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 葵はルーセルと、街に来ている。外出となると、どうしてもルーセルの護衛を付けられてしまうのだった。葵は地味な町娘と言う格好をして、ルーセルと共に街を歩く。彼の方もいつもの派手な白銀の鎧では無く、地味な鉄の鎧を着て旅装束と言う感じである。それから、何故か顔を覆う仮面を付けている。彼と共に歩いていると、以前のような身の危険は感じない。葵は市場を見て歩きながら、隣に並ぶルーセルを見る。
「あの、ルーセルさん」
「なんだ」
 魔王と引き離された事で、彼は不満げである。
「なんで、そんな怖そうな仮面被ってるんですか」
 異国のお土産のような、派手な仮面である。
「舐められない為にだ」
「舐められない為」
「私は、ぱっと見顔が女に見えるらしい」
「ほお」
 葵は頷く。ルーセルさんは顔が綺麗で長髪なので、美しい女騎士に見えなくもない。女性で無くても、一晩お願いしたくなる容姿だろう。
「だから仮面を着けて隠している」
「なるほど、納得しました」
「それで、街に出ておまえは何が見たいのだ」
「いえ、ただ街を見たかっただけです。どの程度の文明レベルなのかと思って」
 以前はゆっくり見れなかった街の中を見渡す。
「市場は活気がありますね。いろんな種族の人が行き交ってる。やはり、魔王のお膝元だからでしょうか」
「そうだな。これだけ多種多様な魔族が出入りして争いの無い街は、ここくらいだろう」
「そうなんですか?」
「他の街はもっと無法地帯だぞ。魔王様と言う絶対的な力を持った権力者がいるから、彼らは大きな争いを起こさずに過ごしているんだ」
「へーなるほど」
 葵は突然襲われて奴隷にされたりしたが、あの程度はこの世界では普通の事なのだろう。街の中にも、奴隷らしき人達の姿が見えて胸が痛む。
「本当、弱肉強食なんですね」
「弱い者が虐げられるのは普通だろう。食われたく無いから、みな必死に強くなる」
 葵の世界では、弱い者は守ってやるように教えられるのだが、この世界では違うらしい。
「魔王様もそう言うお考えなんですか?」
「さぁな」
「わからないんですか?」
「あの方は、あの巨大な城に君臨しているだけだ。城の周りに自然と人が集まり、街ができた。街の者が大人しいのは、ルールがあるわけではなく、ただ魔王の力が恐ろしいからだ」
「魔王様って、この世界を掌握して管理しているんじゃないんですか?」
 葵は首を傾げる。
「イルブランド様は、この世界全ての頂点に立つお方だが、魔界全てを管理しているわけではない。そもそも、魔族は管理されるのを嫌う」
 統率には向かない人種らしい。
「でも、それじゃ魔王様は毎日何を忙しくしてるんですか?」
 いつも、執務室で書類を読んでいる気がする。
「あれは、魔王の後ろ盾が欲しい連中が送って来るんだ。イルブランド様は、名前だけ貸してやっている。後は、弱い魔物達が近辺に出た魔物を倒して欲しいと言う依頼を出したりな」
「そんな依頼まで来るんですか?」
「随分昔に、イルブランド様が暴れ竜を倒してやってから、頻繁にそう言う依頼が来るようになった。まぁ最近は、俺の部下が赴く事の方が多いがな。あの方が出向く程の敵はそうはいない」
「ルーセル様、部下がいるんですか?」
「魔王騎士団の団長だからな」
「そんな偉かったんですね……」
 知らなかった。
「イルブランド様って、なんで魔王になったんですか?」
 ルーセルが黙る。
「気になるのなら、直接聞いてみると良い」
「教えてくれますかね?」
「遺憾だが、イルブランド様は、おまえの事を気に入っているからな」
 彼が肩をすくめる。
「おまえはあの方にズケズケと物を言うだろう。そう言うところが、あの方は気に入っているんだ」
 葵はきょとんとした顔をする。
「他の方は言わないんですか?」
 ルーセルがため息をつく。
「俺はあの方の右腕だが、魔力量はあの方の足元にもおよばない。他の魔族のように、側に居て気絶はしないが、気を強く持たなければ足が震える時がある」
 葵はその言葉に驚く。
「あの方は、指先一つ動かすだけで俺など殺せるだろう。俺ですらそうなのだから、他の魔族では踏み込んだ話をするのは難しい。何が、気に障るのかわからないからな」
 それは、葵にとって意外過ぎる返答だった。葵の知る、魔王イルブランドはちっとも恐ろしい男では無かった。たまに言動は偉そうではあるのだが、怒る事はほとんど無い。彼の強すぎる力が、彼を孤独に追いやっているのだ。
「ルーセル様は、どうしてイルブランド様のお側にいるのですか?」
「そりゃあ、憧れるからさ。どんなに光が眩しくても、体を焼かれてでもそれを近くで見ていたいと思ったんだ」
 葵は思わず今の言葉をメモにとりたくなった。
(次のマンガの、セリフに使おう)
 凄く大事な話をしていた気がするのだが、どうしても腐妄想を止められない葵だった。
 
つづく

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