【完結】神を赦さないと言った救いの神子は巻き戻った世界で婚約者から溺愛されています。

巻き戻ってしまったようです

　さっき礼拝堂でジークハルト様に斬り捨てられ、私は死んだはずなのに……。

　私はぼんやりとした頭で先程の神々とのやりとりを思い出していた。
　たしか死んでから、救いの神と話をした。そして、私は救いの神から離れ、女神スパリーナの神子になったような気がした。そういえば女神スパリーナは魔法で誰かが時を巻き戻すと言っていた。私が生まれた頃に巻き戻すと。
　私は今の状況を確認しようと目を開き周りを見渡した。

　聞き覚えのある女性達の話し声が聞こえてきた。
「フローラおめでとう。身体の調子はどう？」
「アゼリア、来てくれたのね。身体は大丈夫よ。ただ……」
「ただ……？」
　フローラは私の母だわ。
　アゼリアはジークハルト様のお母様のアゼリアおばさまかしら。
　話をするふたりの女性を母のフローラと母の親友で巻き戻る前の婚約者のジークハルト様の母親のアゼリアだと思った。

　私には母の姿が少し落胆しているように見えた。
　母はアゼリアおばさまに向かい不安そうな顔をしている。
「女の子なのよ」
「あら、別にいいじゃない。婿入りしてもらえば」
　母は明るいアゼリアおばさまの言葉に少し気持ちが楽になったようだ。
　アゼリアおばさまは母に対して言葉を続ける。
「それに次は男の子が生まれるかもしれないしね。この子の名前は何」
「レティシアよ」
　アゼリアおばさまに名前を伝えてから、母は誰かを手招きしたように見えた。
「ジーク、こちらに来て顔を見てあげて」
　ジーク？ まさかジークハルト様なの？　私は目を見開いた。

　母の言葉に、ジークハルト様は私のすぐ側にきた。そして顔を覗き込み耳元で囁いた。
「愛してるよ」
　えっ？ どういうこと？ 私は混乱し、とっさに自分の手や足を見た。
　小さい！　本当に女神スパリーナが言っていたとおり生まれた頃に時が戻っているのか。
　私の頭の整理がついていないうちに、ジークハルト様が母に向かって言った。

「フローラおばさま、レティシア嬢を僕のお嫁さんに下さい。このジークハルト・ヴァンヒューレット、我が身の全てを捧げレティシア嬢を愛し守ります」
　ベビーベッドにいる私の前で片膝をつき右手を心臓に当てている。その姿を見てアゼリアおばさまは呆れた顔をした。
「ジーク、あなた重いわ。我が身の全てを捧げてなんて、レティシアちゃん引いてるわよ」
　確かに引く。

　ジークハルト様からの結婚の申し込みに母は微笑みながら答える。
「ありがとう。旦那様に聞いてみるわ。でも、まだこの子は生まれたばかりなのにそんなこと言って大丈夫なの？」
　母の問いにジークハルト様はにこやかに答えた。
「今、求婚しておかないと、誰かに先越されては一生の不覚になります」
　一生の不覚って何よ？　いきなり求婚って何？　私はますます混乱した。

　そしてジークハルト様は私の頬に手を当て囁く。
「愛してるよレティ。命をかけて守るからね」
　殺したくせに何を言ってるの？ 私は目が点になる。
「我が息子ながら重すぎますわ。誰に似たのかしら」
　アゼリアおばさまは呆れた顔をし、失笑している。

　私は巻き戻る前の世界のことを思い出してみた。
　私とジークハルト様は家が決めた婚約じゃなかったのか。
　しかも婚約したのは私が５歳の時のはず。それまで会ったこともなかったのに。どうしてこんなに早く出会ったのだろう？
　しかもジークハルト様の希望で婚約？　何だかおかしい。前の人生と違っている。過去を勝手に変えてもいいの？

　まだ何も喋れない私は、ただことの成り行きを見守るしかなかった。