結論を急ぐ辺りは、クルの要領の良さを痛感する。
「前者かな?」
「それでなんとかなんの?」
「解決すんの?」ではなく、あくまでも修の中でなんとかなれば良い。ある程度の距離が保たれたスタンス。
この場で飲み切ってしまえる缶飲料をチョイスしたことといい、効率重視の彼らしい。
「限界きたら、改めてクルさん。聞いてもらって良い?」
炭酸で塞がれた口元から「ン」と、いつもの無駄のない相槌が聞こえた。
カコンッとゴミ箱の蓋をくぐった缶の音で、誰かがクルに、修の話をしていたことを思い出す。
前を行くやや小柄な背中に投げかける。
「 なぁ、誰から聞いたん?俺の話」
「ンーー。生姜焼き?イヤ、唐揚げだったかな?」
「なんだそれ」
(流行ってんのか?周りの人間を食べ物で例えるの。生姜焼きなら、カマがよく学食で食べてはいる。でも。皆よく食ってんだよなぁ……)
一番確率の高そうなやつに見当を付けて、修はクルと別れた。
「たなやん。少し時間ある?」
「一時間くらいなら」
珍しいクルからの指名に、スマホの電源ボタンを押して時間表示を見た。
「余裕」
短い返事が聞こえ、立つ。
「俺らバイトだから先行くわ」
「ん。たなやん、ラウンジ行こ」
「うい」
手を振るカマたち四人とは、反対方向へと歩き出す。
(わざわざ放課後に、腰を下ろして話すほどの何かがあるんだろうか?)
いつ何時でも眠そうで。かと言って、さぼる訳でもないクルの学内での様子からして。あまり誰かを呼び出している印象が湧かない。
「自販で飲み物買うから、先、座ってて」
「そんなに長くなんの?」
「喉乾いただけ」
「そっすか」
知り合ったばかりの頃は怒っているのかと思っていた簡潔な言い方も、すっかり慣れて、六人掛けの席に着く。
金曜だから、終わり次第下校したいのだろう。
人がまばらなラウンジに、缶コーラを開ける音が響いた。
目の前で飲む茶髪頭に修が尋ねる。
「なんか込み入った話?」
「そうなんじゃないの?」
「えっ?クルさん話があるんじゃ」
「俺は誰かさんから、たなやんが悩んでるっぽいから話聴いてやってくれって言われたんだけど」
「誰の助?」
「古臭っ」
厳しいツッコミに、一口飲んで置かれた缶へと修は視線を逸らす。
「悩んでないなら、俺は解散で良いけど。たなやんは?」
「んーー」
心当たりがないわけではない問いかけに、じっとコーラ缶を見つめ続ける。
「揺れてるけど?」
「揺すってんの」
テーブル越しに伝わる修の貧乏揺すりと曖昧な態度で、何かがあるのは丸分かりだ。
「なんかさ、口にして的を得てたらさ。ショックなことってあんじゃん?あれなんだよ、多分」
「誰にも言いたくないの?俺だから言いたくないの?」
こういう結論を急ぐ辺りは、クルの要領の良さを痛感する。
「前者かな?」
「それでなんとかなんの?」
「解決すんの?」ではなく、あくまでも修の中でなんとかなれば良い。ある程度の距離が保たれたスタンス。
この場で飲み切ってしまえる缶飲料をチョイスしたことといい、効率重視の彼らしい。
「限界きたら、改めてクルさん。聞いてもらって良い?」
炭酸で塞がれた口元から「ン」と、いつもの無駄のない相槌が聞こえた。
カコンッとゴミ箱の蓋をくぐった缶の音で、誰かがクルに、修の話をしていたことを思い出す。
前を行くやや小柄な背中に投げかける。
「 なぁ、誰から聞いたん?俺の話」
「ンーー。生姜焼き?イヤ、唐揚げだったかな?」
「なんだそれ」
(流行ってんのか?周りの人間を食べ物で例えるの。生姜焼きなら、カマがよく学食で食べてはいる。でも。皆よく食ってんだよなぁ……)
一番確率の高そうなやつに見当を付けて、修はクルと別れた。
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