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第一章 出会い
偽勇者(2)ステータス・ボード
しおりを挟む洞窟の突き当たりに開けた場所があった。
岩陰から隠れるようにして様子を伺うと、茶色い鱗に覆われた巨大な恐竜がいた。
正確には地底竜だけど、この時の新それを知らなかった。
そしてその恐竜と戦う5人の男女がいた。
まるでゲームの画面を見ているかのような感覚だった。
5人はそれぞれ、剣を持った勇者風の男、レイピアを持つ女騎士、大きな盾を持つ
厳つい男、魔女のような格好の魔法使いの女とエルフ族の弓使い男が戦っていた。
杖を持った魔法使いが呪文を唱えると、空中から無数の氷の刃が出て来て、恐竜に飛んで行った。
氷の刃が恐竜に当たると、その破片が新のすぐそばまで飛んできた。
とっさに岩の後ろに身を隠したけど、飛んできたその氷の破片が新の手を
かすった。
手のかすった所から血が出て、痛みもあった。
これは現実だと新は思い知ったその瞬間、新の中に得体の知れない恐怖が湧いて
きた。
それは死ぬかもしれないと言う物ではなく、分からない未知の体験に対する物
だった。
「(…なんだよ。 これ何なんだよこれ。 今まで、死にかけたことなんて何度もあった、辛い思いも痛い思いは数え切れない位してきた、それでも人間が相手なら対処法も分かったから、何とかしてきた。 だけど……何なんだよこれ)」
新の脳裏には今まで生きてきた人生が、まるで走馬灯のように流れてきた。
そんなことを思っている内に、音が止んだことに新はようやく気づいた。
もう一度、恐る恐る見てみると、恐竜が倒されていた。
「危なかったな~」
恐竜の傍で剣男がぼやく。
「ですね、ダンジョンって何がどこから出てくるか分かんないから困るわ!」
レイピアの女性が話しかける。
「まぁ、でも地底竜のおかげで今回はいい金になるな!」
大盾男が盾を背負って、汗を拭った。
「ポーションがもうあまりありません。 ちょうどいいですし、一度地上に戻りましょう」
魔法使いの女がポーションと言って紫色の小瓶を手渡して来た。
4人がポーションを飲んでいると、弓使い男が近づいてきた。
「この地底竜、アイテムボックスに入れてもいいですか?」
そう聞くと、剣男が「おお、悪りぃ頼むわ」と答えた。
弓男が地底竜に手をかざすと「アイテムボックス・オーブン」と言った。
すると地底竜の下に魔法陣か現れ、地底竜が消えた。
新はもう一度、岩の影に身を隠し、声をかけるかどうか迷った。
ここがどこで、どうやって迷い込んだのかは分からない。
しかしあんな恐竜みたいなのが、ウヨウヨいたらとてもじゃないが、自分では勝てない。
それなら、彼らに事情を話して助けてもらうというのもあるかもしれない。
「(でも、その為には情報が必須! 『詐欺師の鉄則、まずは騙す相手の情報を
掴む』だ)」
そう思ってもう一度、顔をあげると彼らが何かをしていることに気づいた。
「ステータス・オープン 」
彼らがそう言うと、彼らの目の前に画面が浮かび上がってきた。
何をしているんだろう?と、とりあえず様子をうかがう新
そのうち気になる会話をし始めた。
剣男「さすがに地底竜の経験値は、計り知れないなあ 」
弓男「はい、確かにそうですね。 俺はほとんど参加してないのにメンバー登録
してるだけで、皆さんからのおこぼれが入りまくりで、後ちょっとでレベルが
1つ上がりそうです」
レイピア女「でも、最近はそれを悪用した事件も頻発してるって聞いたわよ」
魔法女「レベル私も上げられる。 と、言うかギルドからメッセージ届いてるよ」
盾男「マジか! 戻ってこないから死んだと思ってるのか?」
それからも彼らは何かを話しながら、そのままその場を離れた。
新は結局、声をかけずに彼らが去ってゆくのを見送った。
新は一旦、元きた道を戻ってその場から少し離れて。
辺りに誰もいないことを確認すると「…ステータス・オープン」と唱えた。
すると、さっきの5人と同じように、目の前に画面が出て来た。
「……なに、これ…」
出て来たステータスボードには
名前・ネオ カネダ
レベル・1
HP508/508
MP 851/872
スキル
錬金術 レベル1
化け術 レベル1
パーティーメンバー
登録者なし
M 0
アイテムボックス
0/100
メッセージボード
ギルドからのメッセージが一件、届いています。
ネオはメッセージボードを見てさっきのパーティーの『ギルドからメッセージ
届いてる』言葉を思い出した。
メッセージボードのところをポチると、メッセージが開いた。
そこには
『ギルドから冒険者諸君に嬉しい連絡だ! 勇者御一行様が魔王討伐を終え、
この王都エウロカに帰ってくる。 パレードは明後日の10時から、王通りで
開催される。 勇者イヴァン様に会いたい者は、参加されたし! 以上』
一呼吸、置いて『ステータス・クローズ』と言い画面を消した。
直後、額を流れる汗を乱暴に拭った。
この時、ネオは初めてこの場所が暑いことに気づいた。
正確には12月の外と比べてだが、元々厚着をしていたネオは汗だくだった。
そしてもう1つ気づいたのが、手にはさっきの防具が握られていたこと。
そのまま持ってきてしまっていた。
ネオはさっきの白骨遺体を思い出して、身震いした。
「…あれと同じになるは、勘弁だな……」
考えを振り払いように、防具を下においてコートを脱いだ。
とりあえず、スーツケースに脱いだコートをかけ、ウールのセーターもYシャツも脱いだ。
身長が176センチに対して体重は78キロもあるけど、そのほとんどが筋肉。
女を騙す為に身体を鍛えていたので、割とゴリマッチョな体型。
ニット帽を脱ぐと、金髪の髪が汗でべっとりだった。
髪を無作為に掻き出すと、軽やかな感じに戻った。
20代後半とは思えないあどけない、整った顔立ちをしていた。
これがネオの最大の武器の1つ、ネオはこの甘いマスクで組に関わりのある
女性たちを巧みに騙し、組に入ることが出来た。
ネオはカバンの中にあった髪ゴムで鎖骨まで伸びた髪を後ろで束ねた。
その後で、グレーのカバンの中から動きやすいスニーカーを取り出し、今履いている革靴と履き替えた。
逃げ回れるようにと、丈夫なブランド物で無難な黒色を選んだのは正解だった。
とりあえず服装は身軽にしたネオは、脱いだ服や荷物に手をかざし『アイテム
ボックス・オープン』と言うと荷物の下に魔法陣が割れて荷物が消えた。
今度はもう一度、ステータスボードを出すと、アイテムボックスと表示されているところ には 52/100と表示が変わった。
そこの部分をポチると、アイテムボックスの中に入っている物のリストが出て来た。
ニット帽1、コート1、靴1、セーター1、Yシャツ1、ズボン1、下着4、
カバン3、パン5、水2、財布1、携帯1、タブレット1、ソーラーバッテリー1
…金の延べ棒20
リストの中の水をポチると、手元に小さな魔法陣が出て来て水が入ったペット
ボトルが現れた。
キャップを開け、一気に水を半分くらい飲んだ。
もう一度、水をアイテムボックスに戻すと今度は、金の延べ棒をポチった。
すると水と同じく、純金99、9と書かれていた延べ棒がいつ手元に現れた。
「うわ~、便利だな…日本にもアイテムボックスあったら空港税関なんか、
かたなしじゃん」
外国に逃げるのに現金だと不便だと思い、全部を金に変えていた。
「しかも、価格が上がってた時に変えたから、得したな~」
しばらくの間、現実逃避をしたネオはもう一度金の延べ棒をアイテムボックスに
戻した。
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