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残念な王太子〈1/20加筆済み〉
しおりを挟む*コメントで国王夫妻の件をご指摘いただきましたので、少し加筆いたしました。わかりにくくてすみませんでした*
「ねぇ、エル、魔法で死んだふりしてるだけなんだろ? ねえ、エル。起きろよエル!」
カール様は私の死体(正確には知らない人)の肩を掴み激しくゆする。
もう、バレたのかと思ってヒヤヒヤしたけど、やはりカール様はカール様だった。
「殿下~、エル様は死んだのですよ~。自分より私の方が王太子妃に相応しいと思ったのですよ。もういいじゃありませんか。ねぇ殿下~」
後ろから来た例の男爵令嬢がカール様の腕に自分の腕を絡めて胸をギュウギュウ押しつけている。
男爵令嬢だからしかたないけど、死んだのではなく、亡くなったとか、死亡されたとか他に言いようがあるだろう? 本当に似たもの同士なのかもしれない。
私はアホの子達を残念な目で見ていた。
カール様はまだ私の死体をゆすっている。
「殿下、お気持ちはわかりますがそれくらいにしておいて下さい。エルフリーデ嬢がお亡くなりになった事は王家の医師が確認しております」
枢機卿が呆れ顔でカール様に声をかけた。
「ちがう! 間違いだ! エルの魔法は凄いのだ。絶対に生きている! このまま焼くなんてダメだ!」
カール様は死体にすがりつく。
だから、火葬するとか、荼毘に付すとか言ってよ。もう本当に王太子なの?
私は今更ながらこんな人と結婚しなくて良かったと心の底から思った。
護衛に引き離され、ようやくカール様が死体から離れた。
やれやれ、早く帰ってほしい。そう思いながらカール様を見ていたら、目が合ってしまった。
「ハイデマリー嬢……」
カール様が私の方に向かってくる。なんだ? どうするんだ?
「お前のせいだ! お前がミレーユをいじめたりしなければエルが死ぬ事はなかったんだ。エルを返せ!」
逆恨みか。やっぱりアホだな。
「殿下、ミレーユ様とはどなたでしょう? 私はミレーユ様を存じ上げませんわ。存じ上げない方をいじめることなどありません。私がその方をいじめたという証拠がおありになるのですか? 証人がいるのですか?」
「うるさい! ミレーユが言っているんだ。ミレーユが嘘などつくわけがない! お前が留学してこなければ良かったんだ! お前なんか国外追放だ! 二度と我が国に入ること許さない!」
ダメだ。アホすぎる。ため息が出るわ。
私が本当に他国から留学してきている高位貴族だったら、何の権限もない王太子がそんなこと言ったら国際問題だわ。
私は後ろにいる国王陛下を見た。国王は私の本当の姿が見えているはずだが、ここはハイディの振りで言わせてもらう。
「これはこの国の王家の総意でしょうか? 冤罪で国外追放などと辱めを受けたことは許せません。このまま私が国に戻り、父や国王にこのことを話せばラメルテオン王国は我が国を敵にまわす事になります。それでよろしいですか?」
国王は真っ青だ。
ラメルテオン王国は平和で戦争など長年皆無な国だ。軍事力の強いセフォチアム王国に攻められたらあっという間に白旗だろう。
あちらは軍隊、こちらは騎士団勝てるはずがない。
「ニコランジル嬢。申し訳ない。愚息はエルフリーデ嬢が急死し、気が動転しているんだ。私が必ず処罰するゆえ、国元に報告するのは勘弁してほしい」
ハイディの事は知らないが、私ならやりかねないと思っているのだろう。国王はそこまでアホではないはず。カール様の手前、私がハイディだと気づかないふりをして、ハイディとして対応しているのだな。
私は国王陛下が少し気の毒になったが、元はと言えばこの人が甘やかしたからこんなアホになったのだから仕方ない。
「父上、悪いのはハイデマリー嬢です。謝ることなどない!」
「馬鹿者!」
カール様は国王陛下に殴りとばされた。
国王陛下は拳を握りしめ、怒りでぶるぶる震えていた。
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