65 / 75
答え合わせ
しおりを挟む
目が覚めるとベッドに寝かされていた。
意識を失った私にジークハルト様が回復魔法でエネルギーを注いでくれていたようだ。
「気が付いてよかった。驚かせてすまなかった」
ジークハルト様はバツが悪そうな顔をしている。
「いえ、私が慣れてなくて。すみません」
「慣れていたら困る」
ぼそっとつぶやく。
「巻き戻る前の世界の私はどんな男だった?」
ジークハルト様は私の頬に手を当てそう聞く。
(夢で見たジーク様ですか? それとももっと前の?」
「思い出したく無いあの時期はいらない。その前と夢で見た私をどう思っていたのか教えてほしい」
あの時期は確かに思い出したくない。
「前の世界ではじめてジーク様に会ったのは、5歳だったかしら? その辺りの記憶は曖昧なのです。父から婚約者が決まったと言われ、婚約者って何だろうと思ってました」
「まだ小さかったから記憶が曖昧なのは仕方ないな。はじめて会った時、私の一目惚れだった。その時一緒にいたフローラ様にレティと結婚させてほしいと頼んだんだ」
えっ? 知らなかった。前の世界は家が決めた政略結婚だと思っていた。
「そうだったのですか? 私はずっと親同士が決めた婚約だと思ってました。私のような子供と婚約させられて気の毒に思ってました」
「そうだったのか。だからいつも少し距離を置いていたのか」
確かに微妙に距離があった。年齢が離れているので会っても何を話していいのかわからなかった。
「でも、いつも気にかけていて下さいました。お手数やプレゼントを沢山いただきました。私も母に刺繍を習いながらハンカチに刺してお渡ししたような気がします」
確か、一生懸命に刺繍を刺したような記憶がある。
「うれしかった。私のためにレティがひと針ひと針刺してくれたかと思ったら本当にうれしくて宝物にしていたよ」
「私もジーク様からいただいた黒い宝石のついたお花の形のネックレスが大好きでいつも身につけていました」
だんだん思い出してきた。
「私はレティの護衛騎士になるつもりで剣の腕を磨いていた。レティに信頼される男になりたいと思っていた。あのまま何もなかったら……」
ジークハルト様はそう言って俯いた。
「あのまま何もなかった夢で見た世界のジーク様は穏やかで優しく笑っていました。でも、私は何だか私が知っているジーク様では無いような気がしました」
「巻き戻す前の世界の私はレティと上手く話せなかった。好きを拗らせてしまっていたようで、レティのことがすごく好きで色々話をしたいのに、いざ前にすると上手く話せなくていつも自己嫌悪に陥っていた」
今のジークハルト様からは考えられない。ただあの夢に出てきたジークハルト様はそう言われてみればそうだったかもしれない。なんとなく距離を感じたもの。
「あのまま結婚していたらきっとうまくいかなかっただろうな。レティに淋しい思いをさせていた」
ジークハルト様は目を伏せる。
「私は自分の気持ちを人に伝えるのが苦手だった。頭の中でどうすればレティは喜んでくれるだろうか? どうすれば私を好きになってくれるのか? そんなことばかり考えて空回りしていた」
「今のジーク様の気持ちはちゃんと伝わってますよ」
私はにっこり微笑んだ。
「あんなことがあったから、私は変わったのか、それとももともとこんな人間だったのかわからないが、随分変わったと思う。前の私も今の私も両方知っているセシルは『前は白くて今は黒い』とよく笑っている」
セシル様、的確だわ。
「私は今のジーク様がいいです。
お腹の中が見えるみたいにわかりやすいので安心できます。
他の方にはわかりにくいかもしれませんが、私だけがわかるのがうれしいです。
もし、今のジーク様が魅了魔法にかかったら、私は持てる力の全てを使って解除します。
それとも、それよりももっと強い魅了魔法を身につけて上書きします!」
あれ私、調子に乗って何を言ってるんだ???
「レティの魅了魔法ならかかりたい。
もうどっぷりかかっているのかもな。
死ぬまで解けない、いや、死んでも解けない魅了魔法。
私はレティの意のままに動きたい」
は? またヤバいこと言ってます。
私は魅了魔法なんて使えないし、意のままに動きたいなんて怖い怖い。
「結婚式はいつにしよう? 私は明日でもいいが、用意にどれくらいかかるんだろう? 明日にでもアランに相談してみる」
「えっ? 本当に結婚するんですか? 16歳まで後1年だし、それからではダメですか?」
あれは本気だったのか?
私はもうちょっと独身でいたい。
16歳になるまで待つように魅了魔法にかけて、意のままに動かしたいわ。
「もう! リーナ様笑い事じゃないですよ!! 助けてください!」
次の日私はリーナ様に助けを求めていた。
「もう、諦めなさい。
1年位大した事ないじゃない。あの腹黒男に逆らったところで、レティみたいな純真な子は知らない間に丸め込まれて気がついたら、囲われて、見えない手枷足枷つけられて逃げられ無くなっちゃってるのよ」
見えない手枷足枷って怖すぎます。
「もう、そんな怖い事言わないで下さいよ。女神スパリーナならなんとかしてくれませんかね?」
もう神様を頼るしか無い。
「ダメよ。女神スパリーナは早く結婚させたい派だもの。『神子の子どもも神子にしたいわ~』と仰ってたしね」
ダメか。無駄な抵抗は本当に無駄なようだ。私は大きなため息をついた。
結婚したくないとは言ってない。
ただ16歳まで待ってほしいだけなんだけどな。
意識を失った私にジークハルト様が回復魔法でエネルギーを注いでくれていたようだ。
「気が付いてよかった。驚かせてすまなかった」
ジークハルト様はバツが悪そうな顔をしている。
「いえ、私が慣れてなくて。すみません」
「慣れていたら困る」
ぼそっとつぶやく。
「巻き戻る前の世界の私はどんな男だった?」
ジークハルト様は私の頬に手を当てそう聞く。
(夢で見たジーク様ですか? それとももっと前の?」
「思い出したく無いあの時期はいらない。その前と夢で見た私をどう思っていたのか教えてほしい」
あの時期は確かに思い出したくない。
「前の世界ではじめてジーク様に会ったのは、5歳だったかしら? その辺りの記憶は曖昧なのです。父から婚約者が決まったと言われ、婚約者って何だろうと思ってました」
「まだ小さかったから記憶が曖昧なのは仕方ないな。はじめて会った時、私の一目惚れだった。その時一緒にいたフローラ様にレティと結婚させてほしいと頼んだんだ」
えっ? 知らなかった。前の世界は家が決めた政略結婚だと思っていた。
「そうだったのですか? 私はずっと親同士が決めた婚約だと思ってました。私のような子供と婚約させられて気の毒に思ってました」
「そうだったのか。だからいつも少し距離を置いていたのか」
確かに微妙に距離があった。年齢が離れているので会っても何を話していいのかわからなかった。
「でも、いつも気にかけていて下さいました。お手数やプレゼントを沢山いただきました。私も母に刺繍を習いながらハンカチに刺してお渡ししたような気がします」
確か、一生懸命に刺繍を刺したような記憶がある。
「うれしかった。私のためにレティがひと針ひと針刺してくれたかと思ったら本当にうれしくて宝物にしていたよ」
「私もジーク様からいただいた黒い宝石のついたお花の形のネックレスが大好きでいつも身につけていました」
だんだん思い出してきた。
「私はレティの護衛騎士になるつもりで剣の腕を磨いていた。レティに信頼される男になりたいと思っていた。あのまま何もなかったら……」
ジークハルト様はそう言って俯いた。
「あのまま何もなかった夢で見た世界のジーク様は穏やかで優しく笑っていました。でも、私は何だか私が知っているジーク様では無いような気がしました」
「巻き戻す前の世界の私はレティと上手く話せなかった。好きを拗らせてしまっていたようで、レティのことがすごく好きで色々話をしたいのに、いざ前にすると上手く話せなくていつも自己嫌悪に陥っていた」
今のジークハルト様からは考えられない。ただあの夢に出てきたジークハルト様はそう言われてみればそうだったかもしれない。なんとなく距離を感じたもの。
「あのまま結婚していたらきっとうまくいかなかっただろうな。レティに淋しい思いをさせていた」
ジークハルト様は目を伏せる。
「私は自分の気持ちを人に伝えるのが苦手だった。頭の中でどうすればレティは喜んでくれるだろうか? どうすれば私を好きになってくれるのか? そんなことばかり考えて空回りしていた」
「今のジーク様の気持ちはちゃんと伝わってますよ」
私はにっこり微笑んだ。
「あんなことがあったから、私は変わったのか、それとももともとこんな人間だったのかわからないが、随分変わったと思う。前の私も今の私も両方知っているセシルは『前は白くて今は黒い』とよく笑っている」
セシル様、的確だわ。
「私は今のジーク様がいいです。
お腹の中が見えるみたいにわかりやすいので安心できます。
他の方にはわかりにくいかもしれませんが、私だけがわかるのがうれしいです。
もし、今のジーク様が魅了魔法にかかったら、私は持てる力の全てを使って解除します。
それとも、それよりももっと強い魅了魔法を身につけて上書きします!」
あれ私、調子に乗って何を言ってるんだ???
「レティの魅了魔法ならかかりたい。
もうどっぷりかかっているのかもな。
死ぬまで解けない、いや、死んでも解けない魅了魔法。
私はレティの意のままに動きたい」
は? またヤバいこと言ってます。
私は魅了魔法なんて使えないし、意のままに動きたいなんて怖い怖い。
「結婚式はいつにしよう? 私は明日でもいいが、用意にどれくらいかかるんだろう? 明日にでもアランに相談してみる」
「えっ? 本当に結婚するんですか? 16歳まで後1年だし、それからではダメですか?」
あれは本気だったのか?
私はもうちょっと独身でいたい。
16歳になるまで待つように魅了魔法にかけて、意のままに動かしたいわ。
「もう! リーナ様笑い事じゃないですよ!! 助けてください!」
次の日私はリーナ様に助けを求めていた。
「もう、諦めなさい。
1年位大した事ないじゃない。あの腹黒男に逆らったところで、レティみたいな純真な子は知らない間に丸め込まれて気がついたら、囲われて、見えない手枷足枷つけられて逃げられ無くなっちゃってるのよ」
見えない手枷足枷って怖すぎます。
「もう、そんな怖い事言わないで下さいよ。女神スパリーナならなんとかしてくれませんかね?」
もう神様を頼るしか無い。
「ダメよ。女神スパリーナは早く結婚させたい派だもの。『神子の子どもも神子にしたいわ~』と仰ってたしね」
ダメか。無駄な抵抗は本当に無駄なようだ。私は大きなため息をついた。
結婚したくないとは言ってない。
ただ16歳まで待ってほしいだけなんだけどな。
17
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される
日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。
そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。
HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!
そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから
みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。
婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。
相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。
恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい
荒瀬ヤヒロ
恋愛
理不尽に婚約を破棄され投獄された。
誇りを守るためには自害するしかなかった……
はずなんだけど、目がさめると十歳の頃に戻っていた。
やり直しの人生、自分を陥れたクズ外道どもとは関わりたくないのは勿論のこと、私の誇りと名誉を守らせてくれた恩人に恩返しがしたい!
たとえ彼が嫌われ者だったとしても!
「私をあなたの下僕にしてください!」
二度目の人生は恩返しのために使うと決めた公爵令嬢ステラの全力恩返し人生の幕が開く。
七番目の魔王の息子
一樹
ファンタジー
五歳の時に要らない子だから、と親戚の家の子になったユウ。
十年後、兄達が次期魔王候補としてお互いを潰しあったがために、ユウがその候補にあがってしまう。
実家からの手紙を破り捨て、陰キャな彼は今日も妄想に浸る。
けれど、実家は何故か追い出したユウを魔王に就かせたいらしく、教育係兼許嫁(めっちゃ美少女)を送り込んできたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる