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第一章 始まりは浮遊島。

第7号 ぼーいみーつがーる。2/2

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 こうして、今にいたる。途中、色々ととばしたが、君達の想像どおり、飛空艇の操縦になれていない事と睡眠不足を理由にヒルトがヘマをし、そして少女のいる場所に不時着した。
 ただそれだけだ。

 話に戻る。
 ヒルトは先の不時着で気絶しており、少女が自分のベッドに寝かせ隣の椅子に座り看病をしていた。
 それから数時間は経っている。
 しゃくしゃくしゃく。耳元で騒音でないほどの、何やらほんの少し聞き心地のよい音がする。
 しゃくしゃく、しゃくしゃくしゃく。
 寝返りをうつ。しゃくしゃくしゃくしゃく。
「…ん。……んん。」
 ヒルトの眉毛が、その音にストレスを感じたのか、ピクリと動いた。しゃくしゃくしゃくしゃく。
「…んん。んん、う、うるさぁぁぁい‼️」
「ひゃっ‼️」
 ヒルトは自分の体の上に置かれた暖かい布団を勢いよく押しのけた。

 果物の転がる音だけが響く、数秒の沈黙。
 ヒルトは起こした体を回し周りをゆっくり見渡す。少女はびっくりした反動で落とした、さっきまで食べていた果物を拾っている。

 _目があった。まばたきを一つ。
「ええっと…。誰?」
 ピクンッ。少女はヒルトに話しかけられ驚いたのか、椅子に座りかけていた自分の体を上下に動かした。
「あ、えっと。ごめん。ああーとっ。ぼ、僕はヒルト。ヒルト・ジレーン。…ここって、君のお家?」
 改めて周りを見渡す。

 アンティークというのだろうか、古いが逆に興味をそそらされるような格好のいい時計などが棚の上にずらっと並んでいる。ベッドや窓枠は木製で、いかにも西洋のいいとこの家、という感じがする。
 隣に座っている少女も西洋のソレで、透けたようにきれいな金髪に淡い緑色の瞳を持っていた。
「…そう、だよ。私のお家。…んと、君が倒れてたから、つれてきたの。…わた、しは、レイ。」
 少女、レイは見た目(13歳ほど)より少々かわいらしい声で、おどおどと、それでもしっかり話してくれる。
「そ、そうなんだ。ありがとう、レイ。」
 (…大丈夫…なのかな?この子…。)苦笑い。
「あ、でも。それ、ちょっと違う。」
 (え。)
「こっちこそ、ありがとう。…えっと、ヒルトさん?…が、火を消してくれなかったら、おとーさん達が丸焦げだった。」
 (あ、なるほど。そっちか。びっくりした、心でも読まれたかと…。)少しの安心感が顔を緩める。

「あ。いや、その火事はもともと僕が起こしたものだし、自分が付けた物を自分で消しただけだからね。感謝されるようなことはしてないし、逆に責められる立場でしかないよ。」
 そう?
 うん。あ、それと僕の名前、ヒルトだけでいいよ。
 わかった。
 ちょっと話し方がぎこちない。
 (あれ?そういえば僕、どうして倒れてたんだっけ?
 ……確か、カルーエさんに見送られて、飛空艇に乗って、途中、自動運転にしておいて睡眠をとって……。んん!?)
「ひ、飛空艇は?」
「う?」
 レイはわかっていないらしい。首をかしげている。
 ヒルトは、(壊れてないよね。大丈夫だよね!きっと何一つ傷付いてないよね!?)頭が混乱している。
「…フェドなら、あっち。」
「ふぇ?」
 レイの指が指している方向を向く。
 窓の外。薄い霧の中をよく見ると、ヒルトの乗っていた飛空艇はあった。…が、そのすぐ下に崖が見える。
 グラッ。
「あ、え?ちょっと!ちょ、ちょっとまっ、まってぇぇ‼️」
 見事にタイミングを見計らったかのように飛空艇はそこの崖から、落ちた。
 かなり重い物のはずだが、地面にぶつかる音が一切聞こえてこない。これはかなり下の方に落ちたのだろうか。
「ああ……お、終わっ…た…。」
「あ…ごめん、なさい。もっと内側の方に置いとけば…。」
「…いや。……いいんだ。多分もう、ここに落ちた時には壊れて動かなくなってたと思うし…。」
 二人とも青くなった顔を下に向けて沈黙する。

「そ、そういえば。あんな立派な崖があるし、ここって山の上の方とか?」
 その空気を漂わせまいとヒルトは少しあせり、早口でレイに話す。
「やま?」
「…違うの?」
 確かに、ヒルトの言うとおり、ここ(といっても窓の外)は少し霧がかかっていて、肌寒い。山に登った時と似ている。
「んー、わかんない。」
(……もしかしてここから出たことないっていう感じかな。箱入り娘って言うんだっけ?いや、でもさすがにここが山なのかくらいは知ってるはずだし…。)
 またも沈黙。
 取り敢えず、レイに質問してみる。
「さっき言ってたフェドって、さっき落ちた物のこと?」
「…?そう呼ばないの?」
(地域の差かな。)
「僕の出身じゃ、飛空艇って言うんだ。」
(そういえば、僕もさっき知ったばかりだけど…。)
 へー。レイは以外と興味津々のようで少し目が光っている気がした。

 あ、そうだ。と、レイがパンッという音とともに両手を合わせる。
(…おばあちゃん感。)また少し苦笑い。
「外、行こう。おとーさんに会いに行くの。」
 レイの父親は外の森にいるらしい。なんでも、その父親はこことは別の場所に住んでいるという。
 そして、ヒルトにどうしても父親に会ってほしいらしい。
「あ、歩ける?」
「え、あ、うん。大丈夫だと、おもっ……う"っ"‼️」
 ずっと座った状態からベッドを出て、床に足の指先を付けた瞬間、ヒルトは喉の奥から出た声とともに、おもいっきり足をつった。

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