俺は好きな乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい

42 完結

エピローグ


　戦争から半年経って、オレはルーク団長と一緒に遠乗りに来ていた。ルーク団長は毒の後遺症も無く、日々元気に騎士達を指導している。

　バティストとリュイスは今日も楽し気に、じゃれあっている。休憩する為に、二頭を並べて木に繋いだら、バティストがリュイスのたてがみを毛づくろいしくれていた。その微笑ましさに、オレは笑った。

　湖の近くで座る。風がそよそよと凪いで気持ちが良い。今日は秋のわりに、暖かい日だった。

「騎士は続けられそうか」

　ルーク団長が尋ねる。

　オレは頷いた。

「はい」

　戦争に行っていたのは、たったの一月だったが、心が通常の状態に戻るのに、半年以上かかってしまった。

　ジオは、夜にたびたびルーク団長に抱きしめて貰って震えを止めて貰った。それでも、完全に心が元に戻ったわけではない。胸に、穴が空いているのがわかった。その穴はきっと永遠に塞がれないのだろう。

　けれど、騎士をやめようとは思わなかった。この痛みを抱えたまま、みなが戦う決意をしている事をジオは知っている。かつて憧れた騎士達もそうだったのだろう。ルーク団長も、仲間達も。町に勝利の凱旋をする騎士達の、疲れながらも誇らし気な笑みを思い出す。

　戦場は恐ろしい。人を殺す自分は怖い。

　けれど、自分の妹や弟に同じ事をさせたいとは思わなかった。国を守る為には誰かが戦わなければいけない。それなら、自分が戦う。

「そうか……」

　ルーク団長は静かに頷く。

「次の連休はどこに行きたい？」　

　ルーク団長が微笑む。オレも笑みを浮かべて、海を見に行きたいと行った。二人でいっぱい思い出を作ろう。いつかの為に。死ぬ時に思い出せるように、残された時に懐かしめるように。



おわり