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15 五十五日目  0/10

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■ 

 日の高くなり始めた朝に、アパートの階段を下りると、道路に時雨が立っている。

「おはよう」

 こちらから挨拶する。

「おはようございます」

 いつも変わらない、グレーのスウェットを着た時雨は嬉しそうに笑う。

「匡伸さん、これ見てくださいよ」

 時雨の見せて来た黄色いスマホを覗き込む。 
 画面にはかわいい猫の親子が、草むらで横になっている写真が表示されている。

「今日、散歩してたら見かけたんです」
「へぇ、よく撮れてるじゃん」
「ふふっ、匡伸さんに見せてあげたくてがんばりました♡」
「そいつはどうも。そうだ、これやるよ」

 ポケットに入っていた飴を取り出す。

「良いんですか!」
「俺、そのコーヒーキャンディー苦手なんだ……」
 
 仕事先で貰ったのだが、食べずにポケットに入れていた。

「えへへ、ありがとうございます」

 時雨はそれを嬉しそうにポケットに入れる。

「それじゃ、行ってらっしゃい」

 スマホを見れば、電車の時間が迫っている。

「おう、それじゃあな」
 
 軽く手を振って、駅へ向かう。
 だいぶ離れて振り向けば、まだ時雨の奴がこちらを見ていた。
 匡伸は軽く手を振っておいた。
 すると、時雨も大きく手を振り返して来たのだった。

(……まぁ、なんつうか、俺も慣れて来たよな)

 引っ越して一ヶ月が経った。
 最近は、殺された記憶も曖昧になっている。
 あれは全て本当に夢だったのではとも感じていた。

 【時雨 一好】と言う、普通の友人が一人出来たような錯覚をし始めていた。



つづく
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