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番外編

夢だったのか?

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 今夜は夜会か。王妃様の護衛だな。私は近衛騎士団に所属している。この国初の女性近衛騎士だ。主に王妃様の護衛をしている。

 この国の国王陛下と王妃様は一見仲睦まじく見えるが、内情はと言うと国王は国民ばかり見て、王妃様を全く見ていない。王妃様は職業王妃のように仕事として割り切っている。

「私ね、結婚する前に好きな人がいて、実はまだその人のことが好きなの。その人はもう結婚して幸せに暮らしているんだけどね。陛下は良い人だと思うけど私を愛しているわけじゃない。私も陛下を愛していないからしかたないわね」
 王妃様は笑っていた。

 私は陛下とは挨拶位しか話したことはないけど、確かにいつも笑顔で優しい雰囲気の人だ。
 国民に人気もある。でも幸せそうじゃないんだよね。
 良い王であらねばならないと自分をがんじがらめにしているような気がする。

「ねぇ、ミディア。ミディアは結婚しないの?」

 王妃様が言う。

「私は小さい頃からランドセン家の跳ねっ返りと異名を持っておりまして、同世代の男性はみんなやっつけておりましたので貰い手がございません」

「そうなの。好きな人はいないの?」

「いませんよ。私より強い男で私を愛してくれる人なんていませんからね」

「いてもこんな世界じゃ貴族の娘は政略結婚しかないものね。好きな人とは結ばれず、好きでもない心の通い合わない人と幸せなふりをして添い遂げなければならないなんて不幸だわ」

 王妃様はため息をついた。

「私ね、陛下とは王子を身籠るまでしか閨事をしてないの。それもまぁ、身籠るためだけのための閨事。嫡男が生まれたら私はお飾りの王妃になのよ。陛下は忙しくて会話もほとんどないわ。こんな生活もう嫌なの。あの時逃げればよかったわ」

「王妃様……」

 私はどんな言葉を掛ければいいのかわからなかった。

 しばらくして王妃様は亡くなった。私が休みの日に毒を飲んだらしい。

 

私は国王の部屋に文句を言う為に押しかけた。

「陛下、不敬を承知で申し上げます。王妃様は寂しがっておられました。なぜ向き合ってあげなかったのですか?」

「寂しがっていた? ポーレッタは王妃ではないか。王妃も民の為にやることがたくさんある。なぜ寂しがっていたのだ?」

「王妃である前にひとりの女として陛下と愛を育みたかったのではないでしょうか?」

 陛下はふっと鼻で笑った。

「愛を育むだと? 私達は政略結婚だ。愛などない。ともに国のために、民の為に生きる同志のようなものだ。ポーレッタは嫡男を産み、役目を果たした。あとは母のように王妃としてやるべきことをすればいい」

「陛下は寂しくないのですか?」

「王は孤独だ。民の為には仕方ない」

「陛下となんか結婚してしまった王妃様はお気の毒です。自ら亡くなられたのも理解できます。こんな陛下が治める国で生きていたくありません」

 私は国王に失望し、近衛騎士を辞め、国を出た。

 国王は間違えている。民はそんな国王を望んでいない。

 国王は本当はあんな人じゃないはずだ。もっと優しくて熱い人のはずだ。愛に溢れた人なのに……。

 えっ? 何言ってるんだろう?




「ミディア、ミディア」

 ん? 誰?

 私が目を開くとそこには陛下の顔がある。

 何で陛下が?


「ミディア、寝ぼけてるのかい? 私は陛下じゃないよ」

 ん? ん? ん?

 うわぁ~~~。

「リカルド様?」

「そうだよ。変な夢見たのかい? 偉く怒って歯軋りしていたよ」

 夢か……

「あのね、実はね……」

 私は見た夢の話をリカルド様にした。

 普段ならあのことをリカルド様に思いださせないようにと絶対しないはずなのに、なぜだかわからないけど話してしまったのだ。

 リカルド様は「う~ん」と唸った。

「それはパラレルワールドというものかもしれないな。そしてミディアは何かの拍子にそれを見てしまったということか」

「パラレルワールド?」

「うん、リリに聞いたことがあるんだ。リリ達がいた前世にはそういう考えがあったそうだ。いくつもの違う次元の世界があるらしい。つまりミディアが見たのは私が魅了されなかった世界だ」

 リカルド様は頭が柔らか過ぎる。私が全く何を言ってるかわからないシャルやリリの言うことをどんどん吸収している。

 パラレルワールド?

 違う次元の世界?

 さっぱりわからない。

「あのまま国王になっていたら、そんな感じの未来になっていただろうな。あの頃の私は国王とは民を幸せにするもの、国を富ます物だと思っていた。だから王妃にもそれを求めてしまっていただろうな。滅私奉公というやつだ」

「自分や王妃の幸せは?」

「民が幸せであれは自分も王妃も幸せだと思っていた。今思えば、ミディアに会うまでの私は壊れていたんだな。魅了をかけられる前から壊れていたんだよ」

「それでフェノバールに来た頃も民の為にばかり動いて自分のことはほったらかしにしていたの?」

「あぁ、国王にはなれなかったから、せめて領主として民に尽くそうと思っていたんだ。でもミディアと一緒にいるうちにそれは違うとわかった。私が幸せで、ミディアも幸せで子供達が幸せじゃないと民を幸せにはできない。自分も家族も幸せにできない者が民を幸せにできるわけがないとミディアが教えてくれたんだ」

「私はみんなで幸せになりたいだけよ」

「私にはそんな発想はなかったんだ」
リカルド様は私をぎゅっと抱きしめた。

「あの事件の関係者はみんな幸せになっている。それは神のギフトなのかもしれないな。彼女も私と結婚していたら、苦しんで自死を選んだが、今は好いた男と結婚し、幸せに暮らしている。チャーリーも元婚約者も幸せだろう。ジャックとメリーアンもそうだと思う。ここに来るまで皆色んなことがあったが、魅了がなかった人生よりは間違いなく幸せだと思う」

「神様が魅了という試練を与えたから、魅了後の世界はギフトなのね」

 確か神様はドラマチックが好きだとジェットが言っていたような気がする。

「私にとってのいちばんのギフトはミディアだよ。ミディアに出会ってなかったら私はつまらない人生だった。本当の幸せを知らないまま自己満足の偽物の幸せの中にいた。ミディアありがとう」

「私こそありがとうございます」

「でも、近衛騎士のミディアも見てみたかった気がするな。でも、もしミディアが騎士なら王妃付きでなく私付きにしていたかもしれないな」

 リカルド様はふふふと笑う。

「次生まれ変わる時は王子と護衛騎士もいいな。王女と騎士の恋物語はよくあるが、王子と騎士の恋の話は読んだけどがない。レイチェルに言って書いてもらおうか? まぁ、私は何度生まれ変わってもミディアに恋をする。どんなことをしてもミディアを見つけるからね」

 なんだか話が変わってきているようだ。

 結局のところ、何度生まれ変わっても本質は変わらないと言うことか。逃げられないってことね。まぁそれもいいかもね。私も何度生まれ変わってもリカルド様がいいわ。

「うん? どうしたの?」

「いえ、私も何度生まれ変わってもリカルド様がいいなと思っていたのです」

 それを聞いてリカルド様は破顔した。

「愛してる、ミディアだけだよ」

 悪夢でうなされて目が覚めたばかりの私はなぜかまたベッドに逆戻りすることになった。

 本当にリカルド様ったら、もう還暦前なのに元気すぎです。




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