上 下
5 / 26

彼の孤独

しおりを挟む
「私はラム様の執事のロンバード。城のことで何かありましたら私めにお聞き下さい」
 
 ノーランマークは城の中へと執事に導かれて進んで行った。城は堅牢な造りで隙のない佇まいだった。
 部屋へと早足で歩くロンバードの後ろ姿にくっついて行きながら、ノーランマークはその颯爽とした後ろ姿に見惚れていた。
 彼は普通の年寄りとは全然違って見えた。無駄な贅肉を削ぎ落としたかくしゃくとした姿は、細いが格闘向きの体型をしていた。

「大したものだな、ロンバード。貴方は恐らく腕っぷしは強いのだろう?あの我儘そうなぼっちゃんの面倒を見たり、あらゆる執務や多分家事全般、そつなくこなすタイプなんじゃないか?」

「そうですね、車の運転やクルーザー、時にはヘリの操縦までやらされますからねえ。私の代わりを勤められる者はそうそういないでしょうねえ、自惚れですが。
さ、着きましたよ。このお部屋をお好きにお使い下さい。それから、廊下の突き当たりが食堂になるので夕食時にはお呼びいたします」

 通された部屋は当然石造りだ。ソファやベッドが無ければ牢獄かと思うほど殺風景な事だろう。
 小さいが暖炉もあり、あのホテルに敷いてあった様な古風な緑色の絨毯が敷かれてあった。
 拉致されたのだから当然荷物は何も無かった。取り敢えずベッドに寝転がってみると、高い天井には今どき蝋燭のシャンデリアがぶら下がっていた。窓は一つもなく、この部屋からの脱出は難しそうだった。

 取り敢えず自由に動けそうなら明日から城の見取り図を頭に入れないとな。それからあの輝石だ。何処に隠しているんだろうか。知らない間にラムランサンの掌から消えていたが、まさか普段から持ち歩いてでもいるとか?
だとしてもだ。夜には何処かに置いて寝るだろう。
 頭の中で考えが浮かんでは消えた。

 輝石を頂いて素早くこの城から脱出する手段をあれこれ画策していたが、考えれば考えるほど気持ちが疼いて飛び起きた。

「ダメだ!じっとしているなんて性に合わん!飯までちょいと情報収集してくるかな」

 持ち物全てが取り上げられていた。
何もないのにどうやって時間を知れば良いと言うのか。
 いったい明日から何をさせられると言うのか。
 疑問で頭を一杯にしながらも、ノーランマークは行動を開始した。
 部屋の扉は施錠されてはいなかった。いつでも好きな時に部屋を出られるのはありがたい。
 まずはクルーザーへの道を戻ってみる事にした。
 恐らくこの島から出るのには、あのクルーザーを使うしか無いだろう。
 城の中とは言え、船着場へは結構複雑なルートだったが、幸にも記憶力は良いほうだった。難なく船着場まで辿り着いた。
 しかし、あと一歩の所でさっきは無かった鉄柵に阻まれクルーザーには近づけない。

「問題はこの鉄柵とクルーザーの鍵か。クルーザーの鍵はロンバードが持っているんだろうな。たぶんこの鉄柵も‥‥」

 柵を握って2、3回ガタガタと揺さぶってみると、その音がかなり響くことが分かる。
 どうしたものかと腕組みしながら柵を背に振り返った。
 そこに見知らぬ男の子がいきなり視界に飛び込んだ。ノーランマークは思わず驚いて、声を上げた。

「ウワァっ!!なんだお前は!!」

「何だとはなんだ!ボクはラム様の従者だ!お前こそ何だ!」

 見かけ十六、七くらいの少年にいきなり怒鳴られてノーランマークはたじろいだ。
随分と威勢の良い子供だと思った。

「オレはノーランマークと言う。おたくのボスに拉致られたんだよ。お前。若そうだな」

「何だ?馬鹿にしてんのか?これでもこの城を切り盛りしてんだ!明日からお前の上役なんだからな!」

「へー、そうかのか。で、上役様のお名前は?」

「イーサン!夕食だから呼んで来いってラム様が」

 良く言えばキビキビとした。悪く言うとキリキリとした少年だった。
 明日からこの子供の下で働くと思うとノーランマークはこの日最大級のため息を漏らしていた。
 食堂に赴くと漫画にでも出てきそうな長いテーブルが出迎えた。やや時代錯誤を感じるテーブルセッッティングだった。
 上座にはラムランサン。そして遙か末席に、ノーランマークの食事が用意されていた。

「来たな、ノーランマーク。今宵くらいは大いに飲んで大いに食せ」

「明日からは僕達と台所で食事だからな!」

 そう言いながらイーサンは面白くなさそうに、ここに座れとノーランマークの椅子を引いた。
 ノーランマークが座るとワインがサーブされた。

「まさか囚人の分際でワインがいただけるとは思わなかったが、乾杯しようにも遠すぎるな。金持ちってのは本当にこんなテーブルで飯を食うんだな。他に家族はいないのか?」

「何か問題でも?父は私が10歳の時に死んだ。母もそのあと恐らく直ぐに逝き、祖父は八年前に他界した。たいがいこんな食卓だが?」

 ラムランサンは他愛いもない事でも話すような顔でワイングラスを掲げて見せた。そして優雅な仕草で食事をし始めた。
 ノーランマークはそこにラムランサンの孤独を見た気がした。

「下僕風情が言うには身の程知らずだが、明日から皆んなで飯を食わないか。きっと一人より楽しい」














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄が媚薬を飲まされた弟に狙われる話

ْ
BL
弟×兄

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

僕の大好きな旦那様は後悔する

小町
BL
バッドエンドです! 攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!! 暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話

真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。 ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。 確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。 絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。 そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。 「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」 冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。 ※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編 「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

処理中です...