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番外編

アンソニーの恋5(アーサー視点)

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 ミディア様の話を聞いて驚いた。アンソニー殿下の恋の話だったなんて。しかも悲恋か。

 相手は友達の心を動かすほどの人物のようだしなんとか成就させてやりたいが、どうなのだろう。

 私は自分の執務室に戻り裏を取るために魔道具を使い、ナゼア男爵とランタス家を調べることにした。

 どうやって調べるかって?

 これでも私は優秀な魔導士。魔道具の魔法のクリスタルは何でも映し出してくれるのさ。

 魔法でランタス伯爵の意識にはいり、魔道具のクリスタルにそれを映し出す。

 それって犯罪じゃないのって?

 まぁ、そうなんだけど、緊急事態だからね。

 
 ランタス伯爵の意識はかなり悲観していた。

 思うように復興できない領地のこと、自分の病気のこと、そして娘をお金のためにあんな男の元に嫁がせなければならないこと。

「いっそ領地を手放してしまったら楽になるのに。でもそれは領民を見放すことだ。それはできない。だからと言って娘を売るなんて。天災さえなければ。私は神を恨む」

 ランタス伯爵はそう言いながら拳を握りしめて涙を流していた。

 私は見ていて苦しくなった。

 借金はどれくらいなんだろう?

 私は今度は伯爵家の家令の意識に潜入した。

「辛い。辛すぎる。いくら領地のためとはいえお嬢様をあんな男に売るだなんて。この借金がどうにかなればいいのだが……」

 家令は帳簿を眺めてため息をついている。

 お~、なかなかの額だな。

 これを男爵は支払ってくれるわけか。

 でも、これを返したところで、この先復興する費用はまだまだかかる。それに伯爵は病だし、次期当主はまだ子供だ。娘を売って借金を返したところでお先真っ暗だな。

 リカルド様が動けば何とかなるだろう。


 さて、次はナゼア男爵だな。

 私は今度はナゼア男爵の意識に入った。

 うわぁ~。こりゃ酷い。

 頭の中は金と女でいっぱいだ。

「ランタスのやつ、なかなか首を縦に振りやがらない。もう少し金を積んでやるか。見目の良いあの娘なら、後妻にして、夜は楽しませてもらい、昼間は使用人代わりに働かせればいい。飽きたら今までの女達のように人買いにでも売れば高く売れるだろう。どのみちランタスは潰れる。義父だし、うまいことやれば伯爵家を乗っ取れるかもしれんな。うちには金になる鉱山があるし、伯爵になれば悪事の隠れ蓑にもなる。高位貴族にも近づけるしな。良いカモが見つかったわい」

 殺してやりたくなるな。

 人買いか。人身売買は禁じられている。このあたりで罪にすることができればソフィア嬢は助かるな。

 とりあえずこれをリカルド様に届けることにするか。

 私は男爵の意識に潜入したまま、執務室の帳簿や書類をクリスタルに記録した。悪事の証拠はひとつでも多い方がいい。

 そして、最後にソフィア嬢の意識に潜入した。

 これは誰にも内緒だ。

 若い女性の意識に潜入するなどバレたらミディア様にどんな目に遭わされるかわからない。

 でも、ソフィア嬢の気持ちが知りたかった。

 ひょっとすると、レイチェル嬢がミディア様と繋がっていると分かっていて、男爵をだしにして、アンソニー殿下の妃の座を狙っている悪女かもしれない。

 今は王子がアンソニー殿下しかいない。貧乏伯爵の令嬢が成り上がり、王妃になるために周りを騙して健気なふりをしているのだとしたら手を貸すべきではない。

 私は性格が悪いから、リカルド様やミディア様のように全面信用はできない。

 だからこの術を使って信用ならないやつの意識に入って見極めることをしている。

 あの時この術が使えていれば、リカルド様が苦しむことはなかったのに。あの時の私はまだ非力だった。

 犬猿の仲のオーウェンの意識には入らないのかって?
 入ったよ。入ったけどあいつは意識に入られないように結界みたいな硬いガードがされていたのさ、さすが暗部の跡取りだけはある。うちの兄上とはえらい違いだ。

 まぁ、そんなことより、ソフィア嬢だ。

 ソフィア嬢の意識は哀しみでいっぱいだな。

 涙で溺れそうだ。

 本当に家の犠牲になろうとしているようだ。

「アンソニー様……今度生まれ変わってくる時は身分や貧富の差の無い世界がいい。そしてまたあなた様と出会いたいです。お慕いしておりました」

 胸のペンダントを握りしめて泣いている。あれは殿下が贈ったものかもしれないな。

 哀しみと絶望。これから先に訪れる救いの無い生活の事を思うと生きているのが嫌になるが、家のため、領民のため耐えるしかないと泣いている。

 私は少しでもソフィア嬢を疑った自分を恥じた。

 ソフィア嬢を助けよう。アンソニー殿下と結ばれるように画策しよう。不本意だがオーウェンを巻き込む事もリカルド様に提案しよう。

 表だって罪に問えないのであれば暗部に始末を要請すればいい。

 ナゼア男爵をこのまま生かしておけばまだまだ被害者は増えるはずだ。

 私の腹は決まった。



「リカルド様、調べはつきました。どちらに伺えばよろしいですか?」

 私は魔道具でリカルド様に連絡を入れた。

「ありがとう。さすがアーサー仕事が早いな。王宮に来てくれるか? アンソニーと話す前に母上と話しているところだ。母上の執務室にいるからそこに来てくれ」

「承知しました。できればオーウェン様か宰相も同席して話を聞いてもらいたいのですがいかがでしょう?」

「暗部を動かすつもりか?」

「はい。男爵はその方がよろしいかと」

「わかった連絡する」

「では、すぐにそちらに伺います」

 私は記録したクリスタルを持って移動魔法で王妃様の執務室に飛んだ。

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