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第一章

女が権力を持って何が悪い!(2)現在の悪夢

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なんて……そんなことを思った時期もあった…
でも、やっぱり私の人生は流される運命あった。
「今、なんて言ったの? レティ」
怒りに身体を震わせながら、ソラーナは出来るだけ冷静に言った。
「だ・か・ら~お姉さまの婚約者のエドワード様に、惚れたから私に譲って、
って言ったの」
悪ビレもせず妹レティはそう返した。

ここは、エール領の領主の屋敷。
ラファエルト王国の王都からそう離れていない、エール辺境伯が治めるこの土地は王都に継ぐ、開花された街である 
多くの人が行き交い、商売繁盛しているこのエールには二人の娘がいる。
リチャード・マーキス・エール辺境伯の娘、長女のソラーナと次女のレティである。
そんなエール領内では近々、長女のソラーナが王家の親戚筋にあたるエドワード・デューク・アルトランド公爵との結婚で持ちきりだった。
真面目で勤勉で領民想いなソラーナが領主の妻となれば安泰だろうと、みんな
思っていた。
そんなみんなの想いとは裏腹に、唐突に自分勝手な事を言う妹のレティに
ソラーナは困惑した。

腰まである長い紅髪を、金の髪留めで髪を後頭部でまとめ、金糸で刺繍された
シンプルでシックな白いハイネックに長袖と露出が一切ないワンピースドレスに
身を包んだソラーナ。
しかし、露出がないからこそEカップのバストがより目立つ服装。
端正な顔立ちにエメラルドグリーンの瞳、18歳とは思えない落ち着いた雰囲気を
醸し出す 長女のソラーナとは対照的なのが、次女のレティ。
背中まで伸びたゆるふわでピンク色の髪を、ダイヤモンドブルーの宝石が散りばめられたティアラ風な髪飾りに、ピンクや白のレースなどで
作られた花やリボンで作られている肩や腕が露出しているバストトップの豪華な
パーティードレスを普段着として使う、レティ。
お人形のような同じく端正な顔立ちだが、世に言うぶりっ子という感じの子で、
軽く握った両拳をアゴのところでまとめ、小首を傾げながら153センチの
低身長を生かした上目遣いのぶりっ子ポーズが必殺技。

そんな2人が父、夕食後にリチャードの執務室で言い争って言った。
エール領、辺境伯の現領主、リチャード・マーキス・エール。
彫りの深い、ダンディーな顔立ちに鎖骨まで伸びたワインレッドの髪を1本にまとめ、オリーブグリーンの瞳で言い争い2人の姉妹を自分のデスクに腰掛け黙って見ていた。
同じ部屋に2人の母、メリッサ・マーキス・エールもいた。
後頭部で軽くまとめた腰まで伸ばしている銀髪のストレートな髪、蜂蜜色の瞳で
心配そうに見つめていた。
シンプルけど、Dカップの胸を強調する胸元を大きく上げたデザインに、紫色の
生地に白い細工の細かいレースがあしらわれた豪華なワンピースドレスを着ていた。
その他にも、部屋の中には1人の執事と3人のメイドたちがいたが、どうすることも
出来ずオロオロとしていた。

「何、馬鹿な事言っているの! エドワード様は私の婚約者なのよ 」
「知ってるもん、でも仕方ないじゃん! レティ、エド様に惚れちゃったんだもん。 
レティね~あんな素敵な王子さまのお嫁さんになるのが夢だったの~」
真っ赤な顔をして両手で顔を覆い、クネクネと身体をクネらせながら言った。
「ねぇ~お父さま、いいでしょう?」
そうしてお得意のブリッ子ポーズで父親に同意を求める。
「お父様! すでに相手の方にも民たちにも、伝えているんです。 今になって
止めなん…」
「止める訳ではない」
ソラーナの言葉を遮るようにリチャードは言った。
椅子から立ち上がり、ゆっくりとした動作で二人の近くまで来るリチャード。
「相手の方には既に事情を伝えている。 向こうもレティで構わないと言っている、それに 陛下にはまだ正式的な形での報告がまだだ、今なら変えることは不可能ではない」
「本当、お父さま! レティ、エドさまと結婚出来るの?」
嬉しそうにリチャードにすがり付くレティ
ソラーナは信じられないと言ったような顔でリチャードを見た。

だが、ソラーナすぐに気持ちを持ち直した。
「お父様! お言葉ですが、レティでは領主の妻にはなれません。 彼女は今までほとんど勉強をして来なかったですよ、こんな馬鹿な人間に民たちを任せること
なんて出来ません。 領主の妻の座を譲ることは出来ません」
レティはソラーナと違い勉強よりもお洒落に命の女。
だからこの世界の常識を知らない。

この世界は、男性至上主義。
女の権利なんて、たとえ貴族であろうと無い。
男に逆らうことも、自由に生きることも、夢を持つことも、結婚相手を自分で
決めることも、当然、恋愛なんてもっと無い。
そんな異世界に転生した、柴谷空は新たなる人生ソラーナ・マーキス・エールと
して自由に第二の人生を生きようとした矢先、男性至上主義な世界を知って驚愕した。
しかも、それは『女性』と言う法律で決められていることなのは更に驚いた。
法律が効かない中立の立場である冒険者ギルドですら、冒険者のランクがF~S級がある中で女性はB級ランクまでしか上がれないと言う、暗黙の了解で決められている。

そんな常識も知らずに自分勝手なことばかりしか言わない妹のレティに、ソラーナはハッキリとそう言った。
それに対しレティが、
「お姉さま、ひどい~バカだなんて! レティだってやればできるもん」
そう言って嘘泣きをするレティに対しリチャードが、
「譲ってあげなさい! かわいそうじゃないか」と言った。
「! なら、私はかわいそうじゃないの?」
と、思わず反発するソラーナ。

「やりたい夢も諦めて、自由も諦めて、領民の為、ただ毎日…生きてきた私の、
その努力が全て無駄になっても、私はかわいそうじゃないの?」
今まで全く反抗しなかったソラーナの言葉に父リチャードは驚いた。
普段、感情を抑えがちになっているソラーナだけど、ここは男性至上主義の世界。
感情を抑えていては生きることなんて出来ない、とソラーナは声を上げた。
だが、すぐにリチャードは冷静を取り戻した。
「何を馬鹿な事を言っているんだ。 女の分際で夢だの自由だのと、そんなことを認められる訳がないだろう」
ドスの聞いたような声でリチャードはソラーナに言った。
「それなら、レティも夢を諦めるべきじゃないの? あなた、言ったよね。 
エドワード様と結婚するのが夢だって、ならあなたもその夢、諦めなさい」

「!?」
さらに嘘泣きをしようと目に涙を浮かべるレディだったが、何かを思いついたようにその涙は一瞬で引っ込んだ。
「あ! いいこと思いついた。 お姉さま、今からその夢叶えればいいじゃない! それがいいよ、そうしなよ! レティって超あったまいい。 それに、
これからレティとエド様がこの領土を収めるんだから、お姉さまがここにいると
邪魔だし、出て行ってくれたらちょうどいいし!」
嬉しそうにキャキャ言うレティ意外、周りの全員が固まった。

「レティ! なんてことを言うのです」
ここで初めて母、メリッサが口を開いた。
「ええ。 だって~うちの領がこれ以上、力を付けない為に、レティたちは他の領にお嫁さんに行けないんでしょう? その代わり、お父さまが頑張ってエド様と
結婚出来るようにしてくれたんでしょう! それでレティたちのどっちかしか結婚出来ないなら、もう1人は結婚しないっていうのが約束なんでしょ! セバスが
言ってたもん。 このエール領は、結構な力を持っているから、他にお嫁に行くと、その繋がりで、国の領同志のパワーバランス? が崩れちゃうからって、
レティだってこれ位のこと分かるもん! バカじゃないでしょう」
えっへんと腰に手を当てて胸を張って、ドヤ顔をするレティ。

レティのその言葉に リチャードはチラッと隣に立つ執事のセバスチャンを見た。
セバスチャンは申し訳なさそうに頭を下げる。
「とにかく、話は私の方で進める。 異論は認めない」
リチャードがそう言うと、セバスチャンを残して全員、自室に戻った。

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