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第一章 幼な妻の輿入れ
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しおりを挟む王弟令息マティアス・ヴィリテの屋敷は、白亜のヴィリテ城の北西に位置する。
王宮に近く、庭園も大きく、街にも出やすく、辣腕家で知られるイリッカ・ヴィリテ王弟妃が、とある豪商が失脚した時にいつの間にか王弟名義にしてしまった最上級の不動産である。
先月のマティアスの婚礼に合わせて、マティアスと住み込みの従者達が入居した時には、既に半年前から住んでいる側妃によって屋敷は整えられていた。
「センスないって言うか、お行儀のいい内装だよねぇ」
主人でもあり従弟でもあるマティアスの部屋を見渡してアーネストはしみじみ言う。
侍従であるアーネストに与えられた部屋も同様であったが、この一月でほぼカスタマイズは終了した。マティアスは多忙のため、そんなことは後回しになっているのだろう。
屋敷内を整えるのも女主人の仕事であり、成金趣味だった以前の内装は全て廃棄され、王弟家の教師アリーダの指導の元、側妃が選んだものらしい。
内装に関するルールは網羅されているが、洒落っ気も華やかさもない。
「まー、アルムベルクは公爵領と言っても金がないとこだからな……」
熱心に書類を読むマティアスに話しかけたが、回答がない。元々マティアスは将軍を目指していて、本人の資質も誰からみても武人寄りだった。
体の弱い王太子の補佐をする為に昼夜を問わず大量の書類を捌いているが、彼の能力はいち官吏としては十分すぎるものであっても、国を左右するにはまだまだ力不足の感が否めない。
「……今更、ルドルフ様みたいに奔放には生きられないか」
「あいつはあいつで責務を果たしている」
「マティアスは、もう将軍は目指さないの?」
「………やっぱり俺に文官は無理か」
珍しく弱気なことを言う。
「全然、その辺の奴らよりこなしてるよ。
どうした?」
リリアから案をもらい、イリッカ王弟妃からの側妃増加計画第一弾を無難に打ち返して、先週はご機嫌だったはず。
内容が纏まらず間に合わないかもしれなかった提言書も、リリアの部屋にこっそり持ち込めたおかげで邪魔も入らず、無事に評議会に提出できたと言っていたのに。
「この間の提言書、はっきり言って凄いと思ったぞ?
各所からの山のような要望をパズルみたいに噛み合わせてあって、ちょっと目を疑った」
「………俺の成果ではない」
「ん?」
「纏まらなくて、リリアの茶卓に広げていたら、ひっくり返してしまって……突き合わせる為に紙留めも外していて、殆どバラバラになってしまった。
惨状に呆然としていたら、リリアが、書類は拾って纏めておくから仮眠をとれと言って」
「えっ、リリアちゃん優しい!」
「人の妻をちゃん付で呼ぶな」
「今度本人に呼んでいいか聞いてみよ。
でもすごいな、バラけたあの量の書類を元に戻せたんだ」
「…………起きたら、パズルの解答順に並んでいた」
「え」
「部署を跨ぐものには全て註釈が入っていた」
そして、一部変更が必要なものには関係法令がメモされていた。
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