【完結】王甥殿下の幼な妻

花鶏

文字の大きさ
上 下
94 / 114
最終章

10

しおりを挟む


 すれ違いもいいところだ。

「……この二年間、それなりに話し合ってきたつもりだったのに、全然理解し合えていなかったんだな……」
「そうなんですか? でもわたくしは、マティアス様のいつも対話を試みるところ、分からなくても気持ちを尊重しようとなさるところ、とても好きです」

 そんな風に思っていたなんて知らなかった。
 今までも女性にちやほやされたことがないではないが、その理由は主に肩書、財力、武力だったと思う。
 リリアが褒めてくれる長所ならば、なくさないよう努めよう、と思ってからはたと気づく。

 自分も、彼女に伝えていないことがある。

 本音を言えば、こんな格好のつかない状況で言いたくない。
 とっておきのプレゼントを抱えて、夜景の美しい高台だとか、夕陽が映える海辺だとか、王宮の神殿だとか―――少しでもリリアの喜んでくれそうな場所で、格好良く伝えたい。


 だが、今、言うべきだという気がした。


「リリア」
「はい」

 耳を傾けてくれるリリアの前で跪いたまま、マティアスはひとつ息を吸ってから、言った。


「貴女が、好きだ」


 リリアはきょとんと目を見開く。

「………………それは、男女の、好き?」
「うん」
「わたくしを、子どもだと思っているのに?」
「そうだ」
「……でも………マティアス様、ロリコンは、変態で嫌だって」
「貴女を好きでいることが変態なら、もう変態でいい」

 暫く呆然としていたリリアは、マティアスの言葉がようやく咀嚼できたのか、困った顔で雪肌を真っ赤に染めた。

 意外な反応にマティアスは驚く。
 淡々と「そうですか」とか言われるのかと思っていたのに。
 下がりきった眉でわなわなと唇を震わせる、見たことのない顔が無性に可愛い。

 なにやら体がそわそわと落ち着かない。
 キスがしたいのだと思い至って火照った頬に触れると、リリアの体がびくりと跳ねた。

「………嫌か」
「いや、じゃないですけど、待って、」

 青い瞳が再び潤み、リリアはそれを隠すように交差させた腕で顔を隠す。

「……なんでだ。いつも全然平気じゃないか」

 以前は無理矢理組み敷いても胸を晒してもけろりとしていたし、ついさっきも自分から抱いてほしいと言っていたのではなかったか。

「だ、だって、だってマティアス様が、わたくしを好きって……」
「それが?」
「だって、そしたら、全然違う………」

 言っている意味がよく分からない。

 俺が彼女を好きでないなら何をしても構わないのに、好きならだめなのか。
 いや、全然分からない、どういうことだ。

「俺は、貴女が嫌でなければ触りたい」
「待って、あの」
「嫌じゃないなら、待たない」
「いや、じゃ、ないですけど、」
「確認するが、俺のことが好きで、間違いないな?」
「……すき、です、けど」

 紅潮した頬で目を逸らす姿に頭がくらりとする。

 顔を庇うようにしているリリアの腕をゆっくりどけて、細い首裏に手を滑らせる。リリアはまたびくりと震えて目に涙を溜めた。触れる首筋が心配になるほど熱い。

「……マティアス、様……おねがい、…待って……」

 震える吐息に自分の名前が混じるのを聞いて何かが背筋を走る。

 涙を滲ませる目と視線が絡み、一瞬世界が白くなったかと思うと、気づけばリリアの身体を寝台に縫い付けて噛み付くようなキスをしていた。

 眉間から耳朶に唇を這わせる。
 その度にマティアスの下で細い体が痙攣する。リリアが小さく啼く甘い声が腹に響き、脳に抗い難い蜜をかける。

 この、声が、抱いても良いと言った。

 好きだから、抱いても良い、と言ったはずだ。

 正当性を主張する本能の喚きに理性の声が掻き消された。
 無骨な手でリリアの頭を鷲掴みにしながら、小さく抵抗する唇を舌でこじ開ける。

「や……」

 溶け合う熱い吐息が愛しい人のものだと思うと、未だ嘗て味わったこともないほどの快感に脳髄が痺れた。

「マティアス様、マティアス様、待って……」

 抗うリリアの口を塞いで、寝衣の裾をたくし上げる。筋肉質な腕が、太腿から這い上るように白い体をなぞり、控えめな胸の膨らみをとらえて―――



 ―――マティアスは天蓋の柱を殴った。


「………………………
 ……………貴女は、まだ、十五だった……」






.
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

ボディガードはオジサン

しょうわな人
ファンタジー
鴉武史(からすたけふみ)40歳。 最近異世界から地球の日本に戻って来ました。 15歳で異世界に拉致されて、何とかかんとか異世界を救った。25年もかかったけど。 で、もう異世界で生涯を終えるものと思っていたら、用事は終わったから帰ってねって地球に送り返された…… 帰ると両親共に既に亡く、辛うじて誰も手を入れてない実家は元のままあった。で、名義がどうなってるのか調べたらそのまま自分の名義で固定されていた。どうやら同級生たちが鴉はいつか帰ってくるって言って、頑張ってくれてたらしい…… 持つべきものは友だと涙した…… けれどもコッチで生きていくのには色々と面倒な事がある…… 相談出来る相手は一人しか思いつかない…… アイツに相談しよう! ✱導入部分が少し長いかもです。  カクヨムからの転載です。転載に際して改稿しております。カクヨム版とは少し趣が違う風になってる筈……

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

処理中です...