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日が昇って、私はヴィクトールと共に装備屋にやって来た。
「都に行く旅がしたいんです。装備を見繕って貰えませんか?」
バッグの中に入っていた、ハンカチと口紅を道具屋で売って金貨七枚に変えた。
店主が用意してくれた装備に袖を通して着替えた。この村の中でも浮かない無難な恰好になれた。
「彼の分もお願いします」
すると店主が笑う。
「こいつの分だって? お嬢ちゃん、正気かい? 奴隷に服なんて渡したら逃げられちまうよ」
私は口を引き結んだ。
「あぁ、嬢ちゃん世間知らずなんだな。それでこんなハズレの奴隷を買わされたんだろ?」
「どうして彼がハズレなんですか」
「こんな辺鄙な村に、売られに来る奴隷なんて、町の方で買い手の無かった売れ残りに決まってる。ただの怠け者なら良いが、そいつは危険な奴かもしれないぞ。ほら、足を見ろ。折檻の跡が沢山ある。きっと主人に反抗して、売られたんだよ」
私は怒りを抑えるように、深呼吸する。
「……彼の分の装備を売ってください」
私は、多めに金貨を掴んで店主に渡した。
「全く、後で逃げられても俺は知らねぇぞ」
店主は渋々、ヴィクトールの服を選んでくれた。
ついでに装備屋で、剣も買った。
私は食料を買い込んだ後、足早に村を出た。一刻も早く、あの村から出てしまいたかったのだ。
ずんずんと道を進んで草原で立ち止まる。
「ヴィクトールさん」
振り返ると、大きな荷物を背負った彼は、膝を付く。
「少し、私の話を聞いてください! 身の上話って奴です!」
彼は頷く。
「私、この世界の人間じゃないんです」
彼は首を傾げた。しかし、私は構わず話す。
「別の世界から来て、なんでココに来たのかもわかりません! けど、とりあえず帰る方法を見つける為に都に行こうと思っています。大賢者様なら、何か知ってるかもしれませんから!」
私は、はぁはぁと息を整える。
「それで、都までの護衛が欲しくてヴィクトールさんを雇いました。 けど、私、奴隷制度なんて大嫌いです!」
彼がみじろぎする。
「ごめんなさい! 私は、この世界でどうしようもなくて貴方を買い取ってしましいました! けれど、ヴィクトールさんの事を奴隷だなんて思いません!お給料だって支払います! だから……」
私は、ヴィクトールの腕を引っ張る。
「だから、私の前で膝をつかないでください」
「しかし……主様……」
彼は立ち上がらない。
「あと主様って呼ぶのもナシです。アヤって呼んでください」
ヴィクトールは黙る。
「敬語もやめましょう!」
ヴィクトールの両肩に手を置いて、迫るように、願うように言う。
「そ、それは……俺にには難しい事で……」
彼は怯えるように言った。
「……ヴィクトール、貴方はいつから奴隷をしているんですか」
「お、俺は……生まれた時からです」
私はその返答に戸惑った。
(そうか…、それなら無理もないか……)
私は彼の肩から手を離す。
「ごめんなさい…。呼び方も話し方も、あなたが自由にして良いです。ただ……私は貴方を奴隷だなんて思っていない事を、理解してください」
すると彼は恐る恐ると言った様子で、ゆっくりと頷いた。
つづく
日が昇って、私はヴィクトールと共に装備屋にやって来た。
「都に行く旅がしたいんです。装備を見繕って貰えませんか?」
バッグの中に入っていた、ハンカチと口紅を道具屋で売って金貨七枚に変えた。
店主が用意してくれた装備に袖を通して着替えた。この村の中でも浮かない無難な恰好になれた。
「彼の分もお願いします」
すると店主が笑う。
「こいつの分だって? お嬢ちゃん、正気かい? 奴隷に服なんて渡したら逃げられちまうよ」
私は口を引き結んだ。
「あぁ、嬢ちゃん世間知らずなんだな。それでこんなハズレの奴隷を買わされたんだろ?」
「どうして彼がハズレなんですか」
「こんな辺鄙な村に、売られに来る奴隷なんて、町の方で買い手の無かった売れ残りに決まってる。ただの怠け者なら良いが、そいつは危険な奴かもしれないぞ。ほら、足を見ろ。折檻の跡が沢山ある。きっと主人に反抗して、売られたんだよ」
私は怒りを抑えるように、深呼吸する。
「……彼の分の装備を売ってください」
私は、多めに金貨を掴んで店主に渡した。
「全く、後で逃げられても俺は知らねぇぞ」
店主は渋々、ヴィクトールの服を選んでくれた。
ついでに装備屋で、剣も買った。
私は食料を買い込んだ後、足早に村を出た。一刻も早く、あの村から出てしまいたかったのだ。
ずんずんと道を進んで草原で立ち止まる。
「ヴィクトールさん」
振り返ると、大きな荷物を背負った彼は、膝を付く。
「少し、私の話を聞いてください! 身の上話って奴です!」
彼は頷く。
「私、この世界の人間じゃないんです」
彼は首を傾げた。しかし、私は構わず話す。
「別の世界から来て、なんでココに来たのかもわかりません! けど、とりあえず帰る方法を見つける為に都に行こうと思っています。大賢者様なら、何か知ってるかもしれませんから!」
私は、はぁはぁと息を整える。
「それで、都までの護衛が欲しくてヴィクトールさんを雇いました。 けど、私、奴隷制度なんて大嫌いです!」
彼がみじろぎする。
「ごめんなさい! 私は、この世界でどうしようもなくて貴方を買い取ってしましいました! けれど、ヴィクトールさんの事を奴隷だなんて思いません!お給料だって支払います! だから……」
私は、ヴィクトールの腕を引っ張る。
「だから、私の前で膝をつかないでください」
「しかし……主様……」
彼は立ち上がらない。
「あと主様って呼ぶのもナシです。アヤって呼んでください」
ヴィクトールは黙る。
「敬語もやめましょう!」
ヴィクトールの両肩に手を置いて、迫るように、願うように言う。
「そ、それは……俺にには難しい事で……」
彼は怯えるように言った。
「……ヴィクトール、貴方はいつから奴隷をしているんですか」
「お、俺は……生まれた時からです」
私はその返答に戸惑った。
(そうか…、それなら無理もないか……)
私は彼の肩から手を離す。
「ごめんなさい…。呼び方も話し方も、あなたが自由にして良いです。ただ……私は貴方を奴隷だなんて思っていない事を、理解してください」
すると彼は恐る恐ると言った様子で、ゆっくりと頷いた。
つづく
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