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■
仕事が終わった後、夕方の鍛錬をし、シャワーで念入りに体を洗った後、ルーク団長の部屋に行った。執務室をノックすると、ルーク団長が出迎えてくれる。
「来たか」
奥の部屋に通される。ルーク団長の私室に入るのはコレが二回目である。以前は無かった、小さなテーブルと椅子が部屋に置かれていた。おそらく、二人で酒を飲む為にどこかから調達して来たのだろう。机の上には、つまみのチーズやナッツが置かれている。
(ふへへへ、ルーク団長と二人きりでお酒……)
思わず顔がにやける。
ルーク団長の匂いがたっぷりする部屋で肺いっぱいに呼吸をしながら、オレは椅子に座った。
「ワインは飲めるか」
「飲めます!」
「ウイスキーもあるぞ」
「大好物です!」
「それなら良かった」
ルーク団長は棚から、ワイン瓶三本とウイスキー一本を持って来る。
「誰かと酒を飲むのは久しぶりだな」
「そうなんですか?」
ワイン瓶を受け取って、コルクを開ける。小気味よい、キュポッと言う音がする。
「あぁ俺は、あまり酒を飲まないからな」
「あ、もしかしてお酒に弱い……?」
「いや、ザルなんだ。飲んでもちっとも酔わない。酒は酔うのが楽しいんだろ? 飲んでも特に気持ち良い気分にならないから、飲む必要もなくてな」
酒豪でいらっしゃった。
「なるほど……」
「だが、酒の席が嫌いなわけじゃない。こういう場で話をするのは好きだ」
その言葉にオレはほっとした。
「それじゃあ、楽しみましょう!」
ルーク団長のワイングラスに赤ワインをそそぐ。
「ありがとう」
ルーク団長がそれを手にとって、香りを楽しんだあと一口飲んだ。
(ほああぁああ、大人の色気!!! ワインをまわす仕草一つで全ての乙女の心を打ち抜ける!!! それになんて綺麗な手なんだろうか!)
ルーク団長の大きな手をチラチラと観察しながら、オレはワインを飲んだ。大きな手、長い指。あの指のフシに好きなだけ触れられたなら、どんなに幸せだろうか。どんな角度から見ても芸術品のような手が、チーズを手に取って口に運ぶ。
唇! ほんのり赤く色ずく唇。あぁ、あの唇にキスがしたい。思うぞんぶん、はむはむしたい!!!
今日のルーク団長は詰襟の騎士服を脱いで、白いシャツだけ上に着ていた。おまけにボタンを鎖骨の下が見える位置まで外している。太い首、綺麗な白い鎖骨。撫でて、キスしたい。いや、足下に跪いて黒のズボンに包まれた太ももに頭をのせたい……。
次々わいて来る煩悩を押さえこみながら、オレはワインを飲んだ。
「ウイスキーも飲むか」
「飲みます!」
ルーク団長が、グラスに琥珀色の液体を注ぐ。差し出されたグラスを受け取って、オレは一口飲んだ。度数の高い酒が舌に広がり、喉を焼きながら胃に落ちていく。ルーク団長にいただいた酒だと思うと、興奮で更に体が熱くなる。
(オレ、もう死んでもいい……)
口の中に広がる苦味と甘みを味わいながら、ゆっくりとウイスキーを飲んだ。
「ジオ、大丈夫か」
ルーク団長に声をかけられて慌てる。
「だ、大丈夫ですよ!」
まだオレのアルコール限界量は遠い。
「だが、顔が赤いぞ」
ルーク団長がオレに顔を近づける。
(ふぐえぇえええ!!!!!)
「やはり赤い」
(それは! ルーク団長の顔が近いせいです!!!!!)
ルーク団長はクール系なのだが、何故か人との距離感がバグってる時があって、やけに近くに来たり、触れて来る時があった。
いや、そもそも体育会系の騎士団の男共がみんな距離感がバグっているのだ! 肩組んだり、試合に勝ったらハグしたり、テンション上がると尻や股間を揉んで来る時もあった。ルーク団長のこの距離の近さも、きっとその延長線上にあるのだろう。
「すまん、酒に弱かったんだな」
「いや! そんな事ないです!! ちょっと、顔に出やすいだけです!! ワイン三本開けても平気なタイプですから!!!」
オレは必死に弁明した。こんなすぐにお開きになるのは困る。もっと、ルーク団長の傍でお酒を飲んでいたい!
「そうか……だが、今日はほどほどにセーブして飲もう」
ルーク団長に釘を刺されてしまった。
「はい……」
二杯目のウイスキーをちびちび飲みながら、他愛ない話をする。
「ジオは、レーヴェの出身だったか……あの辺りはのどかで良い場所だな」
「はい、作物が豊かに実る良い村です」
「……何故、騎士になろうと思ったんだ」
オレは少し黙ってから、口を開いた。
「子供の頃から憧れていたんです……将来はこの仕事に就こうって」
するとルーク団長は少し悲しそうに目を細める。
「そうか……」
ルーク団長は深く味わうように、ウイスキーを一口飲む。
「騎士になってみてどうだ」
「大変ですけど、遣り甲斐はあります!」
ルーク団長が俯いて少し黙り込む。そして、顔を上げた。
「いつか戦場に立つのが恐ろしくはないか」
とても強い瞳だった。オレは生唾を飲む。
「……怖い……と思う時もあります……けど…………オレには大事な家族がいます。故郷に一緒に育った友達がいます。それから……この騎士団で出会った多くの仲間がいます。オレは彼らを守りたいんです」
オレは心からの言葉を言った。オレは、この世界に生まれて自分を育ててくれた両親が好きだった。兄妹も好きだ。故郷の友人達も好きだし、騎士団の仲間達も好きだ。そして、国民を大事に思うこの国が好きだった。だから、騎士になった。みんなを守る為に。
「そうか……」
ルーク団長は静かに頷いた。
「頑張るんだぞ」
ルーク団長がオレの手を強く握る。信頼と励ましを感じて、オレはなんだか感動してしまった。自分がルーク団長に、騎士として認められた気がしたのだ。
その後、しばらく黙って酒を飲む。ルーク団長は、遠くを見て何かを思い出しているようだった。
「あの……ルーク団長は、どうして騎士になったんですか……?」
オレは、その沈黙を破りたくて声をかけた。
「……俺の父は騎士団長だったんだ」
オレは頷く。
「……父は俺の誇りだった。忙しくて家に帰って来る事は殆どなかったが……それでも、国を守る騎士である父を心の底から尊敬していた」
「それじゃ、ルーク団長はお父さんに憧れて騎士になったんですね」
「あぁ、そうだ」
「夢が叶って良かったですね」
しかしルーク団長は少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「ジオ。おまえに聞いて欲しい事がある」
■
部屋で誰かと酒を飲む事が無かったので、倉庫から机と椅子を持って来た。つまみにチーズとナッツを用意して、彼の来訪を待った。人が来るのを待つ時、こんな風に緊張するのは久しぶりだった。彼は酒の席でどんな話をするのだろうか。内密な、いろいろな話が聞けたら嬉しかった。年下の騎士相手にそんな事を思っている自分がおかしかった。
ふと、酒を飲んで朱色に染まったジオの顔を思い浮かべる。想像するだけで、妙な胸の高鳴りを覚える。その気持ちを慌てて振り払った。
シャワーを浴びて来たのか、ジオからはほんのりと石鹸の匂いがした。これは騎士団の共有石鹸の香りではない。おそらく個人で用意した物だろう。ほんのりと花の香りがして、良い匂いだった。身だしなみに対する細やかさに、胸がときめく。ジオを見ていると、自分の心が美しいモノに飢えていたのだと感じる。ジオに会う度に、彼から感じるに『美』に新鮮な喜びを感じた。
小さなテーブルに座って、ジオと対面で見つめあう。まだ少し濡れた髪の向こうで、大きな瞳がうるんでいる。
(かわいい)
男相手に『かわいい』と思った事は一度も無かった。けれど、ジオに対してだけは、何度も思う。
ジオに悟られないように、彼の事を観察した。切り揃えたグレーの髪、コロコロと表情の変わる顔、大きな瞳、ほんのり色づいた丸い頬、潤った小さな唇。手の指は長く、ちょこんとのった爪もかわいらしかった。
ワインやウイスキーを飲んでいると、ジオの頬が次第に赤くなっていく。彼がどのくらい酒を飲めるのか知らなかったが、赤くなるのが思ったより早かったので、少し焦った。
無理をさせていないかと思って、彼の顔を覗き込む。
『ジオ、大丈夫か』
『だ、大丈夫ですよ!』
大きな声で返事をするジオは、まだ意識はしっかりとあるようだった。それにしても彼の頬はなんと柔らかそうなのだろうか。触れてみたい衝動に駆られてしまい、それをぐっと抑えこんだ。今日の自分は、彼に妙な感想ばかり抱く。いつも酔わない酒に酔っているのだろうか。もしくは、酒を飲んだジオのとろけた様子にあてられてしまったのかもしれない。
ジオに『いつか戦場に立つのが恐ろしくはないか』と尋ねた。戦場で、心の弱い人間は生き残れない。騎士は精神が強くなければ勤まらなかった。その心を支えるのは、胸に抱く『信念』の強さである。ジオは、悩みながらもその言葉を口にした。恐れを抱きながらも、恐れに立ち向かおうとする強い目だった。
(この男は強い……)
戦場に立つジオの姿は容易く想像出来る。血にまみれた彼の姿は胸に痛かった。願う事ならば、彼をココに置いて行きたかった。もしくは、隣に置いて片時も離したく無かった。ルークは命を賭しても彼を守るだろう。
『ルーク団長は、どうして騎士になったんですか?』
同じ質問をジオに尋ねられる。答えながら、ルークは父の姿を懐かしく思った。憧れた父。今、自分は父と同じ立場にいる。
『夢が叶って良かったですね』
その言葉に、ルークは素直に頷けなかった。騎士になった事に後悔は無い。国を守る事に誇りを持っている。ただ、同じ騎士である目の前の男が死ぬのは恐ろしかった。
つづく
仕事が終わった後、夕方の鍛錬をし、シャワーで念入りに体を洗った後、ルーク団長の部屋に行った。執務室をノックすると、ルーク団長が出迎えてくれる。
「来たか」
奥の部屋に通される。ルーク団長の私室に入るのはコレが二回目である。以前は無かった、小さなテーブルと椅子が部屋に置かれていた。おそらく、二人で酒を飲む為にどこかから調達して来たのだろう。机の上には、つまみのチーズやナッツが置かれている。
(ふへへへ、ルーク団長と二人きりでお酒……)
思わず顔がにやける。
ルーク団長の匂いがたっぷりする部屋で肺いっぱいに呼吸をしながら、オレは椅子に座った。
「ワインは飲めるか」
「飲めます!」
「ウイスキーもあるぞ」
「大好物です!」
「それなら良かった」
ルーク団長は棚から、ワイン瓶三本とウイスキー一本を持って来る。
「誰かと酒を飲むのは久しぶりだな」
「そうなんですか?」
ワイン瓶を受け取って、コルクを開ける。小気味よい、キュポッと言う音がする。
「あぁ俺は、あまり酒を飲まないからな」
「あ、もしかしてお酒に弱い……?」
「いや、ザルなんだ。飲んでもちっとも酔わない。酒は酔うのが楽しいんだろ? 飲んでも特に気持ち良い気分にならないから、飲む必要もなくてな」
酒豪でいらっしゃった。
「なるほど……」
「だが、酒の席が嫌いなわけじゃない。こういう場で話をするのは好きだ」
その言葉にオレはほっとした。
「それじゃあ、楽しみましょう!」
ルーク団長のワイングラスに赤ワインをそそぐ。
「ありがとう」
ルーク団長がそれを手にとって、香りを楽しんだあと一口飲んだ。
(ほああぁああ、大人の色気!!! ワインをまわす仕草一つで全ての乙女の心を打ち抜ける!!! それになんて綺麗な手なんだろうか!)
ルーク団長の大きな手をチラチラと観察しながら、オレはワインを飲んだ。大きな手、長い指。あの指のフシに好きなだけ触れられたなら、どんなに幸せだろうか。どんな角度から見ても芸術品のような手が、チーズを手に取って口に運ぶ。
唇! ほんのり赤く色ずく唇。あぁ、あの唇にキスがしたい。思うぞんぶん、はむはむしたい!!!
今日のルーク団長は詰襟の騎士服を脱いで、白いシャツだけ上に着ていた。おまけにボタンを鎖骨の下が見える位置まで外している。太い首、綺麗な白い鎖骨。撫でて、キスしたい。いや、足下に跪いて黒のズボンに包まれた太ももに頭をのせたい……。
次々わいて来る煩悩を押さえこみながら、オレはワインを飲んだ。
「ウイスキーも飲むか」
「飲みます!」
ルーク団長が、グラスに琥珀色の液体を注ぐ。差し出されたグラスを受け取って、オレは一口飲んだ。度数の高い酒が舌に広がり、喉を焼きながら胃に落ちていく。ルーク団長にいただいた酒だと思うと、興奮で更に体が熱くなる。
(オレ、もう死んでもいい……)
口の中に広がる苦味と甘みを味わいながら、ゆっくりとウイスキーを飲んだ。
「ジオ、大丈夫か」
ルーク団長に声をかけられて慌てる。
「だ、大丈夫ですよ!」
まだオレのアルコール限界量は遠い。
「だが、顔が赤いぞ」
ルーク団長がオレに顔を近づける。
(ふぐえぇえええ!!!!!)
「やはり赤い」
(それは! ルーク団長の顔が近いせいです!!!!!)
ルーク団長はクール系なのだが、何故か人との距離感がバグってる時があって、やけに近くに来たり、触れて来る時があった。
いや、そもそも体育会系の騎士団の男共がみんな距離感がバグっているのだ! 肩組んだり、試合に勝ったらハグしたり、テンション上がると尻や股間を揉んで来る時もあった。ルーク団長のこの距離の近さも、きっとその延長線上にあるのだろう。
「すまん、酒に弱かったんだな」
「いや! そんな事ないです!! ちょっと、顔に出やすいだけです!! ワイン三本開けても平気なタイプですから!!!」
オレは必死に弁明した。こんなすぐにお開きになるのは困る。もっと、ルーク団長の傍でお酒を飲んでいたい!
「そうか……だが、今日はほどほどにセーブして飲もう」
ルーク団長に釘を刺されてしまった。
「はい……」
二杯目のウイスキーをちびちび飲みながら、他愛ない話をする。
「ジオは、レーヴェの出身だったか……あの辺りはのどかで良い場所だな」
「はい、作物が豊かに実る良い村です」
「……何故、騎士になろうと思ったんだ」
オレは少し黙ってから、口を開いた。
「子供の頃から憧れていたんです……将来はこの仕事に就こうって」
するとルーク団長は少し悲しそうに目を細める。
「そうか……」
ルーク団長は深く味わうように、ウイスキーを一口飲む。
「騎士になってみてどうだ」
「大変ですけど、遣り甲斐はあります!」
ルーク団長が俯いて少し黙り込む。そして、顔を上げた。
「いつか戦場に立つのが恐ろしくはないか」
とても強い瞳だった。オレは生唾を飲む。
「……怖い……と思う時もあります……けど…………オレには大事な家族がいます。故郷に一緒に育った友達がいます。それから……この騎士団で出会った多くの仲間がいます。オレは彼らを守りたいんです」
オレは心からの言葉を言った。オレは、この世界に生まれて自分を育ててくれた両親が好きだった。兄妹も好きだ。故郷の友人達も好きだし、騎士団の仲間達も好きだ。そして、国民を大事に思うこの国が好きだった。だから、騎士になった。みんなを守る為に。
「そうか……」
ルーク団長は静かに頷いた。
「頑張るんだぞ」
ルーク団長がオレの手を強く握る。信頼と励ましを感じて、オレはなんだか感動してしまった。自分がルーク団長に、騎士として認められた気がしたのだ。
その後、しばらく黙って酒を飲む。ルーク団長は、遠くを見て何かを思い出しているようだった。
「あの……ルーク団長は、どうして騎士になったんですか……?」
オレは、その沈黙を破りたくて声をかけた。
「……俺の父は騎士団長だったんだ」
オレは頷く。
「……父は俺の誇りだった。忙しくて家に帰って来る事は殆どなかったが……それでも、国を守る騎士である父を心の底から尊敬していた」
「それじゃ、ルーク団長はお父さんに憧れて騎士になったんですね」
「あぁ、そうだ」
「夢が叶って良かったですね」
しかしルーク団長は少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「ジオ。おまえに聞いて欲しい事がある」
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部屋で誰かと酒を飲む事が無かったので、倉庫から机と椅子を持って来た。つまみにチーズとナッツを用意して、彼の来訪を待った。人が来るのを待つ時、こんな風に緊張するのは久しぶりだった。彼は酒の席でどんな話をするのだろうか。内密な、いろいろな話が聞けたら嬉しかった。年下の騎士相手にそんな事を思っている自分がおかしかった。
ふと、酒を飲んで朱色に染まったジオの顔を思い浮かべる。想像するだけで、妙な胸の高鳴りを覚える。その気持ちを慌てて振り払った。
シャワーを浴びて来たのか、ジオからはほんのりと石鹸の匂いがした。これは騎士団の共有石鹸の香りではない。おそらく個人で用意した物だろう。ほんのりと花の香りがして、良い匂いだった。身だしなみに対する細やかさに、胸がときめく。ジオを見ていると、自分の心が美しいモノに飢えていたのだと感じる。ジオに会う度に、彼から感じるに『美』に新鮮な喜びを感じた。
小さなテーブルに座って、ジオと対面で見つめあう。まだ少し濡れた髪の向こうで、大きな瞳がうるんでいる。
(かわいい)
男相手に『かわいい』と思った事は一度も無かった。けれど、ジオに対してだけは、何度も思う。
ジオに悟られないように、彼の事を観察した。切り揃えたグレーの髪、コロコロと表情の変わる顔、大きな瞳、ほんのり色づいた丸い頬、潤った小さな唇。手の指は長く、ちょこんとのった爪もかわいらしかった。
ワインやウイスキーを飲んでいると、ジオの頬が次第に赤くなっていく。彼がどのくらい酒を飲めるのか知らなかったが、赤くなるのが思ったより早かったので、少し焦った。
無理をさせていないかと思って、彼の顔を覗き込む。
『ジオ、大丈夫か』
『だ、大丈夫ですよ!』
大きな声で返事をするジオは、まだ意識はしっかりとあるようだった。それにしても彼の頬はなんと柔らかそうなのだろうか。触れてみたい衝動に駆られてしまい、それをぐっと抑えこんだ。今日の自分は、彼に妙な感想ばかり抱く。いつも酔わない酒に酔っているのだろうか。もしくは、酒を飲んだジオのとろけた様子にあてられてしまったのかもしれない。
ジオに『いつか戦場に立つのが恐ろしくはないか』と尋ねた。戦場で、心の弱い人間は生き残れない。騎士は精神が強くなければ勤まらなかった。その心を支えるのは、胸に抱く『信念』の強さである。ジオは、悩みながらもその言葉を口にした。恐れを抱きながらも、恐れに立ち向かおうとする強い目だった。
(この男は強い……)
戦場に立つジオの姿は容易く想像出来る。血にまみれた彼の姿は胸に痛かった。願う事ならば、彼をココに置いて行きたかった。もしくは、隣に置いて片時も離したく無かった。ルークは命を賭しても彼を守るだろう。
『ルーク団長は、どうして騎士になったんですか?』
同じ質問をジオに尋ねられる。答えながら、ルークは父の姿を懐かしく思った。憧れた父。今、自分は父と同じ立場にいる。
『夢が叶って良かったですね』
その言葉に、ルークは素直に頷けなかった。騎士になった事に後悔は無い。国を守る事に誇りを持っている。ただ、同じ騎士である目の前の男が死ぬのは恐ろしかった。
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