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最終章
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しおりを挟むすれ違いもいいところだ。
「……この二年間、それなりに話し合ってきたつもりだったのに、全然理解し合えていなかったんだな……」
「そうなんですか? でもわたくしは、マティアス様のいつも対話を試みるところ、分からなくても気持ちを尊重しようとなさるところ、とても好きです」
そんな風に思っていたなんて知らなかった。
今までも女性にちやほやされたことがないではないが、その理由は主に肩書、財力、武力だったと思う。
リリアが褒めてくれる長所ならば、なくさないよう努めよう、と思ってからはたと気づく。
自分も、彼女に伝えていないことがある。
本音を言えば、こんな格好のつかない状況で言いたくない。
とっておきのプレゼントを抱えて、夜景の美しい高台だとか、夕陽が映える海辺だとか、王宮の神殿だとか―――少しでもリリアの喜んでくれそうな場所で、格好良く伝えたい。
だが、今、言うべきだという気がした。
「リリア」
「はい」
耳を傾けてくれるリリアの前で跪いたまま、マティアスはひとつ息を吸ってから、言った。
「貴女が、好きだ」
リリアはきょとんと目を見開く。
「………………それは、男女の、好き?」
「うん」
「わたくしを、子どもだと思っているのに?」
「そうだ」
「……でも………マティアス様、ロリコンは、変態で嫌だって」
「貴女を好きでいることが変態なら、もう変態でいい」
暫く呆然としていたリリアは、マティアスの言葉がようやく咀嚼できたのか、困った顔で雪肌を真っ赤に染めた。
意外な反応にマティアスは驚く。
淡々と「そうですか」とか言われるのかと思っていたのに。
下がりきった眉でわなわなと唇を震わせる、見たことのない顔が無性に可愛い。
なにやら体がそわそわと落ち着かない。
キスがしたいのだと思い至って火照った頬に触れると、リリアの体がびくりと跳ねた。
「………嫌か」
「いや、じゃないですけど、待って、」
青い瞳が再び潤み、リリアはそれを隠すように交差させた腕で顔を隠す。
「……なんでだ。いつも全然平気じゃないか」
以前は無理矢理組み敷いても胸を晒してもけろりとしていたし、ついさっきも自分から抱いてほしいと言っていたのではなかったか。
「だ、だって、だってマティアス様が、わたくしを好きって……」
「それが?」
「だって、そしたら、全然違う………」
言っている意味がよく分からない。
俺が彼女を好きでないなら何をしても構わないのに、好きならだめなのか。
いや、全然分からない、どういうことだ。
「俺は、貴女が嫌でなければ触りたい」
「待って、あの」
「嫌じゃないなら、待たない」
「いや、じゃ、ないですけど、」
「確認するが、俺のことが好きで、間違いないな?」
「……すき、です、けど」
紅潮した頬で目を逸らす姿に頭がくらりとする。
顔を庇うようにしているリリアの腕をゆっくりどけて、細い首裏に手を滑らせる。リリアはまたびくりと震えて目に涙を溜めた。触れる首筋が心配になるほど熱い。
「……マティアス、様……おねがい、…待って……」
震える吐息に自分の名前が混じるのを聞いて何かが背筋を走る。
涙を滲ませる目と視線が絡み、一瞬世界が白くなったかと思うと、気づけばリリアの身体を寝台に縫い付けて噛み付くようなキスをしていた。
眉間から耳朶に唇を這わせる。
その度にマティアスの下で細い体が痙攣する。リリアが小さく啼く甘い声が腹に響き、脳に抗い難い蜜をかける。
この、声が、抱いても良いと言った。
好きだから、抱いても良い、と言ったはずだ。
正当性を主張する本能の喚きに理性の声が掻き消された。
無骨な手でリリアの頭を鷲掴みにしながら、小さく抵抗する唇を舌でこじ開ける。
「や……」
溶け合う熱い吐息が愛しい人のものだと思うと、未だ嘗て味わったこともないほどの快感に脳髄が痺れた。
「マティアス様、マティアス様、待って……」
抗うリリアの口を塞いで、寝衣の裾をたくし上げる。筋肉質な腕が、太腿から這い上るように白い体をなぞり、控えめな胸の膨らみをとらえて―――
―――マティアスは天蓋の柱を殴った。
「………………………
……………貴女は、まだ、十五だった……」
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