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目を開けると、ジュンはアルビオルの寝室に居た。腕の枷は外されている。イネスが作った大半の青あざや、擦り傷も消えていた。
「起きたか」
アルビオルがバルコニーから、こちらにやって来る。返事をしようとして、口を開いたが声が出なかった。
「それは呪術で受けた傷だそうだ……完治には時間がかかる」
アルビオルが、酷く悲しそうな顔をした。彼が助けに来てくれただけで、ジュンは嬉しいと言うのに。
隣に座ったアルビオルは、ジュンをぎゅっと抱きしめる。話す事が出来ないので、ジュンも黙ったまま抱きしめ返した。
「……すまなかった、危険な目に合わせて……」
アルビオルがポツリと呟く。ジュンは顔をあげて、アルビオルを見る。彼の目を見て、首を横に振った。
「怒っていないのか……?」
怒るはずがない。大きく頷く。
「そうか……だが、これは余の責任だ……すまない……」
ジュンは首を横に振る。しかしアルビオルは顔を上げない。ジュンは、アルビオルの頬を両手で持ち上げてキスをした。
「!」
アルビオルが目を見開いて驚く。それから、彼を強く抱きしめた。ジュンは怒っていないし、アルビオルのせいだと責める気もない。むしろ、感謝しているのだ。彼がジュンを信じて、助けに来てくれた事に。
「ジュン……」
アルビオルがジュンの胸に頭を擦り付ける。彼の肩が震えて泣いているのがわかった。
「余は怖かったんだ……そなたを失うかもしれぬと思った……そんなのは……耐えられぬ」
ジュンは、アルビオルの背を撫でてやる。
「ジュン、余は決めたぞ。余は、そなたを伴侶にする」
背を撫でていたジュンは固まった。抗議しようと口をひらいたが、声は出ない。
「ハーレムは解体して、側室達は城から出す! 身分の事なら気にするな! 誰にも余とそなたの仲を引き裂く事はできぬ!!」
アルビオルの目は本気である。
(身分の前に僕、男なんだけど!?)
そもそもアルビオルは、跡継ぎを作る為にジュンの治療を受けていたのだ。それなのに、ジュンを伴侶に貰っても子は作れない。
ジュンは、必死に首を横に振る。
「む、何故、首を横に振る……よもや、嫌なのか?」
アルビオルが訝しげな顔をする。
ジュンは、大きく頷いた。するとアルビオルが傷ついた表情をする。
「どうしてだ! そなたも余の事を愛しているのだろう?」
シャツにすがりつかれる。アルビオルの事は愛している、けれど結婚は別なのだ。どう、考えてもお互いに不幸にしかならない。
首を縦にも横にも振らないジュンを見て、アルビオルが顔を覆って泣き始める。
「そうか、余の勘違いだったのだな……余はジュンと、正真正銘の両思いだと思っていたのに、おまえは余の心を弄んでいたのだな……」
ジュンは訂正する為に、アルビオルの肩を揺すってこちらを向かせる。泣く彼にキスをした。キスの後に、アルビオルを真剣に見つめた。話せないのがもどかしかった。
「……そうか……愛していはいるが、伴侶となる事に抵抗があるのだな……確かに、おまえが突然の事で戸惑うのも仕方のない事だ……」
視線の真意が伝わったのか、アルビオルは静かに頷く。
「わかった、この件は一旦保留にしておこう」
アルビオルがジュンの頬を撫でる。
「今日はゆっくり休んでくれ」
アルビオルがジュンの額にキスをして、ジュンの頭を抱きしめるように横になった。心地よい暖かさに包まれていると、次第に眠くなって来る。アルビオルの寝息が近くで聞こえる。ジュンも、眠りに身をゆだねた。
■
宰相カザリルは、唇に手を当てて考え込んでいた。
「ハーレムを解体する?」
「そうだ」
アルビオル陛下は、ジュン先生を助け出した後は、頻繁に彼の元に通っていた。ジュン先生は、きちんと休み滋養の良いものを食べて過ごしているおかげで、状態は徐々に回復していっていた。その事にほっとしていたら、アルビオル陛下がとんでも無い事を言い始めたのだ。今まで、王として突飛な行動を全くとった事の無い方なので、カザリルは戸惑っていた。
「確かに、今回の件はイネスが行き過ぎた事を行いました。ですが、全ての側室を王宮から出すと言うのは……賛成しかねます……」
「何故だ」
「世継ぎです。相手がいなければ、世継ぎを作る事は出来ません」
「相手ならいる」
カザリルは片眉を上げる。
「余の伴侶には、ジュンを選んだ。正式な伴侶がいるのならば、側室は不要であろう?」
カザリルは、なるほどと腑に落ちた気持ちになった。アルビオルが、やたらとジュン先生に入れ込むのが不思議だったのだ。二人が恋人同士であったのなら、納得できた。
「わかりました。では、ジュン先生を伴侶にしてハーレムを解体すると言う事は、アレをお使いになるのですね?」
「うむ。アレを使うなら、おまえも納得するのであろう?」
ここまでアルビオルが覚悟を決めているのなら、カザリルは何も言う事はない。
「わかりました。では、ご命令通りに」
アルビオルは満足そうに頷いた。正直、ハーレムは無駄に金を食うシステムなので解体出来るのはカザリルとしてもありがたかった。
つづく
目を開けると、ジュンはアルビオルの寝室に居た。腕の枷は外されている。イネスが作った大半の青あざや、擦り傷も消えていた。
「起きたか」
アルビオルがバルコニーから、こちらにやって来る。返事をしようとして、口を開いたが声が出なかった。
「それは呪術で受けた傷だそうだ……完治には時間がかかる」
アルビオルが、酷く悲しそうな顔をした。彼が助けに来てくれただけで、ジュンは嬉しいと言うのに。
隣に座ったアルビオルは、ジュンをぎゅっと抱きしめる。話す事が出来ないので、ジュンも黙ったまま抱きしめ返した。
「……すまなかった、危険な目に合わせて……」
アルビオルがポツリと呟く。ジュンは顔をあげて、アルビオルを見る。彼の目を見て、首を横に振った。
「怒っていないのか……?」
怒るはずがない。大きく頷く。
「そうか……だが、これは余の責任だ……すまない……」
ジュンは首を横に振る。しかしアルビオルは顔を上げない。ジュンは、アルビオルの頬を両手で持ち上げてキスをした。
「!」
アルビオルが目を見開いて驚く。それから、彼を強く抱きしめた。ジュンは怒っていないし、アルビオルのせいだと責める気もない。むしろ、感謝しているのだ。彼がジュンを信じて、助けに来てくれた事に。
「ジュン……」
アルビオルがジュンの胸に頭を擦り付ける。彼の肩が震えて泣いているのがわかった。
「余は怖かったんだ……そなたを失うかもしれぬと思った……そんなのは……耐えられぬ」
ジュンは、アルビオルの背を撫でてやる。
「ジュン、余は決めたぞ。余は、そなたを伴侶にする」
背を撫でていたジュンは固まった。抗議しようと口をひらいたが、声は出ない。
「ハーレムは解体して、側室達は城から出す! 身分の事なら気にするな! 誰にも余とそなたの仲を引き裂く事はできぬ!!」
アルビオルの目は本気である。
(身分の前に僕、男なんだけど!?)
そもそもアルビオルは、跡継ぎを作る為にジュンの治療を受けていたのだ。それなのに、ジュンを伴侶に貰っても子は作れない。
ジュンは、必死に首を横に振る。
「む、何故、首を横に振る……よもや、嫌なのか?」
アルビオルが訝しげな顔をする。
ジュンは、大きく頷いた。するとアルビオルが傷ついた表情をする。
「どうしてだ! そなたも余の事を愛しているのだろう?」
シャツにすがりつかれる。アルビオルの事は愛している、けれど結婚は別なのだ。どう、考えてもお互いに不幸にしかならない。
首を縦にも横にも振らないジュンを見て、アルビオルが顔を覆って泣き始める。
「そうか、余の勘違いだったのだな……余はジュンと、正真正銘の両思いだと思っていたのに、おまえは余の心を弄んでいたのだな……」
ジュンは訂正する為に、アルビオルの肩を揺すってこちらを向かせる。泣く彼にキスをした。キスの後に、アルビオルを真剣に見つめた。話せないのがもどかしかった。
「……そうか……愛していはいるが、伴侶となる事に抵抗があるのだな……確かに、おまえが突然の事で戸惑うのも仕方のない事だ……」
視線の真意が伝わったのか、アルビオルは静かに頷く。
「わかった、この件は一旦保留にしておこう」
アルビオルがジュンの頬を撫でる。
「今日はゆっくり休んでくれ」
アルビオルがジュンの額にキスをして、ジュンの頭を抱きしめるように横になった。心地よい暖かさに包まれていると、次第に眠くなって来る。アルビオルの寝息が近くで聞こえる。ジュンも、眠りに身をゆだねた。
■
宰相カザリルは、唇に手を当てて考え込んでいた。
「ハーレムを解体する?」
「そうだ」
アルビオル陛下は、ジュン先生を助け出した後は、頻繁に彼の元に通っていた。ジュン先生は、きちんと休み滋養の良いものを食べて過ごしているおかげで、状態は徐々に回復していっていた。その事にほっとしていたら、アルビオル陛下がとんでも無い事を言い始めたのだ。今まで、王として突飛な行動を全くとった事の無い方なので、カザリルは戸惑っていた。
「確かに、今回の件はイネスが行き過ぎた事を行いました。ですが、全ての側室を王宮から出すと言うのは……賛成しかねます……」
「何故だ」
「世継ぎです。相手がいなければ、世継ぎを作る事は出来ません」
「相手ならいる」
カザリルは片眉を上げる。
「余の伴侶には、ジュンを選んだ。正式な伴侶がいるのならば、側室は不要であろう?」
カザリルは、なるほどと腑に落ちた気持ちになった。アルビオルが、やたらとジュン先生に入れ込むのが不思議だったのだ。二人が恋人同士であったのなら、納得できた。
「わかりました。では、ジュン先生を伴侶にしてハーレムを解体すると言う事は、アレをお使いになるのですね?」
「うむ。アレを使うなら、おまえも納得するのであろう?」
ここまでアルビオルが覚悟を決めているのなら、カザリルは何も言う事はない。
「わかりました。では、ご命令通りに」
アルビオルは満足そうに頷いた。正直、ハーレムは無駄に金を食うシステムなので解体出来るのはカザリルとしてもありがたかった。
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