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ノーランマークのイケナイ挽回

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怪しげなUSBメモリーを手渡されたラムランサン達は、人々の行き交う空港のロビーでソファに座り込み、イーサンが持参したパソコンに繋げてみた。
どんな物がそこに映し出されてくるのか三人は固唾を飲んで見守った。
だが、最初に画面いっぱいに映ったのは気色悪い豚の顔。
皆、一瞬面食らって身体がビクリと仰け反った。

「うっ、何だこれは!」
「豚の仮面?お面?」

続いて画面にはゴリラが映り、皆揃って顔を顰めた。
正装した豚とゴリラが何やら言い合っている映像が流れた。

[チケットを譲ったんだ!少しは譲歩したらどう]

ラムンサンはそう言っているゴリラの声に聞き覚えがあった。
いや、ただ覚えがあるだけではない。
何か嫌な記憶が頭を掠めた。
この声を自分は良く知っている。
そして豚の仮面をかぶった男。この美しい金髪はラムンサンの最も良く知る誰かを想起させた。

まさかな…。
  まさか、これは…。

ラムンサンの胸に暗雲が一気に立ち込める。
どこかの何かの会場で身を寄せ合っているゴリラと豚がしきりに何か話し込むシーンに瞳孔が開き、次の瞬間全身が凍りついた。

[キスしてノーランマーク]

小さな音声であったがはっきりそう聞こえ、画面にはノーランマークとその背後にピタリと身体を寄せている赤毛の男が立っていた。

「こ、これは…アスコット…!」

そう口にしたのはロンバードだった。
画面はアスコットのアップになり、カメラ目線でニヤリと笑ったかと思った瞬間、爆発音と共に炎が燃え上がり突然そこで画面が切れた。

「ど、どう言う事でしょう…ラム様これ…」

イーサンの声が小刻みに震えながらラムランサンを見た。
ラムンサンは肩を喘がせながら目を見開き、消えた画面を尚も凝視していた。

「なんで、ヤツがノーランマークといるのだ…いや、それより。いったい何が起こってるんだ…!」
「落ち着いて下さいラム様!こんな切れ切れの繋ぎ合わせたような映像。ただの嫌がらせでございます。貴方を怒らせようとわざとらしくこんな意味ありげな映像を…、」

そう、アスコットはわざと防犯カメラを利用し、自分に都合よく編集したものを送りつけてラムランサンを挑発していた。
こんな映像を真に受けるようなラムンサンでは無かったが、それでも心は波立った。
何故アスコットがヤバイにいて何故ノーランマークと共にいるのか。
そして何が爆発したと言うのか。
ノーランマークは無事なのか。怪我をしているのではないか。
或いは…。

いや違う!

「分かっている!これは嫌がらせだ!私は落ち着いている!」

半ば自分に言い聞かせるように吐き捨てたが、ラムランサンの足は勝手にヤバイの搭乗口に向かって走り出していた。


◆◆◆


あのオークションの出席者は揃って金持ちのセレブだった。
と言う事は、必然的にこのホテルの客が大半だったことになる。
そうだ。この踊り狂っている人間の中に、酒を煽っている奴らの中に、あの秘密のオークションを知っている。或いは出席した人間が必ずいるはずだ。

ホテルのバーカウンターに座ってノーランマークは眩い光の中で騒ぐ人々をじっと眺めていた。

「ウィスキー。ロックで」

空になったグラスを振ってそうバーテンダーに本日五杯目の酒を催促したその時、背後で女の声がした。

「そのお酒、私に奢らせてくれない?それから私にも同じものを」

そう言うと女はスルリとノーランマークの隣に座った。

「やあ、こんばんは。生憎本日オレは頭も体も休業なんでね、話しててもきっと面白くないぜ?それでも良けりゃ……って、あれえ?ダイアナ?」

それはヒッチハイクしたプライベートジェットの女、ダイアナだった。

「あらあら、絆創膏だらけね。可愛い顔が台無し。どこでおいたをしてきたの?僕ちゃん」

酒焼のハスキーな低音とセクシーダイナマイトなボディは有閑マダムといのに相応しい。
彼女にしてみればノーランマークは「僕ちゃん」なのだ。

「ちょっとね、厄介なゴリラと格闘を…」
「その様子だと負けたのかしら?」

手元に滑ってきたグラスで二人軽く乾杯を交わした。

「引き分けってところさ」
「ふうん、昨夜貴方に良く似た豚を見たわ。あの会場に貴方もいたんでしょう?」

さすが持ってる男は違う。
ノーランマークは心の中でそう呟いた。
ノーランマークの萎えかけていたやる気がゆっくりと鎌首を擡げ始めた。

「って事は…あの秘密のオークションに貴女もいたの?ダイアナ」

ダイアナは黙して意味深に笑った。

「面白かったわね。敬虔な僧侶のアソコの真珠なんて笑っちゃったわ」
「生憎途中で帰っちゃったものでね、全部見られなかったんだけど…貴女、ブラックタイムまでいたの?」
「ブラックタイム?」
「ああ、知らなきゃ良いんだ、変なこと聞いてごめん」

ダイアナは最上客ではないのだろう。ノーランマークがその話題をさっさと切り上げようとした時、ダイアナが顔を近づけてこう囁いて来たのだ。
「いたわよ」と。

「でも…。火事になっちゃったからオークションは中止になったのよ」

その火事オレが原因です。そう喉元まで出かかったがここは笑って誤魔化した。

「へ、へえっ、そうなんだね。大変だったね。…それでダイアナ。つかぬことを聞くけど…、そのブラックタイムではどんな物が出品されてたんだ?」
「知りたい?」
「…そりゃあね。だって気になるじゃないか。シークレット中のシークレットなんてさ」
「そんな秘密をタダで教えるの?私はそんなお人好しじゃないのよノーランマーク」

お互い百戦錬磨。二人の企みのある微笑みがこの後の展開を物語っていた。

「ここは騒がしいね。もう少し静かな所で貴女の話をじっくり聞いてみたいな」
「そうねえ、素敵な寝物語になると良いわねノーランマーク」

意味深に微笑む彼女の手を取りノーランマークはスツールを降りていた。
誰かの顔がチラつかない訳ではなかったが、キス一つで獲物を逃したばかりのノーランマークの脳裏には「挽回」の二文字がデカデカと居座っていたのである。
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