11 / 25
10
しおりを挟む■
葵はルーセルと、街に来ている。外出となると、どうしてもルーセルの護衛を付けられてしまうのだった。葵は地味な町娘と言う格好をして、ルーセルと共に街を歩く。彼の方もいつもの派手な白銀の鎧では無く、地味な鉄の鎧を着て旅装束と言う感じである。それから、何故か顔を覆う仮面を付けている。彼と共に歩いていると、以前のような身の危険は感じない。葵は市場を見て歩きながら、隣に並ぶルーセルを見る。
「あの、ルーセルさん」
「なんだ」
魔王と引き離された事で、彼は不満げである。
「なんで、そんな怖そうな仮面被ってるんですか」
異国のお土産のような、派手な仮面である。
「舐められない為にだ」
「舐められない為」
「私は、ぱっと見顔が女に見えるらしい」
「ほお」
葵は頷く。ルーセルさんは顔が綺麗で長髪なので、美しい女騎士に見えなくもない。女性で無くても、一晩お願いしたくなる容姿だろう。
「だから仮面を着けて隠している」
「なるほど、納得しました」
「それで、街に出ておまえは何が見たいのだ」
「いえ、ただ街を見たかっただけです。どの程度の文明レベルなのかと思って」
以前はゆっくり見れなかった街の中を見渡す。
「市場は活気がありますね。いろんな種族の人が行き交ってる。やはり、魔王のお膝元だからでしょうか」
「そうだな。これだけ多種多様な魔族が出入りして争いの無い街は、ここくらいだろう」
「そうなんですか?」
「他の街はもっと無法地帯だぞ。魔王様と言う絶対的な力を持った権力者がいるから、彼らは大きな争いを起こさずに過ごしているんだ」
「へーなるほど」
葵は突然襲われて奴隷にされたりしたが、あの程度はこの世界では普通の事なのだろう。街の中にも、奴隷らしき人達の姿が見えて胸が痛む。
「本当、弱肉強食なんですね」
「弱い者が虐げられるのは普通だろう。食われたく無いから、みな必死に強くなる」
葵の世界では、弱い者は守ってやるように教えられるのだが、この世界では違うらしい。
「魔王様もそう言うお考えなんですか?」
「さぁな」
「わからないんですか?」
「あの方は、あの巨大な城に君臨しているだけだ。城の周りに自然と人が集まり、街ができた。街の者が大人しいのは、ルールがあるわけではなく、ただ魔王の力が恐ろしいからだ」
「魔王様って、この世界を掌握して管理しているんじゃないんですか?」
葵は首を傾げる。
「イルブランド様は、この世界全ての頂点に立つお方だが、魔界全てを管理しているわけではない。そもそも、魔族は管理されるのを嫌う」
統率には向かない人種らしい。
「でも、それじゃ魔王様は毎日何を忙しくしてるんですか?」
いつも、執務室で書類を読んでいる気がする。
「あれは、魔王の後ろ盾が欲しい連中が送って来るんだ。イルブランド様は、名前だけ貸してやっている。後は、弱い魔物達が近辺に出た魔物を倒して欲しいと言う依頼を出したりな」
「そんな依頼まで来るんですか?」
「随分昔に、イルブランド様が暴れ竜を倒してやってから、頻繁にそう言う依頼が来るようになった。まぁ最近は、俺の部下が赴く事の方が多いがな。あの方が出向く程の敵はそうはいない」
「ルーセル様、部下がいるんですか?」
「魔王騎士団の団長だからな」
「そんな偉かったんですね……」
知らなかった。
「イルブランド様って、なんで魔王になったんですか?」
ルーセルが黙る。
「気になるのなら、直接聞いてみると良い」
「教えてくれますかね?」
「遺憾だが、イルブランド様は、おまえの事を気に入っているからな」
彼が肩をすくめる。
「おまえはあの方にズケズケと物を言うだろう。そう言うところが、あの方は気に入っているんだ」
葵はきょとんとした顔をする。
「他の方は言わないんですか?」
ルーセルがため息をつく。
「俺はあの方の右腕だが、魔力量はあの方の足元にもおよばない。他の魔族のように、側に居て気絶はしないが、気を強く持たなければ足が震える時がある」
葵はその言葉に驚く。
「あの方は、指先一つ動かすだけで俺など殺せるだろう。俺ですらそうなのだから、他の魔族では踏み込んだ話をするのは難しい。何が、気に障るのかわからないからな」
それは、葵にとって意外過ぎる返答だった。葵の知る、魔王イルブランドはちっとも恐ろしい男では無かった。たまに言動は偉そうではあるのだが、怒る事はほとんど無い。彼の強すぎる力が、彼を孤独に追いやっているのだ。
「ルーセル様は、どうしてイルブランド様のお側にいるのですか?」
「そりゃあ、憧れるからさ。どんなに光が眩しくても、体を焼かれてでもそれを近くで見ていたいと思ったんだ」
葵は思わず今の言葉をメモにとりたくなった。
(次のマンガの、セリフに使おう)
凄く大事な話をしていた気がするのだが、どうしても腐妄想を止められない葵だった。
つづく
10
お気に入りに追加
1,392
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる
一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。
そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。
それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【完結】王宮の飯炊き女ですが、強面の皇帝が私をオカズにしてるって本当ですか?
おのまとぺ
恋愛
オリヴィアはエーデルフィア帝国の王宮で料理人として勤務している。ある日、皇帝ネロが食堂に忘れていた指輪を部屋まで届けた際、オリヴィアは自分の名前を呼びながら自身を慰めるネロの姿を目にしてしまう。
オリヴィアに目撃されたことに気付いたネロは、彼のプライベートな時間を手伝ってほしいと申し出てきて…
◇飯炊き女が皇帝の夜をサポートする話
◇皇帝はちょっと(かなり)特殊な性癖を持ちます
◇IQを落として読むこと推奨
◇表紙はAI出力。他サイトにも掲載しています
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる