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エル!(ディート視点)

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 エルの匂いを追いながら俺とエアハルトは森の奥へと進んでいた。

 エルの匂いが濃くなるのと同じように瘴気のもやも濃くなる。

「ディート、エルは瘴気に取り込まれたのか?」

 エアハルトは焦っているようだ。

「いや、エルは多分瘴気の中にいて魔力を奪われているのだろう。獣人なら平気だが、人間だと瘴気の中に入ると魔法が使えなくなる。血の匂いもする。早く見つけて回復魔法をかけないと」

「そうだな。エルを早く見つけよう。瘴気を浄化をしながら前に進もう」

「あぁ、さっきカールって奴が瘴気だらけの湖に落ちて水を飲み、身体に瘴気を取り込み魔獣化してるとか言っていたな」

「ああ、そう言っていたな。でも人間が魔獣がするのか?」

 エアハルトは首を捻っている。

「人間が魔獣化するなんて聞いたことがない。とにかく探そう」

 俺はエルの匂いを辿っていく。

 真っ黒のモヤの塊が目の前に現れた。

「これか?」

「そうだな。風魔法で吹き飛ばすか?」

 俺は風魔法を繰り出す構えをし、呪文を唱えた。

 
 魔法で作られた突風がモヤを蹴散らす。

 そこには小さな家があった。

「あの中にエルがいるのか?」

「様子をみよう」

 俺たちがじっとその家を観察していると中から男が出てきた。

「カール……」

 エアハルトが呟く。

「あいつがカールか?」

「あぁ、間違いない」

「行くか?」

「おぅ」

 俺は魔法でそいつに縄をかけ、ぐるぐる巻きにした。

「何だ! お前らは誰だ! はなせ!」

 カールは暴れているが魔法の縄はそう簡単に弛まない。

 エアハルトはそいつに近寄り、浄化魔法が濃縮されている液体を振りかけた。

「こっちは俺に任せろ! お前は早くエルを!」

 エアハルトは俺の背中を押した。


 小さな家の中は物凄い瘴気だった。俺は浄化魔法で瘴気を消していく。

「エル! どこだ! エル! いるのか! エル! エル!」

 扉をどんどん開けていく。

 床に這いつくばっている塊が目に入った。肩から血が流れ落ちている。すごい出血だ。

 エルか? まさかエルなのか?

 俺は駆け寄りエルを抱き起こした。

「エル! しっかりしろ!」

 返事がない。

 顔色が悪い。ここから連れ出す前に止血だ。回復魔法だ。

「ディート! エルはどうだ?」

エアハルトが入ってきた。

「出血がひどい。それに足の骨が折れてた。逃げないように折られたみたいだな」

「逃げないように折った? ひでぇな」

「あぁ、俺もあいつが逃げないように足折ってくる」

「待て待て、お前はエルの側にいろ。まだ回復魔法かけ続けなきゃだめだろ。あいつは俺に任せろ」

 エアハルトはそう言って外に出た。

「エル、必ず助けるからな」

 俺は回復魔法をかけ続けた。

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