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33話 本当のこと(加筆あり)

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***ヘンリーのひとりセリフが多めで空白部分が少なく読みにくいと感想をいただいたので、感想部分を分け、途中にディーの感想や父やアビゲイルの台詞や動きを入れました。加筆しております。



「ヘンリー兄様、お父様、ちゃんと話をしてもらえますか? ここにいる者は皆、王家に忠誠を誓っています。アビーの敵になる者はおりません」

 私の言葉に二人は頷く。そしてヘンリー兄様はゆっくりと話し始めた。

「私には恋人がいた。名前はイゾルテ・リールシュ。公爵令嬢だった。リールシュ公爵家は以前にも王族と婚礼したことがあり、権力が偏らないように、どこかに養女に出してから婚約を発表する手筈になっていた。そのため、イゾルテはまだ婚約はしていなかったが王宮で王太子妃教育は受けていたんだ」

 ヘンリー兄様に恋人がいたなんて知らなかった。父や兄は知っていたのだろう。ヘンリー兄様は話を続ける。

「そんな時、隣国から王女を娶れと言ってきた。娶らなければ戦になるやもしれんと脅されたのだ。隣国は危ない国だ。王女を妻にしなければ本当に攻め込んでくるかもしれない。どうしたものが悩んでいる時にイゾルテが懐妊した。イゾルテは自分のことはいい。国のために王女を娶ってほしいと言ったが、私はどうしてもイゾルテを諦める事ができなかった。王太子の身分を捨て、イゾルテと逃げようとした」

 愛し合う二人を引き裂く隣国の王女か。なんだか小説みたいた。

 父がぽつりと呟いた。

「あの時の殿下は本当に陛下に廃嫡を願い出て、王家は大変だったな」

 「そうだったな。あの時は本当に王太子を辞めるつもりだった。でも、イゾルテはそれを望まなず、リールシュ公爵領の領地に引きこもってしまった」

 ヘンリー兄様は悲しげな顔をしている。

「それからすぐ、ゴリ押しのように我が国にきた隣国の王女は無理矢理私の妃となり、あの日私に薬を盛った。それは、毒や薬に耐性のある私でさえもどうにもならないくらい酷く強い薬だった。意識が戻ってから私はあの女を遠ざけたが、あの女はあの時に懐妊したといい、確かに懐妊していた。懐妊といわれても私は全く身に覚えがない。しかしあの女の腹はどんどん膨らんでくる。毎日が地獄だったよ」

 王女は薬で無理矢理閨事に持ち込んだのか? 吐き気がする。兄様もだが、イゾルテ様はさぞかし辛かっただろう。

「私の気持ちが落ち着くのは移動魔法でイゾルテに会いに行っている時だけだった。イゾルテは私を信じてくれている。私や、父母、ハワードもイゾルテのお腹に宿った私の子供が産まれてくるのを楽しみにしていた。そしてイゾルテは私と同じ髪色と瞳の色をした女の子を産んだ。それがアビゲイルだ」

 ヘンリー兄様はアビゲイルを見て優しく微笑んだ。

「イゾルテ様は亡くなったのでは?」

 私の問いに兄様は頷き、また話を始めた。

「アビゲイルが生まれた事をあの女が知った。そして、アビゲイルを取り上げ、イゾルテを殺そうとしたのだ。父母と私はハワードに頼み、リールシュ公爵夫妻とイゾルテを馬車の事故で亡くなったと偽造し、アイゼンシュタット家の何重にも結界を張った場所に匿った。イゾルテも公爵夫妻も元気でいるよ」

 良かった。私はヘンリー兄様の言葉にほっと胸を撫で下ろした。

「アビゲイルは、ひと月後にあの女が産んだギルバートと双子の兄妹として発表した。そして、ハワードの妹を乳母に妹の夫を護衛騎士とし、息子のラウレンツを婚約者にし、隣国の刺客から守ることにした。アビゲイルが女だったこともあり、あの女も隣国もさほど気に留めていなかったようだ」

 なるほど、それで叔母様や叔父様がアビゲイルの傍についていたのか、てっきり姫だからアイゼンシュタット家の精鋭がついたのだとばかり思っていた。ヘンリー兄様の話はまだまだ続いた。

「隣国の目的はギルバートを国王にし、戦をしないで我が国を手に入れることだ。ギルバートは確かに私と同じ髪色、瞳の色をしているように見えるが、よく見ると全く同じではない。それに顔は全く似ていない。あの時、契りを結んだとあの女は言ったが、私は薬で眠らされていただけだ」

 父がくすりと笑った。

「閨事ができないのに、子供ができる訳がない。殿下のイゾルテ様に対する執着は常軌を逸していたからな」

 常軌を逸していた?

「執着と言うな。私とイゾルテは、魔法で契りを結んでいたのだ。印を刻みお互い以外の誰とも閨事をすることはできない。それゆえあの女が私の子を身籠ることなどあり得ないのだ。私達は隣国の真意を確かめるためにあの女を泳がしていたのだ」

 兄様の話は色々と衝撃的だった。確かに兄様と王太子妃が仲が良くないのは知っていた。しかし、それは政略結婚だからだと思っていた。
 アビゲイルとギルバートも双子なのに似ていないと思っていたが、髪色と瞳の色は同じだし、男女だからそんなものかと思っていた。

 王太子妃がギルバートばかり可愛がるのは嫡男だからだと思っていた。しかし、全て違うかったのだ。私は驚きのあまり、言葉を失った。

 アルトゥール様が後ろから私をギュッと抱きしめてくれている。アンネリーゼも私の手を握ってくれている。落ち着こう。これでも私は国の盾、アイゼンシュタット家の娘だ。これしきのことで狼狽えてはいけない。

「ひょってして、先生が私の本当のお母様なの?」

 アビゲイルの声がした。

「そうだ。王女教育として、移動魔法で毎日、アビゲイルをイゾルテの元に連れて行き、一緒に時を過ごしていた」

「私は先生がお母様だったらといつも思っておりました」

 アビゲイルは嬉しそうだ。

 ヘンリー兄様は頷く。

「あの地はアイゼンシュタットの魔法に加え、王家の秘術で守られており、絶対に隣国にバレることはない。本当なら、アビゲイルもあの地に母や祖父母と一緒に置いておきたかった。しかし、あの決行した日、アビゲイルはあの女に捕らえられていたので、できなかったのだ」

 俯くヘンリー兄様に代わり父が口を開いた。

「祖父母や母が亡くなり、アビゲイル様に力がなくなったと思ったあの女は、アビゲイル様を解放した。詰めが甘くて有り難かったよ。それからはアビゲイル様は毎日移動魔法で母や祖父母と会えるようになったのだよ」

 アビゲイルは涙をハンカチで押さえている。

「あんな人から産まれたことが嫌でした。私にもあんな邪悪な血が流れているのだと絶望していました。本当の母のことがわかったのは、アンネリーゼの鑑定魔法のおかげです。それがなければまだ知らないままでした」

「鑑定?」

 ヘンリー兄様は驚いたような顔をしている。

「アルの娘は鑑定魔法ができるのか?」

 アンネリーゼはこくりと頷いた。

「だったら、ギルバートが私の息子でないこともわかるか? 私はわかるが、誰の目にもわかるような証明ができるか?」

「もちろんです。ただ、ステータスボードは本人を目にすれば見れますがそれだけでは、皆は納得しないでしょう。血を使い親子の証を証明する魔法があります。それを皆の前でやりましょう」

「それはどんなものだ」

「たとえば……」

 アンネリーゼは自分とアルトゥール様、私とお父様の血を使いデモンストレーションをして見せた。

 親子だと血が融合し、他人だと融合しないのだ。

「これが目で見て、誰にでもわかる親子鑑定です」

 アンネリーゼの言葉にお父様がヘンリー兄様の顔を見た。

「誕生パーティーで皆の前で鑑定してもらおう」

「そうだな。時は熟したな」

 ヘンリー兄様が呟いた。
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