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一章 ルルス村編

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 私は毎日机にかじりついて勉強した。怪我は治ったが、試験が終わるまでユーリス先生の家にお世話になる事になっていた。出世したら先生には必ずお礼をしよう。

 そうして迎えた試験の日。私達は学校に集まって、試験を受けた。三人以外にも、近隣の村から子供達が試験を受けに来ていた。この辺の村では、このルルス村の学校が試験会場になっているらしい。



 試験後に私は真っ白に燃え尽きた。しょせん出て来るのは小学校レベルの問題である。しかし、奨学金を取る為には九割の点数が必要だ。果たして結果はどうなるだろうか。人事を尽くして天命を待つのみである。



 結果、私は受かっていた。奨学金もバッチリである。ローガンとオリバーも受かっていた。これで三人合わせて入学決定である。

 ユーリス先生の家で私達は祝杯を上げた。

「かんぱーい!」

 大人達だけでなく、ローガンとオリバーもお酒を手に持っていた。私は、遠慮してぶどうジュースを貰った。

「おめでとうございます。三人なら必ず合格出来ると信じていましたよ!!」

 ユーリス先生は泣き上戸だったらしく、ずっと嬉し泣きしている。

「よしよし、どんどん飲み給え。君達は来年から僕達の後輩だぞ」

 クラビスは空いたグラスがあれば、どんどんシャンパンを注いた。この人、笑い上戸だぞ。

「俺は必ず立派な貴族になって、この国の人々の生活をより良いものにします…!!」

 ローガンの目は既に揺れている。相当酔っているようだ。

「僕も、コノートでしっかり商学の勉強をして村に帰って来ますよ!」

 二人とも本当に、しっかり自分の道を持っていてかっこいい。

「スカーレットは、コノートに行って何をするんだい」

 クラビスに尋ねられて固まる。

「私は……自分の生きる道を見つけたいです」

 クラビスは笑いながら頷く。

「うんうん、それはとても良い事だ。三人の門出を祝ってかんぱーい!!」

 その夜は遅くまで飲んで騒ぐ夜となった。





 魔法の認定試験の方もあっさり三人は合格した。初級から飛んで、中級のライセンスを貰ってしまった。ユーリス先生の教え方が上手かったおかげだろう。

 冬の終わりに、私は久しぶりに家に帰った。食卓について、家族三人食事をとる。今日の父はお酒を飲んでいなかった。

「進学するんだってね」

「うん。魔法の認定試験も受かりました。春には、コノートに行きます」

 奨学金は月に50000ギル来る。家に毎月20000ギル入れても十分生活していけるだろう。

「そうかい……あんたが、まさかコノートに行くなんてね……」

 生活に余裕が出来たおかげで、少しだけ身綺麗になった母は若く見えた。『衣食住足りて礼節を知る』という言葉がある。まさに、今の両親がそれだった。彼らだって、好きであんな生活をしていたわけじゃない。貧乏は、人の心を殺すのだ。

「ちょっと待ちな」

 母が立ち上がって、寝室に行き何かを手にして戻って来る。

「これはあんたが持っていきな」

 手渡されたのは赤い宝石の指輪だった。赤い指輪に、金色の金具。おもちゃみたいな見た目がかわいくて笑ってしまいそうになるが、その輝きを本物だった。これはイミテーションじゃない。

「おかあさん、これどうしたの」

「この家に嫁いだ時に、義母がくれたものだよ。宝石は魔力を高める効果があるそうだ」

 そう言って、母は私の指に指輪を通した。しかし、まだ指輪は大きくてゆるゆるだった。

「……鎖がいるね」

 母は再び部屋に戻って、金色の鎖を手に帰って来る。それを指輪に通して私の首にかける。

「これでよし」

 そう言って笑みを浮かべた母は、とても優しい顔をしていた。彼女はスカーレットのお母さんなのだと感じた。

「スカーレット、これを持っていけ」

 父が机の上に置いたのはナイフだった。しかもバタフライナイフ。

「あんた、それが娘にやるものかい……」

「なに言ってんだ、もしも変な野郎が襲って来たらコレで刺すしかねぇだろうが」

 お父さん真面目に娘の身を案じた結果、これがベストな餞別だと思ったらしい。

「……ありがたく、貰っておきます」

 人を刺すかは置いておいて、出先でりんご剥くのには良さそうだ。

 二人はスカーレットにとって両親なので、私は二人を複雑な気持ちで見ていた。私の中には以前の記憶があるせいかどうしても、二人の事は距離を置いて見てしまうのだ。今は無理でもいずれ、きちんと向き合えれば良いなと思った。





つづく

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