12 / 70
一章 ルルス村編
12
しおりを挟む
私は毎日机にかじりついて勉強した。怪我は治ったが、試験が終わるまでユーリス先生の家にお世話になる事になっていた。出世したら先生には必ずお礼をしよう。
そうして迎えた試験の日。私達は学校に集まって、試験を受けた。三人以外にも、近隣の村から子供達が試験を受けに来ていた。この辺の村では、このルルス村の学校が試験会場になっているらしい。
試験後に私は真っ白に燃え尽きた。しょせん出て来るのは小学校レベルの問題である。しかし、奨学金を取る為には九割の点数が必要だ。果たして結果はどうなるだろうか。人事を尽くして天命を待つのみである。
結果、私は受かっていた。奨学金もバッチリである。ローガンとオリバーも受かっていた。これで三人合わせて入学決定である。
ユーリス先生の家で私達は祝杯を上げた。
「かんぱーい!」
大人達だけでなく、ローガンとオリバーもお酒を手に持っていた。私は、遠慮してぶどうジュースを貰った。
「おめでとうございます。三人なら必ず合格出来ると信じていましたよ!!」
ユーリス先生は泣き上戸だったらしく、ずっと嬉し泣きしている。
「よしよし、どんどん飲み給え。君達は来年から僕達の後輩だぞ」
クラビスは空いたグラスがあれば、どんどんシャンパンを注いた。この人、笑い上戸だぞ。
「俺は必ず立派な貴族になって、この国の人々の生活をより良いものにします…!!」
ローガンの目は既に揺れている。相当酔っているようだ。
「僕も、コノートでしっかり商学の勉強をして村に帰って来ますよ!」
二人とも本当に、しっかり自分の道を持っていてかっこいい。
「スカーレットは、コノートに行って何をするんだい」
クラビスに尋ねられて固まる。
「私は……自分の生きる道を見つけたいです」
クラビスは笑いながら頷く。
「うんうん、それはとても良い事だ。三人の門出を祝ってかんぱーい!!」
その夜は遅くまで飲んで騒ぐ夜となった。
魔法の認定試験の方もあっさり三人は合格した。初級から飛んで、中級のライセンスを貰ってしまった。ユーリス先生の教え方が上手かったおかげだろう。
冬の終わりに、私は久しぶりに家に帰った。食卓について、家族三人食事をとる。今日の父はお酒を飲んでいなかった。
「進学するんだってね」
「うん。魔法の認定試験も受かりました。春には、コノートに行きます」
奨学金は月に50000ギル来る。家に毎月20000ギル入れても十分生活していけるだろう。
「そうかい……あんたが、まさかコノートに行くなんてね……」
生活に余裕が出来たおかげで、少しだけ身綺麗になった母は若く見えた。『衣食住足りて礼節を知る』という言葉がある。まさに、今の両親がそれだった。彼らだって、好きであんな生活をしていたわけじゃない。貧乏は、人の心を殺すのだ。
「ちょっと待ちな」
母が立ち上がって、寝室に行き何かを手にして戻って来る。
「これはあんたが持っていきな」
手渡されたのは赤い宝石の指輪だった。赤い指輪に、金色の金具。おもちゃみたいな見た目がかわいくて笑ってしまいそうになるが、その輝きを本物だった。これはイミテーションじゃない。
「おかあさん、これどうしたの」
「この家に嫁いだ時に、義母がくれたものだよ。宝石は魔力を高める効果があるそうだ」
そう言って、母は私の指に指輪を通した。しかし、まだ指輪は大きくてゆるゆるだった。
「……鎖がいるね」
母は再び部屋に戻って、金色の鎖を手に帰って来る。それを指輪に通して私の首にかける。
「これでよし」
そう言って笑みを浮かべた母は、とても優しい顔をしていた。彼女はスカーレットのお母さんなのだと感じた。
「スカーレット、これを持っていけ」
父が机の上に置いたのはナイフだった。しかもバタフライナイフ。
「あんた、それが娘にやるものかい……」
「なに言ってんだ、もしも変な野郎が襲って来たらコレで刺すしかねぇだろうが」
お父さん真面目に娘の身を案じた結果、これがベストな餞別だと思ったらしい。
「……ありがたく、貰っておきます」
人を刺すかは置いておいて、出先でりんご剥くのには良さそうだ。
二人はスカーレットにとって両親なので、私は二人を複雑な気持ちで見ていた。私の中には以前の記憶があるせいかどうしても、二人の事は距離を置いて見てしまうのだ。今は無理でもいずれ、きちんと向き合えれば良いなと思った。
つづく
そうして迎えた試験の日。私達は学校に集まって、試験を受けた。三人以外にも、近隣の村から子供達が試験を受けに来ていた。この辺の村では、このルルス村の学校が試験会場になっているらしい。
試験後に私は真っ白に燃え尽きた。しょせん出て来るのは小学校レベルの問題である。しかし、奨学金を取る為には九割の点数が必要だ。果たして結果はどうなるだろうか。人事を尽くして天命を待つのみである。
結果、私は受かっていた。奨学金もバッチリである。ローガンとオリバーも受かっていた。これで三人合わせて入学決定である。
ユーリス先生の家で私達は祝杯を上げた。
「かんぱーい!」
大人達だけでなく、ローガンとオリバーもお酒を手に持っていた。私は、遠慮してぶどうジュースを貰った。
「おめでとうございます。三人なら必ず合格出来ると信じていましたよ!!」
ユーリス先生は泣き上戸だったらしく、ずっと嬉し泣きしている。
「よしよし、どんどん飲み給え。君達は来年から僕達の後輩だぞ」
クラビスは空いたグラスがあれば、どんどんシャンパンを注いた。この人、笑い上戸だぞ。
「俺は必ず立派な貴族になって、この国の人々の生活をより良いものにします…!!」
ローガンの目は既に揺れている。相当酔っているようだ。
「僕も、コノートでしっかり商学の勉強をして村に帰って来ますよ!」
二人とも本当に、しっかり自分の道を持っていてかっこいい。
「スカーレットは、コノートに行って何をするんだい」
クラビスに尋ねられて固まる。
「私は……自分の生きる道を見つけたいです」
クラビスは笑いながら頷く。
「うんうん、それはとても良い事だ。三人の門出を祝ってかんぱーい!!」
その夜は遅くまで飲んで騒ぐ夜となった。
魔法の認定試験の方もあっさり三人は合格した。初級から飛んで、中級のライセンスを貰ってしまった。ユーリス先生の教え方が上手かったおかげだろう。
冬の終わりに、私は久しぶりに家に帰った。食卓について、家族三人食事をとる。今日の父はお酒を飲んでいなかった。
「進学するんだってね」
「うん。魔法の認定試験も受かりました。春には、コノートに行きます」
奨学金は月に50000ギル来る。家に毎月20000ギル入れても十分生活していけるだろう。
「そうかい……あんたが、まさかコノートに行くなんてね……」
生活に余裕が出来たおかげで、少しだけ身綺麗になった母は若く見えた。『衣食住足りて礼節を知る』という言葉がある。まさに、今の両親がそれだった。彼らだって、好きであんな生活をしていたわけじゃない。貧乏は、人の心を殺すのだ。
「ちょっと待ちな」
母が立ち上がって、寝室に行き何かを手にして戻って来る。
「これはあんたが持っていきな」
手渡されたのは赤い宝石の指輪だった。赤い指輪に、金色の金具。おもちゃみたいな見た目がかわいくて笑ってしまいそうになるが、その輝きを本物だった。これはイミテーションじゃない。
「おかあさん、これどうしたの」
「この家に嫁いだ時に、義母がくれたものだよ。宝石は魔力を高める効果があるそうだ」
そう言って、母は私の指に指輪を通した。しかし、まだ指輪は大きくてゆるゆるだった。
「……鎖がいるね」
母は再び部屋に戻って、金色の鎖を手に帰って来る。それを指輪に通して私の首にかける。
「これでよし」
そう言って笑みを浮かべた母は、とても優しい顔をしていた。彼女はスカーレットのお母さんなのだと感じた。
「スカーレット、これを持っていけ」
父が机の上に置いたのはナイフだった。しかもバタフライナイフ。
「あんた、それが娘にやるものかい……」
「なに言ってんだ、もしも変な野郎が襲って来たらコレで刺すしかねぇだろうが」
お父さん真面目に娘の身を案じた結果、これがベストな餞別だと思ったらしい。
「……ありがたく、貰っておきます」
人を刺すかは置いておいて、出先でりんご剥くのには良さそうだ。
二人はスカーレットにとって両親なので、私は二人を複雑な気持ちで見ていた。私の中には以前の記憶があるせいかどうしても、二人の事は距離を置いて見てしまうのだ。今は無理でもいずれ、きちんと向き合えれば良いなと思った。
つづく
0
お気に入りに追加
764
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる