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屋敷に帰って一人考えたけれど、パトリシアには疑問の答えが出なかった。膝にアリーを模した人形を抱いて撫でる。
「あなたは誰なのアリー……」
イズスター家の子供の部屋には『アリー』の肖像画があった。けれど、イズスター家には『アリー』と言う娘はいなかった。
「アリソン・イズスター……」
ユリアーノのペンネームを思い出す。
「彼がアリー?」
ユリアーノは男だ、けれど女顔の彼ならば子供の時に女の子の格好をしていても違和感はないだろう。
「そんな、神様……」
パトリシアは天を仰ぐ。親愛なる友人のユリアーノが、ずっと探していた『アリー』だった? パトリシアは、思わず立ち上がり机の前に座って彼に手紙を書き始めた。
『親愛なるユリアーノへ、あなたに聞きたい事があります。あなたは、もしかしてアリーなの?』
そこまで書いた時、部屋に大きなノックの音が響く。パトリシアは驚いて、インクの瓶をこぼしてしまう。
「パトリシア! いるかい」
部屋の外から響くのはアレクサンダーの声だった。
「す、すぐに行くわ」
パトリシアは慌てて部屋の扉を開く。するとそこには、息を切らせたアレクサンダーが立っていた。
「ど、どうしたんですか。そんなに慌てて」
「突然すまない……、君に聞きたい事があったんだ」
彼はパトリシアの部屋に入って来ると、手に持ったカバンから一冊の本を取り出してパトリシアに差し出す。それは、出たばかりのユリアーノの新作小説だった。
「教えて欲しいパトリシア。この小説の題材になっている令嬢は君がモデルなのかい」
パトリシアは目を見開く。
「それは……」
「ユリアーノは俺の弟だ、あいつが知り合いを小説の登場人物に使うところを俺は何度も見て来た。だから……俺はこの小説のヒロインのモデルは君だと思った」
パトリシアは視線をさまよわせた後に、小さくうなずく。
「はい、そうです……」
「では、庭師の男はオルガか」
彼の口調が、酷くきつい。
「あの、でも、けしてその物語に書かれているような関係ではありません」
パトリシアはアレクサンダーを見上げる。このままでは、オルガが辞めさせられてしまう。
「本当に?」
彼が疑がわしげに尋ねる。
「言われてみれば、君とオルガの関係は長い。幼馴染だったそうじゃないか、年の近い二人が身分差を超えて恋をしてもおかしくない」
パトリシアの胸がチクチク痛む。今、彼のパトリシアへの愛が失われようとしている。
「違います、信じてアレクサンダー。本当にオルガと私は何もないんです。彼は私にとって兄のような者です、オルガも私の事を妹のようにしか思っていません」
「……ユリアーノは小説の中であらゆる嘘をつくが、恋愛の部分だけは嘘をつかない。そうすれば、嘘臭くなると知っているからだ」
パトリシアは目を見開く。
「では、私とオルガの浮気をお疑いになるのですか」
「……俺だって信じたくないさ、けど……火の無い所に煙は立たないと言うだろう」
パトリシアは涙が溢れて来るのを感じる。
「……離縁なさいますか」
絞り出すようにささやく。
「いや、庭師のオルガを辞めさせて、君の実家に戻す」
「そんな……!」
「例え君が浮気していたのだとしても、俺は君を手放す気はないし、オルガがこの屋敷からいなくなれば君も諦めがつくだろう」
彼は真新しい本を見つめた後に、燃える暖炉に投げ入れる。
「それで元通りだ、この話はおしまいだ」
本が暖炉中で燃えている。パトリシアは悲しい気持ちになった。
「本当に浮気などしていないんです」
「パトリシア、俺だって君の言葉を信じたい。だから、その証明にオルガを君の家に帰す事を許しておくれ」
パトリシアは視線をさまよわせた後に、うなずく。
「代わりに、オルガの父親に来てもらえないか聞いてみよう。君の庭の手入れが行き届かなくなるのは、申し訳ないからね」
「えぇ、ありがとうアレクサンダー……」
礼を言いながらも、パトリシアは呆然とした。だからアレクサンダーが、暖炉から離れパトリシアの机に近づくのに気づくのが遅くなった。そこには大事な手紙が開かれたままだと言うのに、アレクサンダーが床に落ちたインクを拾い上げる。
「慌てさせてしまったみたいだね」
インクの瓶を机の上に置いた後で、アレクサンダーが黙り込む。
「『アリー?』」
振り向くと、彼は手紙を手に取っていた。
「アレクサンダー……それは……」
彼は険しい目をして、手紙を見つめている。
「あいつ、謀ったな」
それは彼から聞いた事のない程怒気に満ちた声だった。手紙の文面をにらんでいる。
「アレクサンダー……?」
彼の様子がおかしい。
「君に話しておかなければいけない事がある」
彼が振り向きパトリシアを見下ろす。
「本当は永遠に秘密にしておくつもりだった。だが、そういうわけにもいかなくなった、だから君に伝えよう」
パトリシアは震えながら彼を見つめる。
「君の探している『アリー』とは、俺の事だ」
空白。何を言われているのか、パトリシアには一瞬わからなかった。
「ま、まって。どういう事なの」
「君も一つの憶測はたてたんだろう。君の推測する通り、俺達兄弟は小さな子どもの頃は女の子服を着せられて育っていたんだ。傍目から見れば、男の子には見えなかっただろうね。まぁ、そういうのが貴族の間で流行っていたんだよ」
彼は手紙を机の上に置く。
「俺の名前はアレクサンダーだ。でも女の子の格好をしていた時は、ナニー達からは『アリー』と呼ばれていた」
パトリシアは目を見開く。
「本当にあなたが、『アリー』なの……?」
「残念ながら『アリー』だよ。だから、君を探したんだ」
パトリシアは口を押さえる。
「待って、じゃあ、あなたが私に求婚したのは偶然じゃないの?」
「……当時君が俺をどう思っていたか知らないが、俺は君に恋をしていた。だから、大人になったら君を妻に貰おうとずっと思っていたんだ。けど、成人して社交界に出て君を探したけれど、君は見つけられなかった。子供の時に、きちんと君の名前を聞いておかなかった事を後悔したよ……」
それはパトリシアもだった。
「俺が知っているのは『トリッシュ』と言う君の愛称だけだった。貴族達にトリッシュと言う愛称を持つ娘を聞いてみたけど、引き合わせられるのは別人ばかりだった」
パトリシアは公式の社交界デビューができていなかったので、彼女の事を知る貴族は少ないだろう。
「それで、一計を案じたんだ。君にはすまないと思ったけど、あの方法しかもう思いつかなかった」
「もしかして、占いと言うのは嘘だったの……?」
「……君の顔に特徴的な痣がある事を俺はしっかりと覚えていた。だから『痣のある令嬢を探している』と噂を出したのさ。占い師に言われたなんて嘘だ」
パトリシアは驚く事ばかりが続いて、体から力が抜けてベッドに座る。
「嘘……」
「本当だ」
「なら、どうしてすぐ教えてくれなかったの」
うなだれた後に、彼を見上げる。
「言えるはずないだろう。君の秘密を皆にバラすような事をしてしまったんだ。君が……俺を恨むと思ったんだ」
確かにパトリシアにとって顔の痣は大事な秘密だ。以前はパトリシアの顔に大きな醜い痣がある事を知る者は少なかった。顔の痣はパトリシアにとって急所だった。だから、大事な親友を信頼して見せたのだ。アレクサンダーは苦しげに顔を歪める。
「君は俺を許さないだろうな……」
彼の噂のせいで、パトリシアの顔に大きな痣がある事は貴族の間に広く知れ渡ってしまっただろう。けれど、その事実はちっとも今のパトリシアにはつらくない。
「いいえ、あなたを許すわ」
パトリシアは真っすぐに彼を見る。
「まだ頭が混乱しているのだけど、あなたは本当に『アリー』なのよね?」
アレクサンダーがゆっくりとうなずく。
「それで、ずっと私を探してくれていたのよね」
「あぁ、そうだ。俺はずっと君を探していた……」
パトリシアは彼に両手を広げた。
「アリー」
すると彼が困った表情のまま、パトリシアの腕の中にやって来て収まる。
「また会えてうれしいわ、アリー」
彼を抱きしめて、肩に頬を寄せる。
「俺も君に会えてうれしかった……」
「……でも、あなたが男の人で、その貴方と結婚しているのは不思議な気分ね」
アリーが男の子だったなんて、今でも信じられない。だって子供の時に遊んでいたアリーはパトリシアよりも小柄で、かわいらしい女の子だったのだ。
「その……本当にすまない……正直、その事実を隠しておきたい気持ちもあった」
昔、『女の子の格好をしていた』と言う事を伝えるのは確かに勇気のいる行為に思えた。
「顔を見せてアリー……」
パトリシアは抱きとめていた彼の顔を見る。金色の短髪で、琥珀色の目をしている。今は少し泣いて、恥ずかしそうな顔をしていた。その泣き顔は、アリーを思い出した。
「ふふっ、本当にアリーだわ!」
再びパトリシアは彼を抱きしめる。
「パトリシア、俺を許してくれるのかい……君の大事な秘密をバラしてしまったのに」
「えぇ、許すわ。あなたが、私を探してくれなかったら私は修道院で一生を終えていたと思うの。きっとあなたに出会う事もないままね……」
それは想像するだけで恐ろしい事だった。
「だからありがとうアリー……いいえ、アレクサンダー。私を探してくれてありがとう」
彼もパトリシアの背中を抱き返す。
「ずっと、ずっと君を探していたんだ。必ず出会えると信じてた……君が俺に大事な秘密を教えてくれた時、俺は君と一生一緒にいたいと思ったんだ」
「……ありがとうアレクサンダー」
二人は抱き合い、驚きの事実をゆっくりと受け入れた。
「でも、どうして突然この事を話してくれる気になったの?」
「……ユリアーノが君を騙そうとしてたからだ」
「ユリアーノが?」
「あいつが君になんと言ったか知らないけれど、あいつは君が自分を『アリー』だと思うように誘導したんだろう」
「それは……きっと私の早とちりよ」
「そうかな。こうなる事を想定して、あいつはペンネームを決めていたのかもしれない」
確かにあの紛らわしいペンネームが、疑いの決め手にはなっていた。
「君に『アリー』かと聞かれたらあいつはきっとイエスと答えるつもりだったんだろう」
「どうして、そんな事を」
アレクサンダーがパトリシアを見つめる。
「あいつが君に惚れてるからさ」
「!」
パトリシアは驚く。以前、彼にささやかれた告白とも取れる言葉を思い出した。
「あいつと俺は年が近くて、ずっと一緒に育って来た。だから、ユリアーノがどんな人を好きになるかわかっている」
アレクサンダーが立ち上がって、パトリシアの隣に座り彼女の腕を握る。
「子供の時に君と出会って、君の事を知る程にきっとユリアーノは君に惹かれるだろうと思った。君も俺よりユリアーノが好きになるだろうと思った。だから、近づけさせなかったんだ」
「!」
子供の時の記憶は曖昧なのだが、パトリシアはユリアーノらしき少年に会った記憶があった。
「そう言えば、花をくれた子が居たわ。一度だけだったけど……」
「近づくなって脅してたからね」
「怖いお兄さんね」
「子供の独占欲だと許して欲しい……でも、やっぱり君達は大人になって出会い惹かれあってしまったみたいだけど」
アレクサンダーは視線を落とす。
「アレクサンダー……」
「パトリシア、俺は君が好きだ。君が考えている以上に、俺は君の事を愛しているし、俺の人生の大半を占めている存在なんだ。君のいない人生なんて考えられない、なにしろ離れ離れになった後も君に出会う事だけを夢見て生きて来たんだから……どうか俺を見捨てないで欲しい、ユリアーノの元に行かないでくれ」
パトリシアは彼の告白を聞き、胸に詰まるものを感じた。きっと彼の言うように、アレクサンダーはパトリシアの想像よりも大きく愛してくれているのだろう。その愛はあまりにも大きく深い。今なら彼の愛に確信が持てる。
「大丈夫よアレクサンダー、私の心はあなただけのモノ。私が愛しているのもアレクサンダー、ただ一人よ」
パトリシアは真っ直ぐに彼を見てキスをする。
「本当に?」
「えぇ、本当に」
「庭師のオルガや弟のユリアーノよりも、俺を愛してくれている?」
「もちろんよ」
彼は震える手でパトリシアの頬に触れ、キスを返した。二人は軽いキスを何度も繰り返す。キスは何度もやったけど、今日のキスはまた違ったモノに感じられた。本当に二人の心が全て繋がったように思えたのだ。
「やっぱり、なんだか不思議だわ。私、アリーとキスしているのね」
彼が笑う。
「大丈夫、すぐに慣れるよ」
深いキスをしてパトリシアを、ベッドに押し倒した。
「ま、まって! するの?」
「そのつもりだよ」
「でも、気持ちの切り替えが……!」
アリーとの感動の再会にふるえていたのに、突然押し倒されてパトリシアは慌てる。
「俺はアリーの頃から君の事を女の子として好きだったから、大丈夫だよ」
パトリシアの首に彼がキスを落とす。あんなかわい顔してたアリーが、実は内心でそんな風に想っていたのは少しショックだった。
「君のファーストキスも貰ったしね」
「そう言えば、そうだわ!」
子供の頃の些細な記憶としてすっかり忘れていたのだが、確かにパトリシアにはアリーにキスされた記憶がある。生まれて初めてのキスだった。
「あの時、あなたが私に迫って来て突然キスをしたのよね……」
「そうだよ、前日に俺の父と母がキスをしているのを見てね。俺も君としたいと思ったんだ」
言いながら、彼はネグリジェのボタンを外している。パトリシアの胸とおなかがあらわになる。
「やっぱり、時間を開ける事にしない?」
パトリシアの頭の中は、どうしても小さくてかわいらしい『アリー』の方に傾くのだった。
「だめだよ、もしかしたら君はこのまま俺を抱かせてくれなくなるかもしれない。だから、『アリー』だった事を伝えたくなかったんだ」
確かに、昔の女の子の親友に、大人になって抱かれるのは倒錯的過ぎてパトリシアには、頭がついていかなかった。
「まるで、ユリアーノの書いた小説みたい……」
アレクサンダーがパトリシアの胸にキスをする。
「あいつは、俺と君の関係をすごく羨ましがってね。だから小説の中で、発散しているのさ」
「そうなのね」
「あぁ」
確かにユリアーノの小説のヒロインと、ヒーローは特殊な関係の物が多かった。
「でも、ユリアーノの話は後でしよう。今は、俺の事だけを考えてね」
おなかにキスが落ちる。
「それは、それで恥ずかしいわね」
彼に撫でられ、キスされる内にしだいに体が熱を帯びて来た。戸惑いを横にやって、パトリシアはアレクサンダーの事を求め始めていた。太ももにキスをした後、彼が再びパトリシアの唇にキスをする。
「ねぇ、アリー。あなた、頭を撫でられるのが好きだったわよね」
パトリシアは彼の首を引き寄せて、彼の頭を撫でた。短い髪は、手触りが良い。
「君に撫でてもらうのが好きだったんだ」
彼がパトリシアの肩に頭を預ける。
「ふふっ。アリーは甘えん坊だったものね。私よりも小さくて、私を見つけるとすぐに駆け寄って来た。まるで小さなワンちゃんみたいと思っていたのよ」
「それは心外だな」
「ごめんなさいね。でも、今でもあなたは人懐っこいワンちゃんみたでかわいいわよ」
大型犬のゴールデンレトリバーを思い浮かべる。
「そう言う君は、年の割に大人びいていて、すごくミステリアスだった」
「そうかしら?」
「あぁ、とっても魅力的な少女だったよ」
アレクサンダーがパトリシアの頬にキスをする。
「しかし、君の魅力を理解できない奴らも多くて、よく喧嘩したよ」
「そんな事してたの?」
「君が見ていないところでね。俺、これでも結構喧嘩が強かったんだよ?」
「あら、だめよ、暴力なんて」
「言ってわからない奴の方が多かったからさ……君の大事な帽子を盗った奴が居ただろう」
「そんな事もあったわね」
パトリシアは男の子達に帽子を取られてしまい、泣いていたのだが、気づいたら近くの木の根に帽子が置かれていた事があった。
「もしかして、あれも貴方が?」
「……まぁね」
誰が置いて行ってくれたのだろうと、不思議だったのだ。
「そんな、知らなかったわ……」
「俺は女の子のふりをしてたから、君に喧嘩してるところを見られるのは都合が悪かったんだ。だから、良いんだよ」
彼がパトリシアの頬にキスをする。
「ずっと、護ってくれてたのね……」
彼の美しい碧の目を見る。
「ずっと、君を見ていた。俺の気持ちは変らない、ただ君への想いが強くなるだけだ」
再びキスをした。今度は、深いキスだった。言葉は消え、二人は互いの体を求めあう。
彼の大きな手のひらがパトリシアの胸を揉む。
「んっ」
心地よくて声がもれる。彼の広い背を抱いているのは心地よかった。太ももに手が触れて緊張したけれど、怖くは無かった。彼に体を暴かれるのはうれしかった。
下着を取り、直接手が秘部に触れる。体が緊張したけれど、それも彼に触れられる内に緩んでいく。指先が中に入り、秘部を探り解す。
「大丈夫?」
「大丈夫よ……」
笑みを浮かべて彼を見た。
そして、ついに彼の物が入って来る。
「っ……」
ほんの少しの痛みに眉を寄せ、彼を受けいれる。
「アレクサンダー、あなたの事が好きよ」
「俺も君の事が愛しくてたまらないよ」
彼とキスをして、長い時間彼に優しく抱いてもらった。それは、とても幸福な時間だった。
つづく
屋敷に帰って一人考えたけれど、パトリシアには疑問の答えが出なかった。膝にアリーを模した人形を抱いて撫でる。
「あなたは誰なのアリー……」
イズスター家の子供の部屋には『アリー』の肖像画があった。けれど、イズスター家には『アリー』と言う娘はいなかった。
「アリソン・イズスター……」
ユリアーノのペンネームを思い出す。
「彼がアリー?」
ユリアーノは男だ、けれど女顔の彼ならば子供の時に女の子の格好をしていても違和感はないだろう。
「そんな、神様……」
パトリシアは天を仰ぐ。親愛なる友人のユリアーノが、ずっと探していた『アリー』だった? パトリシアは、思わず立ち上がり机の前に座って彼に手紙を書き始めた。
『親愛なるユリアーノへ、あなたに聞きたい事があります。あなたは、もしかしてアリーなの?』
そこまで書いた時、部屋に大きなノックの音が響く。パトリシアは驚いて、インクの瓶をこぼしてしまう。
「パトリシア! いるかい」
部屋の外から響くのはアレクサンダーの声だった。
「す、すぐに行くわ」
パトリシアは慌てて部屋の扉を開く。するとそこには、息を切らせたアレクサンダーが立っていた。
「ど、どうしたんですか。そんなに慌てて」
「突然すまない……、君に聞きたい事があったんだ」
彼はパトリシアの部屋に入って来ると、手に持ったカバンから一冊の本を取り出してパトリシアに差し出す。それは、出たばかりのユリアーノの新作小説だった。
「教えて欲しいパトリシア。この小説の題材になっている令嬢は君がモデルなのかい」
パトリシアは目を見開く。
「それは……」
「ユリアーノは俺の弟だ、あいつが知り合いを小説の登場人物に使うところを俺は何度も見て来た。だから……俺はこの小説のヒロインのモデルは君だと思った」
パトリシアは視線をさまよわせた後に、小さくうなずく。
「はい、そうです……」
「では、庭師の男はオルガか」
彼の口調が、酷くきつい。
「あの、でも、けしてその物語に書かれているような関係ではありません」
パトリシアはアレクサンダーを見上げる。このままでは、オルガが辞めさせられてしまう。
「本当に?」
彼が疑がわしげに尋ねる。
「言われてみれば、君とオルガの関係は長い。幼馴染だったそうじゃないか、年の近い二人が身分差を超えて恋をしてもおかしくない」
パトリシアの胸がチクチク痛む。今、彼のパトリシアへの愛が失われようとしている。
「違います、信じてアレクサンダー。本当にオルガと私は何もないんです。彼は私にとって兄のような者です、オルガも私の事を妹のようにしか思っていません」
「……ユリアーノは小説の中であらゆる嘘をつくが、恋愛の部分だけは嘘をつかない。そうすれば、嘘臭くなると知っているからだ」
パトリシアは目を見開く。
「では、私とオルガの浮気をお疑いになるのですか」
「……俺だって信じたくないさ、けど……火の無い所に煙は立たないと言うだろう」
パトリシアは涙が溢れて来るのを感じる。
「……離縁なさいますか」
絞り出すようにささやく。
「いや、庭師のオルガを辞めさせて、君の実家に戻す」
「そんな……!」
「例え君が浮気していたのだとしても、俺は君を手放す気はないし、オルガがこの屋敷からいなくなれば君も諦めがつくだろう」
彼は真新しい本を見つめた後に、燃える暖炉に投げ入れる。
「それで元通りだ、この話はおしまいだ」
本が暖炉中で燃えている。パトリシアは悲しい気持ちになった。
「本当に浮気などしていないんです」
「パトリシア、俺だって君の言葉を信じたい。だから、その証明にオルガを君の家に帰す事を許しておくれ」
パトリシアは視線をさまよわせた後に、うなずく。
「代わりに、オルガの父親に来てもらえないか聞いてみよう。君の庭の手入れが行き届かなくなるのは、申し訳ないからね」
「えぇ、ありがとうアレクサンダー……」
礼を言いながらも、パトリシアは呆然とした。だからアレクサンダーが、暖炉から離れパトリシアの机に近づくのに気づくのが遅くなった。そこには大事な手紙が開かれたままだと言うのに、アレクサンダーが床に落ちたインクを拾い上げる。
「慌てさせてしまったみたいだね」
インクの瓶を机の上に置いた後で、アレクサンダーが黙り込む。
「『アリー?』」
振り向くと、彼は手紙を手に取っていた。
「アレクサンダー……それは……」
彼は険しい目をして、手紙を見つめている。
「あいつ、謀ったな」
それは彼から聞いた事のない程怒気に満ちた声だった。手紙の文面をにらんでいる。
「アレクサンダー……?」
彼の様子がおかしい。
「君に話しておかなければいけない事がある」
彼が振り向きパトリシアを見下ろす。
「本当は永遠に秘密にしておくつもりだった。だが、そういうわけにもいかなくなった、だから君に伝えよう」
パトリシアは震えながら彼を見つめる。
「君の探している『アリー』とは、俺の事だ」
空白。何を言われているのか、パトリシアには一瞬わからなかった。
「ま、まって。どういう事なの」
「君も一つの憶測はたてたんだろう。君の推測する通り、俺達兄弟は小さな子どもの頃は女の子服を着せられて育っていたんだ。傍目から見れば、男の子には見えなかっただろうね。まぁ、そういうのが貴族の間で流行っていたんだよ」
彼は手紙を机の上に置く。
「俺の名前はアレクサンダーだ。でも女の子の格好をしていた時は、ナニー達からは『アリー』と呼ばれていた」
パトリシアは目を見開く。
「本当にあなたが、『アリー』なの……?」
「残念ながら『アリー』だよ。だから、君を探したんだ」
パトリシアは口を押さえる。
「待って、じゃあ、あなたが私に求婚したのは偶然じゃないの?」
「……当時君が俺をどう思っていたか知らないが、俺は君に恋をしていた。だから、大人になったら君を妻に貰おうとずっと思っていたんだ。けど、成人して社交界に出て君を探したけれど、君は見つけられなかった。子供の時に、きちんと君の名前を聞いておかなかった事を後悔したよ……」
それはパトリシアもだった。
「俺が知っているのは『トリッシュ』と言う君の愛称だけだった。貴族達にトリッシュと言う愛称を持つ娘を聞いてみたけど、引き合わせられるのは別人ばかりだった」
パトリシアは公式の社交界デビューができていなかったので、彼女の事を知る貴族は少ないだろう。
「それで、一計を案じたんだ。君にはすまないと思ったけど、あの方法しかもう思いつかなかった」
「もしかして、占いと言うのは嘘だったの……?」
「……君の顔に特徴的な痣がある事を俺はしっかりと覚えていた。だから『痣のある令嬢を探している』と噂を出したのさ。占い師に言われたなんて嘘だ」
パトリシアは驚く事ばかりが続いて、体から力が抜けてベッドに座る。
「嘘……」
「本当だ」
「なら、どうしてすぐ教えてくれなかったの」
うなだれた後に、彼を見上げる。
「言えるはずないだろう。君の秘密を皆にバラすような事をしてしまったんだ。君が……俺を恨むと思ったんだ」
確かにパトリシアにとって顔の痣は大事な秘密だ。以前はパトリシアの顔に大きな醜い痣がある事を知る者は少なかった。顔の痣はパトリシアにとって急所だった。だから、大事な親友を信頼して見せたのだ。アレクサンダーは苦しげに顔を歪める。
「君は俺を許さないだろうな……」
彼の噂のせいで、パトリシアの顔に大きな痣がある事は貴族の間に広く知れ渡ってしまっただろう。けれど、その事実はちっとも今のパトリシアにはつらくない。
「いいえ、あなたを許すわ」
パトリシアは真っすぐに彼を見る。
「まだ頭が混乱しているのだけど、あなたは本当に『アリー』なのよね?」
アレクサンダーがゆっくりとうなずく。
「それで、ずっと私を探してくれていたのよね」
「あぁ、そうだ。俺はずっと君を探していた……」
パトリシアは彼に両手を広げた。
「アリー」
すると彼が困った表情のまま、パトリシアの腕の中にやって来て収まる。
「また会えてうれしいわ、アリー」
彼を抱きしめて、肩に頬を寄せる。
「俺も君に会えてうれしかった……」
「……でも、あなたが男の人で、その貴方と結婚しているのは不思議な気分ね」
アリーが男の子だったなんて、今でも信じられない。だって子供の時に遊んでいたアリーはパトリシアよりも小柄で、かわいらしい女の子だったのだ。
「その……本当にすまない……正直、その事実を隠しておきたい気持ちもあった」
昔、『女の子の格好をしていた』と言う事を伝えるのは確かに勇気のいる行為に思えた。
「顔を見せてアリー……」
パトリシアは抱きとめていた彼の顔を見る。金色の短髪で、琥珀色の目をしている。今は少し泣いて、恥ずかしそうな顔をしていた。その泣き顔は、アリーを思い出した。
「ふふっ、本当にアリーだわ!」
再びパトリシアは彼を抱きしめる。
「パトリシア、俺を許してくれるのかい……君の大事な秘密をバラしてしまったのに」
「えぇ、許すわ。あなたが、私を探してくれなかったら私は修道院で一生を終えていたと思うの。きっとあなたに出会う事もないままね……」
それは想像するだけで恐ろしい事だった。
「だからありがとうアリー……いいえ、アレクサンダー。私を探してくれてありがとう」
彼もパトリシアの背中を抱き返す。
「ずっと、ずっと君を探していたんだ。必ず出会えると信じてた……君が俺に大事な秘密を教えてくれた時、俺は君と一生一緒にいたいと思ったんだ」
「……ありがとうアレクサンダー」
二人は抱き合い、驚きの事実をゆっくりと受け入れた。
「でも、どうして突然この事を話してくれる気になったの?」
「……ユリアーノが君を騙そうとしてたからだ」
「ユリアーノが?」
「あいつが君になんと言ったか知らないけれど、あいつは君が自分を『アリー』だと思うように誘導したんだろう」
「それは……きっと私の早とちりよ」
「そうかな。こうなる事を想定して、あいつはペンネームを決めていたのかもしれない」
確かにあの紛らわしいペンネームが、疑いの決め手にはなっていた。
「君に『アリー』かと聞かれたらあいつはきっとイエスと答えるつもりだったんだろう」
「どうして、そんな事を」
アレクサンダーがパトリシアを見つめる。
「あいつが君に惚れてるからさ」
「!」
パトリシアは驚く。以前、彼にささやかれた告白とも取れる言葉を思い出した。
「あいつと俺は年が近くて、ずっと一緒に育って来た。だから、ユリアーノがどんな人を好きになるかわかっている」
アレクサンダーが立ち上がって、パトリシアの隣に座り彼女の腕を握る。
「子供の時に君と出会って、君の事を知る程にきっとユリアーノは君に惹かれるだろうと思った。君も俺よりユリアーノが好きになるだろうと思った。だから、近づけさせなかったんだ」
「!」
子供の時の記憶は曖昧なのだが、パトリシアはユリアーノらしき少年に会った記憶があった。
「そう言えば、花をくれた子が居たわ。一度だけだったけど……」
「近づくなって脅してたからね」
「怖いお兄さんね」
「子供の独占欲だと許して欲しい……でも、やっぱり君達は大人になって出会い惹かれあってしまったみたいだけど」
アレクサンダーは視線を落とす。
「アレクサンダー……」
「パトリシア、俺は君が好きだ。君が考えている以上に、俺は君の事を愛しているし、俺の人生の大半を占めている存在なんだ。君のいない人生なんて考えられない、なにしろ離れ離れになった後も君に出会う事だけを夢見て生きて来たんだから……どうか俺を見捨てないで欲しい、ユリアーノの元に行かないでくれ」
パトリシアは彼の告白を聞き、胸に詰まるものを感じた。きっと彼の言うように、アレクサンダーはパトリシアの想像よりも大きく愛してくれているのだろう。その愛はあまりにも大きく深い。今なら彼の愛に確信が持てる。
「大丈夫よアレクサンダー、私の心はあなただけのモノ。私が愛しているのもアレクサンダー、ただ一人よ」
パトリシアは真っ直ぐに彼を見てキスをする。
「本当に?」
「えぇ、本当に」
「庭師のオルガや弟のユリアーノよりも、俺を愛してくれている?」
「もちろんよ」
彼は震える手でパトリシアの頬に触れ、キスを返した。二人は軽いキスを何度も繰り返す。キスは何度もやったけど、今日のキスはまた違ったモノに感じられた。本当に二人の心が全て繋がったように思えたのだ。
「やっぱり、なんだか不思議だわ。私、アリーとキスしているのね」
彼が笑う。
「大丈夫、すぐに慣れるよ」
深いキスをしてパトリシアを、ベッドに押し倒した。
「ま、まって! するの?」
「そのつもりだよ」
「でも、気持ちの切り替えが……!」
アリーとの感動の再会にふるえていたのに、突然押し倒されてパトリシアは慌てる。
「俺はアリーの頃から君の事を女の子として好きだったから、大丈夫だよ」
パトリシアの首に彼がキスを落とす。あんなかわい顔してたアリーが、実は内心でそんな風に想っていたのは少しショックだった。
「君のファーストキスも貰ったしね」
「そう言えば、そうだわ!」
子供の頃の些細な記憶としてすっかり忘れていたのだが、確かにパトリシアにはアリーにキスされた記憶がある。生まれて初めてのキスだった。
「あの時、あなたが私に迫って来て突然キスをしたのよね……」
「そうだよ、前日に俺の父と母がキスをしているのを見てね。俺も君としたいと思ったんだ」
言いながら、彼はネグリジェのボタンを外している。パトリシアの胸とおなかがあらわになる。
「やっぱり、時間を開ける事にしない?」
パトリシアの頭の中は、どうしても小さくてかわいらしい『アリー』の方に傾くのだった。
「だめだよ、もしかしたら君はこのまま俺を抱かせてくれなくなるかもしれない。だから、『アリー』だった事を伝えたくなかったんだ」
確かに、昔の女の子の親友に、大人になって抱かれるのは倒錯的過ぎてパトリシアには、頭がついていかなかった。
「まるで、ユリアーノの書いた小説みたい……」
アレクサンダーがパトリシアの胸にキスをする。
「あいつは、俺と君の関係をすごく羨ましがってね。だから小説の中で、発散しているのさ」
「そうなのね」
「あぁ」
確かにユリアーノの小説のヒロインと、ヒーローは特殊な関係の物が多かった。
「でも、ユリアーノの話は後でしよう。今は、俺の事だけを考えてね」
おなかにキスが落ちる。
「それは、それで恥ずかしいわね」
彼に撫でられ、キスされる内にしだいに体が熱を帯びて来た。戸惑いを横にやって、パトリシアはアレクサンダーの事を求め始めていた。太ももにキスをした後、彼が再びパトリシアの唇にキスをする。
「ねぇ、アリー。あなた、頭を撫でられるのが好きだったわよね」
パトリシアは彼の首を引き寄せて、彼の頭を撫でた。短い髪は、手触りが良い。
「君に撫でてもらうのが好きだったんだ」
彼がパトリシアの肩に頭を預ける。
「ふふっ。アリーは甘えん坊だったものね。私よりも小さくて、私を見つけるとすぐに駆け寄って来た。まるで小さなワンちゃんみたいと思っていたのよ」
「それは心外だな」
「ごめんなさいね。でも、今でもあなたは人懐っこいワンちゃんみたでかわいいわよ」
大型犬のゴールデンレトリバーを思い浮かべる。
「そう言う君は、年の割に大人びいていて、すごくミステリアスだった」
「そうかしら?」
「あぁ、とっても魅力的な少女だったよ」
アレクサンダーがパトリシアの頬にキスをする。
「しかし、君の魅力を理解できない奴らも多くて、よく喧嘩したよ」
「そんな事してたの?」
「君が見ていないところでね。俺、これでも結構喧嘩が強かったんだよ?」
「あら、だめよ、暴力なんて」
「言ってわからない奴の方が多かったからさ……君の大事な帽子を盗った奴が居ただろう」
「そんな事もあったわね」
パトリシアは男の子達に帽子を取られてしまい、泣いていたのだが、気づいたら近くの木の根に帽子が置かれていた事があった。
「もしかして、あれも貴方が?」
「……まぁね」
誰が置いて行ってくれたのだろうと、不思議だったのだ。
「そんな、知らなかったわ……」
「俺は女の子のふりをしてたから、君に喧嘩してるところを見られるのは都合が悪かったんだ。だから、良いんだよ」
彼がパトリシアの頬にキスをする。
「ずっと、護ってくれてたのね……」
彼の美しい碧の目を見る。
「ずっと、君を見ていた。俺の気持ちは変らない、ただ君への想いが強くなるだけだ」
再びキスをした。今度は、深いキスだった。言葉は消え、二人は互いの体を求めあう。
彼の大きな手のひらがパトリシアの胸を揉む。
「んっ」
心地よくて声がもれる。彼の広い背を抱いているのは心地よかった。太ももに手が触れて緊張したけれど、怖くは無かった。彼に体を暴かれるのはうれしかった。
下着を取り、直接手が秘部に触れる。体が緊張したけれど、それも彼に触れられる内に緩んでいく。指先が中に入り、秘部を探り解す。
「大丈夫?」
「大丈夫よ……」
笑みを浮かべて彼を見た。
そして、ついに彼の物が入って来る。
「っ……」
ほんの少しの痛みに眉を寄せ、彼を受けいれる。
「アレクサンダー、あなたの事が好きよ」
「俺も君の事が愛しくてたまらないよ」
彼とキスをして、長い時間彼に優しく抱いてもらった。それは、とても幸福な時間だった。
つづく
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