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14話 朝の鍛錬
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昨夜は無茶されなかったので、朝は気持ちよく目覚めた。あれくらいにしてもらえると有難い。
「アル様、今日から騎士団の鍛錬に参加したいと思います」
アルトゥール様は一瞬困ったような顔をした。
「私も一緒に参加しよう。ディーひとり参加させるわけにはいかない」
「アル様はお忙しいでしょう? ひとりで大丈夫ですわ」
「ダメだ。それなら一緒に鍛錬をした後、執務を手伝ってくれればいい」
まぁ、それでもいいけど……。
「今日は午後はリーゼと約束があるので、執務はサボります」
「リーゼと? それはいい。執務よりリーゼを優先してくれればいい。リーゼにはずっと辛い思いをさせていた。ディーが仲良くしてくれると嬉しい。でも、私が1番、リーゼは2番で頼む」
全く。お義母様が言っていた愛が重いというのはこういうところだな。
朝食のあと、裏庭の練習場に顔を出した。
「ディー様だ!」
誰かが叫ぶと、騎士達が私の周りに集まってきた。
「あの時はありがとうございました。ディー様は私の命の恩人です」
「ありがとうございました。わたしの砕けた骨も何もなかったようになりました」
「ありがとうございます。私もディー様に救われました」
「女神様だ!」
「聖女様だ!」
皆、口々にあの日の礼を言ってくれる。別にたいしたことはしていないが、まぁ、喜んでくれるなら嬉しい。鍛えた甲斐があった。しかし、女神とか聖女とかはやめて欲しい。気持ち悪くなる。
コンラート様を見つけたので駆け寄った。
「ラート様、今日からよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。様はいらないです。ラートと呼んでください。ディー様、今日はこいつらを鍛えてやって下さい」
コンラート様は頭を下げた。
「ディー、鍛えてやるか?」
くすくす笑うアルトゥール様を見て、コンラート様が怪訝な顔をする。
「アルも鍛錬するのか?」
「やっちゃ悪いか?」
「いや、いいが……」
「ディーをこんな暑苦しい男ばかりのところにひとりで置いておけないないからな」
何を言っているんだ? 私はひとりで全然大丈夫なんだけど。
コンラート様はアルトゥール様を無視して、私の方を見た。
「アイゼンシュタット家ではどんな鍛錬をしているのですか? よろしければ教えてもらいたい。討伐の時のディー様も凄かったが、お父上や兄上、弟殿の動き、速さ、強さが半端なくて目を見張りました。私はこのグローズクロイツの騎士団が最強だと思っていましたが、自分が井の中の蛙だったと思い知りました」
アルトゥール様にはタメ語なのに私には敬語? 父や兄の動きか~。
「ラート様、私に敬語は無用ですよ。アイゼンシュタットの鍛錬はだいたいは普通ですが、ちょっと変わった鍛錬もいくつかあります。例えば、大きな声を出して歌いながら身体を動かす事をやります。これがなかなかキツイです。声が小さくなったり、歌うのを忘れるとみんなで初めからやりなおしです。やってみますか?」
歌いながらの鍛錬なんて楽しそうだが、アイゼンシュタット騎士団では地獄のダンスと言われている。
「今日は最初なんでゆっくりやってみますね。失敗しても、脱落しても、やり直しは無しでいきます」
私は説明しながら地獄のダンスをやってみた。
15分後、ほとんどの団員達が地面に伏していた。
「ディー様、これはキツイ」
「ほんとにキツイな。アイゼンシュタットの騎士達は毎日これを反復しているのか? それであんなに俊敏で強いのだな。うちも毎日やろう」
「そうだな。うちの鍛錬は甘かったな。ディー様、他の鍛錬も教えて欲しい」
コンラート様の強い希望により、今朝の鍛錬はアイゼンシュタット家風の鍛錬のお披露目会のようになった。
◇◇ ◇
鍛錬のあと、汗を流して楽なワンピースに着替えた。前々から仰々しいドレスは苦手であまり着ていなかったが、グローズクロイツ領の女性達は、皆、ブラウスにロングスカートを着たり、楽なワンピースを着ている。
義母の話では、ドレスはパーティーの時くらいしか着ないらしい。辺境の地では見た目の美しさも大事にしつつ、動きやすいということが重要だそうだ。
ここらへんも私にピッタリだ。
昼食の後、アルトゥール様は執務室に行ったので、私は自室でアンネリーゼを待つことにした。
―トントン
「アンネリーゼです」
アンネリーゼが来たようだ。私は扉を開けた。
「ひとりなの? メアリーは?」
「メアリーは仕事中。ふたりだけでと言っていたから席を外してもらったの」
「そう、有難いわ」
アンネリーゼはソファーに腰掛けた。
やはり、7歳という気がしない。不思議な感じだ。
私はお茶を淹れ、アンネリーゼに差し出した。
「お菓子もあるわよ」
「ありがとう。あなたお茶も淹れるのね」
「お茶くらい淹れるわよ」
アンネリーゼはふっと笑い、お茶をひと口飲み、口を開いた。
「今から話すことは、信じてもらえないと思う。だから今まで誰にも話してなかったの。言っても、嘘をついていると言われたり、頭のおかしい子だと思われるからね。でも、あなたなら信じてくれそうな気がしたの」
「信じるわよ。リーゼが嘘なんてつくわけないし、頭がおかしいわけないじゃない」
「ありがとう」
リーゼは意を決したような表情で私を見た。
「アル様、今日から騎士団の鍛錬に参加したいと思います」
アルトゥール様は一瞬困ったような顔をした。
「私も一緒に参加しよう。ディーひとり参加させるわけにはいかない」
「アル様はお忙しいでしょう? ひとりで大丈夫ですわ」
「ダメだ。それなら一緒に鍛錬をした後、執務を手伝ってくれればいい」
まぁ、それでもいいけど……。
「今日は午後はリーゼと約束があるので、執務はサボります」
「リーゼと? それはいい。執務よりリーゼを優先してくれればいい。リーゼにはずっと辛い思いをさせていた。ディーが仲良くしてくれると嬉しい。でも、私が1番、リーゼは2番で頼む」
全く。お義母様が言っていた愛が重いというのはこういうところだな。
朝食のあと、裏庭の練習場に顔を出した。
「ディー様だ!」
誰かが叫ぶと、騎士達が私の周りに集まってきた。
「あの時はありがとうございました。ディー様は私の命の恩人です」
「ありがとうございました。わたしの砕けた骨も何もなかったようになりました」
「ありがとうございます。私もディー様に救われました」
「女神様だ!」
「聖女様だ!」
皆、口々にあの日の礼を言ってくれる。別にたいしたことはしていないが、まぁ、喜んでくれるなら嬉しい。鍛えた甲斐があった。しかし、女神とか聖女とかはやめて欲しい。気持ち悪くなる。
コンラート様を見つけたので駆け寄った。
「ラート様、今日からよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。様はいらないです。ラートと呼んでください。ディー様、今日はこいつらを鍛えてやって下さい」
コンラート様は頭を下げた。
「ディー、鍛えてやるか?」
くすくす笑うアルトゥール様を見て、コンラート様が怪訝な顔をする。
「アルも鍛錬するのか?」
「やっちゃ悪いか?」
「いや、いいが……」
「ディーをこんな暑苦しい男ばかりのところにひとりで置いておけないないからな」
何を言っているんだ? 私はひとりで全然大丈夫なんだけど。
コンラート様はアルトゥール様を無視して、私の方を見た。
「アイゼンシュタット家ではどんな鍛錬をしているのですか? よろしければ教えてもらいたい。討伐の時のディー様も凄かったが、お父上や兄上、弟殿の動き、速さ、強さが半端なくて目を見張りました。私はこのグローズクロイツの騎士団が最強だと思っていましたが、自分が井の中の蛙だったと思い知りました」
アルトゥール様にはタメ語なのに私には敬語? 父や兄の動きか~。
「ラート様、私に敬語は無用ですよ。アイゼンシュタットの鍛錬はだいたいは普通ですが、ちょっと変わった鍛錬もいくつかあります。例えば、大きな声を出して歌いながら身体を動かす事をやります。これがなかなかキツイです。声が小さくなったり、歌うのを忘れるとみんなで初めからやりなおしです。やってみますか?」
歌いながらの鍛錬なんて楽しそうだが、アイゼンシュタット騎士団では地獄のダンスと言われている。
「今日は最初なんでゆっくりやってみますね。失敗しても、脱落しても、やり直しは無しでいきます」
私は説明しながら地獄のダンスをやってみた。
15分後、ほとんどの団員達が地面に伏していた。
「ディー様、これはキツイ」
「ほんとにキツイな。アイゼンシュタットの騎士達は毎日これを反復しているのか? それであんなに俊敏で強いのだな。うちも毎日やろう」
「そうだな。うちの鍛錬は甘かったな。ディー様、他の鍛錬も教えて欲しい」
コンラート様の強い希望により、今朝の鍛錬はアイゼンシュタット家風の鍛錬のお披露目会のようになった。
◇◇ ◇
鍛錬のあと、汗を流して楽なワンピースに着替えた。前々から仰々しいドレスは苦手であまり着ていなかったが、グローズクロイツ領の女性達は、皆、ブラウスにロングスカートを着たり、楽なワンピースを着ている。
義母の話では、ドレスはパーティーの時くらいしか着ないらしい。辺境の地では見た目の美しさも大事にしつつ、動きやすいということが重要だそうだ。
ここらへんも私にピッタリだ。
昼食の後、アルトゥール様は執務室に行ったので、私は自室でアンネリーゼを待つことにした。
―トントン
「アンネリーゼです」
アンネリーゼが来たようだ。私は扉を開けた。
「ひとりなの? メアリーは?」
「メアリーは仕事中。ふたりだけでと言っていたから席を外してもらったの」
「そう、有難いわ」
アンネリーゼはソファーに腰掛けた。
やはり、7歳という気がしない。不思議な感じだ。
私はお茶を淹れ、アンネリーゼに差し出した。
「お菓子もあるわよ」
「ありがとう。あなたお茶も淹れるのね」
「お茶くらい淹れるわよ」
アンネリーゼはふっと笑い、お茶をひと口飲み、口を開いた。
「今から話すことは、信じてもらえないと思う。だから今まで誰にも話してなかったの。言っても、嘘をついていると言われたり、頭のおかしい子だと思われるからね。でも、あなたなら信じてくれそうな気がしたの」
「信じるわよ。リーゼが嘘なんてつくわけないし、頭がおかしいわけないじゃない」
「ありがとう」
リーゼは意を決したような表情で私を見た。
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