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二章 コノート編 一年生

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 ざわざわする声に目が覚める。ベッドから起き出した女の子達が朝の準備をしている。私も顔を洗いに行って髪を整える。

「スカーレット、ごきげんよう」

 リヴィアが後ろに並んで髪を整えている。

「おはようございます」

「一緒のクラスになれると良いわね」

「そうですね」

 リヴィアさん本当、気さくな人だな。

 服を着替えて食堂に行くと、ローガンとオリバーが手を振っている。

「昨日はよく眠れた?」

「うん、大丈夫だった」

「俺はだめだった……」

 貴族のローガンに寄宿舎暮らしはキツそうだ。

「僕は雑魚寝に慣れてるから平気だったかな」

 オリバーは仕事の手伝いの合間に、うるさいところでよく寝るらしい。

「スカーレット、友達できそうか」

「ん? んー一人、良い子がいたよ」

 青髪縦ロールのリヴィアを思い出す。

「そうか、そうか。そりゃ良かった」

 村での私の事を知っている二人は、私のこれからの友人関係が心配らしい。二人に心配かけないように、上手くやっていけたらと思う。



 入学式は学校の先生達の挨拶と、生徒代表の生徒会長の挨拶で終わった。生徒会長は紫髪の長髪で遠目にもかっこよかった。出来る人って見た目も良いよね。どんな時間の使い方をしたら、そのスペックを維持できるんだろうか。

 入学式の後、クラス番号が発表された。私はロサ組だった。薔薇って意味らしい。他のクラスも花の名前でクラス分けされている。

「スカーレットどこだった?」

「ロサだよ」

 ローガンはデイジー、オリバーはブロッサムだった。見事に三人別れた。

「あっははは。まぁ、寮で会えるんだしお互い別クラスで頑張ろう」

「君達とクラスが別れて残念だよ。じゃあ、また後で」

 笑うローガンと落ち込むオリバーであった。

「うん、後で」

 私達は廊下を離れて教室内に入る。中に入ったとたん、リヴィアさんと目があって彼女は華が咲くように笑った。

「まぁ、スカーレット! 同じクラスなのね! さぁ、隣にいらっしゃい!!」

 リヴィアさん凄く声が大きい。クラス内の視線を一身に受けながら、彼女の隣の席に座った。

「スカーレットはどこから来たの」

「ルルス村出身です」

「まぁ、もしかして平民の出?」

 垣根も境も無いから他意無くどんどん聞いて来るな。

「そうです」

「凄いわね。平民の出で、飛び級してコノート学園に来てしまうなんて」

 リヴィアさん本当に心の底からそう言った。思った事全部、口と顔に出るタイプと見た。

「リヴィアさんは貴族ですか?」

「えぇ、キルシュ家の生まれなの」

 キルシュ!? いくらこの世界の歴史にまだ疎い私でも、その名前は聞いた事がある。三百年程前、この国が建国するにあたって大きな役割を果たした一大貴族だ。

「す、すごいですね……」

「いえ、私の家は分家なの。それに、私はその中でも一番の落ちこぼれ……二回も浪人したのは、キルシュ家の大恥だって兄さんに怒られてしまったわ」

 リヴィアさんも大変複雑な状況に身を置いているらしい。大貴族ゆえ、学園の入学が義務付けられているんだろう。

「そうなんですか……」

「私、あんまりお勉強得意じゃないの。良かったら、教えてね」

 リヴィアさんはにっこり笑った。この人が私を見つけた時の嬉しそうな顔って、つまり待望の目線だったわけだ。『私もこんな子みたいに、お勉強出来るようになりたい』って言う。

「えぇ、一緒に頑張りましょう」

 私も笑みを返した。

 クラスの先生は切れ長の目をした先生で、睨まれるとちょっと怖かった。若いけど、威厳は十分である。

 入学式の後はそのまま食堂で歓迎パーティーが開かれた。テーブルに並べられる美味しそうな食事。立食パーティーなので、みんなが好きな子と話して楽しんでいる。楽器を持った上級生が音楽を奏でている。あたりまえのようにあるお酒を飲んで、みんな楽しそうに踊っていた。そんな中、私はテーブルの食事を全て制覇しようと端から端まで少しずつお皿に取っては壁際で食べて一番美味しい料理を探索していた。

「んー美味しい!」

 マッシュポテトのような見た目のサラダには、カラフルなフルーツが入っていて程よい酸味と甘味が美味しかった。

「お嬢さん、一曲踊りませんか」

 料理を堪能していた私の前に紫髪の男性が一人立つ。私は固まる。生徒会長さんだ。

「わ、私、おどれません。背も足りないし……」 

 学校の合格を祝った夜にローガンやオリバーと、ふざけたように踊ったがあれではダメだろう。

「おや、そうなんですか。それは残念です」

 生徒会長さんが顔を寄せて来る。

「あちらのテーブルに乗っているカボチャのプリンが最高ですよ。是非、ご賞味ください」

 そう言って、彼は去っていった。私はすぐに、カボチャプリンを取りに行って食べた。程よい甘さと、なめらかな口あたり。甘すぎないからどんどん入る。絶品だった。これこそ、ナンバー1だ。



 私はベッドの上で唸った。

「た、たべすぎた……」

「あら、大丈夫スカーレット?」

 リヴィアが私の隣のベッドに鞄を持って来る。

「交換して貰ったの」

 なるほど、みんなそれぞれ仲良い人が出来て寝る時も固まるようになるのか。リヴィアは鞄をベッド下に置いて、鞄の中から何かボトルを出した。

「食べ過ぎの薬、あげるわね。うちの爺やが調合したものだから、よく効くわよ」

 綺麗な青い瓶に入ったボトルから、黒い丸薬を一つ貰う。凄まじい匂いがする。正露丸なんて目じゃないってぐらい、目に染みる刺激臭がある。

「本当に効くんだから、はいお水」

 私は丸薬を口に含んで、水を飲み干した。飲み終わった後も、胃から匂いが立ち上って来るような気がした。



 次の日起きると、胃もたれはすっかり治っていた。寝覚めすっきりである。

「ね、よく効くでしょ」

「うん、本当に。ありがとう、リヴィア」

 私はリヴィアと二人洗面所向かった。リヴィアは今日も髪と格闘していた。一応この世界、魔力で動くコテみたいなのがあるのだ。しかし、それを持ってしても彼女の髪はカールがなかなかつかなかった。





つづく
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