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プロローグ
しおりを挟むーーそれは二年と言う月日の思い出。
ーージリリリ。
いつものようにセットしてある目覚ましが静かな部屋に鳴り響く。
その音を聞いて俺は目を覚ますも布団を頭から被りもぞもぞと動いている。
「ふあぁあ~……ねみぃ……」
俺はバサっと布団を起こし大きなあくびをしながらベットから起きると一階のリビングへと向かう。
リビングの扉を開けるとキッチンのほうからコトコトと鍋を火にかけている音と何か野菜を切っている音が聞こえてくる。
俺の名前は、愛川竜也。十七歳、高校ニ年。どこにでもいるごくごく普通な男子高校生だ。
勉強に関しても特別頭がいいわけでもないし、モテる訳でもない、もちろん彼女も今までできた事もないというかなんというか……
家庭の事、学校、バイト忙しすぎて彼女なんていてもとてもじゃないけどやっていける自信はなかった。
俺はキッチンの横にある洗面所に向かうとキッチンでご飯支度をしていた人物が話しかけてきた。
「あっ!竜にぃ、おはよ~!」
「おはよう、琴音」
こいつは、愛川琴音。俺の妹だ。年は十六歳、高校一年生。
髪は黒にいつも髪型をポニーテールにするのが今のマイブームらしい。身長はまぁ、百五十センチくらいか。
性格は明るく優しい感じだ。勉強も俺なんかとは比べ物にならないくらいできるし、部活はバスケ部で頑張っているらしい。
俺の家は母さんと父さんがニ年前に事故で他界し、今はこの一軒家に妹の琴音と二人暮らしだ。
「竜にぃ、私、朝練あるから先いくねー?ご飯はテーブルの上に置いてあるからね?」
琴音は洗面所に顔をチラっと覗かせてニコっと微笑んだ。
「ああ! わかった、気おつけてな」
「うんっ、いってきまーす!」
バタンという玄関の扉を閉める音が聞こえてくる。
俺は冷たい水で顔を洗いタオルで顔を拭きながら思っていた。
(琴音には毎日、世話かけちまってるなぁ)
両親が他界してからというもの琴音は家事全般を大変ながらもやってくれている。
何をやるにも不器用な俺だっただけに本当に琴音にはいつも助けられていた。
俺は洗面所を出るとテーブルの上に置いてある朝飯を食べ始める。
今日の朝飯はご飯に豆腐とネギの味噌汁、目玉焼きにベーコン。
周りから見ればごくごく普通の朝飯だが俺にとっては最高に美味い朝飯だった。
「ごちそうさまっと」
俺は食器を洗って片ずけ、急いで制服に着替え学校に向かおうと家を出るといつもの二人が声をかけてきた。
「おーっす!竜也」
「おはよ、竜くんっ」
「おはよ、美由、隼人」
こいつらは、俺のダチ。高瀬美由に柏木隼人。
美由は小さい頃からの幼馴染で、両親が昔からの知り合い同士ってのもあって家族ぐるみでキャンプに行ったり二人で公園で遊んだりよくしたもんだ。
そんなこともあって両親が他界した時も色々と本当に世話になったし、琴音の事も自分の妹のように可愛がってくれてるし琴音も美由お姉ちゃんと慕ってるくらいだ。
隼人は明るく、誰とでもすぐに仲良くなれる社交的な奴。中学からの親友で大の女好きでアニメオタクだ。
まぁ、高校への進学をどうするかって時に隼人の奴が今通ってる風見渚高校の女子のレベルが高いだのなんだのいって半ば強制的に俺も連行されたようなもんだ。
「あれ?竜也。 今日は琴音ちゃんは一緒じゃないのか?」
「ん? あぁ、今日は部活の朝練があるからって先に学校に行ってるぞ?」
「ま、まじかよー……俺の日々の栄養成分がぁあああ!」
おい……栄養成分って……相変わらずだな本当にこいつは。そこまで行くといくら俺でもドン引きしてしまうぞ隼人よ……
「あはは……本当隼人くんは琴音ちゃん大好きだもんねぇ」
美由が苦笑いしながら隼人を見ていると、全身に闘志をみなぎらせながらガッツポーズをしながら隼人が叫ぶ。
「もちろんだぁぁぁあ! 妹は神ッ! 妹は癒しッ!この世で妹に勝る者など他にはなぁああい!」
うわ~これは重症だわ。ハッキリ言って末期だぞ隼人よ……
隼人はくるくるくると回転しながら俺の片手を握りしめ跪いた。
「お兄様、是非妹様を私の嫁にーーゴォファ!!」
隼人が言うより先に俺の目潰しが襲っていた。
「へーへー、お前にだけは死んでもやらん」
「ぁぁぁぁ!目がぁ!目がぁ!」
隼人は道端で顔を手で押さえながらゴロゴロとのたうち回っている。
「はぁ……本当、隼人くんそのネタ飽きないよね……ある意味尊敬するよ~」
「おい、美由よ。これのどこを尊敬すると言うのだ」
「ん~、不屈の精神的なかなぁ?」
おーい……美由よ、それはなんか違う気がするぞ……
不屈の精神というよりはこいつの場合ただの妄想オタクなだけだ!!
「そう! これぞまさに不屈の精神ッ! 俺は負けんッ! 負けんぞぉぉぉ!」
だめだこりゃ。完全に隼人の精神は違う方向へ向かっている。
隼人はうおー!と言いながら物凄い勢いで学校に向かって猛ダッシュしていった。
「隼人くん相変わらず朝から元気だねぇ」
「はぁ……朝からあのテンションにはついてけねぇわ」
「あはは……」
そう言うと俺と美由はゆっくり学校へ向けて歩き出すと俺は口を開く。
「しっかし、隼人の奴なんであそこまで妹にこだわるのかねぇ」
「う~ん、でも妹がいない男の子からしてみたら妹がほしいな~とか1度は思うんじゃないかなぁ。」
「へー、そういうもんなのか?」
「それに今流行ってるみたいだしね」
「はぁ~?! 流行ってるって妹がか?!」
「あ! ちがうちがう! そうじゃなくてアニメの話だよぉ」
「アニメ?」
美由から話を聞くも正直言って良くわからなかった。詳しい内容までは美由も知らないらしいが、要は妹が兄に恋心を抱いているという設定らしい。
ーー俺にとっては全く理解できない話だった。
学校に着いた俺達はホームルームを終えるといつものように教室の窓際で美由、隼人とダラダラ喋っているとクラスの女子がキャーキャーいいながら話をしていた。
「あー、いいよなぁ、妹」
隼人がポツリと呟く。
「あはは……隼人くんまだいってるし」
「お前なぁ、妹しか頭にないのかー?」
「いやいやいや! 決してそんな事はないぞ?! 」
ほんとかよ……隼人が言うと全くもって信憑性に欠けるんだがなぁ。
かと言っても、実際問題、実の兄妹が恋に落ちるとかそれこそ空想、妄想の類いだ。
まぁでも、実際その人によって理想像はまるっきり違うだろうし、色んな理想の妹っていうのが存在するからそう言った話も出てくるんだろうが。
と、まぁこんな事を考えていると時間が過ぎるのも早いわけであっと言う間に昼休みになった。
俺は隼人と二人で昼飯を食うため屋上にきていた。
「あー、やっぱ屋上で食う飯はうめぇな!」
「はは、野郎二人で虚しくだけどな?」
隼人は空を見上げながら悲しそうに言っていた。
まぁ、隼人の言う事もわからなくもない。高校に入ってからというもの彼女も作らずほんとよく俺なんかと仲良くやってくれていると思う。
隼人なら社交的だし、誰からも好かれるタイプだからすぐにでも彼女くらいできそうなんだが。
「なぁ、竜也」
「ん?」
「あんま無理はすんなよな、お前がぶっ倒れたりしたら、琴音ちゃんも、高瀬だってそうだ、きっとみんな悲しむぜ」
「へーへー、わかってるよ」
だけどこのときはまだ何もわかってなどいなかった。
ーーそう、何も。
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