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一章 ルルス村編
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日々を過ごしながら、私は周りを観察して将来スカーレットが就くべき仕事を探していた。男性に養ってもらうという案はとりあえず外しておく。スカーレットがもの凄く綺麗な子ならば、それも案の一つなのだが……それでも美貌で惚れ込んだ男に全てを預けるような大きな賭けには出られなかった。なので、堅実にスカーレットには自立して食べていけるように手に職を持たせる道を行きたい。農場経営も真面目にやって軌道に乗せればうまくやれるのかもしれないが、動物や植物相手の商売は不足の事態が起きやすい。商家で働く事も考えた。以前の知識があるので計算はそこそこ出来る。ところが、この世界にはソロバンのような道具があるらしい。あいにく私にソロバンは使えない。この世界でソロバンを使える技術は重宝されるので、習うにしても凄くお金がかかるらしい。手計算より早いし正確だ。私が商家で働く道は途絶えた。他の仕事は無いかと考えたが、女の子が一人で身を立てるのは難しいようだ。農園を継がないのであれば、ポピュラーな仕事はハウスメイドである。
「メイドさんか……」
私はため息をつく。実のところ、生前の私は家事全般が苦手だったのだ。
「うぅ……いやだな……」
生前の私が料理をしていて焦がした鍋の数は一つや二つではない。もちろん塩と砂糖を間違えるなんて基本的なドジは一通りやっている。
「ね、願わくば。他の仕事に就けますように…!」
私は手を組んで祈った。
魔法の特別授業は、より繊細に魔法を使う段階へと進んだ。力任せに大きな魔力を注ぎ込む今までの授業と違い、この授業は大いに私達を苦しめた。
「スカーレット落ち着いて、落ち着いて。そのまま指先の火を保つんです」
私の人差し指の先には火が点いていた。その火を大きくしすぎないように火力を絞り、かつ消えないように注意を払う。
「ローガン、雷が消えてしまいそうですよ。もう少しだけ力を注いでください」
ローガンの手の中では、小さな電気がパチパチと走っている。オリバーはコップの中に入った葉を、風の魔法でくるくる回している。しかし十分に一回、葉はコップの外に出ていた。
「三人とも、落ち着いて。自分の身体の中の魔力を意識してコントロールしてください」
授業では何度か瞑想の授業があった。落ち着いて自分の身体の内側を見ると、私は自分の身体に流れる魔力の流れを感じた。こうして魔力を使っていると、その魔力が指先から出て行くのを感じる。その出力先を小さくするのが本当に大変だった。
最近、学校に行っても虐められる事が少なくなった。『魔法特別授業』への参加の副産物だったらしい。人間ってのは、自分より弱い人間を虐げるものだ。でも、今の私ならイラつけばこの教室一つを丸焼きにできる。もしも私に石を投げて、焼かれでもしたらと思うと子供達は私に手を出せなくなったのだろう。しかしクラス内では変わらずぼっちなのであった。
家に帰って手伝いをして、森で少しフランと遊ぶ。フランは、闇夜を走る鼠に気づき小さな火を当てて誇らしげに私の前に寄ってきた。
「すごいねフラン」
火の魔法の扱いなら、私よりもフランの方が数段上のようだ。草むらをかき分ける音がして、クラビスさんがやって来る。
「こんばんは、スカーレットちゃん」
彼はヒラヒラと手を振って現れた。
「今日もフランメキャットの観察をしても良いかな?」
「いいですよ」
私はフランを抱っこする。
「そうしてると、本当に大人しいね」
クラビスさんが、側でフランをじっくりと見る。最近、クラビスさんに慣れて来たフランは逃げもせずに私の腕の中にいる。
「ふんふん、お腹の裏はこうなっているのか」
熱心にメモをとっている。
「ところでスカーレットちゃん。フランメキャットは本来砂漠地方にいる魔物なんだ」
「そうなんですか?」
暑い地方で育ったから火を吐けるようになったんだろうか。
「たぶん、この子は密輸されて来たんだろうね。逃げ出したのかな」
「密輸!」
「砂漠ならいざ知らず、こんなに木の多いところだと火事の原因になったりもする。フランメキャットが砂漠以外で見つかった時は、駆除対象だったりするんだよね……」
「駆除するんですか……?」
「捕まえて、砂漠に帰してやるのが正しい道だろうね」
私はフランを見下ろす。
「でも、どうやらこの子は今のところ自分の炎をきちんと操っているようだし。僕としては、黙認させて貰うよ」
クラビスは笑顔で笑った。
「本当ですか!」
「うん、さっきのフランの狩りを見てこの子は信頼しても良いと思えた」
確かにフランの炎の扱いは繊細で、とてもうまい。的確に獲物だけ狙っている。
「本来、魔物は人に懐かなない、君たちはとても特殊な症例だ。今後も観察させてくれるかな?」
「はい!」
「ありがとう」
クラビスさんが話しのわかる人で良かった。
私もこうやって子供を見守れる大人になりたい。
つづく
「メイドさんか……」
私はため息をつく。実のところ、生前の私は家事全般が苦手だったのだ。
「うぅ……いやだな……」
生前の私が料理をしていて焦がした鍋の数は一つや二つではない。もちろん塩と砂糖を間違えるなんて基本的なドジは一通りやっている。
「ね、願わくば。他の仕事に就けますように…!」
私は手を組んで祈った。
魔法の特別授業は、より繊細に魔法を使う段階へと進んだ。力任せに大きな魔力を注ぎ込む今までの授業と違い、この授業は大いに私達を苦しめた。
「スカーレット落ち着いて、落ち着いて。そのまま指先の火を保つんです」
私の人差し指の先には火が点いていた。その火を大きくしすぎないように火力を絞り、かつ消えないように注意を払う。
「ローガン、雷が消えてしまいそうですよ。もう少しだけ力を注いでください」
ローガンの手の中では、小さな電気がパチパチと走っている。オリバーはコップの中に入った葉を、風の魔法でくるくる回している。しかし十分に一回、葉はコップの外に出ていた。
「三人とも、落ち着いて。自分の身体の中の魔力を意識してコントロールしてください」
授業では何度か瞑想の授業があった。落ち着いて自分の身体の内側を見ると、私は自分の身体に流れる魔力の流れを感じた。こうして魔力を使っていると、その魔力が指先から出て行くのを感じる。その出力先を小さくするのが本当に大変だった。
最近、学校に行っても虐められる事が少なくなった。『魔法特別授業』への参加の副産物だったらしい。人間ってのは、自分より弱い人間を虐げるものだ。でも、今の私ならイラつけばこの教室一つを丸焼きにできる。もしも私に石を投げて、焼かれでもしたらと思うと子供達は私に手を出せなくなったのだろう。しかしクラス内では変わらずぼっちなのであった。
家に帰って手伝いをして、森で少しフランと遊ぶ。フランは、闇夜を走る鼠に気づき小さな火を当てて誇らしげに私の前に寄ってきた。
「すごいねフラン」
火の魔法の扱いなら、私よりもフランの方が数段上のようだ。草むらをかき分ける音がして、クラビスさんがやって来る。
「こんばんは、スカーレットちゃん」
彼はヒラヒラと手を振って現れた。
「今日もフランメキャットの観察をしても良いかな?」
「いいですよ」
私はフランを抱っこする。
「そうしてると、本当に大人しいね」
クラビスさんが、側でフランをじっくりと見る。最近、クラビスさんに慣れて来たフランは逃げもせずに私の腕の中にいる。
「ふんふん、お腹の裏はこうなっているのか」
熱心にメモをとっている。
「ところでスカーレットちゃん。フランメキャットは本来砂漠地方にいる魔物なんだ」
「そうなんですか?」
暑い地方で育ったから火を吐けるようになったんだろうか。
「たぶん、この子は密輸されて来たんだろうね。逃げ出したのかな」
「密輸!」
「砂漠ならいざ知らず、こんなに木の多いところだと火事の原因になったりもする。フランメキャットが砂漠以外で見つかった時は、駆除対象だったりするんだよね……」
「駆除するんですか……?」
「捕まえて、砂漠に帰してやるのが正しい道だろうね」
私はフランを見下ろす。
「でも、どうやらこの子は今のところ自分の炎をきちんと操っているようだし。僕としては、黙認させて貰うよ」
クラビスは笑顔で笑った。
「本当ですか!」
「うん、さっきのフランの狩りを見てこの子は信頼しても良いと思えた」
確かにフランの炎の扱いは繊細で、とてもうまい。的確に獲物だけ狙っている。
「本来、魔物は人に懐かなない、君たちはとても特殊な症例だ。今後も観察させてくれるかな?」
「はい!」
「ありがとう」
クラビスさんが話しのわかる人で良かった。
私もこうやって子供を見守れる大人になりたい。
つづく
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